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清く 遊郭 美しく  作者: りあもんて
6/11

緑凛磁と雪豹

「それでは西部緑凛磁は次の入荷の見通しは立たないのですか?」



鰐真は馴染みの卸問屋と顔を合わせていた 父の代からの付き合いで取引は数十年だろうか

ここは天覧楼の一室 初花を指名での接待だ 後は妹の夏雪が側用をしている

「まだなんとも言えません 西部での内乱鎮圧そして粛正と大荒れを耳にしました 西部の国力は大きく低下 全ての関所門が戦場になったと聞くのであれば生産がどうあれど流通に影響が出るだろうとおもわれます」

腕を組み思案をするのは問屋 物見遊山の角開鳴(カクカイメイ)


「緑凛は以前は無粋でさほど売れ行きは無かったが、代替わりの後の作風変化から若い娘さんの支持を得て大きく売上げを伸ばしてきたところだ 実に悔しい」


開鳴の背後で控える1人が口を開く、その顔はやや青ざめている 息子の開啼(カイテイ)

「あの! 今回入庫の緑凛 全てうちに卸て頂く事は出来ないでしょうか 馴染み客で長く順番を待つ者がおりまして此度の船着を見て飛び跳ねるているのです 取引額はさしたるものではありませんが いつも順も待ちそして値切るような無粋な事もせぬ娘達なのでございます それぞれの娘の家はそれなりでもあり今後の長い取引 私の代の馴染みとしましても 決して切れてはならない大切なお客様方なのです どうか!!」

まだまだ 後継程度でこのような口はさみは無礼ではあるが鰐真とそんなに年差は無い 子供の頃からの付き合いゆえについ口が出てしまった

父である開鳴は げんこつだけ落として無言のまま腕を組み思案を続ける、開鳴もまた なんとか一定数は確保したいのだ


「遊山様のお気持ちは切に分かりますがどこも欲しいと申し出は受けております、その上この猪国西部の乱は数日で知られるでしょう そうなるとさらに難しくなる、今回ご用意出来るのは予定数の3分の1ほどになってしまうのです どうかご容赦下さい」

鰐真はそう言って申し訳ない顔で息子の開啼を見た


皆が黙ってしまった そのひとときの間に涼やかな声が入る 初花だ

「緑凛はうちも欲しいと鰐真さまに申し上げておりましたのに此度も無理そうにございますなあ 鰐真さまは私にすら順を違えてはくれません 冷たいお人やす」

そう言ってそっと口元を手で押さえる初花 その目は何かの詰み手を見る時の目だ


「お初 今回も我慢しておくれな なに緑凛以外にもなにかと良いものもあるものだ」

お初の目はそっぽ向く どうやら答えは違うらしい

「ご機嫌直しておくれよ お初 そんなに欲しかったのかい? 」

まだ違うらしい こっち見ない そういえば欲しいなんて言った事ないな


「。。。べに」お初はぼそりと囁く

初花達が使う口紅は高級祇女だけに下ろしている もとより少数入庫の為 あえて付加価値を上げるように市場に出していないのだ 町娘には手に入らぬ非売品だ


「黒紅は多少在庫はあるがこれは祇女だけに卸す約定の物だ それは駄目だろう」

実際は約定なぞ組んでいない 少ないから出して無いだけで 祇女だけに卸している ただそれだけの事だ


「遊山さま うちは鰐真さまの黒紅 随分多めに持っておりますの それほど多くは使わぬのに鰐真さまは常に用意してくれはるのでなぁ 貴重な物ですし断る事も無く 随分と増えてしもうてます、こないにあっても仕方ありません 妹の雪花に全部上げてしまいましょか」

そう言って口元を隠してくすくすと笑う


「初花姐様 うちはまだまだ見習いでございます 黒紅なんぞもろうても使うなぞ許されません なんなら市場で売ってしもうてもよろしいでしょうか?」

そう言って雪花はコロコロ笑っている


その話を聞いて凍りつく遊山の息子の開啼

まだまだこのような場に不慣れもあってか真面目に聞いてしまい

「ななならば うちに扱わせていただきたい!」


遊山の開鳴の顔は (まだまだ未熟でございます)と言わんばかりだ


初花は 口元に手を当てつつにこにことしつつ あらあらと

「ねえ鰐真さま? 遊山さまに黒紅回ってしもうても問題ありませんか?」


「何、もとより希少な品だがすでに初花にやったものだ好きにすれば良い しかし誰でも良いわけでもあるまい 遊山さまであれば今回限りであればかまわんよ」


「うちは緑凛の器を3つほど欲しいんですけど、困りました 鰐真さまが融通してくれ無いというのであれば遊山さまにお頼みしてみましょうか」と微笑む


「もとより数が足りないのにご用意は難しいではありませんか こちらも順を違える事なぞできかねますぞ」と眉を下げる息子の開啼


「なあなあ、遊山の息子はん お一つ 戯れて見ませんか、お聞きした所 碁を嗜むとの事 一局勝負してみませんか」と微笑みながら雪花に目をやる

雪花はそっと部屋を出て行く



「一局に勝てば うち初花の持つ黒紅 小分けすれば100ほどに分けれる量でございましょうか それを息子はんにお売りしてもよろしいですよ されど負ければ遊山さまよりうちへ緑凛3つ都合つけてもらいます」


その時 戻った雪花の手には碁盤碁石とともにたっぷり入った黒紅の塊があった


開啼は

「普段であれば戯れの一局 されどそのような黒紅を扱わせて頂けるとなると手は抜けませぬよ 勝ってしまってよろしいので?」と目を細め 今ままでになく目が光る


「初花姐様 この黒紅は一度はこの雪花に譲ると申された物 私が一局打つのが筋ではありませんか?」

と雪花は可愛らしい笑顔を向けるが 長い付き合いの鰐真の目には獰猛な豹にしか見えず苦笑いしてしまう


「あらあら 仕方がないですね それでは 雪花と開蹄さまで一局という事でよろしゅうございましょうか? 何事も真剣に遊んでこそ戯れ それでは 大人達は口を挟まず勝負を楽しむ事に致しましょう」

そう言って初花は微笑みながら鰐真と開鳴に目配せしてうなずく












「まけ ました、、、、」


まだ夏は先なのに開啼の額には汗が流れ 苦悶の表情で呟いた


雪花は疾風のように早打ちを繰り返す いつもの長考は無い

その目は豹が如し 獲物を仕留め上げるまで 一分の緩み無く 懐深く切り込み続ける


開啼は決して弱く無い 様子見の一手を置いた直後からの突然の奇襲 猛攻に平常を失う

守りは綻びを作り 豹はその綻びに躊躇無く飛び込む なすすべなくの虐殺がそこにあった



雪花は局が終わるとともにいつもの朗らかな笑顔に戻り

「すばらしい一局でございました 私はいつ胸の臓が止まるかと思い ほっとしております」


開啼は言葉も無い 真っ赤になった顔は上げては下がる

結局その後 開啼は何も言葉を発せずに 今日の宴席を終えた



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