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第二章 欠陥姫と騎士(5)

 それからというもの、ミリアリアの元にリートが足繁く通うこととなり、二人の距離が縮まっていったかというと、そうでもなかった。

 

 リートは、ミリアリアの元を訪ねるとき必ず手土産に何らかの食材を持参した。

 そして、ミリアリアを膝に乗せて頭を撫でて過ごすのだ。

 ミリアリアもリートに抱きしめられて過ごすことに慣れていき、というか慣れ過ぎていた。

 

 

 それは、リートの訪問が一週間に一度の頻度だったものが一日おきくらいになった時のことだった。

 その日も、美味しい果物が手に入ったと、ザンクティン大陸ではなかなか手に入らない珍しい果物を籠いっぱいに持って現れた日のことだった。

 

 籠に山盛りになった、普通では手に入らないようなさくらんぼや桃を見たセイラは、リートがただの騎士ではなく上級貴族であると確信していたが、敢えて藪を突くことはしなかった。

 

 セイラがいつものように手土産を受け取りお礼を言った時だった。

 

「リート様、今回もミリーのためありがとうございます。食後のデザートとして娘に食べさせますね」


 セイラがそう言って籠を受け取ろうとした時だった。

 リートは、いつもなら土産に持ってきたものは全てセイラに渡すのだが、その日は違ったのだ。籠を渡すときに、その中にあった桃といくつかのさくらんぼを手元に残したのだ。

 疑問に思いつつも籠を受け取ったセイラは、いつものように少し離れた場所でミリアリアの様子を見守っていた。

 

 リートは、いつものように木の根元に腰を下ろした後に、ミリアリアを膝の上に座らせた。

 そして、いつものようにミリアリアの頭を撫でて元気だったかと声をかけた。

 

「ミリーちゃん。元気にしていたかい?」


 最近では、頻繁に顔を会わせているのにもかかわらずこうやってミリアリアの身を案じてくれるリートの気持ちが嬉しくてミリアリアは、花のような笑顔で元気だったと頷いて見せた。

 それを見たリートは、見ているものの目が潰れてしまうのではないのかと言う程の色気のある微笑みを浮かべていたが、目の見えないミリアリアはそれに気が付かなかった。

 しかし、近くで二人の様子を窺っていたセイラは違った。

 熱を孕んだ紫色の瞳が獲物を狙う狼のように細められた後に、形のいい唇を薄くあけた瞬間、セイラは、体中に熱が走っていくのが分かった。

 足が震えて立っているのが精一杯だったセイラは、勝手に熱くなる呼吸を乱して視界の暴力とも言える存在から視線を逸らしていた。

 

 そんなセイラのことなど気にも留めていないリートは、低音の心地いい声でミリアリアに言ったのだ。

 

「ミリーちゃん。お口を開けて?」



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