レギンスタ王国 2
リッグス率いる傭兵団は全部で十二人構成となっている。
その内魔法使いは何と三人。
これは人数比で行くとかなり多い。
全員が攻撃魔法を使うが、主な攻撃魔法、火力役は魔術師であるボースが担っている。
熟練の冒険者であるボースは年嵩で体力こそないが、属性魔法の中でも習得の難しい雷系の魔法を使う事が出来る優秀な魔術師だ。
雷系の下位呪文である電撃は杖や指先から電撃を放つ魔法だが、火系魔法や風系魔法と比べると、同ランクでもその使い手には滅多にお目にかかる事が出来ない。
イメージが難しいのだ。
火や風と違い雷という自然現象は中々普段感じる事が出来ないせいだとされている。
そういう意味では水系や土系も火や風と比べると難しいと言える。
威力減衰が著しいため射程こそ短いが、電撃は敵への到達速度、全身へのダメージ、感電効果波及とかなり優れた魔法である。
コストパフォーマンスでいえば火系魔法こそ最強の破壊魔法と呼べるだろうが、直接の殺傷力でいえば雷魔法には及ばない。
そんなボースに加え、ケイマンという魔術師は攻撃魔法、補助魔法の両方を使いこなす。
扱うランクはやや低いが、それでもその戦力は相当に戦術に幅をもたらす。
更にケイマンは補助魔法の中でも特殊な、盗賊魔法とか密偵魔法とか呼ばれる魔法を使う。
先の洞窟を偵察した<視覚操作>や、薄い壁を透視する<跳躍視>といったものだ。
そしてシーバルも同じく攻撃魔法と補助魔法を使う。こちらは魔法こそそこまで強力ではないが、戦士としても計算できる動きが可能だ。
リッグス他前衛戦士系が五人、盗賊が一人。弓戦士が二人に薬師一人と分厚い構えをしている。
尤も全員が長年の付き合いという訳ではない。連携が取れているかというとそこは微妙だ。
リッグスの傭兵団は中核となるメンバー以外、仲間を加えては離脱、また仕事に応じて仲間を加える、そういった編成をしている。
リーダーである剣士リッグス、サブリーダーであるソレド。魔術師であるケイマンに薬師であるネイヴがオリジナルメンバーであるらしい。
クロムはそう聞いている。シーバルと名乗り加わった、一番の新入りとして。
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森から少しだけ離れた山肌の洞窟。
何故そこが山肌と呼べるかというと、アッセト山脈は裾野がなだらかな山ではなく、多くが唐突に盛り上がった岩場の如き山だからだ。
断崖のようにグランドキャニオンの片方だけがそこにあると思って貰えればいい。
そこから急激にカクカクとした登山可能な山となっていく、そんな感じになっている。
「なんだよくっせえな」
洞窟近くまで来た討伐部隊は、離れていてもそこから漏れてくる匂いに顔をしかめる。
「大分いるだろ、これ。こんなに匂うか?」
「さあな。特別くせえのが居る可能性だってあるだろ。オーガが食い散らかしてる可能性もある」
「ゴブリンをだったら有り難いけどな」
奴らは共食いはしない。
分かってはいるが軽口だ。
「シーバル、やってみな」
ケイマンがシーバルを促す。
頷いたシーバルはブツブツと呪文を詠唱すると、そのまま目を閉じじっと動かなくなった。
「……入り口から三十歩ぐらいは何も……広い方に跡が……」
囁くように視覚操作で得た情報を仲間に伝えていく。
「血? 引き摺ったような……ああ、ダメだ。そこまでで切れちまった」
「その内もっと見えるようになるさ。お前程習得の早い奴はいない、自信持て」
ケイマンが魔法を使う。
「全然いねえな……別に入り組んでるって訳じゃないんだが。見張りとかそういう概念持ってないのか? ここの連中は」
ゴブリンは好戦的であり、そして臆病でもある。自分達の弱さもまた知っている。
人間と見れば容赦なく襲ってくる習性をしているが、縄張りを争うモンスターに対してはひどく慎重な行動を取るというのはこれまた冒険者の常識だ。
「どうする? 中の様子分からんぜ」
「アテが外れたな」
「しばらくは何も居ないんだろ? なら俺が見てこようか? 入り口に固まっててくれりゃ行くぜ」
盗賊の男が大胆な提案をする。
リッグス達を信頼しているのか己の力量を信じているのか、かなり頼もしい。
