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海の国 7


 朝日が水面を照らし、レバイド海賊団の本拠である洞窟水路に光の道を作り出す。

 この水路の下には実は鉄製の仕掛けが複数隠されてあり、勝手に侵入する船を座礁させる罠が施されていた。


 水路の中は海藻や倒木であえて視界を濁らせてあり、また洞窟内部は暗いため松明やランプでは水中を見通す事はできない。


 ただ唯一一定の角度で朝日が射し込む短い時間、この仕掛けが丸見えになる。

 どういう理屈か分からないが、ちょうど加減良くなるのだろう、日光の反射から目をそらせば水中がクリアに見え、突き出した槍や巨大な虎バサミに見える罠を見る事ができた。



 今日からレバイド海賊団は友好条約に則り海路の保全に戻る事になっている。

 そもそも毎朝出かけて行く、などという事はないしこういった特例でも出社するように一斉に送り出すという事も普通ないが、この日は違っていた。


 のどかな朝の美しい水面とは裏腹に、出航前の海賊達が殺気立っている。


「いいかいお前達、欲しいもんはぶん奪りな!」

「おお!」


 船着場の左岸に集まった若い海賊達に向かってエバーロッテが発破をかける。

 多くの海賊達は壁の段々畑に鈴なりに陣取り、上からその様子を見ていた。


 男達だけではない。

 普段島で海賊の生活を支える仕事をしている女達も、老人達もそれを見守っている。


 若い海賊の中でも一際大事にされるべき存在、ルカがある意味でその真価を見せていた。

 

