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海の国 3


「ガルテン王国から申し入れがあった。こことアリベルを繋ぐ中間の洋上で会見したいそうだ」


 広い空間に集まった海賊達は静かに聞いている。船長の下す判断を。


「もしナメた返事をしてくるようなら……ま、そんな度胸があればだけどね」


 エバーロッテが不敵に笑う。

 海賊達もニンマリ笑った。


「とにかくそういう事だ。どうするかは各自指示に従え。戦の準備もしておきな」

「おお!」


 この結果次第でモルデニアス神皇国、ジプタ共和国、ガイナ王国と今後どう付き合って行くかも決まる。三国にとっては条約を一方的にレバイド海賊団に破棄されるに等しい。


 非はガルテン王国にあるとしても、そこは政治だ。既に三国とガルテン王国の間で何らかのやり取りはされているだろう。政治力を発揮されてレバイド海賊団の排除に回る事に同意される可能性もある。


 そうなれば海を統べる者(フルクタス)全体が一気に争いへと舵を切る事も考えられる。

 海の覇権を一部たりとも渡す気は無い。


 ドレーが目指した海洋王国の理想に逆行する事にはなるが、海賊が政治ばかり考えていては髑髏の旗が泣くというものだ。




==============================




 巨大な旗艦はその威容を大海原に浮かべ、レバイド海賊団を待ち受けていた。

 白い蛇を意匠した旗。

 ガルテン王国海軍を擁する白鱗騎士団の巨大な軍旗がはためいていた。


 海軍独自の旗とはまた異なる。

 これはつまりある種の示威行動でもあり、政治的にいえば相手へ敬意を払うとも言えるか。


 この海軍は王国周辺海域を守護している。

 盾として運用されてはいるが、ひとたび戦となれば海を渡って攻め込む剣でもあり、遠洋での航海を不得手としている訳ではない。


 船体の横腹、甲板すぐ下からはいくつもの砲門が突き出ており、臨戦態勢である事を伝えてくる。後ろに展開する軍船団も、脅しには屈しないという交渉の意思を見た目で語りかけてきている。


 それを筒の望遠鏡で確認したビンスは無言でエバーロッテに手渡す。同じく確認したエバーロッテは、ふうん、と一言言ったきりだ。


「アンタも見てみるかい」


 望遠鏡を渡されたクロムは左目に当てる。


「壮観ですね」

「身なりだけは立派だね」


 ふん、とエバーロッテは鼻で笑う。

 その姿は真紅のジャケットに白いブラウス、黒いズボンに帽子と、正装で固められている。


 クロムは借り受けたバンダナを巻き船のクルーを装っているが、どちらかというとほっかむりに近い被り方をしていた。


 目立つ髪を隠すためだが、クロムとしては渡りに船で、男達には笑われたが満足している。

 顔を斜めに横断するように右目を黒く汚れた包帯で巻いており、一目では気付かれないだろう。


 クロムはこの包帯に細かく針で穴を空けており、そこから多少視界を確保していた。

 また、傷病者を装い海賊達とは違って丈の長い衣服に身を包んでおり、不自然になりすぎない程度に肌が露出している部分も包帯を巻いている。


 そこまでせずとも、という顔はされたが。


「後ろに伝えな。半海里まで速度このまま」


 腕組みし、キャプテンシートに足を組んだままエバーロッテが命令を伝える。

 こちらもドレー号ではなく、レバイド海賊団の旗艦たる巨大な船を押し出している。


 クロムはこのまま船橋に留まり、万一戦いになれば魔法で援護する手はずになっていた。

 ルカとの腕相撲でその力に満足したエバーロッテの要請を引き受けた形だ。



 エバーロッテがクロムに期待した一番の部分は、魔法を使う者がいるという事だ。


 海賊という野蛮なイメージを覆す、組織立った印象を植え付けたい。

 旧来の海戦で魔術師が参加した例などいくらもあるが、やはり居るのと居ないのとでは心理的にも戦略的にも違ってくる。


 当然向こうにも居るだろう。

 船自体は今や至る所に耐魔金属が使用され、火にも強く飛び道具で勝負が決するとは思っていないが、最新の技術の上でも戦のやり方でもエバーロッテは相手に譲るつもりは無かった。



