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レギンスタ王国 7


 ゴブリン対策の仕掛けとして、門はほんの少ししか開かないようにしてある。

 その門の隙間から漏れる篝火の光にまんまとつられ、続々とゴブリン共が集まってきていた。叫びで仲間に呼びかけているように思える。


 歓喜しながら体をねじ込み隙間をすり抜けてきたゴブリンを次々と仕留めていく。

 楽な作業だった。

 両脇に伏せ、リッグスと戦士が狩っていく。


 もう一人の戦士はバックアップとして控え、万一別の場所で柵を乗り越えようとするゴブリンがいればそちらに駆けつける。


 もしくはリッグス達と交代する。

 柵を乗り越えようとするゴブリンは時間が掛かるし、弓戦士が射抜くだろう。

 ケイマンも魔法で仕留められる。あまり心配はしていない。盗賊も監視しているはずだ。


「よう、ゴミ共! おら、こっちだ!」


 控えの戦士が門の隙間から見える場所で手を叩きゴブリンを挑発している。

 門の外からその姿を見ているゴブリンは興奮し、仲間が次々と両脇に引き摺られ消えていっている事に何の危惧も抱いていない。


「ふっ」

「うら!」


 見た目は熊手に似ている。

 鋭く尖った五本の鉄製の鉤が脆いゴブリンの体を深々と貫き、絶命させる。

 リッグスと戦士は突き刺しては後ろに放り、突き刺しては放りと農作業が如き動きを繰り返していた。


 ケイマンが考えた作戦だが、想像以上に当たっていた。入れ食いという奴だ。

 ただしこの作業、尋常ではない程体力が必要となってくる。熊手を一撃で深く埋め込む筋力と、そのまま手繰り寄せて背後に放る全身運動は鍛えた人間でもまず数分で息が上がる。


 リッグス達がそれを可能としているのは無自覚の戦闘スキルに拠るものなのだが、それとは別に仲間を殺された恨みも原動力となっている。



「はっはー、豊作だぜ!」

「ああ、まったく、なっ!」


 リッグスにはこんな経験は無い。

 このやり方を聞かされ最初は否定的だったが、冒険者だった仲間達がケイマンの作戦を評価したので受け入れた。


(所詮自分は素人だという事だ)