 外からやってきた銀髪の少年。

 多くの海賊達にとってはただのよそものでしかないが、エバーロッテや側近、幹部とはなぜかいきなり近い関係を築いている。


 勿論ここ最近目にはしているし、どういう経緯で来たかも話には聞いている。

 だが接待役を命じられていたとはいえ、いきなりルカの許婚に納まるなど、身内意識の強い一部の海賊には理解に苦しむ者も大勢いた。


「よし、お前達! きっちり見届けていきな! 好きに応援して構わないからね!」


 壁面の海賊達が一斉に声を上げる。

 宴とは違う、戦いの余興ともいえるこういったイベントは男達の血を熱くさせるのだろう。言葉使いも一層粗野になっていた。


「ビンス、頼んだよ」

「へい」


 ルカを娶らんと密かに野望に燃えていた若い海賊達が数十名、クロムを見据える。

 今朝の唐突な発表から、これに反対する者、ルカの許婚候補に立候補する者は実力で示せと言われ即座に立ち上がった者達だ。


 想定より大分多かった。

 これはルカどうこう以外によそものに対する反発心を持った者達が、若い世代でもこれだけいると言う事の証明だ。


 海戦艦で出撃した海賊達は許婚の件は知っていたし、戦術的な決定という側面もあった。

 確かにまだ受け入れやすかっただろう。


 だがそれを抜きにしても、戦艦乗りの主要な海賊はまだ柔軟な思考を持っていると言える。

 感情的にならず船長の判断に従う術を身に付けているとでもいうべきか。


 何故なら壁面から殺気立って唾を飛ばし罵声を上げているのはほとんど戦艦乗りではない、それ以外の古いタイプの海賊ばかりだったからだ。


 その顔ぶれを見たビンスは納得する。

 何故エバーロッテがルイの親馬鹿ともいえる考えに真っ向から賛成したのか。


 尊敬してやまない先代の娘は決して贔屓したり我を通したりしない。

 そんな風に振舞ってはいるが、その実父親と同じく優れた頭脳とリーダーシップを持つ。


 古い因習。

 それに囚われるレバイド海賊団の変革に着手したかったのだろうと。


 更には海戦艦に乗れるようになるまでに、若い者達の間にもその風潮が伝わってしまうという所までしっかり見ていたという事だ。


 ビンスは舌を巻く。

 娘は父親より賢く生まれた。


 海賊という枠を更に進化させようとしているのだ。父親の目指した国という形の無いものをその目で見ている。まさに女王と呼ぶに相応しい。



 ビンスとてそういった古い海賊達に理解が無い訳ではない。ビンスの父親もそのタイプだった。決定に反対したりはしないが、後ろ向きな恭順で着いて行く。そうだったはずだ。

 それを悪いとは思っていなかったが、こうしてはっきり示されてようやく分かる。


 ルカとて意思がある。

 この婚約はルカの意思と言ってあるのだ。


 にも関わらずこんな反応になってしまう。

 つい昨日まで幹部達でさえそんな考え方をしていたのだ。ビンス自身もその考え方に疑問を持ってはいなかったが、醜く目を血走らせる同胞を見ると少し胸が悪くなる。


 女達はじっと壁面から見ている。

 ルカの味方に違いない。

 エバーロッテの目指す国とは、きっと女達がこんな風に黙って見ているだけの国ではないのだろうな、とビンスは溜息をついた。


「よし、お前ら前に出ろ」


 ビンスの合図で若者達が進み出る。

 この中には純粋にルカに恋心を抱く者もいるはずだ。幹部の娘という価値に目を向けている者も決して悪くはない。ただよそもの憎しというだけでなければビンスは応援できる。


「何人同時でもいい! 一人ずつでもいい! それがクロムの提案だ!」


 ビンスの叫びに一瞬静かになった洞窟が爆発する。殺気が膨れ上がる。


「なんだとクソガキが!」

「叩っ殺しちまえ!」

「ナメやがって、俺がぶった切ってやる!」


 壁面からも若者達からも睨みつけられた当のクロムは表情を変えていない。

 ビンスは聞いている。

 わざわざやらなくてもいいと言ったエバーロッテに対し、クロムが言い出した事を。




==============================

 



