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蜃気楼

作者: 須原綺奈子

 3年前の話なんだけど、俺が入社したときから良くしてくれてた先輩がいてな。その先輩は新入社員だった俺に丁寧に仕事教えてくれたり、仕事のサボり方まで教えてくれたりした頼りになる先輩だったんだ。仕事もできて「出来る男」って感じの人だな。誰もが憧れるかっこいい人だった。俺はその先輩を目標に毎日仕事頑張ってたよ。


「あ、おはようございます」

「おはよ〜」

「先輩いつも金魚に餌やってますけど、担当とかあるんですか?」

「ある訳ではないけど最初に会社来るの俺だしな」

「明日から自分がやりましょうか?」

「いやいいよ、金魚は俺から貰う餌求めてるから」

「メンヘラに依存するヒモ男みたいなこと言うのやめてください」

「俺この金魚大きく育ちきるまで餌やり続けるから」

「先輩知ってました?金魚って餌やればやるほどデカくなるらしいですよ」

「何その冗談面白いな」

「真顔で餌やるのやめてください。冗談じゃないですよ」

「……まじで?」

「先輩水槽から餌溢れてます」

「…わざと」

「デカくしようとしないでください」

「ちょっと大きめの水槽買っとくか」

「デカくする気満々じゃないですか」

「餌足りねぇな。3箱買ってきて」

「鯉のサイズ目指してるんですか」

「ダンボール3箱分」

「経費で落とせませんよ」

「会社の金庫から抜いとくわ」

「それ横領ですよ」

「大工の1番偉い人」

「それ棟梁」

「秋になると綺麗な」

「それ紅葉」

「横領がバレて」

「終了」

「何やってんださっさと仕事するぞ」

「振ったの先輩じゃないですか」


 俺が課長に怒られた時も慰めてくれたり色々アドバイス貰ったりもしたな。そんな時はいつも飯誘ってもらってたよ。


「課長に何言われたんだ?」

「お前はいつも気が抜けてるんだよ。しっかりやれって散々言われました」

「毛が抜けてる人にそんな事言われてもな」

「ホントそうですよ。危うく笑いそうになりました」

「俺が新人のころそれで笑ってさらに怒られたわ」

「笑ったことよりその時からハゲてた事に驚きです」

「ハゲは生まれた時からハゲなんだよ」

「ハゲへのヘイト凄いですね」

「取引先の人がハゲてたら目じゃなくて頭見てる」

「よくそれで契約取れますね」

「ハゲを見たら自然な笑顔作れるからな」

「ハゲ見なくても作れてくださいよ」

「ハゲの話はもういいわ、息抜きにアイス食うか?」

「ありがとうございます」

「ハーゲンダッツ」

「引っ張られてるじゃないですか」

「冗談だよ。飯行くか、美味いカレー屋知ってんだ」

「是非」


「先輩タピオカ飲んだことあります?」

「何それ聞いたことないな。カエルの卵みたいな見た目してそう」

「知ってるじゃないですか。あれ意外と美味いんですよ」

「カレーには負けるだろ」

「何と比べてんすか」

「あれ飲んだら鼻から出てきそうで怖いんだよな」

「どんな仕組みしてるんですか」

「丸いもの食べると鼻から出てくるからブドウ食べれない」

「多分病気ですよそれ。今度一緒に行きません?」

「おっさん2人がタピオカ並んでるのインスタじゃなくツイッター行きだろ」

「それもそうですね」

「やっぱベビタピ?」

「行く気満々じゃないですか」

「ちょっと気になる」


「あ、ここのカレー屋。美味いんだよなぁここ」

「雀荘をカレー屋っていう人初めて見ました」

「いいから入るぞ。麻雀出来るか?」

「麻雀するんですね。ロンって叫んだら勝ちなのは知ってます」

「UNOみたいに言うな」

「あと大三元と猪鹿蝶は知ってます」

「猪鹿蝶はこいこいな」

「こいこいって叫んだら勝ちなの知ってます」

「こいこいでは勝てねぇよ」


 先輩めっちゃ麻雀強かったよ。役満何回も出てた。仕事できる人は麻雀もできるっていうジンクスとかあるのかもな(ねぇよ)。それから色んなとこ連れて行って貰ったよ。


「ここのラーメン屋初めてか?」

「初めて来ました。そもそも最近ラーメン食べてなかったですからね」

「何食う?」

「じゃあこの豚骨で」

「んじゃ俺は豚骨の麺硬め味濃いめニンニクマシマシで」

