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第二章 欠陥姫と騎士(9)

 その日、セイラは家事を片付けた後に食料調達と情報収集をするために出掛けていて、ミリアリアは一人で過ごしていた。

 ミリアリアは、定位置となりつつある木の根元で暖かい陽の光を浴びながらうたたねをしてしまっていた。心地いい陽の光と緩く吹く風を頬で感じながら夢を見ていたのだ。

 

 そこは、色とりどりの花が咲き乱れる見たこともない花畑だった。

 ミリアリアは、その見たことのない花畑を誰かと手をつないで散歩をしていた。

 ミリアリアの右側を歩く、身長の高いその人は、ミリアリアの歩調に合わせてゆっくりと歩てくれる、たったそれだけのことだったが、夢の中のミリアリアにはとてもうれしいと思えたのだ。

 他愛もないおしゃべりを楽しみながら、花畑を歩く。

 たったそれだけの夢だった。

 しかし、実際にはそんなことあり得ないことだった。

 それでも、夢の中だけでも自由に歩き回り、声に出して気持ちを相手に伝えられることがどうしようもなく幸せだった。

 ミリアリアの隣を歩く背の高いその人が急に立ち止まり、その身を屈めて口を開いたのだ。

 

「ミリーちゃん。好きだよ。結婚しよう。俺のお嫁さんになって欲しい」


 そう言って、いつか読んだ小説のワンシーンのように片膝を付いてミリアリアの右手の甲に口付けたのだ。

 ミリアリアは、それが嬉しくて美しい花のような笑顔で答えていた。

 

「はい。わたしもお慕いしておりました。わたしをお嫁さんにしてください」


 そう言って頬をバラ色に染めたミリアリアにその人は微笑みかけたのだ。

 そのはずだった。

 しかし、笑顔のはずのその人の顔は真っ黒に塗りつぶされていて表情を知ることが出来なかったのだ。

 顔が真っ黒に塗りつぶさていてその人がどんな顔をしているのか分からずに不安に思っていると、その人の優しい声が耳に届いたのだ。

 優しくて、それでいて低く耳に心地い声。

 その声を聴いているとミリアリアは、心が落ち着いて行くのを感じた。

 

「わたし……リートさまが好き。リートさまに会いたい……。でも、そんなこと許されない。だってわたしは人質としてここにいるんだもの。この気持ちは誰にも知られてはいけない。忘れないと……。これは夢。だから、今だけはリートさまの傍に居させてほしい。夢から覚めたらこの気持ちは忘れるから、今だけは……どうか、今だけはこの幸福を感じさせて……」





 ミリアリアが目を覚ました時、頭を撫でる優しい指先を感じて、まだ夢を見ているのかと微睡んでいると、頭上から甘やかすような優しい声が聞こえてきたのだ。


「ミリーちゃんは、本当に可愛いなぁ。俺の部屋に連れ帰って閉じ込めてしまいたいよ。なんてね。そんなこと許されないけどね」


 そんな、独り言が聞こえてきたのだ。

 いまだに夢心地のミリアリアは、ごろりと寝返りを打って温かな体温に身を寄せるようにして目の前にの布を握りしめた。

 手を伸ばした先にある布に顔を埋めてから深く深呼吸をした。

 

(不思議……、夢の中なのに匂いが分かる。くすくす。リートさまの匂い……。なんだかすごく安心する。このままリートさまを感じていたい……。あれ? 夢にしてはなんかリアルな気が……)


 そう感じたミリアリアは、急激に目が覚めていった。

 焦りながら現状の確認をするミリアリアは、自分が横になっていて何かを枕にしているということは把握できたが、それがいったいどういう状況でそうなっているのかは全く理解できていなかった。

 しかし、それがどんな状況なのか全く理解できずに固まっていると、頭上から甘やかすようなリートの声が聞こえてきたのだ。

 

「ミリーちゃん、恥ずかしいからそんなに俺の匂いを嗅がないで欲しいな……。眠っているミリーちゃんに勝手に膝枕した俺がいうのもあれなんだけど……」


 リートのその照れ臭そうでいて、それでいて嬉し気な声を聴いたミリアリアは、まさかリートの膝で眠っていたなどとは夢にも思っていなかったのだ。

 現状を理解できた証拠に耳まで赤くしたミリアリアは、両手で顔を隠しながリートの膝枕から抜け出していた。

 

(ひっ、膝枕~~。ははははははずかしい!わたしったらなんてことを。ううううぅ、穴があったら入って埋まってもう出てきたくないよう……)


 ミリアリアが恥ずかしさからそんなことを考えていると、リートはそれを全く気にもしないで楽しそうにミリアリアいつものように膝の上に乗せたのだ。

 そして、緩く抱きしめながら見ているものが居ればきっと目を背けただろう甘い微笑みを浮かべていたのだ。

 

 そんな事を知らないミリアリアは、混乱から抜け出せずに、とんでもない行動を取っていた。

 嫌がるように身じろぎをすると、リートが抱きしめる腕を緩めてくれたのだ。

 ミリアリアは、緩んだ腕を抜けてリートの隣に座り直した後に、リートの服を軽く引っ張っり、恥ずかしそうに自分の太腿をポンポンと叩いて見せたのだ。

 

 それを見たリートは、一瞬固まった後に、喉を上下に動かしてから小さく呟いていた。

 

「これってつまり、俺に膝枕をしてくれるってことでいいのか……」


 リートの小さな呟きが聞こえていたミリアリアは、コクンと頷いて見せたのだった。




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