 月明かりに照らされわずかに見えるルカの顔が、一瞬泣き崩れたように見えた。

 えっ、と思ったのも束の間、ルカは抱擁を求めるように両手を差し上げクロムの方へ近付いた。


 一歩か二歩。

 拒むなら充分できた。

 だがクロムは動けなかった。触れてみたいと思う気持ちはたしかにあった。


 両手を広げたルカは水を掻き分けそのままクロムの顔を胸に抱く。奇しくもあの時と逆。そっとクロムの頭を抱きしめた。


 硬さと柔らかさの両方を持つ少女の体がクロムの視界を覆い尽くしている。


 戸惑う。

 押しのけるべきだろう。しかし拒否していいものか。クロムの両手は押し返す事も差し伸べる事もできず中途半端に持ち上がったまま止まっていた。


 頬でおしつぶれる、弾力のある柔らかな感触。

 この状況、一体どう解釈すればいいものか。


 視界が動く。

 身を屈めたルカの唇が重なってきた。



 ルカを受け入れてはいけない。

 何のために自分はマリーを遠ざけた。


 そう思う頭とは裏腹に体は動かない。自分から求めないようにするのが精一杯だった。


「クロム……」


 わずかに唇を離したルカが呟いた声。

 その声が震えていた。

 だけでない、手も体も震えている。


 クロムの頬に両手を添えたルカが再びクロムの頭を自らの乳房へと導く。

 目の眩むような衝動をなんとか堪え、ゆっくりとルカの腰を掴み、離す。


「ルカ」


 手を引き、座らせた。

 今度はそっとその頭を抱き寄せ、左肩で受け止め優しく撫でる。ルカがクロムの胸に横から手を回し抱きついてきた。




 このまま海賊達の誰かと一緒になるか。

 クロムとの許婚を真の事としてしまうか。


 ルカはそれを選ばされたそうだ。


 女達からずっと聞かされていたらしい。

 そういう男女の事も、そうなる未来はそう遠くないという事も。それが当たり前だという事も。


 ルカも分かっていたそうだ。

 自分が男達からどう見られているのか。

 親しくもよそよそしくもされないが、時折感じる視線が自分をどう見ているのか。


 あんな住処だ、男女の営みの声を聞いた事も一度ならずある。

 島の森の中で睦み合う男女の姿を見た事だって小さい頃からあった。


 別に特別嫌悪していた訳ではない。

 世界中のどこにいってもそれは普通の事なのだときちんと理解もしている。


 ただ、ルカにはそれしかなかった。

 大事にされているといえばそうだ。

 しかしそういう存在であるがゆえに隔離されたような扱いを受け孤独だったそうだ。


 思えば釣りに興じていた海賊などいなかったし、キウイを取りに行く者など居はしなかった。

 ルカは海賊でも身内でもないような、周囲の姉さん達とも違った扱いをされてきたらしい。


 ルイの娘だったからだろう。

 他の女達はそこまで特別扱いはされなかったし、海賊として厳しい扱いもされたのを見てきた。

 ルカだけが、これまでこの島で海賊としての自分の居場所を持たない存在だったのだ。


 男達への貢物。


 これはルカの言葉、ルカの考えで全ての真実を表している訳ではない。それでもそんな感じ方をしてしまう生き方だったのも間違いない。


「別に誰かを恨んでる訳じゃないの」


 クロムの肩でルカが呟く。


「姐さんもお父さんも私を何とか大事にしてくれようって思ってたのは分かってるし」

「うん」

「ただね」


 ルカが顔を上げ、クロムを見上げる。


「クロムはそういう事考える必要無かった男の人だったから。誰からも注意されないし、姐さんもいいよって言ってくれたし。思わず甘えちゃった」


 そう言うとルカはクロムの肩に頭を落とした。

 ゆっくりとクロムはその髪を撫でる。



 痛々しい思いと、小さな怒りがある。

 その感情がなんなのかはクロム自身にも上手く説明できない。

 エバーロッテが悪い訳でもルイが悪い訳でも、海賊達が悪い訳でもない。


 ただそういうものだった。

 それだけの事だろう。

 皆ルカを傷付けようだとかそんな風に考えていた訳ではなく、そういう世界だったにすぎない。


 この島は悪くない。

 ルカだってもっと成長すれば自然と自分が好きになれる相手を見つけられただろう。


 たまたまクロムがやって来て、その寂しさの中に丁度入り込んだ。何故かルイはそれを一生のものとしてしまえとルカに勧めた。そういう事だ。


「ルカはどうしたい?」

「どうって?」

「船でも聞いたけど、将来とか」

「……分かんない」

「今どうしたいかでもいいよ」

「今……今は、もしクロムが」


 小さくルカが呟く。


「嫌じゃなかったらクロムがいい。お父さんからは十五になるまでに選べって言われてるの」


 クロムは目を閉じる。

 本当は無理に誰かを選ぶ必要すらないのだ。

 なのに。

 ルカにとって今はそれなのか。


 クロムが漠然と考える、成長して別の出会いを求めるとか何とかはよそものの思考らしい。


 ハーレムも望みはしたがこんな形は望んでいない。マリーもルカもそんな気持ちで相手にするには眩しすぎる。


 はっきり言えば重たい。刹那の関係だけを求めるには純粋すぎる相手だ。

 そんな真剣にならずに好きにやればいいじゃないか、という気持ちもある。今でさえこのままルカの望みに付け込んで楽しんでしまえよ、とそういう考えが無い訳でもない。


 だがクロムにはできそうにない。

 ハーレムなど本当には望んでいないという事なのだろうか。いや、クロムの考えるハーレムの女にマリーやルカは入らないのだろう。


「俺もルカの事は好きだよ」

「ほんと?」

「ただ、こういう言い方すると言い訳みたいに聞こえるかもしれないけど」


 ルカの手が強張る。


「俺はずっとこの島にはいられないしルカを連れて行く事もできないと思う。危ないから」

「……そうなんだ」

「だからさ」


 ゴクリとクロムは唾を飲み込む。


「ルカが大きくなって、もっと……もしかしたら居場所を見つけるかもしれない。その時まで許婚でいるよ。それまで……それじゃ意味無いかな?」


 ちょっと何が言いたいのか自分でも良く分からなくなった。そもそもが言い訳なのだ。


「……それまで許婚になってくれるの?」

「そんな形だけで……それでも良ければ」

「ありがとう。とりあえずでも、嬉しい」


 ルカがギュッと抱きしめてくる。

 これが本当にルカのためになるのかどうかと、クロムには自信は無い。

 もしこの会話を聞かれたらきっとエバーロッテやルイ、海賊達は怒るだろう。


「好きな人ができたらいつ言ってくれてもいいから。俺がうまい事やるよ」

「私、今ちゃんとクロムの事好きだよ」

「ありがと」

「クロムも邪魔になったらいつでも言ってね」

「いや、邪魔とかそんな事全然無いから」


 これだって別に嘘じゃないのだ。

 演技とかではない。

 互いに些細な恋愛感情はある。クロムがそれを口にする訳にはいかないが、要は無理に将来を縛り付ける事さえ無ければそれでいい。


 ルカのためのようでいながら、実際は自分の都合を優先させる結論を出したにすぎない、と自覚しながらクロムはルカを抱き寄せる。


 ルカに身内を騙す取引を持ちかけたようなものなのだ。突き放す事も受け入れる事も出来ない自分の心を守るために。ルカも救われる部分はあるがクロムが嫌な思いをしないための逃げでもある。




