モルデニアス神皇国 4
シドレーにリッツが安心できるような口の堅い店など無い。知己が居ないので当然だ。
なので気の利いた隠れ家に案内して、という訳にはいかなかったが、幸い二人が嫌がらなかったので街外れまで移動して人気の無い橋の下で会話を交わしている。
「ふーん。伯爵様、ねえ」
「驚かないのか?」
「いやそりゃ驚きっつうか縁のねえ話だがよ」
リッツはいつでも引き返せるよう慎重に、遠回しにしつつ探り探り徐々に話を進めていったが、不思議と信用出来るという気がした。
そこそこ眉をひそめるような話だったと思うのだが、二人は怯えるでも嫌悪感を示すでもなく、淡々と頷くばかりだったからだ。
事態を正確に捉えようと冷静に考えている素振りが窺える。腹の据わった熟練冒険者と話しているような、安心できる雰囲気を感じたので思い切って全て話した。
「多分協力者を頼むとしたら君達をおいて他には居ない。友人が消えてゆっくりしている時間もないんだ。突飛で危険の大きい依頼だと承知しているが、出来る範囲で協力して貰いたい」
リッツは精一杯誠意が伝わるよう話す。
危険には自分が矢面に立つつもりでいる。
「まー確かにそういう話なら俺達みたいなよそもんが適任かもしんねえな」
「そう言って貰えると助かる」
「で、アテはあんのかい? まず最初に俺達にやって欲しい事とかも決まってなさそうだったが」
「……いや、恥ずかしいがその通りだ」
とにかくリッツ一人ではどうにもならないのだ。
シドレーで教会跡地にまつわる情報収集はすべきと思っているが、それも一人では限界がある。
一人で精力的にそれを行っていれば、リッツの危惧する通りならどこかで闇討ちされる恐れもあって動けないでいた。
襲われる事そのものより、アウヴィエラと二人の生徒にまで手が及ぶ事を恐れた。
そういう闇討ちこそリッツが最も恐れるものだ。
「そういう知恵も貸して貰いたい」
「なるほどな」
クロムはやや離れてその会話を聞いている。
ここに来てからはジョシュに預けた。
リッツ・ランスト。
エバーロッテに続き見つけた二人目の仲間候補、双剣使いのバランス型剣士。
高い攻撃力と耐久力に加え、満遍なく高水準のスキルを備えた使い勝手の良いキャラだった。
いずれ魔王イベントが開始されてから露見する予定だったシドレーの吸血鬼イベントを前倒しで検分しに来たが、都合良くリッツに遭遇出来おまけにそのイベントに絡んでいるとは。
リッツは別に何かの特定イベントに関わるようなキャラじゃなかったんだけどな。
ふむ、とクロムは観察する。
いわゆる早熟型キャラクターである。
といってもレベルが上がれば最初の方の上がり幅が良いとかそういう事ではなく、仲間にする時点で初期レベルが高く、ある程度完成された状態で加入するキャラという事。
完成しきったお助けキャラとまでいうと語弊があるので、早熟タイプという呼び方でいいだろう。
事実リッツはそれなりに成長もする。
ただ上限までレベルを上げた時、最終候補としては一枚落ちるという評価になる。
最初から戦力としてガンガン使っていけるが、極めるとお荷物になるキャラクターという訳だ。
最終候補メンバーをSランクとすると、リッツはAランクといった所か。
(それでも優秀な前衛で通常プレイならラストバトルに使えない事もなかったキャラクター……)
リッツという名前と腰の双剣で分かった。
実はクロムこそリッツを絶対に逃がすまい、と思っていたのだ、会った時点で。
魔王とも充分やり合える、Aランクを与えていいキャラクターであるはずのエバーロッテは残念ながら不合格だった。
成長の概念に良く分かっていない部分があるので絶対とは言い切れないのだが、何となくクロムには分かる。竜人化した際の感覚のようなものでしかなかったが、とにかくエバーロッテは候補から外れた。
では他のキャラクターはどうか。
もしもSランクでさえそうであるなら、プラチナの言ったように仲間候補だった者は軒並み弱体化し不合格という事になってしまう。リッツは総合力こそAだがステータスはSを与えられる数値だった。