しばらく相談が続く。
盗賊を先頭に立てて距離を空けてリッグス達が進む。盗賊が何かを発見した時点で下がって合流し、そこからケイマンの魔法で様子を窺うなり襲い掛かるなりしようと決まった。
手を拱いていても仕事にならない。
万が一ゴブリンが外に出ている可能性もある。もしもそうだった場合、リッグス達は挟み撃ちに合いかねない。一応チャンスがあればゴブリンを殲滅しつつ、後退しながらオーガは広い場所に誘い出そうというのが本線だ。
戦士一人と後退速度に不安のあるボースを入り口に残す。どうせオーガとは交戦するつもりがないので、ボースの火力は過剰ともいえる。
自警団の方には指揮役として剣士のソレド、弓戦士であるレンジャーを一人回している。薬師であるネイヴは元々人数外だ。ネイヴは村で待機して貰い、とにかく村を補給基地としていつでも逃げ込めるようにしたかった。
リッグス達は煤で明度を落としたランタンを掲げながら盗賊の後を追う。
一人先を行く盗賊、リッグス、戦士二人、ケイマン、シーバル、弓戦士というパーティーだ。
「ここら辺で切れちまったんだよな、多分」
「上手くなりたきゃ修練あるのみ。イメージだ」
「コツとか無いのか?」
「それはもう教えたつもりなんだがな」
ケイマンとシーバルが小さく会話を交わす。
基本リッグス達は失敗するとは考えていない。過信ではなく知識によってだ。
ゴブリンはとかく行動が分かりやすい。
真っ直ぐ襲ってくる。飛び道具を使ったりもするが、それは拾ったものだけで、自作する程の知恵も器用さも持ってはいない。
だから基本的にこういう狭い場所ならば跳ね返せる。来たのを殺し続けるだけでいい。
オーガはもっとシンプルだ。
洞窟なら近付かないよう後退するだけ。
それに技術を磨いた盗賊が発見されるより、盗賊がゴブリンを察知する方が早いだろう。
盗賊が下がってきた。
「多分だけどな。この先に広くなってる空洞みたいな場所があって、そこで寝てる集団がいる。で、奥にまたそういう空洞が繋がっていってる。直線の蟻の巣みたいな構造だと見た」
やはりというか盗賊はゴブリンに気付かれる事無く向こうを発見できたらしい。
それどころかその空洞に少し踏み入って様子を見てきたというのだから驚きだ。
「オーガは居なかったんだな?」
「居なかったな。ゴブリンが二十匹程度だ」
ケイマン、と呼ばれた時には既に詠唱を開始していた。ケイマンが目を閉じ集中する。
「大当たりだ。同じような空洞、寝てる奴ら……奥にまた同じ……ん、ここ……行き止まりか?」
その呟きに全員がマップをイメージしながら戦略を練る。ちょっと戦い辛いかもしれない。
「オーガはどこだ? 居たよな、偵察の時」
「まさか外に出てたとしたら二人がやばい」
オーガは活動時間が極端に短い。
その巨体に反してカーストは低いので、縄張りはゴブリンと共に探したりする程なのだ。モンスターの領域では押しのけられる地位にしか居ないため、充分な餌を食い続ける事ができる環境がほとんど無く、動かずじっとしているか寝ている時間が多い。
それが夜に出歩くとは考えていなかった。
夜行性モンスターの方がランクは高い。すばしっこく餌を掠めるられる可能性があるゴブリンならともかく、オーガがわざわざ夜出歩くなど想定していなかった事態と言っていい。
「落ち着け。まだ外と決まった訳じゃない。見落としは無いのか?」
「流石に暗すぎて細かくは見えない……だけど見る限り行き止まりだぞ」
少なくとも三匹は目撃したオーガが居ない。
緊急事態だ。
素早く全員でどうするのがいいか話し合う。ケイマンは魔力の消耗と共に瞼を押さえている。
視覚操作のような特殊魔法は肉体の一部分、今回のケースで言えば目に負担が掛かる。暗闇を見通すためには魔力で補正する必要があるが、そのレベルや術者からの距離、持続時間などで大きな消耗度合いとなってしまうという通常魔法にない欠点もあった。
「ケイマン、大丈夫か」
「問題ない」
作戦変更も考えたが、状況としては考えようによってはチャンスともいえる。
オーガのために外まで誘き出す必要があったのが、居ないのならゴブリンを逃がす事無く殲滅できるのだ。奥が行き止まりになっているのはケイマンの魔法で確認も取れている。