==============================




 クロムとルカが姿を見せる。


「……二人とも居たんですか」

「……ああ」


 ルイはクロムのしかめた顔を真っ直ぐに見つめ返し頷く。ルカが話さずともこれでこちら側の意図も企みも気付いただろう。


「綺麗事は抜きにしようじゃないか。ルカだってレバイドの女だ。芯はあるよ。きっちり答えな。ルカとやったのかい、やってないのかい」


「ちょっとストレートすぎやしませんか」

「いいから答えな」

「ていうかもしかしてルカにそこまでさせようとしたんですか? ……聞いてたの?」


 クロムの質問にルカがはにかみながら俯き小さく頷く。クロムが額に手を当てた。

 だからあんな事をしたのかと。


「さっさと答えなよ。ルカ、どう」

「やってませんよ」


 クロムがエバーロッテを遮る。

 ルカが精一杯訴える。


「でも、許婚には本当になってくれるって」

「え?」

「それは、はい。本当です」

「やりもせずに? 本当かい?」


 エバーロッテがうさんくさそうに聞く。

 クロムも負けないくらい顔をしかめている。


「何なんですか、それ。それってもう許婚っていうかそれ以上じゃないですか」

「つまんない事言ってんじゃないよアンタ。口先だけで男が信用できるもんかい。手付けはきちんと渡しといた方がいいよ、ルカ」


 ルイもさすがに自分の前でそういう風に言われると微妙な表情をしている。


「まあ、クロムがルカを大事に思ってそうしてくれるなら俺は構わんが」

「ルイ。アンタも手ぬるいね。ここまで来てまだそんな事言ってるのかい?」

「姐さん、俺はそんな」

「ルカ。本当にクロムはアンタを貰ってくれるってきちんとそう言わせたのかい?」

「……」


 はあ、とエバーロッテが溜息を吐き、首を振る。


「いいかい、アンタら。きっちり言っとくよ。クロム、アタシは軽い気持ちでルカをアンタのとこに行かせた訳じゃない」


 真剣な口調になる。


「アンタがもし口だけでルカの許婚になるなんて言ってるんなら取り消しておくれ。最初はルイの作戦だったかもしれないけどね、今じゃルカのほんとの将来の話なんだ。そうだろ、ルカ? 本当にそう思うなら今からクロムを引き摺って上へ戻りな。それができないなら諦めな」


 ルカがクロムの腕を掴んだまま俯く。

 溜息をつきクロムは目を閉じた。


「エバーロッテさんがルカの事を思って言ってるのは分かります。でも、なんか違いますよ」

「アンタの言う通りだ。こんな強引なやり方ルカに強制なんかしたくない。でもね、アタシらは海賊に生まれた。それは変えようが無い。何でも理想通りに生きていけるなんて思ってるんなら大間違いさ」


