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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第六章〜自分だけの道を〜

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13.ガレウの罪

 少し申し訳ない気分をしながらも、先生達への説明はケラケルウスに頼む事にした。というよりも、あっちから買って出てくれた。

 だから俺はこうして、ガレウと一対一で会話が出来る。


「凄い人と知り合いなんだね、アルス。」

「一回会った切りだけどな。グラデリメロスを追う途中に偶然会ったもんだから。」


 俺一人じゃ絶対にグラデリメロスに殺されていたし、ガレウも死んでいただろう。

 いつもの事ながら、俺のこういう悪運だけは良い。不幸中の幸い、と言えば聞こえはいいが、不幸などそもそも起こらないに越した事はないのだがな。


「元々、俺にも頼み事があったみたいだし、交換条件にも近いけどな。」

「……遅れてしまったけど、ありがとう。あのままじゃ死んでたから。」

「助けるのは当然だ。例えガレウじゃなかったとしても、俺は助けに行ってたと思うぜ。判断は鈍ったかもしれないけどな。」


 今日の空模様は微妙だ。月も雲に隠れて見えやしないし、気分も悪いままだ。

 アルドール先生の別荘の、その裏庭は星がよく見えると言っていたのだが、結局二夜続けては見る事はできなかった。

 昨日、ティルーナと話した時は雲一つありはしなかったのに。


「僕は、本当に良い友人に恵まれたよ。」


 俺達は目を合わせはしない。目を見て、隠し事を話すのは辛いもんだ。俺は別にガレウを責めているわけではないから、わざわざ目を合わせるつもりはない。

 ただ声色と、今までの思い出から、なんとなく想いは伝わる。

 俺はそれでいい。ガレウの強さを、俺は知っている。目立ちこそしなかったが、ガレウにはその歳にしては異様にハッキリした『我』がある。


「だからここでしっかりと、本当の事を話しておきたい。いや、もっと早く話すべきではあったんだ。甘えて、先延ばしにせずに。」


 ガレウは普通の、優しい人間だ。だが逆に言えば、あんな人間に囲まれても普通でいられるという点で、ガレウは普通じゃない。

 よくよく思えば、俺は五年間もガレウといたのに、ガレウの事を知らなさ過ぎた。


「僕は孤児院の出身なんだよ。親は物心ついた頃にはいなかっけど、捨てられた理由はなんとなく分かってたんだ。」

「それがまさか……」

「そう、七つの大罪なんだ。僕は生まれながらにして、暴食の罪を持っていた。」


 いくつか疑問はあるが、取り敢えず押し込んで、黙って話を聞く。


「普通、七つの大罪系のスキルは、悪徳と言われる行いが重なった結果発現するものだ。傲慢な人が、傲慢(スペルビア)を獲得するようにね。だけど僕は違った。何故か生まれた頃から持ってたんだ、暴食(グラ)を。」


 それが本当だとしたら奇妙を通り越しておかしい話だ。何故ならそれは、スキルを扱う神の方が間違えた、と言う他ない。

 確かに地球にて広がる神話では、間抜けというか、人間味溢れる神はかなりいる。

 だがそう間違えるものだろうか。七つの悪徳、怠惰、傲慢、暴食、嫉妬、色欲、強欲、憤怒。そのどれかを極めた者に与えられるものだ。間違いなく人からの評価は悪くなる。

 そんな大き過ぎるミスを、神がしたのだろうか。


「幸いにも、僕を育ててくれた孤児院は、僕が大罪のスキルを持つことを気にしなかった。だけどこのスキルのせいで、教会には近付けなくなっちゃったけどね。」


 教会というのは全世界で活動する医療組織でもある。その教会に行けないという事は、病院に行けないのと等しい。

 どんな病気にかかろうと、死にかけになろうとも、頼れる場所がないという事なのだ。


「それからは、まあ知っての通りさ。取り敢えず生きていく力が欲しくて、学園に入った。働き先も見つけられたけど、もうこの国にいるのは難しそうだ。」

「……そうだな。グラデリメロスは絶対に、この街に何度も来るだろうし。」

「アルスが一年も猶予を作ってくれたし、その間にまた、安定した仕事に就いてみせるさ。」


 これは、どうしようもない事だ。やるせない、社会の理不尽だ。

 何故、ただ普通に生きているガレウが、ここまで苦しまなければならないのだろう。何故ガレウが妥協をする必要があるのだろう。

 しかし差別は、簡単に消えてなくなりはしない。あの教会が後押しをしているのだから、これに抗うのは一国と対峙するのと同義だ。

 負けが見えてる戦いに挑むのは蛮勇だ。戦う意味すらない。


「気分が、悪いな。」


 ただただ、気持ちが悪い。挑んでもどうにもならない問題というのは、言いようのない、粘着質な気持ち悪さがつきまとう。

 何かできないかと考えても、それは他ならぬ自分自身によって否定されていく。

 こんな時、才のない自分の頭が恨めしい。もし天才であるのなら、俺のかつての悪友である神楽坂なら、もしかしたら妙案を思いつけたのかもしれない。

 しかしこの場において、あいつはいない。


「まあ、もう諦めている事だよ。アルスが気にすることじゃない。」

「いや……ああ、一度、アルドール先生に相談してみるのもいいかもな。先生なら無下にすることはないだろうし。」


 それでも、俺は俺のできる事がしたい。


「どこの国に行くつもりなんだ?」

「うーん……ヴァルバーン連合王国か、もしくはグレゼリオン王国に戻るかって感じだね。」


 ヴァルバーン連合王国はここ、ロギアと同じ大陸にある大国だ。ここから近い方だし、寄ったとしてもさして問題はないはずだ。

 賢神になれば直ぐにグレゼリオン王国に戻れとアースに言われていたが、少しならあいつも気にしまい。


「なら、俺と一緒に行こうぜ。ヴァルバーンも、少しは見ておきたかったんだ。」


 一応、本音だ。ヴァルバーン連合王国は、形態としてはイギリスに近い国と聞いている。前々から行ってみたかった。


「……気を使わなくてもいいよ。」

「いや、違う。親友と一緒に、もう少し旅がしたいだけだ。ただの我儘だよ。」


 元々このまま旅が終わるのは口惜しいと感じていた。

 ちょっとした寄り道でそれを延ばせるのなら、それでいい。それがきっといい。

 俺は立ち上がり、ガレウの前に立ち、手を差し出す。


「だから行こうぜ、ガレウ。」


 俺は黙して返事を待つ。ガレウは少し悩むような仕草を見せて、最終的には俺の手を取り、立ち上がる。


「なら、お言葉に甘えさてもらうよ。他ならぬ、親友の我儘だ。」

「よし来た。なら、旅は延長だ。」


 例えガレウが大罪人だったとしても、それ以前に俺とガレウは親友だ。

 絶対に、それは覆りはしない。

 親友は互いに助け合って、成長し合えるものだと、俺は思う。


「じゃあ、戻ろうぜ。これ以上ケラケルウスに任せるのは気が引ける。」


 俺達は、別荘の中へと戻っていった。月は未だに陰る。

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