【書籍化記念】マーガレットとルイスの幸せな日常
2021年3月31日(水)に角川ビーンズ文庫様から書籍化されることとなりました!
皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます!
記念に、マーガレットとルイスの結婚式から2ヶ月後のお話を投稿させていただきます。
時間軸としては、第18話「ハッピーエンドのその前に」と第23話「ハッピーエンドのその後に」の間となります。
ルイス様と結婚して2ヶ月ほど経ったある朝、私が目を覚ますと本来ならありえないことが起こっていた。
いつもなら5時45分ピッタリに目を開けるはずのルイス様が、5時45分よりも前なのに隣にいないなんて……。何かあったのかしら?
(マーガレットおはよー)
(めがねは今日も眼鏡かけて食堂に行ったよー)
(この屋敷中を眼鏡で埋め尽くしてやろうか)
『くっきー、しょこら、みんと。おはよう。ルイス様はもう起きているのね? いつもより早いのはどうしてかしら?』
(えへへーないしょ―)
(今年だけはめがねに一番をゆずるのー)
(なんの変哲もない今日を最高の1日に変えてやろうか)
妖精さん達の言葉に首を傾げていると、メイドのアンナがノックをして入ってきた。
「マーガレット様。おはようございます」
「アンナ。おはよう」
「朝の準備をさせていただいてよろしいですか?」
「いつもありがとう」
アンナは毎朝私の身の回りを整えてくれる。公爵家ではすべて自分でやっていたから、この恵まれた環境に私はいつも感謝しているの。アンナに髪を綺麗に整えてもらった私は急いで食堂に向かった。
「奥様。おはようございます。坊ちゃんがソワソワしながら待っていますよ」
食堂に入ろうとする私に、メイド長が笑って声をかけてくれた。彼女はルイス様が子供の頃からずっとモーガン伯爵家で働いていて、いまだにルイス様のことを坊ちゃんって呼んでいるのよね。ちなみに初めてそれを聞いた時の妖精さん達はとてもはしゃいでいた……。
(坊ちゃんだってー)
(めがねってば坊ちゃんなのー?)
(坊ちゃん刈りをしてやろうか)
私がその時のことを思い出して思わず笑いそうになっている間にメイド長が食堂の扉を開けてくれた。
「……えっ!?」
思わず声をあげてしまうくらい私は目の前の光景に驚いた。……ダイニングテーブルの真ん中に、とても大きな花瓶が置いてあり、その花瓶の中には溢れるほどのマーガレットの花が飾られていた。
「……これは?」
「マーガレット様。おはようございます」
マーガレットの花に気をとられている私の前にマーガレットの花束を抱えたルイス様がやって来た。
「ルイス様。おはようございます。……この花は一体……」
「僕は、マーガレット様がキース殿下の婚約者でなかったらマーガレットの花束を贈ると言いました」
「……何の話ですか?」
「まさか本当にそんな日が来るなんて思ってもいませんでしたが……。いえ。そんなことを思ってはいけないと、そう思っていましたが……」
「あの……? ルイス様?」
「マーガレット様。17歳のお誕生日おめでとうございます」
ルイス様のその言葉で、去年の16歳のお誕生日にルイス様とした会話を思い出した。
『ルイス様は、私が公爵令嬢でなくても、お祝いの言葉をくれましたか?』
『・・・マーガレット様が、公爵令嬢でも殿下の婚約者でもなかったら、マーガレットの花束を贈っていました』
私が思い出している間にも、妖精さん達やメイド長達が畳み掛けるようにお祝いの言葉をくれた。
(わ~いマーガレットおめでとー)
(本当はいつもみたいに僕たちが一番に言いたかったのー)
(祝いのシャンパンタワーの頂上で踊らせてやろうか)
「マーガレット様。おめでとうございます。坊ちゃんが絶対に一番に伝えると言っていたのでお祝いの言葉を我慢していたのです」
「マーガレット様おめでとうございます。料理長も張り切っていますので今日は朝からご馳走ですよ」
たくさんのお祝いの言葉をいただいて私は胸がいっぱいになった。
こんな……こんな日が来るなんて……。
私の誕生日を覚えてくれていて、お祝いをしてくれる人達に囲まれる日が来るなんて……。
「ありがとうございます。私……こんなに幸せなお誕生日は初めてです……」
「これからも毎年マーガレットの花束を贈り続けます」
「……それはプロポーズでしょうか?」
「プロポーズとは結婚の申し入れをすることなので、すでにマーガレット様と結婚をしている僕はもうプロポーズは出来ないのです」
「……それは知っています」
「プロポーズはもう出来ませんが、これからも一生貴方のお誕生日をお祝いすることを約束します」
真顔で伝えてくださるルイス様。初デートの日や、婚約指輪を贈っていただいた日、他にも何度も何度も感じたその想いを私は今日も感じていた。
……なんて愛しいのかしら。
「坊ちゃん……。大人になって……」
メイド長も私と同じくらい感動しているわ。
(坊ちゃん顔真っ赤―)
(坊っちゃんの顔ってば眼鏡以外全部まっかー)
(眼鏡も赤く染めてやろうか)
顔を真っ赤にしたルイス様と、優しく見守ってくれる使用人達、そして生まれからずっと私の支えだった妖精さん達。そんな皆の笑顔を見ているだけで私はとても幸せだった。
お母さまが亡くなってからずっとお誕生日は当たり前のように一人ぼっちだった。
妖精さん達だけが唯一の味方だと思っていた。
そして、16歳のお誕生日に私はお母さまの悲しい真実を知った。
自分には、この国の『聖女』になる資格なんてないと思った。
キース殿下から婚約破棄されることだって仕方のないことだと思っていた。
だから……まさか一年後のお誕生日に、こんな夢のように幸せな時間が訪れるなんて……。
大切な人達にお祝いしていただけるお誕生日がこんなに幸せなものだなんて……。
「……お母さまが亡くなってから、毎年せめてお誕生日くらいは誰かから優しい言葉をかけてほしい、と叶わない期待をしていました。……だけど、今年は今日が自分の誕生日だということさえ忘れていました。……毎日が楽しくて、私にとっては特別で……。だから……誕生日さえ忘れてしまうくらい幸せなんです……。」
涙をこらえて必死に言った私の言葉に、ルイス様は嬉しそうに笑ってくださった。
その笑顔こそが私にとって最高の誕生日プレゼントになった。
私にとって宝物と呼べるものはずっとお母さまの形見のブローチだけだったけれど、ルイス様と婚約をした日からは、ずっと心の中にも宝物が増え続けているの。
最後までお読みくださいましてありがとうございました。
このお話が皆様の心に少しでも届いたのなら、とても幸せです。
この作品を書籍化させていただくことが出来ましたのは、すべて皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!