素早く一掃できれば楽になる。
リッグスはそう判断した。
作戦を決め全員で準備を整える。
ケイマンとシーバルが補助魔法を掛け、手前の空洞を一気に制圧する。
そのまま広い空洞で戦い続けると不覚を取る恐れもあるため、次の空洞へ続く通路に立ち塞がってそこで奥のゴブリン共を相手する、そういう作戦に決まった。
最初の殲滅速度が何より重要になってくる。これなら範囲魔法を叩き込めるボースが居た方が良かったな、と愚痴ってみても仕方が無い。引き返して呼んでくる程でもないし、どうせ入り口には警戒の人数が必要なのだ。
リッグスが手だけで合図すると同時に、ケイマンとシーバルが補助魔法を唱え始めた。
高位魔法を使うのはケイマンだが、詠唱速度による手数ならシーバルが上。
ケイマン曰く、シーバルは一種の天才だそうだ。ケイマンの知るどんな魔術師よりも速く、囁き声でも詠唱する事ができる稀有な才能の持ち主らしい。術者二人を除く五人の内、二人がケイマン、三人がシーバルと担当を分けていた。
「行くぞ!」
それぞれ要望通りの強化を掛けて貰った盗賊、戦士三人、弓戦士が飛び出していく。
盗賊の役目は真っ先に通路へ辿り着いて油を撒く事だ。速度強化の支援を受け、風のように空洞を駆けて行く。
攻撃強化を受けた弓戦士が盗賊の目指す通路付近のゴブリンを射抜いて回る。複数の人間の匂い、騒音でゴブリン達が跳ね起き始めた。
「ケイマン!」
寝ている数匹の首に武器を突き立て難なく葬った戦士達に、ギャギャアと叫びながらゴブリン達が飛び掛る姿勢を見せている。煤で汚したランタンの覆いを取り外したケイマンによって一気に洞窟が明るくなる。更にケイマンは油を染み込ませた布にランタンで火を付け、即席の松明を作った。
「ふっ」
明かりの元へ襲い掛かってきたゴブリンをシーバルと戦士の一人が迎え撃つ。
シーバルは既に自己強化を終えていた。ケイマンには出来ない早業だ。
戦士が剣でゴブリンを断ち割り、シーバルがエストックのような細身の短槍で貫く。
シーバルの攻撃力と戦闘技術はオーガと正面から戦うには厳しいものがあるかもしれないが、ゴブリン程度なら圧倒している。
それを確認したケイマンは攻撃魔法の準備に入った。丁度三対四に別れて向かい合い、空洞を塞いでいるような格好になっていた。
最初の空洞のゴブリン達はロクに武器も持たないまま寝ていた事が幸いした。
次の空洞から押し寄せてきた、と盗賊が報告した時にはもう残りのゴブリンは半分以下になっている。ケイマン達と向かい合うようにして、背中の盗賊と弓戦士がアイテムと弓で奥のゴブリンを阻害し始めたのを確認したリッグスは大声で叫ぶ。
「全員詰めてくれ!」
戦士二人に任せ、盗賊の方に向かう。
五人が即座に今交戦中のゴブリンを葬ってくれるまで短時間持ちこたえるだけでいい。
「前出すぎんなよ! 油撒いてっからな!」
盗賊の忠告通り、通路に押し寄せてきたゴブリン達が「グゲェッ!」と悲鳴を上げてもんどりうっていた。しかし体重の軽いゴブリンは転倒したぐらいでは大してダメージにはならないだろう。
そこを次々と弓矢が襲う。
魔法で強化された弓戦士の矢は深く突き立ち、一撃でゴブリンを絶命させていく。
「ちっ、魔法切れだ! 矢もきつい!」
その声で弓戦士の攻撃強化が切れたのを理解したリッグスは前に出る。
同じくリッグスの体からも力強さのような、防御強化の効果が失われていくのを感じた。
転倒した仲間が次々と死体に変わっていくも、それを踏み台にしてゴブリン達が殺到してくる。
強化の切れた弓戦士の矢では一撃で絶命まで至らしめる確率は半分といった所だろう。矢の残数も少ないようだ。
それでリッグスと交代した訳だがすこし早かったかもしれない、とリッグスは思う。
通路が狭いと言ってもゴブリンなら三体は並んで通れる。それが密集して押し寄せてくる光景は如何なリッグスといえど捌ききれないかもしれない。大盾を持った重戦士とかが適役だ。
「くそっ!」
ゴブリン達が死体と油のゾーンでもたついている内に前に出て、力任せに複数を斬る。
死体を増やして一時的なバリケードにしようと考えた。奥のゴブリンは多くが武器を持っている。
