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海の国 8


 ルカに上で待っててくれ、とクロムは告げる。不安そうにするルカの頭を撫で、大丈夫、誰も怪我したりしないからと優しく諭す。


「ルカ、上で待ってな」


 エバーロッテの言葉でようやくルカは頷き、泣きそうな顔をしながら階段を上がっていった。

 それを見届けたエバーロッテが笑う。


「いいねえ。要するにアンタはルカのためにレバイドの流儀を叩き潰すって訳だ。嬉しいじゃないか、そこまで言ってくれるなんて」


 凶暴な笑みに変わる。

 ルイも険しい顔をしている。


「納得してくれるんですか? そう言ってくれるんなら好都合ですんで本当にそうしますけど」

「……はっ。あきれたね」


 エバーロッテが歩いていき、そこにあったのだろうカトラスとレイピアを拾い上げた。


「アタシだってゴチャゴチャ言うのは好きじゃないんだ。アンタが叩き潰してくれるなら大歓迎さ。ルカの事だって好きにしたらいい。それでアンタがルカを手ひどく扱って、ルカが将来後悔したって納得さ。力づくで従わされたんなら納得できる。それが海賊のやり方だからね」


 ルイが放られたカトラスを受け取る。


「ルイ、アンタの娘を勝手にしようって男が出て来た。一応ルカの事を考えてくれてる。本気で応えてやんな。アタシも本気で行く」

「……分かりました」

「クロム、ルカのためにもここで死んどくれ。アンタがいる限りルカは惑わされちまう」

「いいですよ」

「ただルカが泣いちまうからね。できればそうならないでおくれよ?」


 ピュン、とエバーロッテがレイピアを振る。

 ゲームでも得意武器としていた。


「ルイさん、本心を言いますよ。許婚なんてゴメンです。ただルカが望むならしてやってもいい」


 ルイの顔つきが変わる。


「紳士的だと思いますよ? 好きでもない男をあてがわれるルカを助けようって思って、手も出さずにそこまでするんですから。まあルカが成長していい女になったらもしかしたら――」


「殺す。お前を見誤った」

「やるよ、ルイ」


 ザリッと二人が音を立てクロムを挟み込むように動く。クロムの体が二回発光した。


「……魔法? 今のは……」

「こいよオッサン。好きに生きろって娘に言ってやれないアンタじゃどうせ幸せにはなれない」


 クロムの挑発と同時にルイが弾けた。何も知らない若造に言われる筋合いなどない。

 無詠唱を警戒して身構えていたエバーロッテより先に、激昂したルイがクロムに斬りかかる。

 