 今ではケイマンの博学と、冒険者達の経験に感謝する他無い。

 何とか大きなミスはしないでこられたが、シーバルに火を付けるよう指示したあれが無ければ、隠し通路に入り込むゴブリンを見逃さずに済んだかもしれないと後悔していた。


 戦士と交代で突き刺す。

 絶命の手応えを確認して後ろに放り投げる。

 疲れを感じないと言えば嘘になるが、見事に敵を殲滅していっている事に高揚していた。


 きっと自分とソレドだけなら愚直に剣を握って真っ向から対峙していただけだろう。

 そしてあの洞窟の時のように、みっともなく窮地に陥っていたはずだ。


「代わるぜ」


 気付かなかった。

 背後で控えの戦士が熊手を構え交代タイミングを窺っている。夢中になっていたようだ。


 合図をし、ゴブリンを捉えると放り捨てずにそのまま後ろに下がる。

 代わって入った戦士は見ていて呼吸を掴んだのだろう、スムーズに狩りを始めた。


「はっ、はっ、はっ」


 後ずさると足元にグニャリとした感触。

 見るまでもなく放り捨てていたゴブリンの死体だと分かってはいたが、生きていやしないかと思わず足元を確認する。


 散らばった死体。

 醜悪な形相のゴブリン共の死体がかなりの数転がっている。自分がこれをやったのか。


 俺も挑発に回らなければ。そして少ししたら作業を続けている戦士と交代しなければ。


 そう思い熊手に突き刺したままだったゴブリンを揺すり落とし、回り込むように前へ歩く。

 だが急激に何か込み上げてきた。

 顔の辺りが冷たい。

 体がずっしり重い。


「はあー、はあぁーっ……」

「おい、疲れてきたんじゃねえのか!」

「てめえこそもうバテたんだろ!?」


 呼吸音がうるさい。

 二人の戦士の声が遠い。

 自分は決して冒険者などに負けないと思っていたが、認めるしかないだろう。

 ことモンスター退治においては彼らに遠く及ばないようだ。剣の強さは全てではない。


 震える手と笑う膝に力を込める。

 情けない。

 ソレドを失ったのも罰だ。

 思い上がりが、俺がソレドを殺した。


「リッグス! 大丈夫か、飲め」

「ああ……」


 何でお前がここに居るんだ、とぼんやり思いながら渡されたポーションを言われるがまま飲む。


「まず……っ」

「良薬口に苦しだ、しっかりしろ」

「嘘つけ」


 気付け薬として売り出せるんじゃないか、そんな軽口が浮かぶ程にぼんやりしていた頭がはっきりする。遠かった音が戻ってきた。


「ネイヴ、危険だぞ」

「そんな事言ってる場合じゃない」


 その通りだ。

 しゃっきりした意識のおかげでやるべき事を思い出す。相変わらず体は重いが、マシになった。


「そのまま続けろ! 後は残党狩りだ」


 ケイマン、盗賊、シーバルが来た。


「一応万が一を考えて弓は残してあるが、上から見た限りじゃ全部ここに集まってた。それももう大して残っちゃいない」

「そうか」

「おう、農夫共! 合図したら一気に門開けるぜ。最後の奴らがビビって逃げ出したら困るからよ」


 盗賊の言葉に勝ちを確信した戦士達が気勢を上げて応える。

 シーバルが次々に支援を供給していた。

 だがリッグスには飛んでこない。


「おい、シーバル」

「あんたは残ってろ。その様子じゃゴブリンにさえ不覚を取りかねんぜ」


 ケイマンを振り返るが瞼を押さえている。

 消耗しているらしい。


「……すまん」

「凄えなあ。俺にゃ無理」

「俺はもっと無理だね」


 一体どんな体力をしているのか、と戦士達の働きにシーバルと盗賊が賞賛を贈る。

 まさか自分に対する嫌味ではないのだろうが、素直にリッグスもそう思う。


「行くぜ!」


 ガゴン、と門が開いて行く。

 待ち構えていたゴブリンの群れはたしかにもう二十匹と残っていないように見えた。


 飛び込んだ盗賊とシーバルが熊手を放り捨てる戦士達のカバーに入る。

 ゴブリン程度なら盗賊も速さで圧倒できるらしい。想像より見事に急所にナイフを埋め込んではヒラリと立ち回っていた。


 シーバルも自己強化を掛けたのだろう、細身の槍でゴブリンが接近する前に突きを入れ捌いている。そこにそれぞれの武器に持ち替えた戦士が突っ込んでいき、追い散らす。


 群れでなくなったゴブリンは逃げるらしい。四人はその後を追って門から飛び出していった。

 


