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未知との遭遇


 ビッチビチ。人魚族の女性二人はしっかり下半身が魚のそれだ。

 鯉のぼりに足を突っ込んだような、見事な魚類の下半身を船べりから出し腰掛けている。


「龍神て何~? 知らないわよね」

「聞いた事ないけど」


 サムの呼んでくれた人魚族にいいから必要な事だけ聞いてしまえと質問してみたクロム達だったが、豪快に空振りしてしまう。


 クロム的には龍神というのはあくまで人族側がそう呼んでいるだけなので、海底神殿といえば分かるのではないかと思っているが今この場でそれを言う訳にもいかない。


「あ、じゃあ質問変えますね」


 クロムは人魚族のスキルが人間を海底まで連れていってくれると知っている。

 なので本来質問すべきは


「海底まで行きたいんだけど協力してくれるか」


 なのだが、それもまだ必要ない。クロムから聞いてしまえば隠している事がバレかねない。

 色々と遠回りに聞いていく。


 Q 人魚族の生態。

 A 海中にコミュニティーを作り、それなりの水深がある海底に住みかを作って暮らしている。


 Q 人族との接触。

 A サムが居るので警戒していないが、普通はタブーとなっている。大体の場合釣り上げられると言われているらしい。


 Q 何着てるの?

 A 人魚族伝統の衣服。特殊な魚の皮をなめして作っており、大層種類がある。


 などなど。



「おい、お前の聞いてる人魚族の情報って何だよ? 何も知らねえぞこいつら」


 ヒソヒソとジョシュがクロムに話す。

 

