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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
幕間~不穏なる影~

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二人の王子

 俺ことアルス・ウァクラートの身分は、仮にとはいえ国お抱えの賢神である。

 今回はヘルメスの依頼の同行であったが、流石に起こした出来事が大き過ぎた。報告書を書く義務があった。


「……なるほど、本当に大金星をあげたな。」


 俺の報告書を流し読みして、俺の上司、つまりは第一王子であるアースはそれを机の上に置いた。


「殆ど俺はいただけだがな。オラキュリアとシャヴディヴィーアが戦闘の要だったし、追い詰めたのはフラン、終わらせたのはヘルメスだ。むしろ、自分の不甲斐なさにびっくりしてる。」

「それでも、常人ならいるだけすらできないぜ。それに七つの欲望を倒したのは、勲章レベルの戦果だ。あの名も無き組織の幹部を、ようやく一つ潰したんだからな。」


 強敵を倒したのは理解している。だけど、俺の功績かと言われればピンとこない。

 むしろ表彰されるべきはヒカリだ。あの大一番で、最高の活躍をしてくれた。俺の役割は言ってしまえばアレだが、替えが利く。


「この一件は、詳細は暈されてはいるが、世界中に広まっているぜ。お前のファンもできるかもな。」


 アースは冗談めかしてそう言った。

 これだけ大規模なテロリストの幹部が一人死んだのだから、吉報である事に違いはない。新聞の一面を飾れる程の大ニュースだろう。俺も少し載っているものは見た。

 しかし、やはり大きく張り出されていたのは竜王であるオラキュリアの方だ。次点でデメテルさんやフランで、俺は更にその下となる。

 竜王、聖人、皇国のチャンピオン。その面々を通り越して一介の賢神に知名度があるはずもない。


「フィルラーナも喜ぶだろーぜ。」

「喜ぶか? そんなことできて当然って言われそうだけど。」


 そう言えば、お嬢様に会いに行かなくてはなるまい。近況報告も兼ねて、ティルーナがどうしてるかを知らせたい。

 だけどもお嬢様は忙しい。元々、領地運営を手伝うだけで相当に忙しいのに、加えて他の事もやっているからな。会って話をするだけでも難しかったりする。


「あと、ヒカリについての話なんだが――」

「兄上、いるかい?」


 アースの声を遮って、バタンという音と共に金髪の男が入ってきた。

 その男はアースとは対照的だった。金の髪と眼は同じだが、アースと違って温和そうな顔つきをしていて、立ち振る舞いまで物語でよく見るような王子像そのままだ。

 そして同時に納得もする。こいつが、アースの弟だ。確かにこんな弟がいれば、自信を失ってしまうのも無理はない。


「あれ、話の途中だったかな。」


 その男は部屋の中まで歩いてきて、そして見知らぬ人である俺の顔をよく見た。


「君が、アルス・ウァクラートだね。僕の名前はスカイ・フォン・グレゼリオン。この国の第二王子をやってる。」


 よろしく、とスカイは手を出した。俺はその手を握って握手をする。

 ちょっと手を触っただけで分かった。魔力の質が常人とは大違いだ。賢神には及ばないが、魔法使いとしてのレベルはかなり高い。


「俺のことを知っているのか?」

「勿論。あのウァクラートの血筋にして、兄上直属の賢神だ。知らないわけがないよ。最近も大活躍をしたらしいし。」


 適当な椅子を引っ張ってきて、スカイは座った。

 俺は王城に住み込んでいるのだが、こうやって第二王子に会うのは初めてである。というのも、俺が仕事で殆ど空けているのもそうだが、スカイは城外での活動が多いからだ。

 アースは皇太子である上に一部の諸侯からは嫌われている。城外での活動は安全の為に控えているらしい。


「それにほら、あの裁判の時の事もずっと謝りたかったんだ。」

「裁判……ああ、入学直後のアレか。」