 残ったのはリッグスとケイマン、ネイヴ。

 その事に何故か三人共が罪悪感を感じたのかもしれない。もしくはリッグスのそういう意識が伝播したのかもしれない。


「……シーバルには話した」

「ネイヴ? 何をだ」

「後で話す。今はゴブリンに集中して貰いたかったから黙っていたが、問題が見つかった」


 うっすら分かる。

 ネイヴが告白するかのように、話した、と言うのならそれは一つしか思い当たらない。

 ただネイヴの言うように今はまずゴブリン共を完全に仕留める事だけ考える時だ。


「そっちはどうだ!」


 大声で見張り台へ声を掛ける。

 無人の村に声が響く。アッセト山脈からの反響のせいだろう、ワンワンとこだました。 


「多分大丈夫だ! 何も見えない! 念のため周囲は洗った方がいいがな!」


 弓戦士の声が返ってきた。

 群れで行動するゴブリンはどういう行動原理か全て解明された訳ではないが、門に集まった以上おそらく取りこぼしは無いと思える。


 念のためではあるが、一応四人が戻ってきたら周囲を探索できるよう、松明を用意しておく。

 声のやり取りに反応したのか自警団の男達も集まってきたので、ケイマンが素早く指示を出していく。もし生き残りが居たとしても群れで無い以上、敵ではないと説明しながら。




==============================




「スピオラ様が……」


 既に朝になっていたが、門と村周辺では未だに死体を集め焼き払う作業が続いている。

 モンスターの死体を放置しておけば疫病などが発生しかねない。


 ゴブリンには死体に何の価値も無いのが悔やまれる。素材となるような部分など何一つ無く、冒険者達はそれにうんざりしていた。


「ああ。シーバルに話したのは成り行き上仕方なかった。見つけてくれたのもシーバルだしね」

「あいつは放っておけないな」

「ロレン、まだそんな事を言ってるのか」


 フリート家から派遣されてきた立場としては、王国から睨まれているとはいえゴブリンを退治して万歳とは行かなくなった。


 見えない新たな敵の存在が浮き彫りとなったのだ。これは再び傭兵団として危機に備えておけばいいという類のものではない。村に留まるかフリート家に報告するか。


 もしくは。ルセリアを無理矢理にでもフリート家に引き摺って連れていくか。

 それさえ出来れば問題は何も無いとも言える。

 ルセリアが頷くはずも無いのだが。


「意味無いな、それは」

「ルセリア様はバーク殿が居る限りここを離れて生きていきはすまい。もっと言えばツフレ村有る限りそうかもしれん」


「じゃあどうする」

「我々が考える事ではないな、これ以上は。とにかく目的は果たした。後はこの事実をフリート家に報告するのが最善だろう」


 当初の計画通り、これでリッグス達は素知らぬ顔でツフレ村を離れる。

 それしか無いだろうという結論に至る。

 当初の計画通りとは言っても、本来はこの傭兵団を組織したまま、ルセリアがフリート家に帰属するまでロレンの救援要請に備え続けるという計画だったので変更はあるのだが。


「一応その計画は続行してみるか? 報告はネイヴが行けば済むとも思える」

「ソレドを失ってか。少なくとも俺はそれを伝えなきゃならん義務があると考えているぞ」

「待ってくれ。薬の問題がある」


 各々屋敷の地下を見渡す。

 ネイヴが洗い出した苦労の跡が窺えた。それを見回した三人は口を噤む。


「ルセリア様は壮健なのだろう?」

「ケイマン、待て」

