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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第十三章〜聖剣の担い手は闇の中でこそ輝く〜

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9.三人旅

 この世界は大きく六つに分けることができる。

 人々や魔物が住まう基本世界、精霊が住処とする精霊界、神々が存在できる神界、天使が職務を行う天界、悪魔が産み落とされる魔界、死んだものが向かう冥界。

 どれも基本世界に住む人類にとって身近なものではないが、最も知られているのは魔界である。古来から悪魔と人は交流を持っていた。実際に魔界を見たものは少ないが確かに存在する。そして見た人がいるのなら、それを書き記した本だって存在する。


 常人なら体調を壊すほどに濃密な魔力、毒々しい色をした不毛の大地、永遠に月光が照らし続ける空、そして何よりも――凶暴な悪魔と魔獣が闊歩している。

 どれも人類が生きるにはあまりにも適していない環境である。そんな地に、フィルラーナとヒカリは落ちてしまった。


「――どうしようかしら。」


 流石にこの状況までは読みきれなかったようで、珍しくそんな言葉を口にした。いつも用意周到でどんな状況にも迷わず対処するフィルラーナらしくない言葉だ。

 それは逆に言えば、フィルラーナでさえも予想できなかった程の異常事態である。

 既に二人は数分間も魔界を歩いていた。取り敢えず脱出の糸口を探さなくてはいけなかったからだ。このままでは救助が来るより先に飢え死にしてしまう。


 そんな二人の目の前に現れた最初の生物は、意外にも会った事のある人物であった。これこそがフィルラーナを悩ませる原因である。

 それは角はないものの鬼人族特有の赤い肌を持ち、長い杖を手に持つ――つまりは先程、道案内をしてあげた老婆であった。

 その老婆はこの荒野の中で体を縮こませてスヤスヤと眠っていた。


「起こした方が、いいッスよね?」

「ええ、そうね。罠である可能性も考えたけど、嫌な予感はないし……何かが原因で巻き込まれたのかしら。」


 幸いにも未だに魔獣や悪魔とは遭遇していない。しかし魔界にいる内はいつ襲われてもおかしくない状態である。そんな中、呑気な眠っている人を放っておくことなど二人にはできない。

 ヒカリは近寄って老婆の体を揺らす。すると直ぐに目を覚まし、薄く目を開いた。


「……ん、おはよう。」


 そう言って老婆は上体を起こし、辺りをぐるりと見渡す。どうやらまだ寝惚けているらしく声は弱々しい。


「どこや、ここ。」

「魔界よ。覚えてないの、ここに来る直前のこと。」


 杖を支えにして立ち上がり、今度はヒカリとフィルラーナの顔をジーッと覗き込む。


「ああ、思い出した。お嬢ちゃん達に案内してもろうた後に、店前が騒がしい思うて店を出たら――」

「巻き込まれてしまった、というわけね。」

「そやなあ。こんな無理矢理に転移させられるのは初めてやわあ。」


 特定の個人だけを転移させる魔法は、相手が許容しなければ普通は通らない。自分に飛んでくる魔力を弾いてしまえば、それだけで簡単に防ぐことが可能だ。

 以前、ハデスが精霊王を転移で連れ去るのに成功したのは様々な要因が重なったが故だ。少なくとも前準備なしで相手を無理矢理転移させるなどあり得ない事である。


「しかもよりによって魔界に来るなんてなあ。うちも絵本の中でしか見たことないわ。」


 思いの外、老婆は落ち着いている。それを不審に思ったのかフィルラーナは老婆へ尋ねる。


「随分と落ち着いているのね。」

「この年にもなればなあ。旅を続けてれば死にそうになる事なんてようあるし、変な事に遭遇した経験も二人に比べたら多い。七十年も生きとればお嬢ちゃんもそうなるよ。」


 そういうものかしら、と言ってフィルラーナは詮索を止める。七十を過ぎて世界を旅するのは、いくらこの世界でも普通ではない。しかも女の一人旅となれば狙われる機会も多いだろう。きっと様々な事情もあるはずだ。

 フィルラーナにだって隠し事の一つや二つはある。それ以上を知ろうとはしなかった。


「それにこういう時の為に、準備もしてる。食べ物や飲み物はぎょうさんあるで、不味いけど。」

「……それ、分けてもらう事ってできるかしら?」

「勿論。道案内してくれたし、一人で見知らぬ地を歩くのは怖いからなあ。」


 それを聞いてフィルラーナは思わず安心して息を吐く。取り敢えず目先の問題は解決しそうだ。魔界から脱出するという最大目標は残るが、それでも猶予時間が増えたのは僥倖だろう。

 旅に慣れている人物を仲間にできたのも嬉しい。フィルラーナは貴族であるし、ヒカリも元はそこそこに裕福な日本の家で生まれている。先導できる人物がいるのは安心できる理由となりえる。


「ほな改めて。うちの名前はプラジュ、どうぞよしなに。」

「私はフィルラーナ。好きに呼んでちょうだい。」

「私は(ヒカリ)ッス! よろしくお願いするッス!」


 ――さて、一通り自己紹介を終えた三人は魔界の地を歩き始めた。

 救助が来るまでには数日を要するだろうし、それまでに付近の環境を理解しておくのは重要な事だ。最低でも一週間、長ければ一年以上ここに滞在するかもしれない。とにかく付近の地形を知る事をフィルラーナは優先したのである。

 それに、魔界に関しての話をフィルラーナは教養として知っていた。魔界の全ての王の中で最も偉大で強大な力を持つ『悪魔王』バアル――もし彼に謁見する事ができるのなら、自力での脱出もできるかもしれない。


 一抹の不安はあれどそれを押し潰して3人は魔界の地を歩いていく。

少々重い風邪にかかっており投稿が遅れました。仕事も少し溜まっているため、本来の文量より少ないですが投稿だけしておきます。その分、次のボリュームが多分増えます。

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