第三章 欠陥姫と招かれざる客(1)
翌日のことだった。ミリアリアの覚悟を知ったセイラは、情報収集のために早い時間から出掛けていた。
ミリアリアは、すぐに何かしらの情報が集まるとは思っていなかったが、ソワソワとしつつも小屋の中で過ごしていた。
いつもなら小屋の外に出て定位置となっている木の根元に座って一日の大半を過ごしていたが、今日からは小屋に籠って外には出ないと心に決めていたのだ。
もし、リートが訪れた時、外にいたのではその来訪を喜んでしまう自分がいると知っていたからだ。
小屋の中にいれば、もしリートが訪ねてきても居留守を使って彼と会わないようにするためだった。
そんな訳で、ミリアリアは自分が使うベッドに座って、両手を胸の前で組んで祈るような姿でセイラの帰りを待っていた。
どの位の時間がたったのか分からないが、小屋を激しく叩く音が聞こえてきたミリアリアは、びくりと身を竦めていた。
セイラであれば、中にいるミリアリアに声をかけながら入ってくるが、それをせずに強い力で扉を叩くことから、セイラ以外の誰かだと分かったからだ。
一瞬、リートが来たのかもと思ったが、あの優しい彼がここまで激しく扉を叩くとは思えなかったのだ。
何も分からない状況に怯えることしかできないミリアリアは、自分を抱きしめて音が止むのをただ待つ事しか出来なかった。
じっと息を殺していると扉を強く叩く音は止んでいた。
恐怖心もあったが、確かめずにはいられなかったミリアリアは、恐る恐る自分の部屋を出ていた。
ミリアリアは自分の部屋の外に出ると、外につながる扉がある部屋に向かった。
誰の気配もない部屋にたどり着いた時、安堵するように息を吐いていた。
何も無いことを肌で感じて安心しきっていたミリアリアは、大きな破壊音と共に聞こえてきた金切り声が耳に届き、驚きからその場で硬直していた。
ドンドンッドガンッ!! バキバキッ!! ガタンッ!! ガタガタガタ、ドサッ!!!
「ゴホゴホ!! ちょっと、扉を壊せとは言ったけど、もう少し何とかならなかったの? もう! ドレスが汚れちゃったじゃないの!!」
小屋の扉を破壊し、騒がしく喚きながら現れたのは、この小屋には似つかわしくない豪華なドレスを身に纏った女性だった。
栗色の髪は、セットに何時間かけているのかとつい思ってしまうような、それはそれは見事なまに巻かた髪型をしていた。
そして、つい先ほどまで小屋の扉だった木の残骸をよけながら無遠慮にも中に入ってきたのだ。
「ゴホゴホ! 何よこんな家畜が住むような小屋に本当に住んでるの? もう! ドレスの裾が汚れちゃったじゃないの!!」
そう言いながら、顔を顰めつつ小屋の中を見回した女性は、部屋の隅で固まるミリアリアを見つけると、怒りに燃える瞳で睨みつけたのだ。
「あなたが、弱小国の姫君かしら? ふん、家畜小屋みたいな住まいがとってもお似合いじゃない」
そう嫌味を口にしながら、ミリアリアに近づいた女性だったが、ミリアリアを目の前にして息を呑んでいた。
しかし、それは一瞬のことで、すぐに元の表情に戻ると腕を組んで早口に文句を言い始めたのだ。
「あなた。わたくしがミドガルズの王女だと知っていてその態度ですか? はぁ、これだからど田舎の弱小国は嫌だわ。ふん、多少美しい容姿をしているということは認めてあげるわ。でも、わたくしの足元にも及ばないわ。それなのに……。どうして、あなたなの?! わたくしの方が陛下にふさわしいのに!!」