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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第十四章〜『主人公』は駒を前に進める〜

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35.悪魔の契約

 夜が明けた。王都が眠りについた事件が解決したという話は国中に広がり、一時は不安に包まれていた国内も落ち着きを取り戻すことになった。

 ただ、全ての人がそうではない。記憶の編纂の影響から逃れた者、例えばヒカリやフィルラーナはむしろ大きな混乱の中にいると言えた。

 その行動は人によって異なるだろう。ヒカリのように解決のために動く者がいれば、フィルラーナのように見なかったことにする人もいる。そして人によっては、もっと直接的に動く者だっている。


「――お主が、パンドラか?」

「やあ、待ってたぜ」「『悠久の魔女』オーディン」


 波打つ音が響く港で、長く白い髪の少女と不気味な男が相対する。


「思ったより早かったな」「確かに来てもらいやすいように、証拠を残させてたけど」

「自分の曾孫の名前が、誰かもわからん馬の骨に置き換わっていて気付かぬわけがないじゃろう。」


 かつて『最強の魔女』と恐れられたオーディンの力はもうない。心臓が穿たれて、魔法が使えないはずのただのエルフ。

 だというのに、パンドラは恐怖を感じた。その底冷えするような視線、隙を見せないような体の動き、そして何より言葉が持つ強い圧力。パンドラとオーディンでは歩んできた人生の長さが違う。存在としての厚みに大きな差がある。


「それで、俺に何を望む?」

「知っていること全てを話せ。そうすれば命までは取らん。」

「俺と戦って勝てると?」「力を失った魔女が?」


 腹の底から、重苦しい息をオーディンは吐く。


「逆に、勝てると思うか。このわしに、お主のような百年も生きとらん若造が。」


 ゴウン、という唸るような音が鳴る。その瞬間にオーディンの体内を魔力が流れていく。


「お主が相手なら、この『鉄の心臓』で十分じゃ。」


 ほんの一瞬で、パンドラの体の周囲を無数の火の球が取り囲む。圧倒的な展開速度と同時展開数、魔力の大本となる心臓を失ったとしても魔力を操る能力を失ったわけではない。全ての能力において他を圧倒する。故にこそ誰も彼女から冠位の座を数百年に渡り奪えなかった。


「『蛍火』」


 魔法の名を告げた瞬間に火球はパンドラへと襲いかかる。しかし火はぶつかるもののパンドラの服に焦げ目一つつけなかった。


「『現実騙り(フェイク・ファクター)』――この魔法は俺を燃やせない。」


 それを見てほんの少しだけオーディンは眉をひそめたが、直ぐに次の魔法を放つ。


「『神鳴』」


 耳をつんざくような雷の音が鳴る。今度は確実に雷がパンドラの体を飲み込み、そして全身を焦がした。


「残念、それはハズレだ」


 しかし蜃気楼のようにパンドラは消えて、オーディンの後ろに立っていた。


「いや、当たった。」


 その両足を地面から生えた鋭い岩が貫く。それに対処するより先に、上から来る岩がパンドラの体を押し潰した。

 オーディンは地面に這いつくばるパンドラまで近付き、見下ろす形でパンドラを見た。


「話す気になったか?」

「落ち着けよ」「別に俺は話さない、なんて言ってないぜ」「ここまで強かったのは想定外だったけど」


 体が潰れているはずなのに、パンドラは何でもないようにそう言う。


「そもそも、俺がスキルを解除してもアルスは海の底だ」「根本的な解決にはならない。」

「海の底、じゃと?」

「ああ、だから俺は交渉をしに来たんだ」「お前は情報が必要」「俺も情報が必要」「対等な取引を俺は約束する」


 情報が必要と、そう言われればオーディンは心当たりが多い。恐らくこの世で最も多くの書物を持ち、最も多くの知識を得ているのがオーディンだ。人に言えない知識をオーディンは持ちすぎている。


「……何が知りたい? その代わりに何を出せる?」

()()()()()だ」「その代わりに俺のスキルと、アルスに何をしたのかを全て教えてやる」「信じられないなら契約だってしてやるよ」


 オーディンは目を見開いた。


「それを、どこで知った。」

「ちょっと色々あってね」「それで、受けるのか?」「それとも受けないのか?」


 オーディンは悩んだ。愛するアルスが天秤に乗せられているというのに、それでも悩んだ。それ程までにこの情報は秘密のことであり、パンドラのような奴に教えられるものでもなかった。


「何をする気じゃ。まさか、世界を滅ぼす気か?」

「教えられないけど」「ま、世界を救うためだぜ」


 その言葉をオーディンが信用できるはずがない。ただ、あまりにも情報で不利に立ち過ぎている。スキルの正体を自ら開示してくれるかもしれないこのチャンスを逃すのも痛い。

 どちらを選んでもオーディンにとっては最悪になりかねない。だったら、オーディンの選択は自然に決まる。


「……いいじゃろう。教えてやる。その代わり、契約を結ばせてもらおう。」


 オーディンの右手が、指先から肘の辺りまで黒く染まっていく。その黒い手でオーディンはパンドラの頭を掴んだ。


「悪魔の契約を模倣したものじゃ。契約を破れば、わしもお主も魂を失う。勿論、断りはせんな?」

「ああ、嘘偽りなく話してやるぜ」

「よろしい。」


 心臓に針を刺されたかのような一瞬の激痛が2人を襲う。オーディンの手はその痛みが引く頃には元に戻っていた。

 オーディンは魔法で作った岩を消す。


「先に、話してもらおうか。お主は一体、何をしたのか。」


 パンドラはヘラヘラと笑いながら、寝転びながら口を開く。傷はもうなかった。

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