 クロムは黙る。

 エバーロッテの言う言葉は重い。

 クロムの思惑は見抜かれていると言ってもいい。まさしく口だけでしかない、今の所。


 エバーロッテもまたルカの将来を真剣に考えているのだ、頭領として。チクリと刺さる。


 だが、だからといってルカにそれを今選ばせる事が正しいとはクロムには思えない。

 向こうからすれば大きなお世話だろうが。


 思い通りに生きていけない生き方は嫌という程知っている。所詮人生はそんなものだと。

 そしてそれが如何につまらないか現実で経験し、この世界に来て更に思い知った。


 ただそれを覆す力を自分は今持っている。

 手に余る幸運にすぎないが、ここでそれに多少なりとも意味を付けたい。


「分かった、分かりましたよ。やっぱり俺とエバーロッテさんとじゃ考え方に違いがあります。まあ俺のは甘っちょろい考え方なんでしょうけど」


「……ふん、やっぱり取り消すんだね」

「冗談でしょう? ルカのこの手、見えませんか」


「どう思おうとアンタらは体で証明しなきゃいけない。よそもののアンタにそんな事言う資格ないね」

「資格はないかもしれませんけどね」


 クロムはルカの腰に手を回し引き寄せる。

 あの時と同じように胸に抱き、その髪に口付けるようにしながら心配するなと呟く。


「ルイさん。ルカに一言言ってやってください。やりたいように好きにやれって」

「……」


 クロムの言葉は抽象的だが、何が言いたいかは分かる。

 ルイも娘の事を大事に思いクロムを許婚にしはしたが、しきたりのように際立った男の誰かをルカに選ばせるという縛りを無くした訳ではない。


 ルカという娘の存在によってレバイド海賊団の有り方を高める、ある意味で財という立場を変えた訳ではないのだ。もし若い者の中にルイが認める男がいればクロムをあてがう事すら無かっただろう。


 ルカにその呪縛がある限り、ルカは選ぶ自由など与えられていないも同じだ。



 クロムの言いたい事などルイも承知している。充分分かった上で、それは諦めろと言っている。だがクロムはそれも取り払えと言う。


 ここまでくれば分かる。

 この男がルカを将来の伴侶にする決意をした訳ではなく、ただルカを自由にしたいと思い許婚を引き受けたにすぎないという事が。


 傲慢だが、それは父親として好ましくもある。

 ただそれを押し通す資格があるのかどうか。


「一つ聞かせろ。クラーケンの頭部が引き裂かれていた。やったのはお前か」

「そうですね」


 ルイの問いかけにクロムはあっさり答える。

 

「そうか……悪いがもう一つだけ聞かせてくれ。お前の言うルカの自由な生き方とはなんだ」


 ポリポリとクロムが頭を掻く。


「まあ上手く言えないですけどね。そんな風に何かに縛られない生き方じゃないですかね」


 思っていた以上に軽い。

 軽薄なだけとも思える考えなしの思考。

 レバイド海賊として生きてきたルイには見えない、もっと納得させてくれる何かを期待していた。


「何だそれは……」

「大体一つ疑問に思ってたんですけど。俺がルカと寝たからってそれが将来の保証になるなんて分かんないじゃないですか。勿論俺はそんな風に考えてませんけど。もし逃げられたらどうするんです? それこそルカが傷付くだけですよ」


「簡単な事さ。そん時ゃアタシがフルクタスの力全部使ってアンタを殺しに行くからね」

「……なるほど、納得です」


 クロムが両手を上げ肩をヒョイとすくめる。

 

「そんな事よりもうつまんない説得は聞き飽きたよ。ルカを本気で嫁にする気がないなら黙りな」

「ルカを犠牲にする気ですか」

「ルカはレバイドの女としてやるべき事がある。クロム、アンタがそこからルカを連れ出してくれるってんならアタシはそれでも構わないと許したんだ。ルカがそうしたいならね」


 エバーロッテが怒気を放つ。


「だがアンタの口ぶりじゃそうじゃない。こっちのやり方にただ口出しするだけでさ。分かってるよ、こっちだって大きな事は言えない。ルカと寝てくれりゃアンタはもう逃げられない、そういう打算はあるさ。だけどそれは島の女の仕事でもある。アンタはルカにただそれを捨てちまえと言ってるだけだ。責任も取らずにね」


 一気に言ったエバ-ロッテの言葉にルカの手が下りる。それは確かに言い逃れの出来ない島の女の生き方で、皆そうした部分はルカ程では無くてもあった。女達皆がやってきた事だ。


 自分だけが逃れる事は出来ない。

 ルカにも分かっていなかった訳ではない。


 だがクロムはそんなエバーロッテの理屈を理解した上で、引く気は無かった。力を無くしたルカの手を感じ取り、再び胸に抱きしめた。


「俺がルカに惚れたのは本当です。その立場で言ってます。そんな風に生き方を強制すべきじゃないって」

「ああそうかい。失せな、色男」

「いいや、ルカは俺が自由にさせて貰う」


 エバーロッテが柳眉を逆立てる。

 ルイも眉根を寄せた。


「そっちの理屈でこの子を手放すつもりはない。俺の言い分を通して貰いますよ、腕ずくでも。そうすりゃ嫌でも分かるでしょ。理屈を曲げてでも俺の要求を呑んだ方が得だってね」


 クロムがルカの頭を撫でた。


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