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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第十一章〜王子は誇りを胸へ〜

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35.敗走者二人

 光の扉を抜けて、俺は地面を転がる。受け身を取る気にはなれなかった。

 辺りを見渡すと周囲にはいくつもの木箱が積まれている屋内で、小さめの体育館ぐらいの広さだった。恐らくは何かの倉庫なのだろう。


「どうやら、少し遅かったみたいだな。」


 倉庫の中で声が響く。その美しく淡い金色の髪を見れば、直ぐに誰なのかは分かった。


「緑髪の女も護衛対象だったのだが、死んだか?」

「……死んでねーよ、あいつは。それより先ずは名乗れ。」

「そうだな。私だけが一方的に知っているのは不公平だ。」


 アースの言葉をその人は軽く受け流す。

 以前と変わらず顔には真っ白な仮面がついていた。その尊大で道徳心の欠片もない物言いも、彼女の出自を考えれば特に不快に思いもしない。

 会うのは天界から帰った時が最後だっただろう。期間はあまり空いていないはずだが、懐かしい感覚を抱いた。


「クラン『オリュンポス』に所属する冒険者、ディーテだ。今回はリラーティナの令嬢から護衛依頼を受けて来た。」


 アースもヒカリもディーテと会うのは確か初めてである。というのにアースはあの光の扉に入るのに迷わなかったのだから、肝が据わっている。


「あの、すみません。一つ聞きたいことがあるんです。」


 ヒカリが二人の会話に割って入る。とても不安げな顔だ。聞かなくても何を言うかは想像がついた。


「騎士の人たちは、どうなったんですか? どうして扉を抜けてきた人は、三人だけなんですか?」


 直接、俺はどうなったかは見ていない。だが最後のフランへと飛びかかった光景と、あの言葉から大体の察しはつく。

 あれ以上に遅れれば、扉の中に誰か入って来ていたかもしれない。フランが追ってきたならばこのまま全滅もあり得た。光の扉を閉じたディーテの判断は間違っていない。何より騎士たちはあの瞬間に覚悟を終えていた。これを悔いるのは、彼らの誇りに泥を塗る事だ。

 それでも、思わずにはいられない。俺がもっと強ければ、と。


 アースも苦い顔を浮かべていた。覚悟していたはずだ。王子である自分の命の価値を、アースはしっかりと理解している。

 それでも、理解していたとしても、素直に切り捨てられるほど機械的な人では決してないのだ。


「死んだ。私は依頼を確実に完遂する為に、彼らを見捨てた。以上だ。」


 ディーテは言葉を取り繕うことなくそう言った。

 その言葉は生きているかもという、そんな淡い期待を容赦なく壊した。誰もが分かっている答えであっても、特にヒカリは心を抉られる。

 6日間、ずっと旅を共にしていたのだ。情を抱くなという方が無理な話である。


「そう、ですか。」

「何を悔いる事がある。お前を守る事も彼らの職務であったはずだ。誰もが己のできる事を全うした。違うか?」


 ヒカリは返事をしない。俺から見ても、ヒカリは最善の行動をしていた。あれ以上を求めるのは酷だろう。ただ、責任感が人一倍強いからこそ、そう簡単にヒカリは物事を消化できない。


「それよりも今は目先の問題だ。話を進めるぞ。」


 現在、こちらの戦力は主には俺とディーテだけだ。それに対して相手の戦力はエルディナとフラン、そしてアグラードル領の住民とそこにいる猛者たち。正直言って戦力差は絶望的なまでに大きい。

 加えて戦闘力がほぼゼロに等しいアースを守らなくてはならない。


「私の光の門は距離が遠ければ遠いほど魔力を動かす上に、開くのに時間がかかる。だからこそ、ここはまだアグラードル領の中だ。それに逃げ出すこともできない。」

「……魔力を感知して人が集まるからか。」


 ディーテの話に俺は付け足すように言った。前回、群島に行った時もわざわざ人里離れた場所を選んでいたのはこれが理由であったはずだ。


「故に逃げ出すのなら陸路になる。時間はかかるが、確実に逃げる事ができると保証しよう。」


 全員の視線がアースへと向く。この場で決定権を持つのはアースだ。ディーテの策に乗るか否かもアースが決めることである。

 個人の意見を言うのなら、ディーテの言う通り逃げ出すのが最善であるとは思う。戦力的に勝てる保証もない戦いに挑むのではなく、騎士団を率いて確実に対処するのが良いはずだ。


「いや、それが一番まずいんだよ。」


 だが、アースは対極の意見を出した。


「この街の状況を俺様は正確に把握できてねーが、下手をすればも百万人以上が洗脳されている可能性だってある。ニレアは騎士団を派遣されれば確実に逃げる。そうなれば、俺様を探す為に取っておいた住民を生かしておく理由がない。全員に自殺の命令を出されればアグラードル領の被害は甚大になるし、フランとエルディナは手駒として連れて行かれる。」


 ああ、そうか。失念していた。あいつらの目的は王国を荒らして揺さぶる事だ。アースを殺すのは手段の一つに過ぎない。騎士団を差し向ければ、逃げるに違いないだろう。そうなればこっちには何も残らない。


「それは、第一王子であるお前の命より大切な物か?」

「今は大切じゃないだろうが、大局を見ればここでリスクを背負わなくちゃジリ貧だ。安全な策と最善の策ってのはちげーんだよ。」


 ディーテの意見をアースは軽くあしらう。だが、アース自身もあまり考えがまとまっていないのか、頭を右手で押さえながら考え込んでいた。

 この場で逃げるのは良くないと分かっていても、対応策が思いつかなければ机上の空論だ。

 様々な策が思いついては消えていく。どれも確実性に欠ける上に、致命的な欠点がある。半端な策ではフランとエルディナを相手取りながらニレアを倒すなんて不可能だ。


「――倉庫の中に誰か入った。」


 そんな思考をぶった切るように、ディーテは突然そう言った。俺は直ぐに臨戦態勢に入り、無題の魔法書を出す。


「数は二人、片方は帯剣している。」


 白い拳銃をディーテは生み出して右手に握る。

 取り敢えず倒してから考える。そいつが洗脳されているか否か、誰であるかもその後に分かれば十分だ。


「ディーテ、二人を任せた。行ってくる。」


 俺は体を風と変えて、倉庫の中を走る。直ぐにディーテの言っていた二人は見つかった。俺は二人を認識した瞬間に一瞬で距離を詰め、そして右手に魔法の準備を整える。

 選ぶのは拘束の魔法だ。取り敢えず、機動力を奪うのが先決である。


「――待った。」


 声と共に手が飛んでくる。風となっている俺の右腕が掴まれ、そしてやっとそこで二人の顔が見えた。


「待ってくれよ。まずは何をするにも挨拶をしてからだろ?」


 腕を掴んだ男の顔を俺は知っていた。


「いきなり手を出すなんて酷いんじゃあないかい。ぼかぁ、君に何か悪い事をしたっけ。」


 冗談交じりにその男が、アグラードル公爵家当主ユリウスが言った。となればもう一人は――


「アルス、かい?」


 第二王子であるスカイは、どこかホッとしたようだった。

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