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清く 遊郭 美しく  作者: りあもんて
1/11

さがしもの


今日からここで生きていくんだよ

連れられてきたのは遊郭だった 子供ながらここがどう言う場所か知っている

連れられてきた男は婆から金を受け取り去っていった




天藍楼(テンランロウ)に足繁く通い 祇女達や禿と雑談しかしていかない

風変わりな男が今日も来ていた

鰐真(ガクシン)さまは今日もわっちをからかいにきたんすえ?」

年若い舞妓の円梨(エンリ)は呆れ半分諦め半分で薄目で鰐真を睨んでいた

「睨む顔も悪くない だが円梨の花開く顔が見たいのだがな」

と 空になった盃を円梨に見せ 酌をを催促してとぼけてみせた

円梨は毒花のような笑顔をわざと作り酒器をもちつつそっぽむく

こんな真似を婆に見られたら恐ろしいが鰐真のひととなりをよく知るからこその不作法だ

「困ったな円梨に嫌われてしまった 仕方ない禿達に癒してもらってくるよ」

そう言って立ち上がろうとすると裾を掴まれ 円梨は鰐真にそっと耳打ちをした

「嫌い...」

そう言ってぷいっと出て行く円梨だった


天藍楼には下働きをしつつ芸事を学ぶ禿と呼ばれるまだ幼い娘達が数多くいた

もちろん客を取るような事は無く 使いや雑用 姐さんが来るまでの馴染み客のお世話などを楼の中でぱたぱたと努めている 安い宿であればそんな小娘にちょっかいかける客もいるだろうがこの天藍楼ではそんな客はいない 出入り禁止はもちろん

馴染みの太客達が目線を細めるだけで お付きの方がそっと部屋を出て行くのだ

それだけでその人は仕事を失い街を去って行く


「今日は碁をしよう」

鰐真はロビーで碁盤を広げて周りに聞こえるよう独り言を言う

「鰐真さま 今日もわかりやすいですね」とひとりの禿が笑顔で話しかけてきた

雪花(ユキハナ) きみなら話かけてくれると信じていたよ 一局相手をしてもらえるかな」

そう言って婆に目配せすると 婆はクイっとアゴをあげ 雪花は席に着いた

ロビーでは 馴染みも祇女もいつも通りのように鰐真を見ては通り過ぎて行く


「うーんこうこうで あこっちにとーとー。。。」

頭を悩ませる雪花ににこにこと腕組みしながら見守る鰐真はいつもの光景だ

「勝てたら夏の髪飾りを贈るよ もちろんきみの姐さんの初花(ハツハナ)にもだ」

「勝てた事ないじゃ無いですか! わかってて言うのだからもう!」

と言いながらうーうー悩む雪花に ぱちりと次手を打つ

「それはわかります! 悪手です! 手を抜かないでください!」

そう言って置いた石を取り渡すから雪花はやっぱり勝てないのだった


「先日 新しい子が入ったそうだね 雪花から見てどんな子だい?」

「あら 鰐真さま 私に愛想つかして新しい子ですか 悲しいですねー」

両指でこめかみを抑えながら碁盤から目を離さず軽く返す いつもの光景

「ほほう、俺が勝ったらその子を紹介してもらおうか」

予想外の返答に雪花は思わず顔を上げ固まってしまう

「言い方が悪かったねごめんごめん 全員顔を見ておきたいだけだよ そんなに怒るな」


すまなそうに笑う鰐真に頬を膨らませる雪花の一局を終えて、雪花は婆を目配せしながら奥からひとりの禿を連れ立ってきた

「まだまだこの子は表に出せるようではありません 失礼があってはいけませんので話す事は許しておりません 粗相を先にお許し下さい」と雪花は頭を下げその禿にも頭を下げさせる