 黒い残像を残したと思う程の踏み込み。

 一足飛びに致死の間合いに踏み込んだルイのカトラスがクロムの銀髪を一筋散らす。


 上体をそらし首を捻り、まさしく紙一重でかわしたクロムにルイの返す刃が襲い掛かる。

 と、その刃をクロムの手が掴んだ。分厚く研ぎ澄まされたカトラスの刃を、素手で。


「なっ……」


 遅れて飛び出そうとしたエバーロッテは異変を目にし動けなくなっていた。

 クロムの変貌。

 髪色が根元から黒く変色していき、何よりその瞳が光を放つように金色へと変わっていた。

 爬虫類のような金の瞳。


 ルイも掴まれたカトラスでそのまま手を引き裂こうとしたがピクリとも動いていない。

 抵抗しようと力を込めていたがその変貌を目にし同じように凍り付いている。



 グジャリ。


 肉厚の刃から聞こえた。

 砂利を握り締めたような音と共にルイの手がすっと軽くなる。半ばから削り取られたように、カトラスが短くなっていた。


 横からではなく、切れ味鋭く研ぎ澄ましていたはずの刃の部分を上下から握り潰したのだ。

 静かに、あっさりと。


 その事実が何を意味するか、これまでの経験から分かる。出会ってきたどんなモンスターにもそんな真似は出来なかっただろう。


 見た目だけでなく心底化け物という事だ。

 人間の姿をした魔物。

 それは知る限り悪魔と呼ばれる存在しかいない。一度心を許していた少年の恐るべき本性。


 握り潰されたカトラスはそのままルイの直後の未来を示している。

 その皮膚と握力だけでカトラス以上の凶器なのだ。笑う気にもなれない。


 触れられれば死。


 しかしルイはモンスター部隊の長の本能からか、その短くなった刃でそれでも果敢に斬り付ける。


「おおおおっ!」

「ルイ!」


 ビリビリと危険を感じたエバーロッテも地を蹴り、クロム目掛けレイピアを突き立てるべく迫る。

 だがルイの斬撃は柳に吹く風のように優しく右手一本で払われ、直後に出現したエバーロッテのレイピアは、そのままルイのカトラスを払った手の指先で摘まれていた。


 正規ではないが剣術に精通しているはずのルイがそれだけでたたらを踏んでバランスを崩す。どうした事か見えない手で体を押されバランスを崩したかのようによろめいている。


 気付けばエバーロッテはレイピアの持ち手を掴まれていた。見えなかった。ゾワリとし振り払おうとするが、圧力は感じないのに分厚い鉄枷を嵌められたように動かない。


 この状態から目の前の存在に何かができるイメージが浮かばない。

 むしろ一瞬の後、自分の腕が引きちぎられ心臓を掴み出されている想像しかできなかった。


 逃げろ。

 

 エバーロッテの頭に浮かんだのはそれだけだ。ルカを連れて逃げろ、ルイ、と。


 死の恐怖に囚われたエバーロッテは全身が凍りついたように動けなくなった。

 しかし真横に風。同じ恐怖を味わったはずのルイは呪縛に囚われず飛び込んでくる。


(姐さん――!)


 ルイが素手で拳を打ち込む。

 体全体で大きく弧を描き、握り締めた拳を化け物の頭部目掛け思い切り叩きつける。


 鍛え抜かれたルイの肉体、磨き上げられた拳打も先程の悪魔の手に比べれば砂のように脆いだろう。到底届くとは思えない。


 それでもルイは躊躇う事なく踏み込んだ。


 それはルイ自身の激情だけでなく、頭領を救うという本能に突き動かされた行動だった。

 岩肌を踏み抜くほどの激しい踏み込みが腰、肩、腕へと伝わり渾身の拳へ宿る。


 動き自体は一つの拳撃の極致と言っていい域に到達していた。生存本能、それと恐怖や驚愕、怒りでキレた頭が肉体のリミッターを外し、ルイの培った戦闘スキルが全て乗っている。


 しかし悪魔をも葬ってしまいかねない鉄槌の如きその一撃も、やはり同じようにフワリと手の平を引きながら優しく受け止められ拘束された。ルイとディーでは格闘スキルに差がありすぎた。


「くっ、おおっ!」


 ルイより遥かに高い戦闘能力を持つはずのエバーロッテは片手を制されただけで動けなくなってしまっている。なのにルイは尚ももう片方の手でカトラスを振り上げ、柄を化け物の頭部に叩き込もうとした。


