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幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜  作者: 霊鬼
第六章〜自分だけの道を〜

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11.大罪の一つ

「久方ぶりだ。大罪人との闘争は、ここ十年ありはしなかった。」


 手に持つ柄のない光の剣を、こすり合わせながらグラデリメロスはガレウへと近付く。

 対するガレウは逃げれないことを悟ったのか、活路を見出したのか。その場に立ち止まり、グラデリメロスの姿をしっかりとその目で捉える。


「僕が、大罪人?」

「如何にも。七つの原罪を背負し大罪人であり、他人を犠牲にしてでしか生きられぬ、我らが神の敵。それがお前らであろう?」


 教会の教義は、正義である。教会が唱える正義とは、他者を慈しむ事にして、他者を虐げる者を討ち滅ぼすこと。

 その最たる悪として七つの大罪が存在する。

 それは七つの大罪と呼ばれるスキル保持者が、街を滅ぼすという事件を幾度も起こしているという事が大きい。


「……教会だっていうのに、随分と差別的だね。」


 ただ、それは差別思考として禁忌されているものだ。危険である事には変わりないが、中には人間社会に溶け込める者もいる。

 それでも、教会は七つの大罪を悪と断じる。それを見過ごして出た犠牲者は、億を越えるのだから。


「より多くの人類が救いを得る為なら、我々は悪と言われても構いはしない。全体幸福ではなく、最大幸福が我々教会の理想だ。」

「だから僕も、まだ何もしていない僕を殺すのかい。」

「何かした後では、遅過ぎる。それに今は、教会も忙しい。」


 それまでの問答を押し切るようにして、グラデリメロスは闘気と魔力を溢れ出させる。


「話はこれで終わりだ。」


 ガレウの前で立ち止まり、グラデリメロスはそう言った。ぶらりと両手を脱力させて下げ、その手に持つ光の剣は既に届く範囲に入っている。

 しかし、それでも尚、冷静にガレウはグラデリメロスと目を合わせてそこに立っている。


「最も猟奇的で、最悪な死を遂げろ。クソったれな大罪人がッ!」


 グラデリメロスは大振りで剣を振るう。それをガレウはしゃがみ込んで避け、その光の剣を右手で掴む。


「『暴食(グラ)』」


 そう一言、ポツリと呟いた瞬間に、光の剣はガレウの右手に吸い込まれる。否、正確に言うなら飲み込まれる。

 グラデリメロスは大きく後ろに下がり、失った光の剣を再び構成させた。


「ハァハハハ! やはりまだ覚醒はしていないか! 良いタイミングで出会った!」

「引いてくれないんだね。僕はまだ、死にたくないんだけど。」

「いいや、絶対に殺す。その戦いへの嗅覚は、間違いなく後々教会の大きな敵となる。」


 グラデリメロスの周りをいくつもの光の粒子が飛び交い、無数の柄のない剣が生み出され、その全てがガレウの方へと向いた。


「『神罰執行』」

「……クソッ!」


 そして、その全てが同時に放たれた。その全てを回避するにしても、撃墜させるにしても、ガレウの力では決して届かない。

 そして一発でも当たりさえすれば、ガレウの負けが確定する。

 冠位にも至る魔法使いが、ただ頑丈なだけの光の剣を使いはしない。その程度の魔法使いは、冠位には届き得ない。


「食らい尽くせッ!」


 しかし、それはガレウがただの魔法使いであれば、という前提条件が加わる。

 ガレウの目の前に突然と黒い球体が現れた。直径二メートルはあろう大きな球体で、何より大きな特徴として、その球体には巨大な口がついていた。

 口と言っても唇はなく、ファミコン時代のパックマンのような見た目に、黒い歯がついたような姿をしている。


 そして何より、それは一つではなかった。

 複数の黒い球体は、迫りくる光の剣を瞬く間に食らい尽くしていく。音もなく、その攻撃をガレウは防ぎ切った。


「くだらん。」

「ッ!」


 しかしその全てを光の剣で切り裂き、串刺しにし、グラデリメロスはガレウへと接近する。

 そしてガレウが距離を取ろうと後ろに下がろうとした瞬間に、その太腿に光の剣が突き刺され倒れ込む。気付けば黒い球体は全て霧散して消え去り、暗闇に佇むグラデリメロスだけが残った。

