18.ハッピーエンドのその前に
「ルイス様ですって!?
お姉様にはもったいないわ!」
お父様の言葉に一番最初に反応したのはシンシアだ。
「しっ、シンシア?やめなさい。」
シンシアを止めたのは、蜂に襲われた後から明らかに私に怯えだした義母だった。
「シンシアはキース殿下に嫁ぐのだから、シンシアの方がずっと幸せよ?ねっ?」
「・・・何か目的があるのですか?」
私は義母とシンシアは無視してお父様に聞いた。
「モーガン家からの強い希望だ。
お前は学園の卒業と同時にこの家から出ていきなさい。」
「ルイス様!どういうことですか?」
次の日の放課後に図書館に行った私は早速ルイス様を捕まえた。
「マーガレット様。お久しぶりですね。
キース殿下の婚約者でなくなったら挨拶も出来なくなりましたか?」
「・・・ルイス様。お久しぶりです。
相変わらず失礼でむしろ安心しましたわ。」
ルイス様は、読んでいた本を置いて、立ち上がった。
「・・・お父様から婚約のことを聞きました。
モーガン家からの強い希望だなんて言っておりましたが、お父様が何か卑怯な手を使ったのではないかと思ったのです。」
「確かにモーガン家の強い希望ではありませんね。」
「やはり・・・。」
「僕の強い希望です。」
「はっ?・・・へっ!?」
『マーガレットまた真っ赤ー』
『トマトみたいー』
『眼鏡の家の庭をトマト畑にしてやろう』
「・・・ルイス様の強い希望?」
「マーガレット様といると楽しいので。」
「そんな理由で?私は、キース殿下に婚約破棄された女ですよ?こんな私と結婚したところでルイス様にはデメリットしかないですよ。」
「・・・僕は、毎日5時45分に起床します。」
「・・・はいっ?」
「朝食を食べて、学園では、授業が始まるまで1時間読書をします。授業を受けて、キース殿下達と昼食をとります。
午後の授業を受けて、図書館で2時間勉強してから帰ります。
夕食をとって、翌日の予習をした後で22時に消灯します。」
「・・・何の話ですか?」
「休みの日などは日常の中身は変わりますが、起きる時間と寝る時間は物心ついた時から10年以上必ず同じでした。
・・・ただマーガレット様とお話をした日は、思いだし笑いをし、22時に寝つけず、マーガレット様が図書館にいらっしゃるだろう日は、5時には目が覚めてしまいます。」
『めがねも赤くなってるー』
『りんごみたいー』
『リンゴの実で眼鏡を割ってやろう』
「私は今までまともに恋愛というものをしたことがないので分からないのですが、なんというか、それでは、ルイス様が私に恋をしているように聞こえてしまいます。」
「僕も、恋愛だけはしたことがなかったのですが、多分、そういうことだと思います。」
「・・・こんなにロマンチックではない告白は、恋愛小説でも読んだことがありません。」
「僕は恋愛小説など読んだことがないのです。」
「・・・本当に私でよろしいのですか?」
「マーガレット様以上に楽しい方はいません。」
「眼鏡のこと詳しくないですよ?」
「眼鏡の手入れは自分でするので問題ないです。」
「キース殿下に婚約破棄された私が妻ではルイス様もいらぬご苦労をされるのではないですか?」
「人生とは苦労をするためのものです。」
「同じ公爵家から、王家と宰相に嫁ぐなどと・・・。」
「父の話では、確かに反対していた家もあったようですが、翌日には賛成派になったようですよ。」
「・・・はっ?」
「蜂が現れたようです。夜に突然巨大な蜂が現れて、なぜか彼らは蜂にトラウマがあるようで、「反対したら天罰がくだる」と言っていたそうです。」
「・・・それは、もしかして一週間前の夜ですか?」
「はい。」
いなかった。そういえば私がお父様の書斎に呼ばれた日、珍しく妖精さん達がどこにもいなかった。
『くっきー、しょこら、みんと。やったわね?』
『ふっふっふーマーガレットのキューピッドー』
『僕たちのおかげー』
『虎に喰わせてやりたかったが蜂で我慢してやった』
「その話を聞いて、この国が心配になったことも事実ですが、それよりも、マーガレット様も僕との結婚を望んでいてくれているのだと期待を持ったのです。」
「・・・ルイス様は、もしかして気づいてますか?」
「いいえ。マーガレット様と一緒にいると、眼鏡がずれて、曇ることが異様に多い、ということくらいしか分かりません。
それから先日から僕の家の庭に、なぜかマーガレットの花が咲き乱れています。」
私は妖精さん達を見た。
彼らは空の高くまで飛んでいた。
『マーガレットおめでとうー』
『僕たちこんなに嬉しいの初めてー』
『祝福の虹をかけてやろう』
空にとてつもなく大きな虹がかかって、それをみたルイス様は滅多に見せない特大の笑顔で言った。
「あの虹をプロポーズの返事だと受け取っても?」