23.ハッピーエンドのその後に
『5時45分ーめがねの起きる時間ー』
『眼鏡すごーい今日も時間通りー』
『永遠に目覚めない眼鏡にしてやろうか』
ルイス様と結婚してから半年が経とうとしていた。
妖精さん達は、ルイス様が目覚まし時計も使わずに必ず5時45分に目を開けるのがとても楽しいらしく、毎日パタパタ喜んでいた。
「ルイス。おはよう。」
「マーガレット。おはようございます。」
朝起きて、おはようと言い合えることがとても幸せだった。
『挨拶を返してくれる人がいる』たったそれだけのことが、私にはとても特別なの。
結婚式の日はとても晴れていた。
ウェディングドレス姿の私を見た時、ルイス様は顔を赤くした。
「マーガレット様。とても・・・とてもキレイです。」
ルイス様の言葉に私の顔も赤くなるのを感じた。
このままではまた妖精さん達にお庭をトマト畑にされてしまうわ。
「・・・マーガレット様。僕は貴女を幸せにしたいと考えています。」
「ルイス様。私はすでにとても幸せになってしまいました。
・・・恋愛小説だったら今日がハッピーエンドです。」
「僕はまだ恋愛小説を読んだことがないのです。」
「ルイス様と結婚をすることが私の幸せだということです。」
「僕は面白いことの1つも言えません。」
「結構面白いことを言っている気もしますが。
ルイス様は、お母さま以外で初めて私と話をしてくれた人です。」
「・・・話、ですか?」
「公爵家では、誰も私に話しかけませんでした。
キース殿下は、私の話を信じていませんでした。
王妃教育では、キース殿下の婚約者として必要なものを詰め込まれていただけです。
カナン様は、あの時は私が次期王妃だから苦言を呈していただけです。
ルイス様も、初めは私がキース殿下の婚約者だから話しかけてきたのだと思いました。
けれど、ルイス様は何度も何度も私に話しかけてくださいました。
私の話を聞いて、ご自分の話をしてくださいました。
私は初めて、人間と対話をしたのです。
・・・だからルイス様と一緒に生きていきたいと思ったのです。」
「終わりではありません。」
「なんの話ですか?」
「先ほどハッピーエンドとおっしゃったでしょう?
貴女と僕の人生はこれから始まるのです。
幸せにします。これからずっと。貴女の話を聞きます。僕の話も聞いてください。
もし、マーガレット様が道を誤りそうになったら僕が止めます。もし、僕が過ちを犯しそうになったらマーガレット様が止めてください。」
「・・・結婚式の前に花嫁を泣かせないでください。
・・・私もルイス様を幸せにします。これからずっと。」
式の後には、プロポーズの返事よりも大きな虹が空にかかった。
『くっきー、しょこら、みんと!』
『僕たちからのプレゼントー』
『マーガレットおめでとうー』
『今日こそ祝福のシャンパンで溺れさせてやろうか』
『本当にありがとう。私が今日を迎えられたのは、皆のおかげだわ。』
『僕たちに魔法が使えなくても側にいるだけで幸せってマーガレットは言ってくれたのー』
『そんなこと言ってくれたのは今まで愛し子にだって誰もいなかったのー』
『この喜びを形にしてやろう』
直後、空からはマーガレットの花びらが降り注いだ。
「今日はカナン様とご一緒にソフィア様を訪問されるんですよね?」
「えぇ。ショコラミントクッキーの作り方を教わってくるわ。」
ソフィア様がショコラミントクッキーを作った時の妖精さん達の喜びはすごかった。
必死に止めたけど、ミント畑だけは阻止することが出来なかったのよね。
在学中のランチの時にショコラミントクッキーを食べたカナン様はその味にとても感動していて、今回のソフィア様のお家へのご訪問もカナン様のご提案なのよね。
『次期王妃になるべく日々努力しております妹のためにショコラミントクッキーを差し入れしたいのですわ!』
「僕もとても好きなのでお土産を楽しみにしています。」
「ところでルイス。敬語!」
「・・・すみません。僕は今まで誰とも敬語以外で話をしたことがないのです。」
「少しずつ、ね。」
「お名前を呼び捨てにするのに半年かかりましたので、時間はかかると思いますが、努力しま・・・するよ。」
ルイスと私は一緒に笑った。
恋愛小説でいうならば、ルイスと私の結婚式が、きっと最終回かもしれない。
だけど、ハッピーエンドのその後も私達の人生は続いていく。
たとえば、私が今日、ソフィア様のお家でお母さまの形見のブローチとお揃いのタイピンをつけた執事と出会った瞬間なぜか涙が溢れだすのも、ハッピーエンドのその後の物語。
最後までお読みくださいましてありがとうございます。
拙い物語ですが、皆さまの心に少しでも届きましたらとても幸せです。
本当にありがとうございました。