スキルでカバーされるのだろうと思っていたが、どうにもエバーロッテからはそういう感じがしない。
その答えを知るためにもモルデニアスに来たのだ。仲間候補がひしめく国へと。
チラリとジョシュが見てきたので頷く。
リッツの頼みを積極的に引き受けるつもりだと伝えた訳ではないのに、ジョシュはしっかりとこちらの意図を汲み取ってくれている。
戦力としてはせいぜいCランクだが相棒としてはSランクを与えてもいい。
「普通は聞き込みだろうな。その神官達ってのが何で伯爵を内偵し始めたのか、そこに繋がるものはこの街で見つかるだろうよ。見つからなきゃ単に聞き込み程度じゃ見つけられねえってだけでよ、絶対手掛かりってのはあるはずだぜ」
「ただまあアンタが時間無いってんなら悠長な事も言ってらんねえ。伯爵を突っつくしかねえ」
「怖くないのか?」
「やるしか無い事ってなやるしかねえんだぜ」
「……命がけだぞ? 簡単に考えてるなら――」
「よせ、分かってる。海の上ってないつも命がけだしよ……って恥ずかしい台詞言わせんじゃねえ。アンタこの国の人間だ。色々と身バレしたらまずいだろうから最初は俺とシーバルだけでやったっていい」
リッツが今度こそ目を見開く。
「何故そこまで」
「やる気とかじゃねえんだがよ。普通に考えて効率良いやり方を言ってるだけだから期待すんな」
「報酬もまだ言ってないんだぞ」
「あんな高え店ポンと払ったんだ、大丈夫だろ」
逆に警戒されないか、とクロムは心配になる。
クロムの気配を感じ取り積極的に頼みを引き受けようとしてくれているのだろうが、伯爵側の送り込んだスパイ、と自分がリッツの立場なら疑ってしまうかもしれない。
それ程都合が良い男になっている。
ジョシュは頭が良いためか要点を捉えすぎていて、まるで予定されていた芝居を演じているかのような印象を与えないか不安になってしまう。
「シーバル、いいよな」
「キャプテンが決めたなら」
「……だとよ」
だがクロムの心配は杞憂だったようだ。
リッツは軽く頭を下げ、決意を決めた男の顔になっていた。何かを疑う人間の雰囲気では無い。
(元の世界で俺が汚れすぎてるだけか)
どうにもクロムの感覚と違う展開になる事が多くて不安になってしまう。
都合が良い、と事ある毎に感じてしまうのは、単に不都合に慣れすぎてしまっているが故の過剰な警戒にすぎないのかもしれない。
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「ルゲイオ様。お客人がお見えですが如何致しましょう。お知り合いでは無いようですが」
「何かな。どういった用件と?」
「それが、見せたいものがあるの一点張りでございまして」
「ほう、見せたいものか」
執事から聞いたルゲイオは興味を覚える。
そもそも面識の無い者がここまで取り次いだ事に対して褒美を与えたい気分ですらある。
口ぶりからして身分のある者でもないのだろう。
よほどしつこかったか、取り次いでも良いと思わせる何かを持っていたかという事だ。
どのような人物か。
見せたい物とは何か。
「何故追い返さなかった?」
「それが門番を任せている者によりますと、二人居る内の一人の男がなかなかの手練れであると」
「ほほう! なるほどなるほど」
そう来たか、とルゲイオは顎を撫でる。
「では当然お前も見てきたのだな?」
「は」
「どう見た?」
「問題ないかと」
ふむ、とルゲイオはやや気分が下がる。
今日の執事程度がそう判断するのであれば大して楽しませてくれるとも思えない。
「であればあまり興が乗らぬな。この間の男に身代わりを務めるよう命じろ」
「かしこまりました」
後は何を持ってきたかだな。
ルゲイオはそこに一縷の望みを託す。
退屈にすぎる。
ルゲイオ・セードリクス伯爵という存在はあまりにもつまらなさすぎた。
人間を演じる事に然程苦痛を感じるでもないが、最近それが抑えられなくなってきている。
