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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
幕間〜その次〜

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悪魔のお茶会

 全ての悪魔の故郷である魔界。その何もない荒廃した世界には、七柱の王がいる。


 原初の悪魔にして、魔界の全てを知る者『悪魔王』バアル。彼は永遠に玉座で来客を待つ。それが使命であるかのように。

 喧騒を求める『戦場の王者』パイモン。彼女は常に目新しく、創造的なものを探し求める。それが例え、破滅を齎すとしても。

 荒野を馬で駆け続ける悪魔がいる。『激怒の愛情』ベレトは、どれだけ醜悪な存在でもその愛情を向けてくれるだろう。

 どんな者でも『秘匿の管理者』プルソンを相手に隠し事はできない。彼女の前に立つということは、自分の全てを知られるのと同じことだ。

 幻惑の森の奥には『色欲の黒魔』アスモデウスがいる。彼女に選ばれた来客だけが招待され、彼女に会う権利を得る。

 何かを求めるのなら『禁忌の呪術師』バラムに出会うことになるだろう。彼は必ず契約に従い、契約者の望みを叶える。同時にその代償を覚悟しなくてはならない。

 全ての人類は『悪魔公』ベリアルから逃れる事はできない。彼を相手に生き延びるには、立ち向かう他に選択肢を許されない。


 七柱は基本的に互いへ干渉しない。数百年変化がない魔界で、話すようなことは何もないからだ。

 だからこそ今日は特別な日だ。二柱の王が、ただお茶会をするためだけに集まったのだから。


「ようこそ、パイモン。歓迎するわよ。」

「ああ、ゆっくりとさせてもらう。折角のアスモデウスからの招待なのだからな。」


 幻惑の森の最奥、アスモデウスの家にパイモンは来ていた。

 この二柱は古くからの仲だ。領地こそ面していないものの、こうやって百年に一度ぐらいは顔を合わせる。端的に言うと価値観が合うのだ。人の無駄を愛するパイモンと、人の生き方を愛するアスモデウスは本質的に似ている。

 しかし決して似ているだけで同じではない。前回のように意見を違える事はよくある。それが逆に二柱の関係を続かせているとも言えるだろう。


「しかしまあ、終わってしまったな。魔界から出てしまっては私の権能でも捉えきれん。」


 何を、なんて言わなくてもわかる。フィルラーナ、ヒカリ、そしてプラジュ・エーテルの三人の旅だ。既に三人とも魔界を出た。『悪魔公』ですら彼女達を妨げることはできなかった。

 今回ばかりは相手が悪かった。あのプラジュがいたからこそ道中を悪魔が襲うことはなかったし、バティンも幻惑の森に送るという間接的な手段しか取れなかった。戦ったら負けるからこそ誰も挑まなかったのだ。


「あーあ、外はどうなっているのやら。気になって仕方ない。」

「悪魔は自分の意思で魔界を離れられないものね。召喚者が現れるのを待つしかないわ。あなたの召喚条件って?」


 そう言われるとパイモンは顔を上に向ける。七十二柱を呼べる程の魔力を込めた召喚は普通行われない。更に召喚条件を突破するとなると数が限られる。

 そのせいか自分の召喚条件をパイモンはあまり記憶していなかった。


「……なんだっけか。願いのない奴、だった気がするな。」

「へえ、それはどうして?」

「願いのない奴は、私を何の意味もなく呼び出した事になる。そういう奴は面白そうじゃないか。」


 力だとか、地位だとか、知識だとか、そんな有り触れた願いに興味はない。パイモンはその全てを求めていない者にこそ、それを与える。

 だってそんな奴の人生は絶対に面白くなる。無駄を愛し、無駄を求める者の人生こそ唯一無二だ。パイモンはそれを求めている。


「そう言うお前は何なんだ。」

「私? 私の召喚条件は三つよ。魔力を含んだ霊草、厄災級の魔物の魔石、そして美味しいお菓子を用意すること。」


 パイモンは目を丸くする。


「何だそれは。霊草や魔石はまだわかるが……菓子だと? 自分でも作れるだろうに。」

「私が作っているものは記憶を辿って、限られた材料で作った紛い物。本物はもっと美味しいのよ。」

「口に入れれば全て同じだろうに。私はどちらかと言うと、作る者の方に興味があるぞ。」


 パイモンは紅茶を口に含む。これも味を理解してはいない。そもそも悪魔は魔力生命体であるから、こうやって人の形をして舌があるのも当人の気分でしかないのだ。

 こうやって紅茶を飲むのはアスモデウスに付き合っているのだ。それにこういう無駄をパイモンは好んでいた。


「どちらにせよ、召喚されなきゃ叶わない話よねえ。つい最近に召喚されそうになったけど、サブナックに横取りされちゃったし……」


 召喚は条件が合致している悪魔の早い者勝ちだ。アスモデウスが応じるより何倍も早く、サブナックが出て行ってしまったのだから、彼女からできる事は何もない。


「『悪魔騎士』か。遂に行ったか。」

「あなた、サブナックと話したことが会ったかしら?」

「興味があったからな。あいつは七十二柱の中で、最も長く人と過ごした悪魔だ。一度出向いて話を聞きに行ったことがある。」


 断られたがね、とパイモンは付け足す。

 オルゼイ帝国の建国から滅亡までの二百年以上の長い時を、サブナックは帝国と共に過ごし続けた。ここまで長く魔界を出る悪魔は珍しい。

 故にパイモンに限らず、様々な悪魔の興味の対象となった。誰にも何を経験したのかを話すことはなく、どの王にも頭を垂れなかった。


「……俄然、魔界から出たくなるな。恐らく今以上に地上が面白い瞬間はないぞ。」

「それなら悪魔王に頼んでみる? もしかしたら、大穴を使わせてもらえるかもしれない。」


 パイモンは口を噤む。


「それは召喚されるよりもっと無理だ。バアルが言うことを聞くのは、今は亡き破壊神様だけ。魔界で最も権力を持ちながら、最も不自由な奴なのだ。」


 全ての悪魔はあの、魔界から出る大穴を知っている。しかし悪魔王の許可なくその大穴を通れた悪魔は存在しない。

 六柱の王が力を束ねたところで、たった一つの悪魔王を討ち倒すことはできない。謀るこど、騙すことも、裏をつくことも、何をしても悪魔王には敵わない。

 悪魔では絶対に悪魔王は倒せない。もはやそういうシステムのようなものである。


「あー、全身がむず痒くなってきた。何か手はないのか、アスモデウス!」


 そう言われてアスモデウスは手に持つ煙管をテーブルに置く。


「要は、どうなっているのか見たいんでしょう。魔界を出るのは無理でも、観測するぐらいならできるかもしれないわねえ。」

「本当か、アスモデウス! 何かアテがあるんだな!」


 パイモンはテーブルに身を乗り出しアスモデウスに顔を近付ける。


「でも、簡単じゃないわよ。」

「私は『戦場の王者』だぞ。欲しいものを手に入れるために暴れるのは本懐だ。」


 それなら、と言ってアスモデウスは立ち上がる。


「早速行く? どうせ、あなたも暇でしょう?」

「勿論だ。今こうしている間にも、面白いことを見逃しているかもしれない。」


 アスモデウスの家を二柱の王が出ていく。魔界を巡る旅に出るために。

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