「直接的じゃなくて間接的に意味があるんだよ多分……とにかく知り合いになっておくのは無駄じゃないはずだって」


 クロムの両親の情報頼みだ。

 人魚族どうこうというのはドレーの手記には一切登場していない。

 ここまで真面目に情報を整理して書き留めていたジョシュだったが、得たものといえば人魚族のトリビアと岩礁地帯にUMAが住むというものだけ。


「私達の長老なら何か知ってるかも」

「うん、質問とかはそっちにして貰うといいよ」

「ほんとですか、じゃあ会えるようお願いして貰えませんかね? あ、お礼とかもしますんで」


 お礼という言葉に敏感に反応した人魚二人がジャボンと海中に消えていった。


「海の事なら大概知っとると思っておったがまだまだじゃのお……」

「なんか思ってたのと違うけどな」

「人魚族ってこんなんだったんだな」


 サムはマーサにおねだりして船室で食事のもてなしを受けている。

 ストレイ号の甲板に残った四人は想像だにしていなかった邂逅に溜息をつくばかりだ。


 クロムのイメージとも程遠い。

 自分の意識が影響しているはずなのに神秘性のカケラも無いのは一体どういう訳か、まさか混濁した意識の中でこんな妄想をした訳でもあるまい、と頭を悩ませていた。


 やがて再び海面にユラユラと何かの影が三つ立ち昇ってくる。かなりの勢いだ。

 ポーンと跳ね上がり、ビタッビタッと船べりに仲良く三人腰掛けた。 


「サムはどこ行ったんじゃ」

「あ……今食事してます……」


 振り向き美人という言葉がある。

 見返り美人などとも言うが、半身をひねってこちらを見るその姿は大層美しい。


 が、長老と思われる人魚は違った。

 ザパッザパッと頭を出したのは先程のブロンド美女二人とシワッシワの老女。

 髪の色は褪せ、やや黒ずんだ肌にシミがいくつも浮かんだ目つきの悪い顔。


 別に容姿を悪し様に言う訳ではない。

 ただ彼女は水着を着ていない、それだけ。

 しかし痩せぎすの体に垂れ下がった乳房は、あまり見たいものではない。


 男達は一斉に目を背けた。

 ウリでさえ。


「こっち見んかい」

「はい、船長が聞きたい事があると」

「船長」

「船長!」


 クロムの視界の端でジョシュが観念するかのようにギュウッと拳を握り締めるのが見えた。


 何の試練なのか。

 分からないが批難もできない。

 しかしそれが普通だというなら何故若い人魚族の女達は水着を着ているのか。


 ジョシュは渦巻く言葉を必死に飲み込む。

 理由など勿論無いがカトラスが欲しい。


「龍神の秘宝を知ってるかい」

「知らん」


 長老は言葉尻に被せるように素っ気無く言い放つ。ジョシュは奥歯を噛み締めた。


「……シーバル」

「はい」

「後何聞きゃいいんだ、え?」

「……今後聞きたい事ができたら会ってくれるかとか、友好関係を築く感じで……」


 ジョシュの怒気は男達皆理解している。

 クロムも申し訳ない気持ちがある。

 だがこれも必要な事であるのは間違いない。誰かがやらなければいけない。


「俺はジョシュってんだ。この船の船長をしているんだが、人魚族と友好関係を築きたい」

「ふうん。何でだい?」

「あんたらの縄張りに邪魔しようって気はないんだ。ただ海の事に関しちゃ詳しいだろ? だから必要な時に色々教えて貰いてえんだ」


「確認だけど礼をしてくれるって言うのはつまりその都度って事かい?」

「……ああ、モノによるけどよ」

「龍神とやらは知らないけど」

「それはもういい。別の事とかだ」


 ジョシュ以外には見えていないが、長老から何かを考えているような気配が伝わってくる。


「サムが会ったって事はあんたらは信用していいって事なんだろうね。ま、いいよ。海の質問に答えるなんざお安い御用さね」

「そりゃ助かる」

「だけどひとまず今の分の礼も貰えるんだろ?」


 チラリと様子を窺ったジョシュにクロムが頷く。


「勿論だ」

「じゃあ頼みがあるんだけどね。それを叶えてくれたらいつでもここに来れば会って質問に答えてあげるようにするよ。あたしじゃなくてこの娘達を行かせるかもしれないけどね」

「望外です、それは」


 

 

==============================




 人魚族の長老の頼みというのは、ある場所のものを取って来て欲しいというものだった。

 それはこの岩礁地帯の目印にもなっている大河を遡っていった先にあるらしい。


 フロッグマンという種族に奪われた宝という事だった。巻貝の笛。

 ジャングルの密林のようになっている湿地帯に巣食っているとの事。

 奪い返しに行きたいのは山々だが、人魚族は淡水には入っていけなくて困っていたと。


 海水魚だったか、とそれはまあ海に住んでいるのだからそうだろうとは思っていたが、思わぬ形でクロムは回答を貰う。


「ジョシュ」

「何だよ」

「立派だったぞ」

「うるせえよ」

「男を上げたな、ジョシュ」

「船長らしかった」

「うるせえよ!」


 不機嫌さを隠そうともせず舵を握るジョシュにウリ、ダリ、クロムが声を掛ける。

 が、効果は今一つのようだ。


「ほらほら、仲良くするんだよ」


 マーサが手を叩き諌める。

 メシを食って満足したサムはあっという間に海に飛び込み居なくなってしまっていた。


「これ吹けばって結構なお宝ですよね」

「じゃろうなあ。ドレー船長がこれを見ておったら大喜びじゃったろうにのお」


 長老から小さな棒状の笛を預かっていた。

 あの岩礁地帯付近で吹けば来るらしい。


「んで、どうするんだ?」

「今度は明確に戦いになりますからね」

「フロッグマンか、知らんのう」



 ストレイ号はエジール大陸の南岸に向かっている。ビシオリヴァというその大河は二つの国の領土を分ける境界線ともなっており、両国の船が行き来し決して人外の領域という訳でもない。


