3代目の船
猪国に戻り着いた俺達は仕事の合間を見て酒場で落ち合う
「どうする、左片造船なら知る奴もいない事もないぞ?」と火林は聞くが
「何言ってんだ? 作らねえよ?」との宗延の返答に火林は目の奥に殺意を籠らせる
「おちつけ 話を聞け 俺はこの国を出るまで何もしてないとでも思ってんのか? 俺は帳簿をほぼ全て把握しているのは知ってるな?」
「しらん」
そう言う火林に苦笑いしつつも宗延は話を続ける
「横紋船蓮という会社は知ってるだろ あそこからうちへの売掛が最近やばいほどたまってる あそこは2年前に3代目のぼんくらが就任したのはよく知るだろう その当時にぼんくらが景気付けに新造船舶を就航させたのもよく知っているだろう だが俺の調べでは流通ルートも無く部下の反対を押し切って就航させたわけだ 部下どもはなんとか運営を回すため利益率の低いルートでも絞り出してなんとか回そうとしたんだが3代目のぼんくらは取引もねえのに競争厳しい1番人目に着く花形ルートを決定 部下どもは必死で止めたらしいが閑職に追いやってそいつらは辞職した 俺は港に停めっぱなしのその船をしっかりと隅から隅まで調べてる 船は最高の船だ さすがぼんくらが見栄を張っただけの事はある」
「仕事熱心な俺はこれからこの売掛を集金に行ってくる 火林は船員を見繕って欲しい 横紋船蓮の船員のヤツらはこの先 人減しが起こるだろう だがそれが始まるのを待つなよ? 首を切る奴はいらねえ 残そうとする奴が欲しい わかるな? 火林が欲しいと思う奴を選べばいい」
「そんなはした金でいちいち言いに来るんじゃねえ」
豪華な調度品の中でふんぞり返る
「そう言われてましても 私どもにとっては大きな額でございまして 何卒 用立てて頂きたく存じます」
にこやかな宗延は 苛立ちを隠せない横紋船蓮の3代目と面会していた
「差し出がましい事と承知しておりますがどうかお聞きしてほしいのです 商いを長く行っておりますと現金の不足する時節もございます、今はその時ではないかと思っておるのでございます 商いとは水物 今さえしのげば3代目なら必ず繁栄 栄光の時代を作って行かれると私は信じて疑いません」
「この時期は耐え忍び次の時節を迎えるべきだと私は思っております これは商人として決して恥ではございません」
苦悶の顔をする3代目はいぶかしげに宗延を見る
「まどろっこしい 何が言いたい」
「じつはご提案をお持ちして参りました 私の知人より船をお求めになる方が現れたのです このような機会はそうそうにない事 そこであの港で維持費ばかりかかった船をご提供頂けないかと思い今日はお伺いしたしだいでございます」
「あれは売らんぞ! 俺が細部に至るまで 部材を選び抜いた船だ!」
「左様でございますか 確かに見事な船でございます そこでご提案なのですが期間単位でのお借り上げというのはいかがでしょうか? もちろん船員も必要でございます 共にお借りすれば不適切な操作で船を痛める様な事も無いかと思います 」
「ふむ。。。それなら 問題ないな、必要になれば契約を取り止めるがそれで良いのだな?」
「もちろんでございます 人員は御社の中からこちらで選ばせて頂きますがよろしいでしょうか?」
「かまわん それで数字の方はどのくらいを見ている?」
「半年単位での更新で 船舶金額はこの程度となります」
手元で数字を作り 3代目は目をつぶり首を振る
「その期間の船員給与は御社の額の同額支払いを行います 御社としましてはその間船員給与は無くなるとお考え頂ければわかりやすいかもしれません」
苦悶の表情をする3代目だが
「今を耐え忍ぶ時でございます きたる次代の覇権は3代目だと私は確信しております」
そう言って宗延は握手を求め 3代目は頬を赤らめ その握手に応じた
握手の後すぐに宗延は用意済みの借船契約書を取り出し 必要事項を書き込み3代目に提供 その場でサインをさせた
「サインは社名で無く私の名前か? 相手も名前書きだからか? この借主 鰐真は信用できる奴なのか?」
「あの船は3代目の船でございませんか 3代目のお名前を書くのが当然の事でございましょう そしてこの借主は私の紹介でございます なんの心配もございません その証拠として即金で半年分の借船賃を今お持ちしております」
そう言って資金を机に並べて宗延は言った
「つきましては当方の売掛の集金をこちらからさせて頂きます まだ少し残りますが それは次の機会といたしますね」