「姐さん、合図です」


 対峙した船団は充分な距離を保ったまま、互いに旗をはためかせ睨みあっている。


 白く塗装されたガルテン海軍の船は、大金を注ぎ込んで耐魔金属を使用している事だろう。

 だがレバイド海賊団も負けていない。

 特にこの旗艦ドレウィルは凄まじい金を注ぎこんで造船した世界最強の船と自負している。


 エバーロッテはガルテン側の使者を乗せた小舟が近付いてくるのを見ると立ち上がる。


「いつでも始められるよう準備だけはぬかるんじゃないよ。ルバ爺、頼んだよ」

「あいよ」

「ビンス、行くよ」


 会談の方法は互いの中間地点で小舟に乗って行うというもの。エバーロッテもビンスと漕ぎ手だけを伴い小舟で出て行った。


 残された者は見ている事しかできない。

 お互い手出しも牽制もできないようにするのが結局一番いい。信頼などないのだから。


「お前さんどう見るね」


 ルバ爺がクロムに尋ねる。


「結果ですか? うーん……まともに考えれば和解の一手じゃないですかね。何かしらの条件は押し付けてくるかもしれませんけど」

「ほうほう」

「おい、お前ガルテンの人間だろ? そういう風に考える理由とかあんのか」


 今度はジョシュが尋ねてくる。

 クロムは首をひねる。


「いや、俺は聞いた話からそう言ってるだけです。最近まで学生でしたし政治は分かんないです」

「まあそうなんだけどよ」


 政治的な根拠はクロムにもない。

 ただゲームの知識に則った判断をすれば、終始平和だったガルテン王国が戦争状態に突入する事を決断するとは思えない。


「ま、会談を申し入れてきてる時点で話し合いで決着付けようとしてるのは確かだ」


 ジョシュが指摘する通りではある。

 騎士の殺害は国の威信に関わる部分ではあるだろうが、貴族や王族ならともかく互いにうまくやってきた海のバランスを崩してまで苛烈な選択をする理由はないだろう。


 まして他国との兼ね合いを考えれば。

 騎士殺しのエメリア・エバーロッテをどうにかしたくとも、多少の贖罪で手打ちを望んでくる。

 それしか考えられない。






 エバーロッテの小舟とガルテン側の小舟が接触する。ビンスと文官が近付き何かのやり取りをし、その後互いに離れ、再び小舟同士が来た方向へと戻っていく。


(決裂か? まさかな)


