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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第十四章〜『主人公』は駒を前に進める〜

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9.覇王

 都市の外から見えていた城は、近付くとより一層大きく感じた。

 この世にあるどんな城よりも大きいそれは、機能よりも美しさと荘厳さを突き詰めた結果と言える。実際、城の前に立つアースはその威容に圧倒された。

 地震や台風などの大きな自然災害がない冥界だからこそできることだ。これと並びうるほどの建築物は、きっと賢者の塔ぐらいだろう。


「俺様が来るのを、初代国王は知ってたのか?」

「何故かは私も知らんが、今朝にそう言っていた。初代様は英霊界の中でも特別だからな。こういう事もある。」


 きっと、何かを知っているのだろうとアースは思った。そして恐らく一番、帰る方法を知っている可能性が高い。

 ウィリスはピースフルを特別と言った。それはアースも否定しない。ピースフルは英雄の中でも一線を画している。魔王を倒すだとか、多くの人を救ったとか、邪神を討ち滅ぼしたとか、そういう次元に彼はいないのだ。

 特別扱いされて当然だろう、という感覚すらアースにはあった。


「初代国王に会わせてもらえるってことで良いんだよな。」

「その予定だ。夜であっても断りはしないだろう。」


 門をくぐり城の中へ入る。外から見た大きさ通りの、広大な空間がそこにはあった。

 美しいシャンデリアが城内を照らし、赤と白を基調とした芸術的な内装を克明と映し出す。正面には玉座の間に続くであろう大階段が設置されていて、いくつかの通路がこの大広間からは伸びていた。

 入り口だけでこの大きさなのだから全体はもっと広いに違いない。きっとこの城を一周して回るだけで一日かかるだろう。


「初代様は城の最上階にいる。もう日が沈んでいるから大きな音は立てないように。」


 残念ながらゆっくり見ている時間はない。ウィリスはアースを急かすように歩き続ける。

 二人は正面の大階段を上っていく。城の門は空きっぱなしなので、心地よい夜風の音だけが鳴って、それ以外の音はあまり聞こえない。


「――足を止めよ、ウィリス。」


 だから人の声は、いつもよりやけに響いて聞こえた。

 階段の上に金髪金眼の男が立っていた。その顔はアースに瓜二つで、違うところと言えば目つきの悪さと、立ち姿からでも伝わるその尊大な態度である。顎を上げて腕を組み、その細い金色の眼で二人を俯瞰している。

 その眼から、彼がグレゼリオンの一族であることに疑いの余地はない。


「水臭いではないか。この我に隠し事か。」

「……そこを退け、エース。お前に用はない。」


 十大英雄の一人、グレゼリオン王国第七十三代国王『覇王』エース・フォン・グレゼリオン。邪神を様々な英雄達と共に倒した後、世界を整えて復興させた偉大なる王だ。


「誰だ、そいつは。」

「客人だ。お前が気にすることではない。」

「この城にグレゼリオンの末裔の客人か。俄然興味が湧いた。」


 エースの手元を光が走る。その光は瞬く間に鎖の形を成し、アースの右手に絡み付く。宙に浮く鎖に引っ張られようとしたその瞬間、ウィリスが鎖を掴んでそれを止めた。


「何の真似だ。」

「少しそいつを貸せ。何、怪我はさせん。」


 嘘だ、と反射的にアースは思った。既に鎖が絡みついている右手首が痛い。ウィリスが止めていなければ千切れていたんじゃないだろうかと、そう疑うほどだ。


「ただ少し、話をするだけだ。」


 エースの背後が光り、それが剣へと変化して迫り来る。ウィリスは黄金色の半透明な障壁を作り出してそれを防ぐ。防げば防ぐだけ、エースの攻撃は勢いを増していく。

 剣の数が増える。飛来する速度を増す。障壁にかかる重みは増えていく。

 いくら勇者であったウィリスでも、『覇王』の攻撃を前にして平気な顔はしていられない。反撃をしなければ一生このままだ。


「いい加減に――」

「終わりだ。」


 攻撃は急に止む。掴んでいた鎖も消える。気付けば背後にいたはずのアースは忽然と姿を消していた。


「安心しろ。用が終われば然るべき場所に届けてやろう。」


 光に包まれるようにしてエースも姿を消した。それを止める事はできない。残ったのは傷ついた床や壁、そしてウィリスだけだった。

 ウィリスは青筋を立てながら、大きく息を吐く。今の時間が夜であるという事実が彼に叫ぶのを堪えさせた。


「……最悪だな。よりによってあの小僧に見つかるか。」


 ウィリスは走って階段を駆け上る。ここまで案内したし、一応は自分の子孫だ。ここで放っておくことなど彼にはできなかった。

 問題はこの城が広過ぎて、住んでいるウィリスにとっても見つけるのは困難だということ。


「滅茶苦茶な奴め。何故あれで生前は上手くいっていたのか不思議でならん。」


 ウィリスは不満をこぼしながら走った。






 アースは気がつくと椅子の上に座っていた。鉄の鎖で椅子に縛り付けられていて、身動き一つ取ることができない。ただ首は回るのでここがどこかと見渡してみると、目の前にある鉄格子から、きっと牢屋なのだろうと察することができる。


「さて、改めて名を聞こうか。」


 鉄格子の向こう側から、エースは語りかける。


「これは、どういうことだ?」

「口を慎め。貴様はただ我の質問に答えるだけで良い。話していけば自然、我の思惑もわかるというものよ。」


 どうやらアースに質問をする権利はないらしい。アースもこの状況で逆らう勇気はない。


「……アース・フォン・グレゼリオンだ。」

「何代だ。」

「まだ継承してねーよ。ちょっと色々あって英霊界に迷い込んだんだ。」


 それを聞いてエースは顎に手を当てる。

 エース・フォン・グレゼリオンは、『万能の王』と呼ばれた人物だ。十大英雄なだけあって彼をモデルとした劇や小説は多数存在し、アースも彼に関する話はよく知っている。

 曰く、5歳の頃には組手で近衛騎士に勝利したとか。曰く、あらゆる学問で優秀な成績を収め、様々な発明をしたとか。娯楽小説もびっくりな程の馬鹿げた逸話が並んでいる。

 実際にこうやって傲慢不遜なその態度を見ると、それは本当だったのだろうと思えてくる。


「ふむ……ああ、なるほど。話が掴めてきた。初代に会いにこの城に来たわけか。」

「そうだよ。わかったなら早くこれを外してくれ。」

「まあ待て。初代と会えば直ぐにでも貴様は帰れるだろう。しかし生者が冥界に足を踏み入れて、何の代償もなく帰るとは、随分と貴様にとって都合の良い話とは思わんか?」


 話の流れは見えてきた。どうやらエースは簡単に帰らせたくないのだと、そうアースは理解する。


「でも、俺様だって来たくて来たわけじゃねーぜ?」

「冥界に望んで来る奴などおるか、たわけめ。例え貴様が本来は生きていたとしても、この冥界に来た時点で死者であり、現世に戻る事は死者の蘇生と同義だ。それは遥か昔からの禁忌である。」


 交渉はできそうにない。そもそもエースの中では既に答えが決まっている。こういう手合いはいくら話しても無駄だとアースは経験的に知っていた。


「喜べ、『覇王』の試練を受ける栄誉を貴様に与えよう。」


 ピクリとも笑わず、淡々とエースはそう言った。

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