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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第十一章〜王子は誇りを胸へ〜

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11.ヒカリの友人

 俺は大慌てで魔力の感知を広げながら、街の上空を体を雷に変えながら飛ぶ。

 屋敷の中に既にエルディナもヒカリもいなかった。しかしエルディナの魔力の痕跡はあった。長い間見ていなかったが、長い間競い合った好敵手の魔力だ。俺が見間違うはずもない。

 だからこそ、これはエルディナの単独の行為に違いない。それにいくらエルディナとはいえ、ヴェルザード領の外にまでは行かないだろう。


 だからといって、東京の二倍以上の面積であるヴェルザード領からあいつを探し出すのは普通に不可能に近いわけだが。


「落ち着け、アルス・ウァクラート。あいつが好きそうな所を考えろ。五年間も学園で一緒にいたんだ、分かるはず……」


 閉鎖的な空間を好む人ではない。だからこそ、屋内ではなく屋外にいるだろう。しかもヒカリを連れてとなれば行ける場所は限られるはずだ。

 総当たりをすれば百箇所以上を回る羽目になる。エルディナが一箇所に留まるはずがないし、それは避けたい。

 ここが学園のあったファルクラム領なら目処もついたが、ヴェルザード領の地理には俺は詳しくない。さて、どうするべきか。


「……この風、精霊か。」


 気持ちの良いそよ風が吹く。薄緑の光が俺の周りをホタルのように飛び回り始めた。

 精霊は存在できる場所が制限されている。風の精霊であれば、絶えず強い風が吹き続ける場所でなくてはその存在を維持できない。

 確かにここは上空ではあるが、だからといって風の精霊が常駐するとは思えない環境だ。つまり、この風の精霊をここに飛ばした奴がいるわけで。


「エルディナに言われて来たのか?」


 俺が精霊にそう問いかけると、そうだと言わんばかりに光を強める。

 どうやらあっちも俺を探していたらしい。それなら話は早い。さっさと合流してしまうとしよう。


「ありがとう、案内してくれ。」


 精霊は風の中で踊るように、一直線に進んでいく。俺もその後ろから体を風に変えて着いて行った。

 行き先は大聖堂の向かいにあるキュアノス湖のようだった。

 思いの外目立つところにいたようだ。これなら案外虱潰しで探しても見つかったかもしれないな。


「――あ、遅かったわね。」


 場所さえ分かれば辿り着くのは直ぐであった。

 ベンチにはふてぶてしく座るエルディナと、ちょこんと座るヒカリの二人がいる。どうやら楽しく雑談をしていたらしい。それはヒカリの表情が硬くないことから予想できた。

 しかし、そうだったとしてもエルディナに問い詰める権利が俺にはある。


「遅かったわね、じゃねえよエルディナ。勝手にヒカリを連れて飛んで行きやがって。」

「えーいいじゃない。明日には次の街に行くんだから、今日ぐらいはヒカリは私のものよ。」

「それならせめて断りを入れろって言ってるんだよ。」


 万が一の事もある。ほぼ確実にエルディナが連れて行ったという確信はあったが、もし人攫いにる犯行だったらと思うと心配せずにはいられなかった。


「それにヒカリもだ。連絡用の魔道具を持たせてるんだから、俺に一報ぐらい入れてくれ。」

「す、すみません。楽しくてつい……」


 これを良しとしてしまっては問題がある。こういうのが何度も続いて、慣れてしまえば本当の大事が起こった時に対応が遅れるかもしれない。

 特に最近は物騒だ。治安がいいグレゼリオン王国でも何が起こるか分からない。


「で、何でこんな事をしたんだ?」


 そこでやっと気になっていた話に移る。

 いくらエルディナでも初対面の人をこんな風に引っ張って連れ回すなんて中々しないはずだ。だからエルディナを探しながらもずっと何故だろうと思っていた。


「何でって、決まってるじゃない。私は――」

「ちょっと待ってください。二人って知り合いなんスか?」


 エルディナが話そうとした直前、ヒカリが割って入る。


「……エルディナ、そんな事も言わずに連れてきたのか?」

「だってヒカリと友達になるのに重要な話じゃないでしょ。」


 俺は呆れて溜息を吐く。こいつの一言省く癖は相変わらず直らないな。きっと直す気もないのだろう。

 そのくせ、自分では伝えた気で話すからタチが悪い。後々に齟齬ができるからやめておけと、俺やアースが何度言ったことか。


「この馬鹿は俺の友人だ。」

「馬鹿って言うな!」

「学園時代からの付き合いになる。アースとかティルーナと一緒だな。」


 猛犬のように俺を睨み付けるエルディナを無視して話を続ける。


「次期ヴェルザード家当主にして賢神の一人、それこそがエルディナ・フォン・ヴェルザードだ。」

「え゛」


 ギギギ、という擬音が聞こえそうなぐらいヒカリは重く首を回す。当然ながらこいつが次期公爵という事も知らなかったらしい。


「公爵家の、人、だったんです、か?」

「……そうよ。」

「とんだご無礼を! 申し訳ありません!」


 ヒカリは勢い良く頭を下げた。エルディナは慌ててそれを止める。


「やめてやめて! ほら、友達って言ったじゃない!」

「で、でも貴族の人に失礼をしたら首を斬られるって……」

「そんな事しないわよ!」


 千年ぐらい前の話だな、それは。不敬罪なんてものは一部のものを除いてほとんど撤廃されている。


「アルスも説得しなさいよ! 私は堅苦しいのが嫌いだって言ってあげて!」

「ヒカリ、仲良くしてやってくれ。寂しがり屋なんだ。」

「ちーがーう!」


 自業自得だ。いつも苦しめられている分、こういうところで苦しんでもらわなきゃ割に合わない。


「……友達ッスもんね。」

「そうよ、友達。あなたと私、気が合うと思うの。」


 実際、そうだと思う。性格の根本の部分が似ている。

 明るく社交的で、ちょっと抜けている。エルディナの場合はちょっとではなくかなり、だが。大まかに見れば似てると言えるだろう。

 特に異世界に来る前のヒカリはエルディナに近かった。こっちの世界に来てからは、色々と遠慮をしているみたいだしな。


「それじゃあ、あんまり遠慮はしないように、努力するッス。」

「そうこなくちゃ! また暇な時に王城に遊びに行くわね!」


 エルディナはヒカリを抱きしめて上機嫌そうに笑った。いくら公爵でもそんな気軽に登城できないはずなんだがな。またアースの不安の種が増えそうだ。


「じゃあ、屋敷に戻るぞ。」

「あら、見ないで帰るの?」

「見ないって何を……」


 何を見るのだろうと周囲を見渡す。そこで、大聖堂の前に人が集まっているのにやっと気が付いた。

 連鎖的に記憶が蘇る。そう言えば、アースが演説をするのはこの大聖堂の前だった。ここで話していたのは、アースの演説を聞くためだったのか。


「……なるほど。そう言うことか。」


 ベンチにはまだ空きがある。エルディナの隣に俺も座った。

 どちらにせよ護衛の任務があるし、ヒカリを連れて往復するのは手間だ。それならここで待った方が楽に違いない。


「アースがどんな事を話すか気になるの。凄かったって話だけ聞いているから。折角だから裏からじゃなくて、こうやって正面から見てみたくて。」


 演説が始まるまで一時間ほど。待つには長い時間であるが、三人もいれば話題は尽きないだろう。

 大聖堂と湖に囲まれながら、人々が集まっていく。王選は三日目、折り返しが近い所まで既にきていた。

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