その娘は線は細く 先日まで飢えていたのが分かる、目は虚に伏せて顔を上げてはくれない

「こんにちは 雪花の友人の鰐真といいます よろしくね」

「鰐真さま 私は見習いの禿でございます そのような事を言っては序列が乱れます どうか初花姐さんの使いとしてお扱い願います」

そう言って深々と頭を下げる雪花に申しわけない顔で

「雪花 すまないね いつも使いをしてくれて助かっています それでその子のお名前は決まってますか?」

「いえ、まだこの子は先日来たばかりで名を婆さまから頂戴していないです」


「こんにちはお嬢さん もう少し顔を上げて 声も聞かせてくれないかな?」

うつむき気味になりながら様子をうががう禿を雪花は困り顔をしながらそっと耳うつ

「今後ともよろしくおねがいいたします、、、と」


「、、、、」

声は聞こえなかったが やっと顔を上げてくれた娘は年の頃は12にさしかかるだろうか

禿として始めるには遅いだろう 虚な目は自分の今後を理解しているかのように見えた


禿は幼年期から始め芸事舞事人脈を重ねて祇女として独り立ちして行くのが道だ

この年頃から始める娘は最低限の教育の後 客を取るだろう

「話す事を許しますよ お嬢さん お嬢さんは呼びにくいな 昨日までの名前はどんな名前だったのかな?」

背後から「鰐坊」とお婆の声

しまったなあ と思いつつ 背後のお婆に振り返りながら手を合わせてる

「お婆 すまん このくらいにするから!」

お婆は背後からジト目で見下ろし

「気に入ったなら買うかね? まだ客はついてないさ 仕込みも名前すらついてないがね」

お婆は知っている 鰐真がここではお茶を飲む事があっても買う事がない いつも分け隔て無く祇女達と茶を濁しては禿達に分け隔て無くお菓子を配ってばかりなのだ


「すぐに客をつけるのですか?」

「この子次第さね 覚えがいいなら後になる ダメならさっさと売るよ しかしまあもう少し肉を付けないと値もつきやしないね このままの皮と骨で売ったら二足三文さ」


ここ天藍楼には安い客は来ない 覚えが悪いまま売ると言う事はここでは無くよその安店に下ろすと言う事だろう


「その娘に挨拶せんでいい こんな年の子じゃだめさね 雪花の面倒見ておやり」

そう言ってお婆は痩せた娘の肩を叩き 奥へ戻るように促す

ぺこりとお辞儀をして振り返る

「お婆 部屋と菓子を頼んでいいかな?」

そう言う鰐真の言葉の意味も気付かない痩せた娘は奥に進もうと

「おまち」っとお婆は止めた


「鰐真様がお部屋の所望は初めてお聞きしますねぇ 雪花は初花に怒られますねぇ」

「それは怖いなぁ 少し休憩したいので 別の禿を1人付けてもらいましょう」

そう言って鰐真はお婆に笑顔を送る

「うちは禿を部屋に1人で置かないよ どんな娘でもね 雪花あんたもお付き!雪花に何かあったら初花ごと買い取ってもらうからね 」

そう言ってお婆は両手をわきわきさせていい笑顔だ

「お 恐ろしいな、、、 それじゃ部屋に初花もよんでくれ 雪花とそこのお嬢さんとで3人だ、これで間違いはないだろ?」

お婆がようやく顔を上げてアゴを振ると 男衆の1人が出て行った



「鰐真さま わたくしより雪花を所望なのですね 仕方ありません少々未熟ですが。。。」

初花は部屋の戸をわずかに開けて入りもせずに言う

「初花! 誤解だから誤解! だから部屋に入っておくれ」

伏せ目がちに部屋に入る初花は悲しそうな顔を作成しているが目は違う

退屈してた所におもちゃが来たと言わんばかりだ


「わっちは雪花のついででありんす。。。」

「お初。。。お前はありんすって言わんだろう。。。少し休憩したいのですよ 少し構って下さい」

初花は足を崩して笑顔でコクコク頷く、雪花はいつもの事と気にも止めずに茶を点てる

普通は初花が茶を点てるものだが 鰐真はいつも練習だと雪花にたてさせるのだ 最近は言われずとも雪花のお役目として決まっている


「部屋のしつらえは初めてですね鰐真さま と言う事は探し物は見つかったのかしら?」

「おいおい 俺は何か探してるように見えたのか?」

初花はニコリと笑うだけだが

雪花は「鰐真さまはわかりやすいと申し上げましたよ?」と口を挟む

初花が薄く目を細め睨むと 口に手を当ててふるふると横に顔を振る雪花であった


「お婆をなだめる為には初の助けが必要だったんだよ 気を悪くしないでおくれ」

「これではあの時の貸しの返しにはなりませんよ?」と初花はニコリと笑う

「そんな話はおぼえてない でだ! 単刀直入に聞きたいのだがこのお嬢さんの本名を聞けないだろうか? お婆に怒られるから内緒で!」

初花はアゴに指を当てて「んー」と天井を見る

「ここは本来ならじらす所ですが。。。じらさない方がいい? やっぱ今日は帰ろうかな んー」

「お初。。。」

「お婆には内緒ですよ 鰐真さま、本名など無作法にもほどがあります 絶対怒られるからね」

そう言って初花は痩せた娘の方を向いた 娘は茶を点てる所作を見ているように言われて雪花の後ろについている

初花がこちらを向いたのに気がつきさっと座礼をする

目を細める初花は

「はじめましてですね、私もこの娘を知らないのです 婆からは名は明日付けるとは先ほど聞きました これは本来は不作法ですが 今日だけまだ名をもらう前ですので今までの名前を言っていいですよ しかし今日まで今日だけです! 表を上げなさい」


痩せた娘は顔を上げてどうしたものかと雪花をちらちらうかがう

「ここはこの場にいる方だけの部屋です この場においては正直であればよろしいですよ 作法所作など無いのは仕方ないの事です 」と雪花は促した


「私は夏縫(カホウ)と名ずけられておりました」


鰐真は夏縫と名乗るその娘の目を真っ直ぐに見る

「生まれはどの辺りに? 父の名は。。。?」

「生まれは路鳳と言う土地でした父の名は夏縁(カエン)母は夏綿明(メンメイ)。。。です」

夏縫は少し首をかしげながら再び目をふせてしまった




その後 夏縫と雪花を下がらせ 初花の膝枕で横になりながら 何一つ喋らぬ鰐真に

初花はそっと頭を撫でるだけ

鰐真の目は普段ならざる強い目をずっと開いてた


長い逡巡を終えたのかその目はいつものよく知る目に戻り 初花をちらっと見ては泳ぐ

しばらくしてはやはり目が泳ぐのをのを見て


「あの子を保護すればよろしいでしょうか?」

「。。。いつも話が早くて助かる」



「鰐真さまはわかりやすいですから」



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