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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
幕間〜日常の最中〜

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王子の苦悩

 グレゼリオン王国、第一王子の朝は早い。

 世界最大の国として英才教育を受け、17もの歳になれば国内外の政治に関わり、そして皇太子として国王になる準備を始める頃であった。

 特に今は第二王子派を相手する中であり、隙を晒せばそれを徹底的に非難してくる事は明らかであった。故に朝は趣味や休息に費やせる時間として重宝していた。


「……ねむ。」


 アースは自分だけがいる部屋で紅茶を一人飲んでいた。起きたばかりで着替えもまだであり、少し寝ぐせもある。

 そろそろ着替えようとアースが思い立つ頃、ノックの音が鳴った。


「誰だ?」

「僕だよ僕。スカイだよ。」

「……入れ。」


 そしてこの瞬間、平和な朝は音を立てて崩れた。アースは頭をかいて、大きなため息を吐く。

 アースの弟であるスカイは、遠慮も無く部屋に入ってくる。その顔は実に楽しそうであり、それが余計にアースのやる気を奪った。


「何で来た。何故来た。帰れ。」

「いやいや、ちょっと待ってよ。まだ僕は何も言ってないだろ。」

「どうせ面倒事だ。俺様が忙しいのを知ってるくせして、わざわざ来たんだからな。クソ、自分の頭の良さが恨めしい。内容まで何となく予想ができる。」

「いやあ、じゃあ説明する必要はないかな?」

「一応説明しろ。億が一に間違っている可能性がある。」


 アースは背もたれにもたれかかって、天井を仰ぎ見る。


「僕はずっと王は兄上でいいって言ってるんだけど、第一学園で僕の名前を旗印にして、貴族を集めて抗議をしようとか言い始めてて、全員にやるなって言ってるんだけど止まらないんだよね。僕が遠慮してるとか言ってさ。」

「やっぱりそーかよ。無視しても影響はねーが、念には念を入れねーとな。」


 この時点で、朝の時間はその対応をする時間へと切り替わった。






 対応策を講じ、予定を立てた後、朝食を食べてこれから本格的な職務へと移ろうというタイミングである。


「邪魔するわよ。」


 公爵令嬢フィルラーナがやって来た。ノックもなく不躾であるが、それを咎める元気はアースになかった。

 アースは大きく溜息を吐き、ジト目でフィルラーナを睨みつける。


「お願いがあって来たの。」

「俺様の、この嫌そうな顔が見えねーのか?」

「見えないわ。」


 アースの言葉はキッパリと切り捨てられる。フィルラーナはアースが座る椅子の側へ寄って、一枚の書状を置いた。


「いつも通り、ここに書いてあるものを探してもらいたいの。」

「……人器を集めて来いとか、シンス・ヴィヴァーナの遺物を探してこいだとか。今度は一体何だ。俺様はパシリじゃないぞ。」

「私はいつだって命令はしていない。お願いをしてるの。」


 アースの頭の良さは合理的だ。どんな状況でも対応できるようにし、確実に利益を得られるところで上げていく。ローリスクローリターンを積み重ねるやり方。

 しかしフィルラーナの頭の良さは理想的だ。未来を見えているんじゃないかと疑うほどの緻密な未来予測により、その状況に特化した戦略を前々から用意しておく。失敗の時の痛手が強いハイリスクハイリターンのやり方だ。


