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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第四章〜狂いし令嬢と動き始める歯車〜

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15.迷宮翻弄

 数時間の時が過ぎて、やっと揺れがおさまった。

 流されていった結果、幸運にも埋まることなく地面の上に辿り着けたらしい。

 相当下の階層に行ってしまったから、文字通り不幸中の幸いだがな。


 ここが何階層なのかは分からない。

 しかし構造というか、作られ方は上と一緒で、硬質な壁と床に囲まれた回廊であった。

 しかし、相違点を挙げるならば通路や天井はやたらに広いという事だ。


「……そろそろ、行くよ。」


 ヘルメスはそう呟く。

 俺の心は想像より何倍も落ち着いている。死が隣にあるこの空間が、俺を一周回って冷静にさせているような気がする。


「さて、準備運動は終えたかい。」


 ヘルメスはいつものお気楽な口調とは違い、声は明らかに低く、そして既に短剣を抜いていた。

 ティルーナはそれに対して不安定だ。生存本能だけが彼女の原動力であり、精神に落ち着きはなく、ちょっとつつけば壊れてしまいそうな気もする。


「これから先に、あれをやっておけば良かったなんて通用しない。支配神へのお祈りは済ませたかい? お手洗いはもう終えた? これから足が棒になっても走る覚悟は? いざとなったら仲間を見殺す勇気は?」


 ヘルメスの言葉には誰も返しはしない。

 今は取り敢えず、生き足掻く事しか俺は考えられないのだ。死ななければ後悔はしないで済む。


「……オーケー、開始だ。」


 その一言とほぼ同時、結界は魔力が尽きてそれを維持できずに消え去る。

 そのいつもより遥かに豊潤な魔力にティルーナは少しふらつくが、なんとかその両足で大地を踏みしめる。


「作戦はさっき言った通りのみ。全力で走れッ!」


 そう言ってヘルメスが先陣を切って走り始め、俺たちもそれに続いて走る。

 事前にヘルメスが俺の魔力を介した付与魔法を使い、俺とティルーナの身体能力は一時的に上昇している。

 ヘルメスに辛うじてついているぐらいには。


「魔力共有の術式ってのは随分と気色悪いな!」

「僕は魔法使いじゃないからね! それぐらい許容してくれ!」


 俺とヘルメスは魔道具である魔力共有のピアスを耳につけている。

 これによって俺の無尽蔵の魔力はヘルメスも行使する事ができる。


「魔物がいるけど素通りするよ! 君たちは構わず走れ!」


 沈黙を肯定とみなし、ヘルメスは加速する。

 浅い層に比べ、ここは異様に通路が広かった。その理由が今わかった。

 マンティコアのように、強い魔物は体躯も大きくなる場合が多い。

 ならば深層とは、その巨大な体を活かし切れるように広くなっているのだ。


「『暴風付与エンチャント・テンペスト』」


 俺達の進む先にいるのは、巨大な翼を持つ緑色の竜。手と翼が一体化している、いわゆるワイバーンと言われる種だ。

 暴風を纏った短剣を持ってヘルメスが突っ込み、その鱗の上から鋭く切り上げる。

 あまり大きな傷ではないが、確かに鮮血が舞い、ワイバーンは少しのけぞる。俺達はその隙にその通路を通り過ぎる。


「『爆破付与エンチャント・エクスプロード』……あげるよ、それ。」


 そして通り過ぎる直前に手に持つ短剣をワイバーンへと投擲する。

 それ以降、三人の誰も振り返ることなく、ただ後ろから派手な爆音と熱気が響くのみであった。


「死ぬかと、思いました……」


 先行するヘルメスに続いて走り続ける中、ティルーナがふとそう零す。

 その顔には未だに死の恐怖がべっとりと貼り付いており、魔法の補助のおかげで疲れてはいないはずなのに汗をかいていた。


「忘れろ。記憶を消せ。そんなものには会っていないと思い込め。恐怖は覚悟を鈍くする。恐怖は勇気を腐らせる。恐怖は足を掴んでくる。」


 角を曲がると、移動してから初めての階段が目に映る。それを見るとすぐにヘルメスは駆け上っていき、振り返らずに言葉を続ける。


「今は、前だけを考えろ。過去を振り返るな。未来を見上げるな。現在をどうにもできないってのにそんなもの考えたら、死ぬぜ?」


 階段を上れば、確かに地上には近づいていく。

 しかしこの階段を何回越えれば、いくつの階層を抜ければ、俺たちは遠くなってしまった本当の大地を踏みしめることができるのだろう。そう思ってしまう。

 それでも、我武者羅に駆けるしか俺にはできない。

 何故なら、それしか生き残る道がないのだ。


「最初の休息地点まで最低でも五時間は走るし、百体を越える魔物と出くわす。覚悟の準備は最初に聞いたぜ、僕は!」


 階段を上り終え、ヘルメスは再び迷いなく道を走り始める。

 ヘルメスが前にいる限り、妙な安心感がずっとある。

 ヘルメスいなけりゃあ俺は既に発狂しているだろうし、絶対脱出なんて考えることすらできるはずがあるまい。


「分かってるよ! いいから走れ!」

「こんな時でも君は僕に辛辣だねえ!」


 軽口をたたき合いながら、俺たちはひた走った。

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