 逆巻くルイの獣性。

 クロッズシェルの長を任される男の持つ力。

 だが。



 エバーロッテには見えなかった。

 トン、という音を聞いた気がしただけ。


 カトラスの柄がコン、と間抜けな音を立て黒髪を打ち、そのままルイは前のめりに倒れた。


 何が起きたか分からない。

 ただルイが何かされた事だけ分かる。


 気付けば二つの瞳がエバーロッテを射抜いている。それでもエバーロッテは動けない。


 何故だ。

 全身から冷たい汗が吹き出す。

 こんな風に喰われると分かっていて動けない事など今まで無かった。


 体が感覚を無くしたかのようだ。

 恐怖とは違う気がする。

 しかしせめてルイを――ルカのためにも。


 気力を振り絞り雄たけびを上げようとしたその時、パッと拘束が解かれた。

 わざと見えるように、大きく手の平を広げおぞましい黒と金の顔の横に持ち上げている。


「はい、終わり終わり。やめましょ、もう」


 ドクン、と心臓が動き始めた気がした。


 クロムの声だ。

 これまでの、気の抜けたようなあの。

 だが――。

 汗で濡れた全身の冷たさを感じる。


「ルイさんを起こしますよ。とりあえず」


 その手がルイの後頭部に翳される。

 そこに先ほどまでと違う指輪が嵌められている事にエバーロッテは気付かない。


「う……」

「ルイ」


 目を離せないエバーロッテは横目でルイが起き上がるのを確認し安堵する。

 クロムは背中を見せ歩いていくと、少し離れた場所にドッカリとあぐらをかいて座り込んだ。


「姐さん……」

「ルイ、平気かい」


 座り込んだクロムは階段の方を見ている。

 その姿から殺気や何かは感じ取れない。

 だが二人の体は警戒を解く事ができない。


「だから嫌だったんだよな……」


 小さくそんな呟きが聞こえた。

 やはりそれはクロムそのものだ。

 フワッと穏やかなものを感じた。


 横目でチラリと視線を交わしたエバーロッテとルイは勇気を振り絞り構えを解く。

 するとクロムの髪が毛先から色を失うように黒から銀へと変色していき、瞳が眠りにつくように一度閉じ、元の人間の瞳へと戻ったのを見た。


 エバーロッテはようやくそれがクロムだと確信できた。感覚が落ち着いている。


「お前、それは……」

「気持ち悪いですよね、やっぱ」


 はあ、と溜息をつきながらクロムが言う。


「言っときますけど俺は人間ですからね。これは竜人の力を使う技っていうか、まあそんなんで。今まで内緒にしてきたんですよ。お二人を信用して見せたんですから絶対内緒に――」


 エバーロッテもルイも最後の方は聞いていなかった。いや聞こえてはいたがそんな事はどうでも良くなったのだ。




 龍神の力――。

 確かにそう言った。


 キャプテン・ドレーが追い求めてやまなかった一つである、龍神伝説。海を統べる者とは、伝説に謳われる龍神の事だ。


 別名<海龍ネプチューン>。

 海の神として太古の昔に君臨していたという、その龍の残した宝。


 レバイド海賊団の密かな存在意義の一つと言ってもいい。ドレーが海洋国家の建設に乗り出したのも、これと無関係ではない。




「ちょっと、聞いてます?」

「あ、ああ」


 ゴクリと二人は喉を鳴らす。


「絶対内緒にして下さいよ? 俺は誠心誠意を示すつもりで見せたんですからね」


 分かる。

 龍神の力を手に入れたという事はつまりその宝に関係するという事だ。普通ならまず他人にそれを言いふらしたりはしないだろう。


「勿論、約束しよう」


 ルイは力強く頷いた。

 クロムの持つ力も今こそ本当に理解した。

 この男を超えるルカに相応しい男など存在しない。海賊どころか海の神に触れた男。


 何よりルカのために龍神の存在まで曝け出してくれたのだ。わざと挑発するような事まで言って、本気でぶつかり合う事を望んで。


 海の男としてはこれ以上望むべくもない資格と男気を持ち合わせた存在。しかもルカの望む。

 そんな男が現れた。

 ルイにとって天啓に近い。

 一切の疑問もこだわりも無くなった。


「アンタ、ほんとにウチの一員になっとくれよ」

「え」

「海賊やらなくていいから。船を一隻あげるよ」

「いや、貰うっていってもデカすぎて」

「だからさ。クルー付きだ。アンタの好きにしていい。船長って訳さ。それでウチの一員だ」


 エバーロッテが熱に浮かされたように見開いた目でそんな事を言い続ける。


「誰にも文句は言わせないからさ。そうだ、アンタ言ってくれたよね、アタシが魅力的だって。アタシもあげるよ。好きにして構わない」


 そう言ってブラウスに手を掛ける。

 レイピアがカシンと床に落ちる。


「ちょちょちょちょ」


 よくもまあこの流れでそんな事言うな、とクロムは驚く。ルカの貞操うんぬんで争ったあげく父親の前でそんな事を言いだすとは。


 余程ディーの力に惚れ込んだらしい。

 バトルジャンキーかよ、とクロムはエバーロッテに引く。ハアハア興奮しやがって。




==============================




 バンダナで頭を覆い隠したクロム一人と、総勢数十名の血気盛んな若者達。

 ルイとルカ、エバーロッテは壁面沿いまで離れてそれを並んで見つめている。


 クロムの無謀な提案に対しヒートアップした洞窟。壁面での反応は様々だ。

 