「早いですね」

「多分手打ちの条件を検討してくれ、ってなとこだろう。見たとこ責任者にゃ見えなかったからな」


 ジョシュの読み通り、戻ってきたエバーロッテはその手に書状を携えていた。


「悪いがしばらく出ててくんな」


 ビンスに追い出される。

 尤もな話ではある。

 各船の指揮官、幹部を集めての話し合いを始めるそうだ。お呼びではない。


 素直に船橋から船尾へと出て、潮風にあたる。

 レバイド海賊団の船から小舟が続々とやってきては甲板へと男達が上がってきた。


 しかしその中にルカの姿を見つけ仰天する。


「ルカ!?」

「あっ……クロム?」


 急いで船尾から船橋の横に駆け声を掛けると、向こうも変装した姿に一瞬キョトンとしたがすぐに気付いてくれたようだ。


「ルカ。ここで待ってろ」

「うん、分かった」


 一際背の高い鋭い目をした男がそう言った。

 風格がある。幹部の一人だろう。

 ルカと同じぐらい真っ黒に灼けている。


 船橋へと吸い込まれていく男達から一人離れたルカが駆け寄ってくる。


「何で来たんだ?」


 ルカが来るなどとは思ってもいなかった。

 戦になるかもしれない場所に来るような理由などないはずだ。一体何を考えている。


「お父さんが来いって」

「え? もしかしてさっきの人?」

「うん」


 モンスターだと余計な事を言った野郎か。

 しかしルカの父親でもある。

 野郎呼ばわりはやめてやろう。


「え、でも何で」

「多分戦にはならないからって。良い経験だし、空気を吸っておけって」


 だとしても……。

 いや、正しいのかもしれない。

 勝手にルカを無邪気な南国美少女などと決め付けているが、いずれ海賊として海に出るのだ。

 必要な経験を娘に積ませておくのも教育という訳だ。そこにできる意見などない。


「凄いね。白くて綺麗。あんなに沢山大きな船があるんだね、島以外にも」


 居並ぶガルテン海軍の方を見つめルカが他愛なくそんな事を言う。

 そういえばルカは島の外にはどれくらい出た事があるのだろうか。

 外の世界には出た事があると言っていたししっかり知識も持ってはいたが。


 バンダナから出た毛先が潮風に揺れ、頬をくすぐっている。

 この子がエバーロッテのように荒くれとしてやっていく姿が想像できない。


 いや、エバーロッテがこうだった過去が想像できないと言った方が正しいのだろうか。

 ルカも将来ああいう風になるのが正しい姿なのかもしれない。


「船の数だけで言ったらレバイドの方が多いとは思うけどね。全部連れてきたら倍近くにはなるだろうし、まあ海軍もあれで全部じゃないだろうけど」


「ふーん」

「ルカは将来の事どう考えてたりする訳?」

「えっ?」

「エバーロッテさんみたいになりたいの?」

「あっ、うーん、姐さんみたいにかあ……分かんない。船に乗れるかも分からないし」


 どうやら全員が海戦艦の乗組員となれる訳ではないようで、島で働く人間もいれば小舟のみの担当も居たりするらしい。


 ドレー号に居た女海賊はエリートであり、女海賊のほとんどは島の中を担当しているそうだ。

 考えてみれば当たり前の話。

 エバーロッテが何人もいてたまるか。


「船尾の方に行こう」


 向こうも多数の望遠鏡でこちらの様子を伺っている事だろう。それで自分が気付かれるとも思わないが。そもそもあの場に居た騎士以外顔も知らないはず。


 ただルカを見つけてじっくり眺める変態が居ないとも限らないからな。

 そう考えると無数の視線に晒しているのがひどく危険に思えてしまった。




==============================




 ジョシュに呼ばれ、クロムも上に上がる。

 すわ開戦かとクロムは危惧したが、中に入ると何とも言えない空気が漂っていた。


「アンタを連れてきといて良かったよ」

「はい?」

「ま、見てみな」


 エバーロッテが差し出した書状を受け取り読み出す。最後に王国の花押が押された文。




 講和締結付帯条件案および謝罪


・この度のデイポートにおける諍いに関し、黄豹騎士団員一名が死亡、貴殿レバイド海賊団からの宣戦布告を受けた件について



 現場の聞き取り及び事実関係の調査において騎士団員の不手際があった事を認める。ガルテン国は友好条約に則り、貴殿の船舶に対し過度な干渉を認めるものではない。


 また、友好条約の範疇から逸脱した原因に貴殿の責任および不法行為は無かった事を認め正式に謝罪する。命令伝達に乱れのあった黄豹騎士団には厳重注意とする。貴船内で抜刀した騎士団員は一年間の騎士資格剥奪処分とする。



 宣戦布告に対しガルテン国は引き続き友好条約の継続を希望する。

 以下、講和に関しての草案を記載する。



 今回の一件に関し上記の事実を記した講和文を両者調印の後諸国へ向け通達する。


 デイポートにおける死者の慰霊式典への供物供与の協力。ガルテン国は宰相による――。

 

 


 一枚目に目を通したクロムはふーん、と首を何度か縦に振る。無難な所と思える。


「細かいのは飛ばして最後の方見てみな」


 焦れたようにジョシュがクロムに最後の三枚目を読むように促す。

 二枚目を飛ばし、三枚目の最後の方に目を通したクロムは怪訝な顔をした。



 ――貴船に乗船していたガルテン国デルスタット冒険者ギルド所属、クロム・ディーという人物に関する情報提供の協力要請。



「はあ……」

「なんだその気の抜けた反応は」

「要するにガルテンは非を認めるって事でそれはまあいいのさ。条件としても向こうの思惑が気に食わない部分はあるけど、別に儲けたくてやった訳じゃないからね」


 エバーロッテが腕組みしながら話す。

 幹部達も黙って聞いている。


「向こうがあの騎士達をけしかけたのか、ただ暴走したのかはアタシらには分からない。ただガルテンは一部の馬鹿が暴走したって事で片付けようとしてる。そうすれば面子は守れるからね」