おかげでこの街に豚を走り回らせるという失態を演じてしまった訳だが、楽しく始末は付けさせて貰ったのでそれはまあいい。
問題は退屈が持続している事だ。
このまま夜遊びを続けていれば忌々しい神都の輩共にまで目を付けられる可能性もある。
それは避けなければならない。
これまた忌々しいがルゲイオとてそうなれば逃げ出す他無いだろう。
既に危険な橋は渡ったのだ。
虎の尾を撫でたつもりで危険を冒したというのに、大した刺激は得られなかった。
治世の番人、神官騎士などと大層な名前でよくもあんな脆弱な存在が大きな顔をしていられるものだ、と首を振る。
つまらぬ。
ルゲイオはお気に入りの椅子に深く腰を沈める。足を組み手も組んで窓の外を眺めた。
シドレーの街そのものは好みである。静かで落ち着いた雰囲気が何ともいえず良い。
雨のシドレーの夜は特に気に入っていた。煙るような雨の日は気分が昂ぶって仕方ない。
配下の吸血鬼として新たな生を与えた者は二十体を超えただろうか。
先の執事のような下らぬ存在ばかりだった事を考えると、身代わりを命じたあの神官騎士はまあマシな方で、今ある手駒の中では一番だ。
「ふむ。そう考えれば贅沢ではあるか」
押しかけるように訪れた者達がどういう存在かは分からないが、執事が大した事ないと言うのであればあの男を使うまでも無かったな、とルゲイオは思考する。無駄遣いと考えれば退屈さが多少紛れる。
一応手練れという事であれば手駒として加えるのもいいか、と精一杯退屈さを紛らわす事にルゲイオは腐心する。
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作戦という程の作戦も無い。
一体どうするつもりだといぶかしむリッツを置き去りにし、クロムがジョシュに伝えた作戦はとにかく接触するというそれだけだった。
「俺達ゃ大陸間の商売をしてるんだ、飛び込みで自慢の品を売り込む強引さがあったってかまやしねえだろう」
「しかし危険かもしれないんだぞ?」
「もしそれで俺達が戻ってこなかったらビンゴだ。その時こそ腹決めてアンタが動きゃいい」
「俺はそういうつもりで頼んだ訳じゃない」
リッツがムッとする。
「大丈夫ですよ。それにもしかして俺達がリッツさんを売るつもりだとかそういう心配してます?」
「いや……そういう考え方もあるか」
「失礼しました」
「いいから任せときなって」
リッツには引き続き少しでも手掛かりが無いか歩き回って貰う事にし、こうしてクロムとジョシュは領主の屋敷を訪れている。
ジョシュは完全に下駄を預けた格好だ。
クロムのやる事に黙って従っている。
「主がお会いになるそうです」
慇懃な物腰の使用人が出てくると、クロムとジョシュを門の中へと招き入れる。
玄関までの道はクロムの知識で言うところの西洋の様式があしらわれているように思えた。
(グラフィック的には似通ってはいるな……どうでもいい部分に齟齬は無いのか)
勿論クロムには予想が付いている。
この屋敷の主は吸血鬼であり、使用人も全て吸血鬼化された哀れな者達であると。
シナリオに変更が加えられていないとすれば、そういう事になるはずだ。
竜人化はアクティブになっていない。
だからまだ門番と使用人が不死者の眷属であると断定はできず、現時点では予想になる。
リッツが分からないと言っていた神官達が動いていた理由は分かっている。
魔王イベントが動き出すまでは発覚しないはずではあるが、シドレーの住人が夜な夜な行方不明になるというイベントであり、プレイヤーがそれを探り出すというものをこの時点で探り出したという事だろう。
一応神官達は失敗し発覚には至っていないので、そのイベントが覆されたという事になってはいない。矛盾なく進行してはいる。
(ただリッツがこの時点で関与していたというのは創作か、実はあった設定なのか。この世界でこれから先こういう展開は起きまくるって考えてた方が良さそうかな?)
