12.お誕生日のお祝い
私は、お父様の本当の娘ではない?
衝撃的な真実はそれでも私の心にストンと落ちた。
今までのお父様の冷たい視線にも納得がいった。
この家には本当に私の居場所なんてなかったんだわ。
だけど私には、いつだって妖精さん達がいてくれた。
だから、きっと今までも、今だって、幸せだって胸を張って言える。
だけど、お母さまは?
最期まで私の幸せを祈り続けてくれたお母さまは、幸せだったのかしら?
私のせいで生まれ育った国から追い出されてたった1人でこの国に来て、お母さまご自身の人生は、本当にこれで良かったのかしら?
「マーガレット様?今日はなんだか元気がありませんか?」
次の日、一緒に外ランチをしている時にソフィア様が心配そうに聞いた。
「そんなことないわ。昨日少し寝つけなくて・・・。」
私は慌てて微笑んだ。
ソフィア様は「良かった」と安心してくれた。
「実は、今日はマーガレット様にプレゼントがあるんです。」
「・・・プレゼント??」
「お誕生日、昨日ですよね?おめでとうございます。」
そう言ってソフィア様はお弁当と一緒に持ってきた箱を開けた。
そこには美味しそうなショートケーキが入っていた。
『クッキーが良かったー』
『ショコラタルトの方が美味しいのにー』
『料理長にミントを使ったスイーツの開発を急がせねば』
「これを、私に?」
「お口に合うか分かりませんけど、シェフと一緒に私も手伝って作ったんです。」
「ソフィア様が?」
「貴族なのに、はしたないって言われるのでこっそりなんですけど、私、お菓子作りが好きなんです。
あっ!毒味はしましたが、心配でしたら先に私が食べます!」
「まさか!ソフィア様の作ってくださったものを疑ったりなんてしませんわ!
・・・こんなに心のこもったプレゼントを頂いたのは初めてなので、とても嬉しくて・・・。」
そのケーキはとても美味しくて、一口食べただけで胸がいっぱいになった。
「本当は手作りのケーキなんてどうかなとも思ったんですけど、カナン様が、マーガレット様なら何でも喜ぶと言ってくださったので。正解でしたね。」
ソフィア様はそう言って嬉しそうに笑った。
「カナン様が?」
思いがけない名前に私は驚いた。
「はい。申し訳ありませんが私はマーガレット様のお誕生日を存じあげなくて。お休みの前にカナン様が、「お誕生日にお祝いもしないなんて次期王妃候補のお友達に相応しくないですわ」と、マーガレット様のお誕生日を教えてくださったのです。」
「・・・私にはカナン様の考えていることがよくわからないわ。」
「きっと自分では照れてしまって言えないので、私からマーガレット様にお祝いを伝えてほしかったのですよ。」
・・・ツンデレ?
「ソフィア様、本当にありがとう。」
「お友達ですから。」
ニッコリと微笑んだソフィア様に私のハートが撃ち抜かれたことは言うまでもない。
思いがけずルイス様からもお祝いのお言葉を頂いた。
「先日、誕生日だったようですね。おめでとうございます。」
「ご存知だったんですね?」
「キース殿下に関わることはすべて把握しています。」
ここで、眼鏡くいっ、が入って、妖精さん達が大喜びしてた。
「キース殿下からは、花束は送られてきましたが、お祝いのお言葉は頂いておりません。」
「・・・。」
「目をそらしましたね。」
「いえ、眼鏡の調子が悪いだけです。」
「なんですかそれは。」
思わず笑ってしまった。
ルイス様の新たな名言に妖精さん達がまた大喜びした。
私は、ルイス様にほんの少し意地悪な質問をした。
「ルイス様は、私が公爵令嬢でなくても、お祝いの言葉をくれましたか?」
「・・・マーガレット様が、公爵令嬢でも殿下の婚約者でもなかったら、マーガレットの花束を贈っていました。」
『めがねがかっこつけてるー』
『マーガレット真っ赤になってるー』
『眼鏡の家の庭を一年中マーガレットの花で埋め尽くしてやろう』
「冗談です。」
「なっ!?ルイス様の冗談は質が悪いです。
しかも冗談とは真顔で言うものではありません。」
「僕はこの顔しか出来ません。」
「この間は笑っていたじゃないですか。」
「記憶にありません。」
「本当に失礼な人ですね。」
「冗談はさておき、言いますよ。」
「何をですか?」
「マーガレット様が聞いたのでしょう?
公爵令嬢でなかったとしても、お祝いを言いますよ。」
ルイス様の冗談は死ぬほどつまらなかったけど、この答えは、ささくれていた私の心を少しだけ軽くしてくれた。
とても些細なことだけど、それでも、私が公爵令嬢でも、そうでなくても、変わらないことはあるんだ、と。