 叫ぶ者、手を振り上げる者。

 頷く者、首を振る者。


「武器はどうすんだ!」


 一際大きな声が響き渡った。

 見知った顔。長い付き合いだ。


 ビンスは同調するような声がいくつか上がったのを押し留めるように、静かにしろと手でサインを翳す。しばらく静かになるまで待った。


「斬り合いが見てえのか!」

「命掛けるんだろ!? そうだろ、なあ!?」


 周囲に同意を求める。

 その反応はまばらだが確かにある。


 ふう、とビンスは内心溜息をつく。


(多分アイツらはクロムが勝つとは思っちゃいねえ。血祭りに上げられる所が見てえんだろうな)


 馬鹿なヤロウ達だ、と思う。

 若い者がそれで死ぬ可能性もあるのに。

 所詮根がそういう連中の集まりだ。

 エバーロッテが居なければきっと身内同士で平気で血を流し始めるに違いない。


 自分がドレーの遺志を何一つ理解していなかった事をまた思い知らされる。

 幹部達も思い知った事だろう。自分達の国はこんなにも馬鹿ばかりだという事を。


「いいよ! 武器を渡してやんな」


 エバーロッテの一言でカトラスが運ばれてくる。若者達に行き渡った。

 クロムの元にも一本が運ばれる。


「ああ、俺はいいです」


 そう言うとクロムはローブの下からゾロリと杖を取り出した。地味な普通の杖だ。


「おい、あいつ魔法で戦うのかよ!?」


 海賊達の間にもクロムが魔術師だという情報は行き渡っている。

 ザワザワと壁面が騒がしくなる。

 若者達も不満を隠さない。


 確かにこれはビンスにも意外だった。

 エバーロッテから、ルイと二人がかりでも一捻りされた剛の者だから安心しろ、と言われていたのだ。てっきり武器で戦うものとばかり思っていた。


(にしても)


 ビンスはまた情けなくなる。

 魔術師が魔法で戦う事の何が卑怯なのか。

 ただでさえ多対一だというのに、自分達の土俵に引きずり込む事を正義だというのか。


 エバーロッテがやらなくていいと言っていたのも分かる。この調子では、叩き伏せた所で何だかんだと文句を言い続けるだろう。


 結局リンチしたいだけなのだ。

 表面では仲良くしていてもすぐに了見の狭い部落意識のような考え方が芽を出す。

 苛立ちが募る。


「クロム。悪いけど、魔法じゃなくて直接武器で戦ってくれないかい?」


 寄ってきたエバーロッテがそんな事を言った。


「姐さん、そりゃ……」

「しょうがないだろ。アイツら納得しやしないよ」


 ヒソヒソと話す。


「まあいいですけどね。一応脅しぐらいはさせて貰いますよ。ルカのためにもね」


 クロムが平然と言い放つ。


「わりいな、面倒かけちまってよ」

「いや、いいです。言ってください」

「おう、聞けや! 魔法は使わねえ!」


 当然だ、とそんな言葉が返ってくる。

 チッと舌打ちし、横のクロムの言葉を繰り返す。


「こいつは挨拶がわりだとよ! クロムがどれくらい魔法の力持ってるか見てみな!」


 ビンスはクロムに頷く。

 若者達も海賊達も、どの程度のもんかと目を細め腕組みし斜に構えて見つめる。


 スタスタと水路際までクロムが歩く。

 と、ジャプンと手毎杖を突っ込んだ。


「あー、水よ爆発しろ!」


 超短い詠唱。

 勿論こんなものはない。

 ゴミのような偽装だ。


 が、威力はゴミではない。


 ドパアアアァンッッッ!