流石に立派な街の領主の城だけあって、屋敷は相当な広さと豪華な設えが備わっている。
クロムとしてはワクワクせざるを得ない。
美術館だとか博物館の趣がある。
出来の良いホラー映画の体感アトラクションに足を踏み入れているような気分だ。
「こちらです」
残念ながら上階へと通じる大階段では無く、一階右手へと案内される。
樫の木目が美しい手すりを未練がましく撫でようとしたクロムを、館付きのメイドが微笑みながらそっと片手で制した。
肌や目など人間そのもので、特におかしな点は見当たらない娘である。
若く美しい処女を好むというのは吸血鬼のテンプレだが、この娘もそうなのだろうか。
金髪のショートカットに可愛らしいフリルのメイド服と相まって、健全で溌剌とした印象しか受けない。ニッコリと浮かべた笑顔は魅力的で、思わず愛想笑いを返してしまった。
「お連れいたしました」
コンコン、と扉をノックした使用人はクロムとジョシュを誘うように扉を大きく開け、そのまま一歩下がり扉を押さえながら一礼する。
一度目配せしたジョシュを先頭に中へ入ると、そこには一段上質な格好をした使用人と見事なタキシードを着た紳士が居た。
「ようこそ、当館へ。私がルゲイオ・セードリクスだ。こちらは執事のハモンドと言う。何かあれば遠慮なく言ってくれたまえ」
「丁重なお迎え感謝申し上げます、セードリクス伯爵。ストレイカンパニーのシーバルと申します」
「――同じくストレイカンパニーのジョシュです」
急になんだ、と言いたげなジョシュが一瞬戸惑った雰囲気を見せるが怪しまれる程ではない。
掛けたまえ、という伯爵の言葉に従い二人は恐ろしく豪華なソファーに座る。
「さて、見せたいものがあるという事だが」
「はい。シーバル」
促されたクロムは持っていた鞄から布に包まれた細長い何かを取り出す。
丁寧に包まれたそれを大仰に開くと、中から小ぶりの剣、ナイフと呼んで差し支えないサイズだが拵えは確かに剣と呼べるものが現れた。
柄には細かな装飾が施され、先端に宝石が付いている。鞘は丸味を帯びた深い褐色でツルリとした滑らかさで覆われていた。刀身は見えない。
「ほう。何かな、これは」
「こちらはとある場所で手に入れた宝剣です。言い伝えによれば斬り付けた人間の心を狂わせる魔性の剣だとか」
何気なくクロムは言ってのける。
実はこの武器はシドレーのイベントに関連して手に入るアイテムである。
吸血鬼ルゲイオの上司である魔族が落としていくキーアイテム扱いの武器。
勿論ディーにとっては価値の無い、ステータス異常を引き起こすだけのしょうもない武器。
「ふむ。それは興味深い。しかし何故それを私に? もっと言うと何故このモルデニアスでそんな恐ろしいものを売ろうと? ご存知の通りこの国ではそれは危険視される恐れがある」
「はい、仰る通り恐ろしいと思いました。ですからモルデニアスこそがこれを扱うに相応しいのではないかと考えました」
「なるほど。洗礼という意味か」
「その通りです」
解呪などどこの教会でも出来た。
第一この武器はそれに当てはまっていない。
ペナルティー持ちの武器ではないのだ。
ただ設定的にモルデニアスこそが相応しいとクロムがすまし顔で言っているにすぎない。この世界で洗礼を行っているのがモルデニアスの神都のみであるというのをクロムが知るのは後の事になる。
「では神都に持ち込もうと思わなかったかね?」
「いえ、我々は商売人ですので。誤解を恐れずに言えばただこれを浄化してしまおうと思っている訳ではなく、何と言いましょうか……価値は価値である、と言いますか」
「ははは、屈託が無いな。つまり魔剣であるからこそ価値があり、しかし闇雲に売りつけるには恐ろしい。扱い得る者であれば売っても構わないがそれはモルデニアスをおいて他にはない、と考えた訳だな」
「ご明察です」
「喜ばしい事ではある。魔剣であれ我が国であれば正しく扱えると思って頂けているのだからな」
「そう考えました」
「しかし何故シドレーに?」
「正直申し上げましてこのようなものを持っているというのは恐ろしく、神官の方々に見咎められはしないだろうかと危惧したのです」
「ふむ、シドレーには確かに神官が居ない」
「決してセードリクス伯爵の信仰に対する思いを軽く見ているという事ではないのですが」
「構わない。そうか、他国の者から見てそういう風に教義に対して束縛が有ると誤解されているのであれば、モルデニアスの一員としては憂慮せざるを得ないな……」
クロムは伯爵の反応をじっと観察していた。
これを知らないはずが無いのだ。
今の所綺麗に取り繕ってはいる――。
(本来のイベント時期までは隠蔽し続けるスタンスを取っている、という事なのか?)
