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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第二章〜学園にて王子は夢を見る〜

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21.知っている

「終わった、か。」


 俺は一人そう呟く。

 裁判が一度終わり、俺は色々と事情を聞かれてそのまま開放となった。

 明日からまた普通の学園生活が始まるが、今日は取り敢えず休みだ。色々と疲れた。当分は頑張りたくない。


「ここに、いたか。」


 だが、話はせねばなるまい。

 俺は今、王都のとある高台から街を見下ろしていた。もちろん学園があったファルクラム領も発展していたが、ここも凄く発展している。

 もうそろそろ夜だからか街灯も点き始め、仄かに美しい夜の街が完成しつつあった。


「……もう、出歩いていいのかアース。」

「うるさい、黙れ。」


 酷く冷たいものだ。俺の後ろにアースが立っている。俺も振り向き、アースと目を合わせた。

 その顔は怒りのようであるが、よく分からない。色々な感情がごちゃ混ぜになったような、そんな妙な感じだ。


「何故、助けた。」


 その声も酷く不安定だった。

 怒りと悲しみと不安と苦しみと、全部ぶち込んでミキサーで混ぜたみたいな、そんな声だった。


「助けろなんて、一言も言ってないだろ。俺はあそこで退場する、それでよかったんだ。そうしたら全てが丸く収まる。」


 それは半ば妄信に近い。そう信じ切ることによって自分が諦める理由を作ろうとしている。

 そして、俺はこの顔を知っている。昔に一度、そして最近にも何度も見た顔だ。


「何故、俺の幸せを邪魔する。」


 それは俺なのだ。母親が殺されて全てを諦めて、投げ出したくなった俺の顔だったのだ。

 夢も目標も信念も、何も持たなかった愚かしい俺の姿が、全てを諦めて投げ捨てるアースの姿と重なった。


「……もし俺の幸せと、他者の幸せが食い違った時。何が正しいのか、ずっと考えてた。」


 だからこそベルセルクが、お嬢様が俺を助けたように。俺もアースを助けなくちゃならない。

 俺しかいないんだよ、こいつを助けられる奴は。


「ずっとずっと考えて、それでも答えは出なかった。」

「……」

「だから、やめたんだ。そんなつまらない事考えるの。」


 必要なのは、たった一つ。シンプルな答えだったのだ。

 俺は、自分みたいな人間を作りたくなかっただけなのだ。

 だから、俺は理不尽になる。人を問答無用で救う理不尽に。


「俺が考えるべきは、俺がどうしたいかだけだったんだよ。」

「例え、それが、俺が望んでいなくてもか。」

「ああ。俺はそれが嫌だったから、だから助けた。」

「そんな、稚拙な子供みたいな理由で、あんなにも大きな賭けをしたのか。失敗したら、お前は今頃殺されてるんだぞ。」


 信じられないようにしてそう言う。


「確かにそうだろうよ。だけど俺は、自分に嘘をつくぐらいなら死んだほうがマシなんだよ。死ぬより辛い事を、俺は知ってるからな。」


 実際に死んだ事があるからこそ、分かるのだ。大切な人を失うというのは、死ぬより辛い。

 どうしようもない無力感が、何より辛い。


「……ふざけるな。」


 怒気を込めて、アースはそう言った。

 その瞬間、正にタガが外れたようにアースは話し始める。


「ふざけるなよアルス! 俺は一度も助けてくれなんて言ってない! お前の欲望の道具として俺を使うな!」

「アース……」

「俺を憐れむな! 俺を気遣うな! 俺を助けるだなんて言うな! 俺はもうとっくに助かってんだよ! 俺はもう、これで良いんだよ! 勝手に外野がギャーギャー騒いでんじゃねえよ!」


 それは恐らく、心の底からの言葉なのだろう。

 憐れまれたくない。助けられたくない。自分の力で、自分の手で前に進みたい。それがアースの求める事だったのだ。


「だからもう、俺に関わらないでくれよ。もう、楽にさせてくれよ。もう嫌なんだよ。誰にも期待もされないのに生きるのは……!」


 これがただの平民であったら、もう少し父親が凡才の王だったら、ただの貴族であったなら。アースはここまで苦しまなかったかもしれない。

 アースへと、ありとあらゆる環境が牙を剥いていた。

 アースの目元に雫が見える。たった10歳の子供が、抱える悩みなのか。なぜここまでなるまで、周りは放っていたのだ。子供一人笑えさせる事ができなくて、何が賢王だというのだ。


「アース。」

「何だよ、また哀れみの言葉を向ける気か?それとも、俺に期待しているだとか薄っぺらい言葉を吐く気か?」

()()()()()()()()()()()。」


 俺はハッキリと、そう言った。

 今はまだ、体は幼い。だが俺のこの魂には、五十年もの経験が刻まれている。だから分かる。この時にかける薄っぺらい同情の言葉ほど、クソみたいなものはないって。


「ッ!!」

「何を間違えてそんな薄っぺらい、酷い考え方になったのかはよくわからない。興味もない。ただ、俺はお前に期待なんかしてやらねえ。お前が何がどんな風になるなんて、お前の好きにすればいい。」


 そもそも、こいつは致命的に履き違えている。

 期待なんてかけられても、この世で何の意味もない。結局は事実のみが残り、勝手に期待した奴が勝手に文句を言い始めるなんてしょっちゅう見る。


「期待もしない。信じもしない。だが、それでもお前と俺は友達なんだよ。」

「とも、だち?」

「ああ、そうだ。お前は何もかも履き違えてやがる。友達だから信じる? 友達だから期待する? 違うね。少なくとも俺の知ってる友達なんてそんなんじゃなかった。」


 前世の、俺のたった一人の友達だった男。俺はあいつを信用しなかった。俺はあいつに期待もしなかった。

 だけど、友達だったのだ。間違いなく。


「友達ってのはよ、アース。知ってるって事なんだよ。」


 そいつがどういう人間なのか、なぜ自分と仲がいいのか、どんな事ができるやつなのか。

 それを知っているからそれは友達たりえる。


「だからこそアース。俺は知ってる。お前がいかに気高い人間かを。お前がいかに優しい人間かを。お前がいかに強い人間かを。期待でもなんでもねえ。俺が実際に見て、そう心の底から思ったから言ってるんだ。」


 友人を信じるというのは、信じられるような人間だというのを知っているからだ。


「それでも、お前が全てを投げ出したいというのなら! 俺は何度でもぶん殴って止めてやる! それがお前の幸せって言うなら何度でもぶち壊してやるよ! お前にどれだけ非難されようが、それを見過ごす奴が良い奴なはずがねえ!」


 俺は知っているのだ。この短い期間ではあるが、このアースという人間を。


「……俺は、そんなに凄い人間じゃ、ない。」

「そうかい。だけどよく言うだろ、案外他の人の方がその人のことをよく見てるってな。」


 俺はアースの横を通り、この場を後にする。

 話したいことは全部話した。もういい。十分だとも。結局はこれも全部、俺がやりたかっただけだ。


「またな、アース。学園で会おうぜ。」


 そう言って俺はその場を後にした。

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