「……意外だな、ロレン。君はバーク殿を殺してしまえと言うかとも思っていたのだが」


 多分ケイマンはわざと言っている。

 しかしロレンは顔を背けた。


 ガタリ、と地下へ続く扉を動かす音。

 はっとなり一斉に身構えた四人の目に、ルセリアが降りてくる姿が映る。


「お嬢様、どうなさいましたか」

「私も何かしなければと」

「今、薬の問題について話し合っていた所です」

「手を貸してくださるのですか」


 これはネイヴの勇み足だった。

 確かにリッグスとケイマンがここに居る言い訳なら、それが一番辻褄としては合う。

 だがリッグス達は村に留まると決めた訳でもない。ネイヴの発言に内心何を、と全員が思う。


「と言っても俺達は傭兵だからな。何が出来るとも言えねえんだがよ」

「ネイヴさん。薬は材料さえあれば作れるかもしれないと仰っていましたよね?」

「あ、ああ……確実とは」

「お願いいたします。お金なら必ず用意いたします。父上の薬を何卒お願いいたします」


 ルセリアが深々と頭を下げる。

 すぐにロレンがそばに寄り、宥めて頭を上げるように言い聞かせた。


「……私からも頼みたい。バーク様の薬を用意できるなら、君達にもう一働きして貰いたい」



 そう言ってロレンはルセリアを上へと連れていった。残った三人は顔を見合わせる。


「ロレンは少し変わったな」

「私は良い変化と思うがね。この村が彼をあんな風に変えたんだろうよ」

「あれは本心か?」

「どうでもいい。ふうむ、どうするか」


 ロレンの変節が微妙に方向性を変える。この計画はあくまでロレンが主体であり、リッグス達はバックアップにすぎない。


 ネイヴは薬師として看過できないという個人的な思いがある。

 ケイマンは純粋にツフレ村への同情。

 救えるなら救いたいという思いがある。


 そしてリッグスは焦り。

 無力感もさる事ながら、フリート家付きの騎士、剣士として戦うという事を自分が理解していなかった事が心境に変化を与えていた。


 リッグス自身は自覚できていない。

 ただこのまま、またフリート家の指示に従い生きていくだけでは似たような過ちを繰り返す、そんな焦りがあるだけだ。


 何より、三人にとってスピオラが何者かに殺害されたという事実は胸に燻るものがある。

 フリート家への忠誠心は然程でも無かったが、卑劣な人間がのうのうとしている事に憤っている。王国に少し嫌気が差している。


「やってみるか?」

「何をだ」

「ロレンの言う通りにさ。バーク殿の薬を何とかする。ツフレ村をより安全な状態に立て直せば、毒を盛った者がまた動くかもしれない」


「それをどう捕まえると?」

「さあ。それは分からない。相手すら分からないんだ、考えて答えが出るはずも無い」

「そんな答えの無い事をやる男だったか」

「私も変わったのさ」


 レギンスタ王国の封建制度に馴染んできた男達は、何故冒険者達がギルドを離れ自由な意思を尊重したのか少しづつ理解し始めていた。


 そこにはソレドの死も影響しているだろう。

 ロレンというお堅い規範の見本のような男の、昔なら想像だにしなかった様変わりも。


 


==============================




 ささやかな祝宴。

 死者の弔い方の一つでもある。

 貧しい村ゆえみすぼらしいと断じられても仕方のないものではあるが、苦難をまた一つ乗り越えた事への喜びは王国の祝賀と比べても遜色ない。酒食に彩られていないせいか、かえって人間の生きる喜びというか、根源的な鼓動を一層感じられる、そんな宴だった。