 それをフィルラーナが続けられるのは確実に予測を当てられるからである。

 つまりは、それが無くては被害が大きい出来事が起きるという脅迫をアースに突きつけているのだ。これを次期国王としてアースは無視できない。


「せめて、使用用途ぐらい教えて欲しいもんだぜ。」

「嫌よ、面倒くさい。」

「はいはい、んで今度は何だ。聖剣か、神の子か、それとも三大兵器か?」


 そう言いながらアースは裏になっている紙をめくる。そして紙に書かれている内容を見て、そして大きく溜息を吐いた。


「こんなん何に使うんだよ。めんどくせーな。」

「いずれ、あなたが喉から手が出るほど欲しがるものよ。」

「何の根拠があって?」

「私の頭が全ての根拠。それじゃ足りないかしら?」


 そんなの根拠になるはずがない、という言葉を飲み込んで、アースは更に大きく溜息を吐く。

 目の前の女性だけには、それが成り立つのだと知っているからだ。


「……いいぜ。元より断る気なんてねーし、今までに比べれば簡単な方だ。どこに届けりゃーいい。」

「あなたが肌身離さず持っておきなさい。」

「俺が使うのか、これ。嫌なんだけど。」

「良いから持っていなさい。私の忠告が間違ったことがあった?」


 そう言って返事を待たずして、フィルラーナは出ていく。答えなんか、彼女には必要なかった。

 幼馴染であるのにも関わらず、フィルラーナの見える景色が、欠片もアースは理解ができなかった。


「えーと……何、これ海底に沈んでるのか?クソ怠いなこんちくしょう。」


 それはそれとて、アースの面倒事は一つ増えた。






「会いに、来たわよ!」


 ドアを蹴破り、賊と見間違えん勢いで、一人の少女が転がり込む。

 こんな暴挙が許されるのは、彼女とアースが幼馴染で、尚且彼女が公爵令嬢というか次期公爵であるからに他ならない。


「今日は休みなの!」

「……そうか、俺様は仕事だ。」

「どうせ今、昼休憩でしょう?」

「……そうか、俺様は食事中だ。」


 自室で飯を食べていたアースは食器を置き、溜息を吐く。


「私と会うたびに溜息を吐いてるわね。」

「ああ、最近じゃ癖になってきた。」

「幸せが逃げるわよ。」

「逃したのはお前だ。俺様じゃない。」


 テンションの低いアースとは対照的に、エルディナのテンションは高かった。

 一応はエルディナも忙しく、こうした数少ない休みを楽しみにしているのだ。こうやって来たのも、初めてではない。


「……言ったよな、俺様。遊びたいのはいいが、事前に連絡をしろって。お前は次期公爵として何を学んでるんだ?」

「忘れてたわ!」

「清々しいな!少しは悪びれろ!」


 エルディナは部屋の中の椅子を引っ張り、アースの対面に座る。


「まあ、忙しいならいいわ。アルスはどこにいるの?」

「適当な使用人に聞け。案内してくれるぜ。」

「分かったわ。それじゃあ、ちょっとアルスに会いに行ってくる。」


 座ったばっかりなのに、エルディナは勢いよく立ち上がる。

 そして、ついでと言わんばかりに魔法で木の食器を作り、メインの肉料理を一口食べた。というか最後の一切れを食べた。


「おいおま、お前ふざけんな。」

「ごちそうさま!美味しかったわ!」

「は、ちょっと待て、はあ!?食い逃げしてんじゃねえよ!」


 エルディナは振り返らずに、今にもスキップでも始めそうなぐらいのテンションで出ていった。

 追いかけようにも職務が残っていてそれはできない。鬼ごっこをしてやる暇はない。


「ふざけんな、エルディナァ!」


 ただ食の恨みだけが、アースの中に残った。






 昼間から夕方にかけてアースの職務は続き、やっと一日が終わりに近付いてきた。残りの職務は殆ど無く、ようやっと心が落ち着き始める時間帯であった。


「……いつから扉がなくなったんだ、この部屋は。」

「昼からだ。明日には戻っているから気にするな。」

「王子の部屋がそれでいいのか。」

「駄目に決まってんだろ。頼むからエルディナには首輪をつけといてくれ。」

「俺じゃ無理だ。今日も喋るだけ喋り倒して勝手に帰っていった。」


 そう言えばと、エルディナがアルスの所へ行くと言っていた事をアースは思い出す。

 そして同時に、初めて会ったヒカリと一悶着あっただろうことも予測が済んだ。


「それで、何のようだ。」

「いや、やっと正式な報告書をまとめ終えたから、それを出しに。」

「あーなるほど。オルゼイの一件か。」


 アルスは書類を机の上に置く。紙としては5枚程で、そこに何があったかなどが事細かに書かれている。

 アルスの顔には疲労の色があり、未だに報告書に慣れていないというのも分かった。


「ありがとよ、後で読んでおくぜ。」

「それじゃあ、俺は寝るから。また依頼が来たら教えてくれ。今度は極力国内で。」


 深く会話はせず、アルスは出ていく。それを見届けた後に、アースはその書類に目を落とした。

 アースは大筋の流れは知っているが細かい内容は知らない。そのせいか、この報告書を少し楽しみにしていた。


 ――その後、報告書を見たアースの頭痛が酷くなったらしい。

大体学園を卒業してから一年半ぐらい経ったぐらいが、現在の時間。まあ、そこまで重要ではない。

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