 まさしく水中爆発――この世界の住人にこんな言葉の知識は無いだろうが――が起きた。

 高い洞窟の天井部分まで達する程の凄まじい水柱が噴き上がり、再び水路に降って来て派手な音を響かせた。




 どよめきと静寂。

 両方の驚愕が洞窟中を支配する。


「な、なんだよ今の」

「おいおい……アイツあんな魔法で戦うつもりだったのかよ……」


 聞こえてきた若者達の言葉に、そうじゃねえ、そんな訳あるかとクロムは思うが黙っておく。


 杖自体は何でもない。インベントリから使い捨てタイプの攻撃アイテムをこっそり水中をターゲットにして使用しただけの事。


<打ち上げ爆弾君>というユニークアイテムで、ゼンマイ仕掛けの人形が歩いていって爆発で敵を空中に打ち上げてダメージを与えるというものだ。これは一部マップにしか出現しない機械タイプのモンスターのドロップアイテム。


 スタスタと壁際まで歩き杖をルカに渡そうとしたが、怖がっている感じがしたのでルイに投げた。


「うおっ」


 無視する。


「クロム、濡れてる……」

「何でもないよ、こんなの」


 こんな場面でそんな可愛らしい心配をするルカの言葉に思わず笑ってしまう。

 まあ確かにびっちょびちょなので一切触れられないのもおかしいが。


 元の位置まで戻る。


「じゃあ、これ」

「素手でいいです」

「……分かった」


 ビンスが再びそれをアナウンスする。

 またどよめきが起きた。爆発を見たからか盛大に濡れて引っ込んだ人間が多かったからかは分からないが、先程より反発は少ない。


 ただ魔法の爆発の凄まじさを見て怖気づいていた若者達が、素手で相手するという発言に安堵したのか怒ったのか、再びやる気になっていた。


(さて)


 はっきり言って受ける価値の無い攻撃だろう。

 これまでなるべく初撃を受けてから覚醒するという手順を踏んでいたが、これには必要無い。


 鎧袖一触。

 は、大人気ない。


 戦意喪失。

 これだな。


「よし、そんじゃ」

「全員まとめて掛かってきてください。はっきり言って時間の無駄です」


 ビンスの言葉を遮りそう言うと、若者達の顔付きが変わった。全員ではないが、血の気の多いのはどこにでも居る。


 いいんだな、と言いたげなビンスに頷く。


「始めろ!」

「うおおおおっ」


 ドドッと飛び出した連中がカトラスを振り上げ迫ってくる。相手が相手ならチビってしまいそうな光景だが、暑苦しいだけだ。


 ウィンドウを確認する。


 エンカウント。


 ディー覚醒が白色文字のアクティブになると同時に目を閉じ覚醒する。

 素早く片膝を曲げ、拳を地面に突き入れた。




==============================




「勝てそうだって思う奴はいるか」


 誰も声を上げない。


「じゃああきらめるんだな?」


 中には悔しそうに唇を噛む者もいる。

 本当にルカを好きだったのか、もしくはよそものに持っていかれるのがただ悔しいだけか。


 いずれにせよお前は力不足でフラれたんだよ、とビンスは叱咤する。そんな恋愛沙汰は海賊抜きにどこにだって転がってる話だ。


 これでこいつらも何か分かればいいが。


「戻れ」


 これで終わりだ。

 若者達だけではない、壁面の人間もあれだけの力を見せ付けられれば誰も文句は言うまい。


 殺到する刃に誰もが鮮血の予感を感じた。

 だが、再びの轟音と振動が全てを終わらせた。


 ビンス自身未だに信じられない。

 クロムが拳を打ち込んだ硬い岩盤は大きく砕け、そこから蜘蛛の巣状にひび割れている。


「クロム」


 エバーロッテがクロムに話しかけている。


「どうすんだい。船着場をこんなにしちまって」

「……」

「魔法で直せるのかい?」

「いや、どうですかね……」

「え?」


 まあ、何だ。

 お前も頑張れよ。


 ビンスはクロムにもエールを送った。



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