「こりゃ美味い」

「作物の味は抜群だぜ、やっぱよ」

「ここら一帯は手放すべきじゃねえな」


 料理は質素だが正直驚く程に美味い。

 土壌が豊かなのは誰もが知る所だが、こうして味わってみるとそれがよく分かる。


 外から来た者達で、ここの苦労を知らないからとも言えるが村の住人はそんな傭兵団の姿を嬉しそうに眺めている。


 リッグス率いる傭兵団は薬草の入手など、追加の依頼でもうしばらく留まる事になった。

 全員がそれに頷いた。

 シーバルを除き。



「お前が居ないとなると厳しくなる」

「当面危険は無いだろ?」

「こちらの事情を知っておいてか」


 ロレン、リッグス、ケイマン、ネイヴ。

 一人抜けると言ったクロムに、村の外れの柵前で最後の説得を試みている。


「俺が何か言いふらすとでも?」

「よせ、ロレン。シーバルには感謝こそすれ恨みなど無い。そんな所は硬いままだな」


 クロムにとってはまた選択だった。

 このままレギンスタ王国の潮流に乗るか、他の地へ行くか。もしくはアッセト山脈を制圧してしまうなどという冒険の選択肢まで考えた。


 だが軽々しく足を突っ込むには深すぎる。その一歩は簡単に引き返せる一歩ではない。


「ケイマン、あんたとボースには俺の方こそ感謝してるよ。出会えて良かった」

「私もひさしぶりに、不謹慎かもしれないが楽しかった。……ボースもそうだったように思う」


 少しだけしんみりした空気。


「よそうか、せっかくの宴に」

「そうだな、シーバルの別れの宴でもある。短かったが世話になった」

「私はお嬢様の所へ戻る」


 説得は無意味なものだったと判断したロレンが背を向ける。ロレンは別に残って欲しかったというより、事情を知ってしまった者を手元で監視しておきたかったのだろう。


「気を悪くするなよ」

「いいさ。ああいうのも必要な人間だろ」

「野蛮な男かと思えば存外にそういう理解もある。本当に君は面白い男だよ」


 リッグス達にとってシーバルという男は最後まで掴みどころが無かった。

 報酬はソレド達に墓でも建ててやってくれ、と受け取ろうとしなかったのがトドメだ。

 魔法の授業料と言い放った。


「あの洞窟はどうするつもりだ?」

「あそこか……まだ何も考えていない」

「可能なら封印してしまいたいと思うがな」

「できればそれがいいだろうな。次はゴブリンなんかじゃ済まない可能性がある」


 例の隠し通路はただ入り口と繋がっているだけのものとは誰も考えていない。

 もしかしたらレギンスタ王家にまつわる緊急の避難場所とかで、入り口以外にもアッセト山中に通じる通路が複数伸びているのではないか、そんな考察まで出ていた。


「見送りはいらない。わざわざそんな場面にここの人達をつき合わせちゃ、せっかくのムードが台無しになるかもしれないからな」

「まあ、出て行く姿は見せない方が賢明か」

「リッグス、はすっぱな口調はもっと徹底した方がいいぜ。最初っから随分ブレまくってたからな」


 む、とリッグスが口ごもる。

 ケイマンとネイヴが笑う。

 実はクロムもそうだが本人は気付いていない。


「ネイヴ」

「何だい」

「これ、役に立つかわからないけど」


 クロムは一枚の紙を差し出した。


「これは……レシピか」

「俺の知ってるもので役立ちそうなのを書いといた。材料が手に入らなければ役立たずな情報だけど、寝物語にでも読んでくれ」


 クロムに調合の知識は無い。

 だが何を作るために何の素材が必要かは頭に入っている。このアイテムはあのアイテムの素材になる、そういう覚え方だ。


「これ……本当にこんな効果を持つものが出来るのか? だが材料しか書いてないぞ? ……何だ、聞いた事のない……クアドラの髭? カリュプスというのは何だ?」


 ネイヴには一見信じがたい効果を持つアイテムの説明だけが記載されている。

 調合した薬の名は書かれていない。

 ただ素材だけが書かれている。


 やり方を知らないクロムは分量や調合の方法など書きようが無いので仕方ないが、そこはネイヴに任せるしかない。これらはクロムが思い出せる限り考え抜いた、アッセト山脈から調達できる素材とその調合先になっている。


 おそらく死体から剥ぎ取れるであろうもの。

 後々アッセト山脈から溢れるかもしれないモンスターの特徴。今は限りなくゼロに近いかもしれないが、将来役に立つかもしれないもの。


 急いで書き上げた。

 この内、特に必要とされそうな退魔効果を持つ聖水は素材が調達できそうだと睨んだ。

 入手できないであろう素材はインベントリにあったため、書置きと共に例の地下室に持ち合わせを全て置いてきてある。


 それもネイヴの調合の腕次第だろうが。

 調合自体出来ないこの世界では、クロムが持っていてもどうせゴミにしかならない。

 クロムにとっての些細な罪滅ぼし。


「御伽噺みたいなもんだよ。機会があれば試してみるといいんじゃない。暇つぶしにさ」

「いや、これが本当だとしたら凄い……」

「ふーん? 私も知らないな」

「ネイヴ、お前も仕事は多いんだぞ」


 横から覗き込んでいたケイマンが眉を上げる。リッグスは余計なオモチャを与えるな、と言わんばかりの苦い顔だ。



「じゃあな」

「おい、あいつらに最後に挨拶もしないのか」


 柵を乗り越えてこっそり出て行くつもりだと知ったリッグスが慌てる。

 だがシーバルという不思議な男は勢いを付け、タタンと驚くべき跳躍で柵を乗り越え消えてしまった。あまりにもあっさりしていた。


「ルセリア様にも……」

「……ロレンが伝えているだろう」


 残された三人は呆気に取られている。

 不意に現れ唐突に去っていった。


 冒険者というものへの得体の知れなさが益々募るが、シーバルはそれともどこか違う気がする。

 

「ケイマン、惜しいか」

「ああ」

「その様子を見るとお前もだな」

「ああ、これは……とんでもないかもしれん」

「信じるのか?」

「信じてやってみる価値がある、とだけ言おう」


 ネイヴはシーバルが残した紙を食い入るように見つめている。多分持ち合わせた知識に照らし合わせて配合などを想定しているに違いない。取らぬ何とやら、という奴。


 ケイマンは腕を組み、シーバルを隠してしまった柵を見つめている。

 リッグスが認めたくない、喪失感のようなものをケイマンも感じているのだろう。


 何故自分がそれを感じている事を認めたくないのか、リッグスには確かには分からない。

 きっとあのカツラの下を確認できなかったせいだな、とそんな風に言い聞かせた。


 これ以上自分を見苦しい男にしたくは無かった。ソレドにそう誓ったのだから。



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