人数が揃わない内、特に魔術師の支援が無い内は全て返り討ちにしようと考えるには危険が大きすぎる。リッグスのような剣士職は基本的に、多対一より一対一の技術に秀でた職なのだ。
「ケイマン達は!」
「もう来る!」
盗賊の叫びにリッグスはいける、と己を奮い立たせる。冷静に、来た相手を切り伏せればいい。
だが目の前でゴブリン達が奇妙な行動に出た。目を見開く。
まるで組体操のように、死体とその手前ではいつくばるようにし始めたのだ。
その平らな山を飛び越えるように、ゴブリンが次々と乗り越え始めた。
知恵付けやがって、と文句を言いながら向かってきたゴブリンに剣を叩きつける。
武装もしていないゴブリンは体も小さく強固な外皮も持ち合わせていない。
容易く葬る事が出来た。
だが息付く暇も無くそれを続ける必要がある。
流石に刃物を振りかざして迫るゴブリンを複数体同時に相手し続けるには限界がある。斬り捨てた直後に別の一体、二体と襲い掛かってくるのだ。徐々に後退を余儀なくされる。
まずい。
そう思った時、体が軽くなる感覚と同時に視界が薄く光った。それまでの剣速を超えて剣が走る。
シーバルか、と己に速度強化が掛けられたのを理解したリッグスは一気に攻勢に出た。
今葬ったゴブリンの死体を慎重に踏み越えながら、素早い一撃で絶命させ押し返していく。
そこに、やはりシーバルが駆け込んできた。
「シーバル、火だ!」
リッグスの指示を受けたシーバルはぶつぶつと呟き、すぐさま横に並ぶと矢が突き刺さった油地帯の死体の塊に向けて手を突き出す。
「火炎Ⅱ」
ボッ、と噴き出した火が油まみれの死体に引火し炎を上げた。
ギャッギャッとゴブリン達が離れていく。
引火して悶え苦しむゴブリンもいる。
「あっ、馬鹿お前俺の矢!」
「どうせ使えないだろもう」
「こんなとこで火なんか使うんじゃねえよ!」
弓戦士と盗賊が文句を言っている。
これでひとまず最初の課題はクリア出来ただろう、とリッグスは息をつく。
とりあえず火が収まるまでは奥のゴブリン達を抑えておけるはずだ。その間に手前の空洞は片付く。にしても。
シーバルはやはり使える男だ。
魔法ランクはそこそこだが、魔術師として常識外れの回転速度と機動力は何物にも変えがたい実戦向きな能力と言える。
ケイマンが誘った浮浪者のような身なりの男を最初はいぶかしんだが、出会えて幸運だった、とリッグスは思い返す。
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ストレイ号の最初の目的地はガルテン王国から海を越え北に位置するエジール大陸、レギンスタ王国の南方領土だった。
クロムが指示したのは、世界の中心の海に面したレギンスタ南岸沿いの小さな漁村。そこに龍神伝説の手掛かりの一つがある、というのだ。
「親父さんの資料にゃねえな」
綴じられた一冊の本となっているキャプテン・ドレーの残した手記・地図。クロムはジョシュにそれを頭に叩き込むよう指示して渡していた。レバイド海賊内でも秘中の秘と呼べる資料だが、捜索部隊であるジョシュには確かに閲覧する資格はあるだろう。
にしてもあっさりすぎる。
この世の海の謎に迫った男の残した、偉大な人生が詰まった貴重な遺産なのだ。
フルクタスという一大勢力の中で、初めてその遺産を託された男として期待されている事の大きさは理解しているだろうし、成し遂げればどれ程の扱いを受けるかも理解しているはず。
そんな立場に立った人間が、情報というものの価値を理解していないはずもない。
普通自分が管理するだろうし、万一にも破損しないよう大事に扱うはずだ。
ところがクロムはストレイ号の乗組員が希望すれば別に見せても構わないとすら言っている。
それは手柄の独り占めに興味が無いという態度にも見えるし、情報の漏洩を心配していないというクルーへの信頼のようにも見える。
しかしただ単に事の重要さを認識出来ずに雑に扱っているようにも思えて仕方ない。
ストレイ号はクロムの船だ。
クルーは手下として命令に服従する。
自分だったら決して安易に部下にさえ公開しないだろうなというジョシュの胸中には、同時にそんな小さな懸念に囚われてしまう自分とクロムの器の違い、底の見えない大きさへの新たな感動もあった。
自分を片腕としてくれているのだ。
