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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第九章〜剣士は遥かなる頂の最中に〜

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25.再起

「……暑苦しい。」


 フランは教会の天井を眺めながら、そう呟いた。おおよそ2日ぶりに目を覚ましたのだ。

 腕には点滴が繋がれていて、体には包帯が巻かれている。

 それをフランは何も言わずに剥がし始める。少し傷が開くがそんな事を構う様子はない。


「ふ、フランさん!?」


 近くにいた教会の人が目をギョッとさせて近付いてくる。

 フランは適当に剥がしたものを投げ捨てると、立ち上がった。そして近くに立てかけられている剣を手に取る。


「アルスは?」

「え、今朝方には出ていきましたけど……」

「そうか。」


 フランは近くの時計を見る。時間は十二時で、少しばかり起きるのが遅れたのを理解した。


「ちょ、ちょっと待ってください! 絶対安静なんですよ!」

「治った。」

「治ってないです!」


 静止を振り切り、病室をフランは出ていく。


「あ、そうか。」


 だけどその直前で、思い当たったように振り返る。

 戻ってくれるのかと、少しホッとした表情をその人は見せた。


「金なら後で払う。最悪、ジフェニルという男に請求しといてくれ。」

「そうじゃないですよっ!」


 フランは迷わず足を進めた。教会の人が追いかけようにも歩くのが速く、走っても振り切られてしまった。

 そしてフランは入口を入って直ぐそこの聖堂へと辿り着いた。


「……起きたのかフラン。」


 いくつも並んでいる長椅子の一つに、アルスが座っていた。


「他の人は?」

「ヘルメスはどっか行って、デメテルさんとヒカリは教会の仕事を手伝ってるってよ。」

「……ティルーナは?」


 フランのその疑問に、アルスは言葉を詰まらせる。


「連れて行かれた。カリティにな。」

「……そうか。」


 アルスの隣にフランは座る。

 二人とも目線は合わせることもなく、ただ前にある大きな神像をぼうっと眺めていた。


「すまん、抜かった。もっと冷静であれば俺が倒れることもなく、ヒカリも助けられた。」

「お互い様だ。俺だって落ち着いてればティルーナを連れて行かれずに済んだ。いくら謝っても足りない。」


 二人とも、そんな簡素な謝罪を述べる。責める意義はなかった。

 自分を一番責めて、呪っているのは他ならぬ自分自身であり、文句など言えるはずもない。

 いや、言う余裕がないという方が正しいかもしれない。


「……アレを、斬れるか?」


 アルスは尋ねた。誰がなんて言わなくても分かる。

 自分の剣へとフランは目線を落とし、そして何も言わずに目を瞑り考え込む。


「試してみなくては、わからん。俺は学問を志す者ではない。」


 ただ、と言葉を繋げる。


「機会があれば必ず両断するつもりで刃を振るう。足りないのなら、次に会うまでに斬れるようになってみせる。」


 事実、鎖すらも完全に破壊できなかったのだからカリティを斬れる可能性は低い。そんな事はフランもよく分かっていた。

 だが本能は別だ。アレを斬れと、一刀で両断してみせろと、フラン自身の本能はそう囁き続けていた。フランはまだ目覚めたばかり。あの時の失敗が、まるで数秒前の事のようにこびりついている。


「そうだな、お前はそうでなくちゃ。」


 自分の実力を過信するのは間違いである。修練を怠り、敵を舐めてかかればどんな戦も敗北の可能性は高まる。

 しかし戦っている時は、自分を最強だと思わなくてはならない。冷徹にできる事とできない事を仕分けながら、絶対に勝てる自信を持ち続けなくてはならない。

 心で勝ち続けなければ、最後の一手で致命的な敗北に繋がるのだ。


「俺はちょっと、一つ切り札を用意してくるよ。明日には出発するだろうから準備をしとけよ。」


 アルスは立ち上がって、この場を去った。

 出発というのはカリティを追う為にこの街を出るという事だろう。一体どうやって追いかけるのかは分からないが、フランはそんな事を考えようともしなかった。


「……師匠と、連絡を取らなければ。」


 思い立ったようにフランは立ち上がった。恐らくは剣の師に何らかの手段で連絡を取る為だろう。


 だが、そのフランを止めるように大きな腕がフランの肩を掴んだ。フランは何も言わずに顔を後ろへと向ける。

 そこにいたのは巨体の鬼人族、闘技場の元チャンピオンであるジフェニルだった。


「数日ぶりやな、フラン。」

「ジフェニルか。」

「お前が入院してるって話を聞いて、見舞いに来たんや。もう大事はないみたいやけどな。」


 そう言われてフランは自分の体を不思議そうに見る。

 今まで気が回らなかったようだが、本来なら生きているはずのない重傷をあの時に負っている。何故治っているのか、なんていうのは当然の疑問だ。


「……弟の墓参りは終わったのか?」


 しかし気にしていても仕方ないと割り切ったのか、フランはそう尋ねた。


「勿論。それが終わって、ちょっと約束事があるからぶらぶらしとる。」

「それなら頼みがある。俺が傷を負った理由は知っているか?」

「ああ、確か名も無き組織の幹部やったっけ。」

「協力をしてくれ。俺たちはどうしても、あいつを倒さなくてはならない理由がある。」


 フランは真っ直ぐ、ジフェニルの目を見据えた。対してジフェニルは少し申し訳なさそうに、辛い表情を浮かべる。


「すまん、協力はできん。この王都にある用事が終わればできるんやが、その後の拘束時間も長いからな。多分、間に合わん。」


 ジフェニルは正義の味方でも何でもない。いくら生まれ故郷であるとは言え、命を棒に振る可能性が高い事を簡単に了承するはずもない。


「そうか。無理な事を言ってすまない。」

「いや、気にせんでくれ。オイラだって事情がなければ頷いた。」


 一瞬、その事情とやらについてフランは尋ねようかと思ったがやめる。流石に個人の事情に割って入ってはいけないと、それぐらいの良識をフランは持ち合わせていた。

 ジフェニルは懐からリンゴを取り出して、フランへと放り投げた。


「それは見舞い品や。簡単に死ぬなよ。」

「言われずとも。」


 フランはそのリンゴを掴む。この場から去ろうとしたジフェニルが、その直前に振り返って口を開いた。


「なあ、フラン。もしも、もしもやで。お前の仲間が誰かに殺されたのなら、お前はどうする?」


 突拍子もない質問だった。しかしその理由をフランは聞かず、取り敢えず自分ならどうするかを想像した。


「……何があろうと、一度斬る。話はそれからだ。」

「そうか、俺も同じや。」


 そう言って今度こそジフェニルは教会を去った。

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