 しかし奪われたというからには宝を守るという意識を持っているだろう。

 フロッグマンという種族にクロムでさえ心当たりが無いのだからイベント、それも戦い含みになると見て間違いないはずだ。


 両国が利用しているとはいえ密林そのものも人外の地。船の拠点となっている場所付近にフロッグマンは居ないだろう。


 教えて貰った場所はまず間違いなく人の手が入っていない危険地帯と考えられた。


「俺一人でいきますよ」

「情けないのう。お前さんに任せてばかりじゃ」

「それは気にしないでください」

「俺は行ってもいいんだぜ」

「いや、他にやって貰いたい事もあるし」


 人魚族の宝奪還がどうなるかはともかく、マップ的にビシオリヴァは結構手強いモンスターが出現する中盤マップだ。


 ジョシュを連れてはいけない。

 船に残る人間も考えると、ジョシュには内陸部の買い物に行って欲しかった。


「ポーションだ?」

「ああ。他にも色々あるけど、この機会に仕入れてきて欲しいと思ってさ」


 エジール大陸の奥地とまでは言わないが、上陸予定地点から更に東に行った場所、そこからやや北の方に優秀なアイテムを揃えた都市がある。


 この世界で品揃えが同じかどうかは分からないが、その確認も含めてストレイ号にはそれをやって貰おうという訳だ。


「金と身を守るアイテムなんか渡すから」

「アイテム? まあいいけどよ」


 ジョシュ一人で行かせるかはクルーの話し合いになるだろうが、道中にしろ帰りにしろ金とアイテムを抱えて旅をするのはモンスター以外の危険も孕む。グルゥと同じくジョシュにも武器を渡してやれと、前から考えていたので丁度いい。


「そんでお前、どれくらい掛かるんだ?」

「いやあ、流石に分かんない今回は」

「おいおい、んじゃいつまでか分からん待ちぼうけ食らうって事かよ? そりゃきついぜ」

「フルクタスの息が掛かった港とか無い?」


「エジール大陸にか。そりゃあるぜ」

「だったらそこ教えて貰えればそこで落ち合うって事でどう? 遠すぎると困るけどさ」


 そういう段取りで話が進んでいく。

 フルクタスの同志とはいえ互いに干渉するのはあまり好ましくないそうだが、ストレイ号程小さな存在ならば問題ないだろうとの事。


 ビシオリヴァ東側の国の港を集合地点とした。

 


 

 クロムはジョシュがぶったまげるであろう事は覚悟している。

 渡す金の桁も想像を超えるだろうが、ジョシュに装備させるアイテム、売ってきて貰うアイテムも想像を遥かに超えるはずだ。


 <マスターベルト>という装備を考えている。

 これはアクセサリの一種だが、モンクスキル未取得者が装備すれば身体能力の向上以外に一定レベルまでのモンクスキルが身に付く。


 効果の本命はスキル獲得ではなく本職モンクスキルの効果上昇であるものの、そういう風にモンク以外が装備する事でモンクの代用品を一時的に作り出す事も可能な逸品。モンク最終装備候補でもある。


 最初こそ若干戸惑うだろうが、多分装備すればスキル的にはバッケルを超えると見ている。

 肉体ステータス的にもジョシュはそこそこあるし、補正で充分使いこなす所まで行くだろう。



 まあ失っても大して惜しくない装備だ。

 クロムが装備した所でその効果が発揮されない事は既に確認済み。売れば相当高値が付くだろうが、そんな金に換えるアイテムならゴロゴロインベントリに眠っているし、ディーには然程必要でも無い。


 収集家としてのこだわりは実はもうあまり無くなってしまっていた。

 グルゥやエファ、マリーに与えた時点で割り切ったつもりでいたし、有効活用というか何か満足感も感じていたからだ。


 世界を驚かせるキャラを自分が生み出しているという面白さもある。

 その分相手の危険もあるし、そもそも親しい相手にしか渡そうとは考えていないが。

 

 ストレイ号のクルーを海上のパーティーと考えるなら、もっと早くジョシュを魔改造していても良かったくらいだとクロムは考えている。


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