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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第一章〜魔法使い見習いは夢想する〜
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6.公爵令嬢

 突然だが君はフラグというものを知っているだろうか。

 英語で旗を意味するflagを語源とするコンピュター用語であるはずだったのだが、何故かネット中に広まって、果てには割と認知度の高い言葉になったあのフラグだ。

 フラグというのは、自分の都合の良い方に想像したらその逆の方に進んでしまう事を指す。

 『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ。』→《突然の死》みたいな感じで。

 だから自分にとって都合のいい話は口にしないに限る。口は災いの元と昔の人も言っているのだ。


「流石はリラーティナ家の令嬢様だね。本当にお美しい。」

「いえいえ、そんなことは。」


 そう、もう二度と会わないと言っていなければ、本当に会う事はなかったかもしれない。

 護衛依頼の日。意気揚々と集合場所である門隣の倉庫に来たら、そこにはあの少女がいたのだ。

 あの血を連想させるほどの暗い赤の髪と、異様に引き込まれる美しい相貌。間違いなくあの少女だ。見間違えるはずがない。


「本心だとも。僕はあなた以上に美しい人を見た事がない。」

「……出会った女性全員に言っている癖して何を言う。その顔面を穴だらけにして欲しいなら早く言え。」

「やだなあ、アルテミス。僕だって人は選ぶさ。明らかなデブとブスには言わない。」

「だからクズだと言っているのだ、痴れ者が。恥を知れ。」


 アルテミスさんとヘルメスがそう話している中、俺はずっと微妙な顔をしていた。笑うのも違う。無視するのも違う。というか見られてるから無視できない。

 なんで俺の方を見てくるんだよ。あっち見ろよ。見応え抜群だぞ。下手な道化師より道化師な男がそこにいるんだからな。


「そろそろ、自己紹介をしましょう。」


 二人の会話に割って入るようにして手を叩く音が響いた。

 ヘルメスは笑いながら指で令嬢を指して、アルテミスは大きくため息を吐いて令嬢に向き直る。


「それでは私から。私はフィルラーナ・フォン・リラーティナ。一応、家からも騎士が出るのですが基本的に進行はそちらに任せます。行き先はファルクラム領であり、報酬は到着時にお支払い致します。ここから数日の間、護衛を宜しく頼みますね。」


 令嬢、フィルラーナ様の後ろには二人の騎士がいた。鎧を着込んではいないが、何か紋章をつけられたしっかりとした服を着ている。魔力を感じることからそういうマジックアイテムと見ていいはずだ。

 二人とも女性なのは恐らく性別的に考慮したのだろう。


「そちらの騎士さんは名乗らないのかい?」

「ええ。失礼な話かもしれませんが、うちの騎士の名前は信用していない人間に教えられません。」

「そうかい。なら仕方がないね。次は僕が名乗ろう。オリュンポス所属のヘルメスというものだ。雑務は基本的に僕が引き受けよう。大得意だからね。」


 雑務が得意な冒険者って、それは誇れることなのだろうか。


「アルテミスだ。作法は知らんが、依頼は完遂するので安心しろ。」

「もっとなんか言うことないのかよ。薄っぺらいぜ、胸と一緒だ。」

「よし、貴様の頭をもぐこととしよう。」


 アルテミスはヘルメスの頭を掴み、引きずって行く。

 痛いと叫びながら引きずられていくヘルメスを尻目に、俺はフィルラーナ様に向き直る。


「それで、貴方の名前は?」

「……え、ああ。私はアルス・ウァクラートです。オリュンポスの一員ではありませんが、今回の護衛に同行させて頂きます。」

「どうしたの? 前会った時とは随分と口調が違うじゃない。」


 笑顔が引きつる。

 もうやだ、こいつ怖い。人の考えを全て見透かしていそうなこの感じが、物凄く怖い。


「……仕組んだので?」

「ええ、そうとも言えるわね。」


 何がそうとも言える、だ。

 公爵令嬢なんていう立場の人間がたまたま路地裏で襲われてて、それでたまたまそれを俺だけが見つけるなんて偶然があるものか。


「オリュンポスほどの大規模クランならまだしも、貴方を護衛として連れて行くのには少し懸念があった。だからわざわざ変態に襲われて一芝居打ったというわけよ。ああ、あの男は本当の変態だったけども。」

「随分と危険な事をしますね。俺がそのまま貴方を殺していたらどうするおつもりだったので?」

「その時は、運が悪かったと割り切るわ。貴方も魔法学園に通うそうじゃない。折角だから面白そうな玩具を連れて行けば楽しくなるというものでしょう。そのための必要な危険だったわ。」


 ……いくら可能性があったという話をしても、最終的には結果が全てだ。

 恐らくは目に自信があったのだろう。人の善悪を見抜く目に。事実俺は、この人に心の奥底を見抜かれているような感覚がある。


「まあ、今はそんな事はどうでもいいわ。」

「私にとっては結構大切なんですがね。」

「貴族としての当然の権利を行使したまでよ。貴方がどうとか関係ない。」

「酷い。」


 権力者は怖いな。武力とか関係なく社会的に殺せる権利があるからな、貴族は。

 特に貴族の最高位である公爵家クラスになれば逆らえば死も同然というもの。その娘であって、実権を握ってなくてもそれは変わりない。


「あなた、シルード大陸の出身よね?」

「そうですが。」

「なら、旅の途中で貴方の話を聞かせなさい。『無法の地』の事は興味があるわ。」

「……話したくないんですけど。」

「もちろん拒否権なんてないから。恨むなら護衛依頼に同行する事を選んだ自分を恨みなさい。」


 何が嫌で母親をぶっ殺された話などせにゃならんのだ、クソが。

 ああ、だがいい。それも少しの辛抱だ。どちらにせよあっちに着いたら距離を取ればいい。同じ学園に通うことになったとしても、別に全員と関わる必要などないのだから。


「それじゃあ、そろそろ行くわよ。中々、楽しそうな旅になりそうじゃない。」

「……そっすか。」


 フィルラーナ様はそう言って笑みを浮かべた。

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