 今が17歳だから、もう7年前の出来事だ。アースがリードル侯爵に謀られて、それを解決するために大立ち回りをした。

 もう記憶が薄れつつある出来事でもある。大変だった、という事しか覚えがない。


「僕は、あの時に何もできなかった。子供だったなんて言い訳にならない。僕が声を上げていたら、君があんな事をする必要もなかった。」


 そんな事を言われて、俺は首を傾げる。アースへと視線を向けると、こめかみを押さえがらため息を吐いていた。


「スカイ、図に乗るな。」

「え?」

「誰もお前なんかに期待してねーよ。それにアルスが、嫌でこれをやったわけねーよ。」


 アースの言葉に俺は頷く。

 俺はあの時、自分のエゴでアースを助けようとしたのだ。決してアースの為だとか、仕方ないとか、そんな感情はない。

 俺の自分勝手で、嫌がるアースを無理矢理ここまで引きずり出した。文句を言われることはあっても、謝られる謂れはない。


「前から言ってるだろ、阿呆が。人の責任は人の責任だ。お前が関わっていたからって、横から掻っ攫うな。お前一人でやれる事なんて高が知れてるんだよ。」


 痛いところを突かれた、という風な表情をスカイは浮かべた。


「……そうだね。兄上は次代の国王だし、僕が心配するのがお門違いか。」

「まだ俺様が王になると決まったわけじゃねーがな。それこそ俺が死ねば、王になるのはお前だ。」

「向いてないよ、僕には。何の目的もなく、ただ生きているだけだからね。」


 自嘲気味にスカイはそう言った。

 優秀な弟と聞いたのだが、随分と自己評価が低そうだ。人というか、自分を信用していないようにも見える。


「あ、そうだ。さっきアグラードル領から帰ってきたばっかりなんだけど、兄上に伝言があるんだよね。」


 さっきの暗い雰囲気とは違って、突然に明るく話し始めた。

 アグラードルと言えば、四大公爵の一つだ。確か最も西にある街で、ホルト皇国のように賭け試合が盛んだと聞いている。

 そんな街を管理するアグラードル公爵家も武家で、貴族であるというのに世界でも有数の武術の使い手であるらしい。


「誰からだ?」

「ユリウス(にい)だよ。最近は剣術の修行で忙しくて会えてなかったけど、今度会いに来るって。」


 アースの質問にスカイはそう答えた。


「ユリウスか……会いに来れるって事は、アグラードル家の次期公爵はユリウスに決まりか。」


 アグラードル公爵家の当主は、その家の中で最も強い者がなるという習わしがある。あまりにも珍妙なルールという事で有名だ。

 アースのその言い方から察するに、現当主をそのユリウスという人が倒したのだろう。


「それじゃあ僕は失礼するね。アルス、また時間がある時にでも話を聞かせてくれ。」


 そう言ってスカイは部屋を出て行った。

 まだ日が落ちるには早いし、きっと仕事が残っているのだろう。


「……行ったか。なら、話の続きをするぞ。」


 アースはスカイが立ち去ったのを確認して、そう話を切り出した。


「ヒカリの勇者の力が覚醒したらしいな。そんな事をする性格じゃねーのは見れば分かるが、念の為に敵にならないか見張っておいてくれ。」

「了解。どっちにしろ見てないと不安だから見張っておくよ。」


 最近の話から分かる事として、ヒカリは無茶をしたがるみたいだ。

 主人公みたいに覚醒していっている今は良いかもしれないが、いつまでそれが続くかも分からない。前の戦いだってずっと心配だったんだ。


「それじゃあヒカリのスキルの詳細についてなんだが――」

アルスの中の神を知る為に、一行はとある地へと向かう。

その地で幸せの在り方を問い続け、苦悩しながらも天使王の下へ向かっていく。アルスの中の神を制御する方法とは、そもそも天界とは如何なる場所か、天使王とはどんな存在なのか。

第十章『魔法使いと幸せの群島』


設定を詰め直すので少しお待ちください。

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