「ただ問題はアンタのとこさ」


 と言われてもクロムにもはっきりは分からない。


「えーと、まあいいんですけど。皆さんがどうするのが一番都合がいいか、それだけ考えて下さいよ。別に引き渡されたって困りませんし」


 クロムを戦犯に仕立て上げてくる可能性は予想していたし、アダムの件の可能性もある。

 だがその言葉にピクリと反応した男がいた。


「お前はそれで俺達がはいそうですかとお前を突き出すと思っているのか?」

「落ち着きな、ルイ」


 ルカの父親だ。

 鋭い眼差しをクロムに送る。


「どうしてです? 俺は別に困りませんし、俺を庇うメリットなんか無いと思いますけど……」

「待て待て待て」


 ジョシュが慌てたように止める。

 クロムにとぼけた事を言わせ続ければ、またさっきの会議のようにルイやプライドの高い幹部達の機嫌が悪くなるだけだ。


「姐さん、俺から説明してやっていいですか」

「いいよ、教えてやんな」


 ふう、と息を吐きジョシュが説明を始める。


「向こうも一つは要求を通したいんだ」


「ガルテンとしちゃ落とし前をつけるのに誰か欲しいんだよ、多分な。全部騎士におっ被せる訳にゃいかないんでお前が丁度いいって訳さ」


 ジョシュの言葉にクロムが頷く。


「そうなるかもとは思ってました」

「ああ。こっちもただ乗せただけって言っちまったからな。もしこっちがそんな奴はもう知らねえとシラを切れば、それこそこれ幸いとお前に難癖付けようってハラだと思う。適当に理由でっち上げてよ。何せこっちも知らない奴だって言ってる訳だからな、それについて文句も言えねえ」


 知らない奴だと言えば都合よく事件の責任を押し付けられて犯罪者にされる。


 情報は渡せない、クロムに罪を着せる事も認められないと言えば、一転開戦とまではいかないだろうがその事実を吹聴して、条約を盾に犯罪者を匿う連中だとレバイド海賊団の信用を落として相対的にガルテンの立場を良くしにかかるだろう。


 適当にどこかで降ろしたなどと嘘を言っても、それはそれで情報提供に応じたという事になる。

 その情報を元に有り難く追求させて貰うと。


 クロムの情報など実はどうでも良く、クロムを庇う事も知らん顔をする事もできないという訳だ。


「はー、なるほど」

「のんきな事言ってんじゃねえよ。結局俺らに差し出せって言ってるようなもんなんだ。ただ書き方がうめえな。こっちとしちゃ文句も言えねえ文言になってやがる」


 知ってる事を教えてくれるだけでいい。

 しかも当人はガルテン王国の人間だ。

 レバイド海賊団の顔は立てる。


 こう言っている。

 庇う理由など無いはずだとも読み取れる。


「でまあここをどうするか、お前の意見も聞いとこうって事だったんだがよ。差し出しゃいいだと。ナメやがって。それが一番やっちゃいけねえ選択肢なんだよ、こっちにとっちゃな。お前が誰だとか関係ねえんだ」


 クロムとしては庇って貰う事で負い目になるくらいなら放り出せと思っただけだ。

 別に痛くも痒くも無い。



 デイポートでエバーロッテが言ったように、一度庇護した人間を掻っ攫われるのはレバイド海賊団の沽券に関わるという事になる。


 クロムは渡さないという二番目の選択肢を選ばない限り、どうやり過ごそうがそうなるという事だ。


 しかし二番目の選択肢も良くない。

 それを選んでも自分達の誇りは守れるが、政治的な部分としては傷を負う。


「まあこっちがお前に何かするのは許さねえって言やぁよ、それでいい。だけどそれも向こうの思うツボだろうな。あっちとしちゃ今回の件に関してどうにかお前を引きずり込むつもりだ。戦になるとしても理由がずれるからな。俺達がガルテンの法を捻じ曲げようとしてるって話にしたい訳だ」