豹変し襲い掛かってくる事も考えた。
出来れば何らかのリアクションが欲しい所ではあるが、今の所その気配は感じられない。
どうせ伯爵が吸血鬼だというのは分かっているのだ、リッツから得た情報に照らし合わせても。
そこにゲームからの変更は無いと思える。
だからとっとと問答無用で討伐してもいいのだが、目的はそうでは無い。
(本当に欲しい情報は一つは確認出来た。リヴァイアサンもそうだけど、ルゲイオもこうして既に配置されている。その影響で事件性のある出来事も勃発している)
これまで唐突としか思えなかったバトルイベントはある。
最初のガルテン王国で行き会ったモンスター暴走事件やアンデッド事件などが。
しかしながら考察を重ねる中で、それは実は唐突に起きた訳でもなんでもなく、クロムが今回のように情報収集をする気になっていればその尻尾は掴めていたのではないか、と思うようになっている。
むしろその方が自然だ。
知らない場所で起きている知らない事の情報など手に入らなくて当然である。
ルゲイオが本来のイベント開始時期に先駆けてこうして騒ぎを起こしている事だって、ここに来なければ分からなかったのだから。
そこには自分が災いを呼び寄せているのではないかという罪悪感から逃れたい気持ちも無いではないが、それとは切り離して考えた方がいい。
考えても無意味というのもある。
メルビオの事だって未知だった。
ルゲイオの凶行とクロムの関係性を知る術があったとしても、全ての出来事でいちいちそれを探った所でじゃあどうしようと解決策が思い浮かぶでもないのだ。成り行きだと割り切る他無い。
とにかく魔王イベント発生以降に起きるはずのリヴァイアサン・シドレーイベントも、こうしてオンタイムで隠密に進行している。
ゲーム的な考え方をしなくとも、全てが整合性を無視して突如各地に敵キャラクターや事象が発生する訳ではないという事の確認は取れたといっていいだろう。
隠しダンジョンが既に発露していた事もそうだ。
リアリティーは有る。
一つの歴史の流れとしてある程度全てが用意されているという訳である。
クロムが本来の主人公開始年齢を選ばずに、神の勧めに従って長いオープニングを過ごす事を選択したせいかもしれない。
という事は、だ。
(魔王についても何かしらの伏線は有るはずだ――俺がやるはずだった勇者もそうかもしれない)
あの最初の町から始まる旅は、モルデニアスで勇者任命へと至る。
クロムがそこから外れたルートを選んだとしても、その勇者任命に至る何かしらは既にこの国に用意されている可能性がある。
まあ、神都か皇都。
探るとすればその辺りか。
(ルゲイオとリッツの戦力は出来れば実際に確認したいな。そうすれば俺の代わりに勇者になる奴の能力もある程度――いや、勇者不在……違うな。主人公は特に限定的な能力を持つ人物という設定じゃなかった。必ず誰かは選ばれるはずだ)
現在、ゲームとの最大の相違点はクロムが時間を遡って開始した部分になる。
プラチナはオープニングと言っていたが、同時にそこでも死ぬなどと物騒な事を言っていた。
ならば逆に考えれば本編開始前に魔王討伐、それが無理でも配下の戦力は殲滅しておける可能性がある。
そんな風に都合よく叶わないとしても、メルビオを擁するレバイド海賊団のようにカウンターキャラを用意しておける可能性は高い。
魔王に対する勇者、配下に対する強者。
それがあると知れれば、クロム的には一安心という訳だ。ある程度好き勝手気ままに生きても世界が滅ぶなどという憂き目に会う心配は無くなるだろう。
まあ、魔王に関しては望みは薄い。
ゲーム終盤クラスのキャラが居て、勝手に倒してくれると考えるのは都合が良すぎる。
どうしても自分がやりたくないという程でもないし、魔王はさっさと自分で対処しても構わない。
(ただ普段はクロムでしか無い事を考えると出来ればやりたくないんだよなあ)
ジョシュの営業トークが始まっていた。
性能は試したのかとか、そんな当然の質問に平然と嘘八百で答えている。
つくづく頼りになる男だな、とクロムは思う。
この世界に通じたジョシュがいれば色々と任せられる事も多い。随分と楽しながら生きて行ける。




