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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第十三章〜聖剣の担い手は闇の中でこそ輝く〜

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28.開戦

 ティルーナはここに来るまでに何があったのかを話した。勿論フィルラーナの一件は話せないため、その部分は内容をぼかしながらとなるが。

 そして何よりティルーナの意思を明確に示しておかなければならなかった。


「……そうですか。皇帝にはならないのですな。」

「ええ、私は名も無き組織と協力するヴァルトニアに対抗する為に来たんです。皇帝の座には興味がありません。」


 露骨に残念そうな顔をされて、少しティルーナの心に罪悪感が生まれるがこればかりは仕方ない。ちょっとの罪悪感で引き受けるような事ではないのだから。


「いや、勝手に期待したわしが悪い。忘れてくだされ。そもそも今は、明け渡すべき国が残るかすらも怪しいのですから。」


 そう言って、思いの外呆気なく引き下がる。ずっと諦めずに言い続けるサブナックとは大違いだ。

 落胆というか、納得というか、仕方がないという雰囲気をティルーナはクラウンから感じ取った。


「何だ、つまらん。お前の帝国への執着はその程度か。」


 ただ若干一名、それに納得していないようだが。


「……元より、わしがロードリッヒ家の末代となるつもりじゃった。もしわしが死ぬまでに皇帝の子孫がこの地を訪れなければ、このくだらない王政は終わる予定だったのじゃ。」

「諦めていたのか?」

「そうじゃ。悪魔と違って人には寿命があり、限られた時間の中を生きる必要がある。誰かに明け渡すためだけに続く王政など、くだらないと言う他ないじゃろうよ。」


 自分という偽物の王ではなく、本物の王の資格を持つものが現れた。それがどれだけクラウンにとっては救われることだったか。それでも無理強いをしないのは、家の伝承を嫌う側の人であったからだろう。

 家の伝承に苦しめられ、戦い続けたクラウンはそれをティルーナにも強いて苦しめる気はなかった。ただ、一族の悲願が叶わず残念というだけで。


「その果てがここじゃ。オルゼイの民を再び集めても、統治するものが偽物ではこのような軟弱な国に成り果てる。こんな国を、ただ血を引いているからという理由で他人には押し付けられん。」


 それは偽物なりの矜持である。始めは本来の王に捧げる国として建てられたが、それが数百年も世代を繋げば責任となる。大きな発展もなく衰退もない、そんな枯れ果てた国でもそれを最後まで守り切る責任があった。


「かつての七大騎士(セブンスナイツ)よ。理由はこれで十分かな?」

「……良い、気に入った。お前もまた帝国民だ。お前になら一時であれ、国を預けても問題あるまい。」


 どうやらまだサブナックは諦めていないようだが、もうティルーナはそこに触れないことにした。


「それで、私はどこへ向かえば良いのですか?」

「ティルーナ様を含め、癒し手の者は後方支援部隊として動いてもらいたい。できれば癒し手の総指揮を任せたいですな。」

「構いませんよ。」


 外部の者であっても成人候補、これ以上に医術に長けるものは早々いない。最も優れた知識を持つ者を配置した方が良いとクラウンは考えた。

 しかもその称号を聞けば、反感を買う者も少ないだろう。例え他所から来た癒し手でも大人しく言うことを聞いてくれるはずだ。


「こちらから攻め入る事はできませんので、戦地はオルゼイとヴァルトニアの国境付近、最前線の街であるローランスになるでしょう。そこで迎え撃つ形となります。」


 それを聞いてサブナックが口を開く。


「兵力差はどの程度だ?」

「オルゼイ軍は陸軍が5個師団、海軍が1個師団じゃ。ヴァルトニアはどれだけ少なくともその倍はおるじゃろう。加えて名も無き組織の援軍もあるはずじゃ。」


 サブナックは目を細める。計6個師団で約10万人ほど。この小さな国にしてはよくこれ程までに集まったと言える。国の危機で立ち上がる者も多かったのだろう。

 しかし、まだ足りない。

 相手の兵力が2倍超であるならば、これを覆すのは強力な個人がいても困難である。例え一つの戦場で勝利をおさめてもそれ以外の全てで負けては意味がない。


「そのローランスという街は地形的に優れているのか?」

「国境部分には大きな川がある。そう簡単に攻め入られる事もないはずじゃ。」


 ローランスは以前、バハムートと戦ったあの街だ。アポロンによって壊されはしたものの、暴れまわったので地形は大きく歪んだ。これを逆に利用して大きく穴を掘り、巨大な川をオルゼイが作ったのだ。

 異世界人にとって川一つというのは障害になりにくいが、一軍が超えるのは手間となる。少なくとも進む足を遅くするぐらいの効果はあるだろう。


「とんだ負け戦だな。こんなもの、始まった瞬間に敗北が決まっているようなものだ。」


 サブナックは包み隠す事なくそう言った。地の利は多少ある。しかし倍以上の兵力差を誤魔化せる程ではない。


「迎え撃つからには勝機があると踏んでいたが、これでは無駄に死人が出るだけだ。」

「降伏をしたところで、奴らの奴隷になるだけじゃ。死ぬのと何ら変わりはない。」


 そのクラウンの返答にサブナックは微かに笑う。

 その時だった。ノックもなくドアが開け放たれる。それはさっき別れたばかりのテルムだった。サブナックという知らない悪魔を見て一瞬不審そうな顔をするが、その感情を抑え込んでクラウンのもとへとやってくる。


「クソジジイ、遂に来たぞ。ローランスから連絡が飛んできた。」


 何が、なんて聞かなくてもわかる。前線の街から来る緊急の連絡など一つしかない。


「望遠鏡で進軍してくるヴァルトニア軍を捉えた。一日も経たずに川の前まで来るはずだ。」

「……真正面から来たか。準備はどうじゃ?」

「それは聞いてねえが上手くやってるだろ。想定通りの攻め方だ。」


 オルゼイはヴァルトニアの突発的な侵攻を受けたあの日から、ずっと準備を続けていた。少なくとも簡単に滅びてやる気はサラサラない。


「始まるぜ、戦争が。」


 敵は待ってくれない。未だ十分な人員や武器が揃わないまま、戦争が始まろうとしていた。

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