「困りましたね。俺のせいでなんかすいません」

「船に乗せたのはアタシだ。謝るのはこっちの方だよ。巻き込んじまって悪かったね、クロム」

「やめて下さいよ。俺はこうなった今でも乗せて貰って良かったなと思ってるんですから」


 クロムのその台詞にエバーロッテが目を閉じ、ふん、と鼻で笑った。

 馬鹿にした訳ではない。照れ隠しと同じだ。


「さて、クロムはこう言ってる訳だが。いいかい? ゴチャゴチャ考えずに押し通しても」


 居並ぶ幹部達も納得したように頷く。

 クロムはガルテンよりレバイドを選ぶと言っているのだ。それを意気に感じないはずが無い。


 エバーロッテは政治を捨てて無法者になる選択をするつもりでいる。

 野蛮で道理の通じない集団に逆戻りしようとも、親しい者を切り捨てるような事はしないと。


 ただクロムはそれを望まない。


「いや、困りますね」

「何だって?」

「勝手を言って申し訳ないですけど。俺は船を降ります。泳いで向こうにでも行きますよ」


 海戦を見物したいなどと思ってはいたが自分を理由にされるなど困る。

 放り出す事が出来ないのなら自分から降りてレバイドの面子を守ればいいだけだ。


 それを納得出来ないと言われてもクロムにも納得出来ないものはあるのだ。


「それでアタシらが喜ぶと思ってるんなら大間違いだよ。いい加減にしな、ガキが」


 エバーロッテも幹部達も険しい顔でクロムを睨む。クロムの言いたい事は分かるがじゃあそれでなどと言えるはずもない。


 一番賢い損しない選択ではある。

 だが同時に一番愚かな選択でもある。

 それはしないと最初に伝えてあるのだ。




 険悪な雰囲気に包まれる。

 子供の意地で自分達の誇りを虚仮にされている事もそうだが、エバーロッテの判断に異を唱えるのは船乗りとしても許しがたい。


 しかしルイにとって意外だったのは、その中で平然としている少年の態度だった。

 目をそらすでもなく、ただ静かにその重圧を受け止めているような落ち着いた目は、見た目からは想像もつかない肝の太さだ。


(こいつは……)


 ジョシュが何とか場を鎮めようとしている。

 だが次代の幹部候補とエバーロッテが買っているジョシュでさえ萎縮している。それは決して日頃からの関係性に起因しているだけではなく、実際にこの場に流れる危険な空気をしっかり感じているからだ。


 上品な人間ではないのだ、海賊というのは。

 怒れば刃傷沙汰にもなる。

 少年もそれは目にしているはずだ。


(伊達ではないという事か)


 モンスターを捻り潰したらしい。

 娘の話は腑に落ちない部分が多く疑っていたが、こうして見ると考えを改める必要がある。

 自信がある、という事だ。

 真っ向からエバーロッテを見返している。


 単に無鉄砲なだけかもしれない。だがルイでさえ思いもしない器を備えた男なのかもしれない。


「ちょっといいか」


 ルイはしばらく考え口を開く。


「何だい、ルイ」

「姐さん、例えばこいつをうちの一員にしちまえばどうですかね」

「……なるほど」


 身内にしてしまえばいいのだ。

 ガルテン側の要求は、クロムはガルテン王国の人間であり、レバイド海賊団に泥を被せる事はないはずだという建前の上に成り立っている。


「しかしそれだと最初に関係ないって言ったのが……庇うためだとか方便だとか言って怒るんじゃないですかね。ルイさんの案に反対する訳じゃないですけど、コイツが二度とガルテンに戻れなくなっちまう事に変わりは無い訳ですし……」


「そうだぜ、ジョシュの言う通りだ」

「第一いくらなんでも簡単すぎやしねえか? ルイ、お前レバイド海賊を軽く見てんのか?」


 幹部達が反対してくる。ただ海賊を名乗らせるのは簡単に許すような事ではない。

 当然ルイも本当の意味でクロムをレバイド海賊団の一員にしようと言っている訳ではない。


「まあ待て。俺もそっちのに覚悟決めてくれとか故郷捨ててくれって言う気はないんだ」

「ああん?」

「ガルテンの思い通りにさせず、レバイドの掟も破らない方法がある」


 犯罪者として虐げられる事も無い。

 方便だと指差される事も無い。

 レバイドに連なる者と名乗る事も許される。

 全員黙るしかなくなる手。

 

「問題は一つ二つ残っちゃいるが。とにかく俺達の身内って事になればガルテン王国も手出し出来なくなるはずだ。違うか?」


 全員の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 しかしジョシュがあっと何かを閃いたようだ。


「まさか、ルイさん」


 ルイが無表情で頷く。

 クロムの方を見る。


「小僧。嫁を貰う気はないか」



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