第二章 欠陥姫と騎士(10)
ミリアリアは、自分の太腿に頭を預けている大人しくしているリートの寝息を聞きながらリートが今どんな表情をしているのか気になって仕方が無かった。
夢の中でも黒く塗りつぶされて想像することもできなかったリートの素顔が気になっていたのだ。
さらさらと手を滑る髪は手入れが行き届いていて、顔も素敵なんだろうなと想像すると胸がちくんと痛んだ。
優しくて素敵なリートが顔もよかったら女性に人気で……、そこまで考えると胸がざわざわとしてどうしようもなかった。
ミリアリアは、大人しく眠っているリートの髪を撫でていた指先をそっと動かしていた。
その指先は、恐る恐ると言った様子でリートの輪郭を撫でていた。
指先に触れる頬は、とても滑らかですべすべとしていたのだ。
触り心地のいい肌を撫でていたミリアリアだったが、眠っているリートに無断でこんなことをしていることが、いけないことなのだと急に思えてきたのだ。
込み上げる恥ずかしさに手を離そうとしたが、それは叶わなかった。
眠っていると思い込んでいたリートが、離れていこうとするミリアリアの手を掴んでいたのだ。
リートは、低く耳に響く声でいたずらっぽく揶揄うように言ったのだ。
「寝込みを襲うなんて、ミリーちゃんはいけない子だね」
そう言って、何も言えないミリアリアの反応を楽しむように掴んだミリアリアの手を強めに引いたのだ。
そして、起き上がったリートは、ミリアリアの華奢な指先に口付けながら言ったのだ。
「お仕置きだ」
そう言った後、ミリアリアを自身の膝の上に座らせてから、気のすむまで頭を撫でたのだった。
そう言ってミリアリアを可愛がるリートに背後から抱きしめられるような格好になっていたその時、心地いい風が吹き抜けた。二人を包むように吹く優しい風は、ミリアリアの淡い金色の髪をさらさらと揺らしていった。
このままリートの腕の中にいたいと思ったミリアリアだったが、自分の置かれている状況を思い出してしまい、このままではいけないという思いが強くなっていった。
急には無理だが、少しずつリートから距離を置かなければと思い立ったミリアリアは、カモフラージュ用にといつも持ち歩いていた本を取り出して読んでいるふりを始めたのだ。
これまで、話すことのできない出来ないミリアリアは、本を読む振りをしてリートから振られる質問をかわしていたのだ。
今回も本を読む振りをしてリートから距離を取ることにしたのだ。
リートは決まって、本を読む仕草をミリアリアがすると、それを見守った後にそっと声をかけてその場を名残惜しそうに去っていくのだ。
二人の間での暗黙の了解ともなっている、本を読み始めたら今日はお別れという合図にその日もリートは従ったのだ。
リートが居なくなってもその場を動けずにいたミリアリアだったが、情報収集から戻ってきたセイラによって小屋の中に移動していた。
そして、ミリアリアはセイラに鈴を鳴らして決意を伝えていた。
(わたし、リートさまにはもう会えない。会わないって決めた。私は人質としてここにいるから)
ミリアリアの決意を聞いたセイラは、少しでもミリアリアのためになればと、皇帝の意向を何としてでも確かめるべく動くことを決めたのだった。
しかし、セイラが情報を掴むよりも先に状況は悪い方へと転がりだしてしまっていたのだった。