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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第十四章〜『主人公』は駒を前に進める〜

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3.スタート

 トッゼは地面に倒れ込む。普通の人ならば致死量である出血量、人造人間(ホムンクルス)という特殊な存在であるトッゼであっても重傷である事は間違いない。


「ふざけ、やがって。僕のこの能力を使うために何年準備したと思ってる。それを銃弾1発分とはいえ無効にしただって?」


 睨みつける先は白い障壁で覆われた玉座。これを破る術をトッゼは持たない。


「また5年も、魂を集め直すのか? でも、オルグラーがいる限り根本的な解決にならない……」


 本来はもっと別の筋書きを用意していた。スエとトッゼの最強級のスキルがあればそれは可能なはずだったのだ。

 オルグラーがそれら全てを無効にして突っ込んでくる、なんていうあり得ない負け筋を引かない限り。


「……いや、まだ勝ち筋はある。まだテーブルに立ってるのは僕だ。相手がオルグラーか、そうじゃないか程度の違いしかない。」


 退却をすれば何の成果もあげられず、ただ手札を晒しただけになる。それはトッゼのプライドが許さない。

 まだ国王暗殺は失敗していない。オルグラーに防がれたというのも、見方を変えればオルグラーを封じたと言える。前向きに捉えればそこまで悲観する程じゃない。


「ゲームは始まったばかりだ。どうせこの空間で、僕に勝てる奴はいないんだからね。」


 そう言ってトッゼは、なんとか口角をあげた。






 心地良い波の音が耳に響く。陽光は肌に気持ち良く、ささやかに吹く風は心を洗うだろう。

 その砂浜に一人の人が流れ着いていた。黄金の髪と目を持つグレゼリオン王国の末裔、アース・フォン・グレゼリオンだった。

 彼はゆっくりと目を覚まし、体を起こして辺りを見渡す。


「……どこだ、ここは。」


 近くには民家もある。ここは漁村なのだろうかと思うが、どれだけ見渡しても船がない。恐らく違うだろうとアースは判断した。

 少なくともグレゼリオンではない事は確かだ。アースは国内における自分の知識に自信があった。

 だがそもそも何故、王城にいたはずの自分がここにいるのか。王城で何が起きたのか。アースの疑問は絶えない。


「とにかく人を探さねーと――」

「人ならここにいるよ。」


 アースの耳元で声がした。振り向くと、そこには白いワンピースを着た少女がしゃがみ込んでいた。

 血の気は一気に引き、心臓の鼓動は急速に早まる。転がるように情けなくアースはその少女から距離を取った。驚き過ぎてアースは声も出なかった。


「お、お前、いつからそこに……」

「やだなあ、最初からいたよ。起きるまでずっと見ていてあげたんだから。」


 そう言って少女はアースに微笑みかける。依然としてアースは警戒したままで、常に少女から目を離さない。


「ボクはキャラ。あなたの名前は?」


 少なくとも敵意はない事はわかる。何かするつもりなら起きる前にできたはずだ。

 ただそれでも信用はできない。この不可解な状況と王子という立場がアースにそうさせていた。


「……アースだ。ただのアース。」

「そっか、アース。じゃあ取り敢えず私の家に来て。気になる事は色々あるだろうし。」


 少女は立ち上がりサンダルを履いた足で歩き始める。民家の方角に向かっているようだ。恐らくそこに少女の家があるのだろう。

 信用はできないが、それでもこの状況では他に選択肢がない。アースは大人しくその少女、キャラについて行く。


「俺様は、いつからあそこにいたんだ?」

「数時間前かな。ボクが来たのがそれぐらいだから、もっと前からいたかもね。」

「何でずっと見てたんだ?」

「だって、それしかできないし。他にやることもないからなあ。」

「ここの村はどこの国にあるんだ?」

「国……ここって国なのかな? 考えたこともないや。」


 焦るアースの思いとは反対に、キャラは気の抜けた様子でそれに答え続ける。


「じゃあ、ここはどこなんだ?」


 アースの質問でキャラは足を止める。そして振り向いて、少し下から不安そうなアースの顔を覗き込んだ。


「そうだね、それぐらいは先に教えた方が安心か。よくわからないようだけど焦ってるみたいだし。」


 そう言われてアースは自分が表情の管理もできていない事に気がつく。反射的に口元を抑えて表情を隠した。

 王は民や臣下を不安にさせてはならない。故にこそ焦っている事を他人に気取られるなんてあってはならない。

 息を吸い直してアースは自分の心を落ち着かせ、キャラの言葉を待った。


「ここの始まりは大体四千年前、グレゼリオン王国が建国されるより更に前。最初は小さな島と海だけの場所だったらしい。今じゃ色んな人がいて、色んなものがあるけど。」


 あり得ない、と言いそうになるのをアースは我慢した。グレゼリオン王国より古い文明なんて聞いた事もなかったからだ。

 何より数百年前の邪神との戦いでグレゼリオンを除く全ての文明は滅びを迎えた。これは揺るぎない事実のはずなのだ。


「ここに住む人は必ず、アースのようにあの浜辺に流れ着く。あそこは『漂白の浜』ってボクたちは呼んでる。」


 その違和感を一つずつ解くようにキャラは話した。


「ここは世界、魔界、天界、神界に並ぶ五界の一つ。全ての生命の終着点にして原点、冥界。」


 アースは聞いた事があった。古い文献や教会の教典に、ほんの少しだけ書かれているようなことだ。

 ただ当然、見たことなんてあるわけがなく――


「その中でも神に認められた英雄だけが行き着く場所、それがここだ。名前は英霊界。」


 キャラが嘘をついているようには、とても見えなかった。むしろ納得してしまった自分がいた事にアースは恐怖を感じる。


「は――」

「どう、わかった?」


 問われてもそれに答える余裕はなく、むしろ落ち着かせたはずの心は余計に揺れる。


「はああああああああああ!!?」


 結果、この事態を受け入れられず叫ぶことしかできなかった。

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