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お題シリーズ

勇者に惚れてしまった

作者: リィズ・ブランディシュカ



 魔王というと、残虐非道というイメージがついてまわる。


 それは紛れもない事実だ。

 どうする事もできない。


 目指している、目指していないに関わらず、魔王の後継者にはそういったイメージがついてまわるのだ。


 当然、魔王である俺は、敵を殺すし、場合によっては味方も殺す。


 だから、そんなイメージが代々の魔王につき続けるのは、ある意味打倒な事だったのだろう。


 しかし、だからといって我々は必要以上の犠牲を出すことはしない。


 俺達の悲願は、世界の統一。


 世界をただ一色に染め上げるだけなのだから。


 けれど、恨みを買い過ぎたら、命を狙われる確率が高くなるし、領地の統治にも響く。


 だからバランスとりが必要だ。


 俺達は無用な殺生はしない。


 勇者が抱いている血も涙もない残虐な魔王というのは、ある意味的外れなものだった。


 そんな中で、領地の統治と、血気盛んな魔族達のいざこざの解決など、多くのやるべき事に追われていると、一人の女が魔王城を尋ねてきた。


 本人は魔族だというが、俺は一目でわかった。


 そいつは人間、そして勇者だった。


 おおかた、弱点をさぐるために、潜り込みに来たのだろう。


 忙しさに忙殺されていた俺は、逆にそいつを利用して使い潰すつもりで雇った。


 それから数ヶ月間、下っ端の使用人として雇ったそいつの様子を見る事になったが、勇者は思ったよりも優秀だったらしい。


 みるみるうちに、役割をこなし、できる使用人となった。


 勇者に使用人の素質があるとは、何とも滑稽な事だ。


 面白くなってきた俺は、そいつを自分専用の使用人にする事にした。


「魔王様。本日の予定ですが。いかがいたしましょうか」


 勇者をはべらせる魔王など、前代未聞。


 聞いた事がない。


 だが、だからこそ面白かった。


 しかし、遊びつもりで雇ったそいつに、思い入れが強くなってしまったのは誤算だった。


「これを俺にか?」

「ええ、誕生日ですので」


 ある日、そいつが選んだという誕生日プレゼントを渡された。

 俺は魔王で、多くの魔族たちのトップ。


 恐怖と力で支配する俺は、誰かからそんな事をされて事がない。


 俺は、初めての感情に戸惑った。


「この間の礼だ。大切に持つがよい」

「ハンカチ? 私にですか? ありがとうございます」

「お前は魔王であるこの俺の使用人だ。身だしなみには気を付けよ。元が良いのだから、苦労はしないと思うが」

「そっ、そうでしょうかっ」


 だから、礼に贈り物をして、赤くなって照れたそいつの反応を見た。その時に勇者に惚れてしまった事に気がついたのだ。


 光と闇。

 正義と悪。

 勇者と魔王。


 俺達の道は決して交わる事がない。


 いつか、どちらかが血を流す事になるのだろう。


 俺はその時に、この気持ちを捨てられるのだろうか。



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