 ガレウの太腿からは当然ながら血が流れ出て、とてもじゃないが、逃げるにはハンデが大き過ぎる。


「もう終わりか、大罪人。」


 光の剣を適当に振り回しながら、グラデリメロスは再度ガレウへと距離を詰める。

 グラデリメロスは未だに、その実力を十全に発揮してはいない。グラデリメロスにとってこの攻防は、遊戯にすらならない茶番であった。


「……まだだ。まだだよ。」

「どうした。気でも狂ったか。」

「いいや、気は確かだ。だけど、僕は生き残ってみせるとも。僕にはここで死ねない理由がある。」


 太腿に突き刺さる光の剣を握り、ガレウはそれを喰らう。


「僕は絶対に勝てないけど、逃げ切るぐらいはさせてもらうさ。」

「同感だ!」


 立ち上がるガレウの横を、稲妻が通り過ぎる。その雷は、鋭くグラデリメロスの顔へ蹴りを入れる。

 雷は人の体を取り戻し、ガレウとグラデリメロスの間に立つ。その右手には古びた一冊の本があり、闇の中でその白い髪はよく目立った。


「遅くなってすまねえな、ガレウ。」

「……ごめん、助かる。」

「謝る必要はねえよ。友達だろうが。」


 新たな賢神、最強の魔法使いの血族ウァクラートの一人。アルス・ウァクラートがここに現れた。

 流石にここにアルスが来たことは予想外だったのか、グラデリメロスは傷こそないものの、動きを止めてしまう。


「それより、逃げ切れたら後で説明してくれよ。」

「それは、絶対に。」


 ガレウは簡単な回復魔法で太腿の血を止め、アルスの後ろに移動する。


「グラデリメロス。お前、猫かぶってやがったな。」

「違うな。これは公私の切り替えだ。私は今、神の炎としてここにいる。炎は相手を燃やすものだ。礼儀は語る必要はない。」

「そうかよ、最悪だな。」


 アルスが加わりはしたが、状況は未だに不利である事に変わりはない。それほどまでに冠位の称号は重く、グラデリメロスの戦闘能力は異次元の高みに存在する。


「そこをどけ、アルス。死にたくないならな。」

「断る。親友を殺させる奴が、世界のどこにいるんだよ。」


 深い問答を重ねる気は、グラデリメロスにはなかった。アルスのその言葉を聞いた瞬間、グラデリメロスは地面を蹴り、アルス達へと迫った。


「『焔鳥』」


 だが、ただやられるほどアルスも弱くはない。

 炎の翼を広げ、焔の鳥となりてグラデリメロスを正面から向かい打つ。グラデリメロスは光の剣を突き刺すが、それを焔は溶かし尽くす。


「『鳥籠』」


 そして接近したグラデリメロスを焔は締め付け、燃やし尽くさんと火力が増す。

 しかし一向にグラデリメロスが苦しむ様子も、服すら焦げる事もない。そしてまるで何事もないように、話し始めた。


「私のスキル『神罰執行』は光の物体を自在に生み出す事ができる。それは、簡単に燃やし尽くせるものではない。」


 アルスの体内の中、ついさっき二つの剣が刺さった部分が光る。

 溶かし切れなかったのだと、アルスが気付いた瞬間にはもう遅い。その光は必殺となりて牙をむく。


「ただの魔法ではな。」


 体の内側から光が剣となり、内側から食い荒らす。ダメージの大きさに姿を維持できず、アルスは元の状態に戻ってしまった。


「アルスッ!」

「安心しろ。殺すようにはしていない。私が殺すのは、大罪人だけだ。」


 グラデリメロスは大きく光の剣を振りかぶる。今度こそ避けることはできない。ガレウが死を確信してその目を閉じた瞬間――


 ――聞こえたのは、剣が弾かれる音であった。


 その瞬間に体に光の剣が残りながらも、アルスはガレウの体を抱えて、そのままグラデリメロスと大きく距離を取った。

 グラデリメロスの前に立っている者は一人だけ。


「現代の教会は、随分と厄介になったみたいだな。」


 かつて七つの欲望の一人、カリティを退けた古代の騎士。その実力は、たった今、現代でも見劣りすることはない。


「オルゼイ帝国第一騎士団団長、ケラケルウス。かつての恩義の下、参上した。」

自分の脳内を出力できない自分の文才が恨めしい。

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