ジョシュには期するものがあった。
ただクロムにとってそれは当たらずとも遠からずという所だ。
キャプテン・ドレーの集めた情報は、よくぞ集めたなというゲームで示されるものと違う面白さこそあったものの、クロムからすれば意味の無いものと言っていい情報でしか無かった。
ドレーの集めたものとはつまる所ネプチューン海底神殿の存在を示す情報の欠片でしかない。
その存在が実在のものであり、その場所もそこに何があるのかも知っているクロムにとっては全くと言っていい程価値が無いのだ。
クロムがその存在に言及さえしてしまえば、ドレーの資料はそもそも無意味なものとなる。
ただクロムは遠回りして情報を集め、ドレーの資料にも謎を解き明かす道しるべとなった歴史的価値を付属させようとは思っている。
ネプチューン海底神殿はゲームにおいてもボーナスマップの一つだ。
必ず行く必要は無い。
エバーロッテイベントで最終的に出てくる、ネプチューンの秘宝そのものがそのマップの位置を示すヒントにもなっている。
ただこれは竜人種への転生に必要なアイテムを獲得する上で欠かせないマップであり、クロムには馴染み深いものとなっていた。
「俺の両親が言い残したやつです」
「そうか」
小型船の帆は風を受ける総量が少ない。
その上軽量で海流や波の影響をモロに受けてしまい船足は遅いのだが、ストレイ号は新鋭艦と呼んでもいい性能を持っている。
鋭角な船底が水面を切るように滑る船体の上で、ジョシュとクロムは海図を見ていた。
「それは纏めてないのか?」
「書き残すな、と言われてます」
クロムも両親の残した情報までは他言するつもりは無いらしい。ジョシュの杞憂も、クロムがそれを守るなら確かに安全かもしれない。ドレーの情報だけではフルクタスでさえ辿り着く事はできなかったのだから。
実際クロムは情報を全て開示した所で無理なのではないかとさえ思っている。
ゲームではフラグを全て立てない限り出現さえしなかった海底神殿だが、この世界では既に存在はしているだろう。
だから場所さえ示せば不可能ではない。
ただし行く手段が難しい。
海中へ行くには人魚族の助けがいる。更に、神殿の入り口を開けるには世界各地に散らばったいくつかのアイテムを集めなければならない。
この情報の内、アイテム集めが困難だ。
はっきり言ってクロムですら不可能。
ディーでなければ無理な敵に守られている。
クロムは既に海底神殿進入へのキーアイテムを所持しているためこれに悩む必要はないのだが、人魚族の手助けは要る。
そういった要素を集めるフリをしながら、最後に人魚族の助けを得て海底神殿への道を開くというのが今の所クロムが描いている青図だった。
「問題はなさそうじゃ」
「おう、ありがとよウリ爺さん」
扉を開けて顔を出した長い白髪の顎鬚を蓄えた老人にジョシュが労いの言葉をかける。
「ほんじゃ休ませて貰うでの」
そう言ってウリが扉を閉める。
もう周囲は陸地の見えない大海原だ。
ドレー時代からの大ベテランであるウリは白髪を一つに束ねた老人で、御年七十五歳。
腰こそ曲がっておらずしゃんとしているが、髭も眉も白髪で目も開いているか分からない。
「ウリ爺さんなら心配いらねえよ。まだ元気だから死にゃしねえって」
健康状態を心配するようならそれ以前の問題だ、とクロムはジョシュに言いたくなる。
ジョシュが選んでクロムに紹介したストレイ号のクルーは皆老人だった。
ウリ、ダリ、マーサ。
ウリは船大工という奴だ。現役を退いてからは島で後進の育成と監督をしている。
その息子のダリは五十歳で、ジョシュと二人で主な操船を担当している。
マーサはふくよかな体をした六十五歳。
若い頃はドレーの船で鳴らした立派な女海賊だったらしい。食事や物資の管理を担当している。
三人ともが、ドレー時代の猛者だ。
クロムを除けばたったの四人しかいない。
それで大丈夫かと心配したクロムだったが、ストレイ号は操船自体は人手が要らない最新技術が組み込まれている上に、クルーが多ければそれだけ手間も増えるというジョシュの言葉に素人は納得する他無い。
停泊中の防衛はどうするのかという疑問はあったが、ジョシュに全てを任せたクロムは口出ししない事に決めていた。