「めっちゃ通な頼み方しますね。ここよく来るんですか?」

「いや初めて」

「初めてでその注文するの勇者ですか」

「1回こうゆうのやってみたかった」

「先輩、ニンニクマシマシ無理みたいです」

「………食べログ星1と」

「食べログに八つ当たりするのやめてください」

「星2.5」

「ちょっと上げてもダメです」

「いいから、さっさと食って帰るぞ」

「注文ミスったから早く出たいんですね、分かります」

「カァァァァァ」

「少女漫画のヒロインが照れてる効果音口で言うのやめてください。痰吐いてるのかと思いました」

「ぺっ!」

「まじで痰吐くのもやめてください」


 ある時俺が高熱出して会社休んだ時も気にかけてくれてな。会社に休むって連絡入れたらすぐ電話来てな。


「大丈夫か?今日の仕事はまかしとけ」

「すいません、ありがとうございます」

「風邪に効く飲み物知ってるか?」

「ポカリとかですか?」

「いや、ダークモカチップフラペチーノ」

「寝ますね…」

「渾身のボケをスルーすんな」

「今手元にあるので…」

「分かりづらい被せ方すんな。ゆっくり休めよ」

「病人にボケかましてくる人がほんとに心配してるんですか」

「やめろ!それ以上もう喋るな!」

「死にかけの友人にかける言葉みたいなこと言わないでください。もう失礼しますね」

「おう、早く治せよ」


 風邪が治って会社戻ったら大抵の俺の仕事片付けてくれてたよ。そのおかげで初日は暇になってしまったけどな。

 初めての忘年会の時も話し相手になってくれて助かった。


「明日の忘年会って焼肉だよな、何着ていく?」

「いい歳したオッサンがJKが遊びに行く時の質問しないでください」

「俺は肉柄の服着る」

「間違えて焼かれても知りませんよ」

「お前は七輪の服な」

「どこにあるんですかそんな服」

「プリントアウトする」

「明日の服に気合い入りすぎでしょ」

「俺とお前で焼肉しようぜ…」

「臭い軽音部が友達誘うみたいなセリフやめてください」

「じゃあ明日駅ナカのタワレコ集合で!」

「ライブキッズの集合場所もやめてください」

「まぁ明日は肉食い散らかそうな」

「そうですね、中々食べれませんし」


「なぁ、お前何歳くらいまで生きたい?」

「急にらしくないこと聞きますね」

「これまでに無いくらいらしい質問の間違いだろ」

「まぁそんな長生きはしたくないですかね。それまで仕事続けるのも疲れそうですし」

「そうか?老人になって穏やかな生活するのも悪くないかもしれないだろ。楽しいことばっかりの小学生に戻った気分になれるかもな」

「あ〜、小学生いいですね」

「そのセリフだけ切り取って明日社内にばらまいとくわ」

「変な誤解生むのでやめてください」

「でも割といいだろ、老人になってのんびり暮らすのも」

「そうですね、まだまだ先長いですけど」


 それからしばらく先輩とご飯行ったり、仕事でお世話になったりして気づけば2年経った。でも、いつものように会社に行ったらいつも俺より早く来てるはずの先輩がいなかったんだ。しばらくして会社に来た課長に聞いたら、昨日辞めて今朝早いうちに出ていったよって言われた。突然だったな。先輩の机の上は何も無くなってたよ。


「その先輩最後までかっこいいことしますね」

「だろ、ついでに金魚もいなくなってた」

「金魚?あのデカくしようとしてたやつですか?」

「そう、もっとデカくするつもりだったのかもな」

「変なとこありますね。その先輩に影響されて先輩も急に居なくなったら笑えます」

「笑えねぇよ、誰がお前の面倒見るんだよ」


『続いてのニュースです。市内の老人ホームの水槽に巨大な金魚が何者かによって混入させられていました』


「あ、あれ会社の金魚だ」

「えぇあんなにデカくしてたんですか」

「いや最後に見た時はあれの半分くらいだったな」

「まじですか、じゃあその先輩がデカくしすぎて育てきれなくなったから、こっそり入れたってことですかね」

「だと笑えるな…笑えねぇよ」

金魚

大三元

麺硬め味濃いめニンニクマシマシ

の3つのワードを元に書きました

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