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旅立ち


 ここで話は少し飛ぶ。

 秋を過ぎ、冬を迎え、年が明ける。

 クロムも学生生活に終止符を打っていた。


 クロムの卒業試験など問題にはならない。

 シレーナに許可を受け、その上実技で既に教師を上回りかねない者だ。


 実戦形式でかつてない程見事に支援魔法を叩き込みまくったクロムは、あっさりと卒業試験に合格し冒険者資格を手にいれていた。


 遅れる事三ヶ月、こちらもスピード合格と呼べる速さでマリーとエファが卒業試験に挑み、見事にクリアしていた。ただ回復魔法科という知識と技術の習得に絶対的に時間の掛かるエイク、共にパーティーを組もうと提案していたディルも同じく難関の騎士クラスという事で卒業には未だ遠く、少しだけバルドークラスに亀裂が走っていた。




「しゃあないよな。どないもならへん」

「あの二人に待っててくれってのもな」


 デルスタットの繁華街。

 バンホア商会の裏手。


 バルドークラスの男四人はそこで思い思いに座り、身分を違えたそれぞれの話をする。

 今日ここで話をしようとディルからあらかじめ言われ集まってきていた。


「まあ、甘かったっちゅう事やな。エイクはしゃーないとしても、追いつかれへんかったワイが悪い」

「騎士クラスはなあ」

「焦って卒業しても良い事なんか無いよ。ディル、僕はこれで良かったんだと思ってる。悪いけど」


「ええよ。その通りや。ガキくさい事言うたもんやと思うとる、今となっては」

「それが悪いとは思ってないよ」

「ええって。別に落ち込んどる訳やあらへん」


 エファとマリーもパーティー結成の話に乗り気で無かった訳ではないのだ。

 ただ、現実には全員が卒業を同時に迎え、さあ冒険を始めようなどという甘い話にはならなかっただけの事。クロムが一人だけ先に卒業した時点で見えていた問題だ。


 二人は最初こそディルやエイクの卒業がいつになるか分からない状態でも、焦らずゆっくり待つという態度だった。しかし時間が経ち、冒険者ギルドへ登録し出入りするようになってから徐々に変化が見えるようになった。二人の卒業からまた二ヶ月近く経過している。


 向上心の強いエファとマリーだ。口にこそ出さないものの最近の態度は明確に次のステップへ進みたいと言っているも同然だった。


 パーティーを組むというのはそんなに出たり入ったりが許されるものではない。

 共に命を賭ける者を選ぶのだ。

 真面目な二人はその考えに従う。

 とりあえず繋ぎで誰かと組んで、お茶を濁しながら待ち続けるというずる賢さを持たない。


 いかなエファとマリーといえど二人でモンスターと戦闘になる危険を冒す訳にもいかず、新人の知識では安全でまともな冒険者活動など何をすればいいのかも分からない。


 ある意味また一から学ぶ立場でスタートしているのだ。仲間を集めるか先達に学ぶかは必須だ。



 はっきりと言葉にこそ出さないが、行動や態度から分かる。悪いけど、待っていられないと。

 先に進んだ方から遅れた仲間を置き去りにするような事は言い出しにくいだろう。全員どうすべきかは既に分かっている。ディルから言い出す必要があった。


「お前もスマンかったな。待たせてもうて」

「俺は別に何かを急ぎたい訳じゃないし」

「せやけど結構誘われたりしてたやろ」


 デルスタット冒険者ギルドで登録を済ませたクロムは既に何組かのパーティーから誘いを受けていた。これはランダスターからの卒業生支援の効果でもある。


 歴代でも有数の魔法成績を修めた者として強烈なプッシュがあった為だ。

 シレーナという一流の冒険者が支援に関しては既に自分を超えると認めた事、クラス大会でその実力を目にしていた者が多かった事などからも、クロムがギルドにフリー登録した時はちょっとした話題になったものだ。


 その割には勧誘が少ないが、これは純粋な補助魔術師の地位が未だ低く、冒険者内でも一部の者しかその価値を見出しきれていないせいでもある。


「元々俺はデルスタットでパーティーに入ろうとは思ってない。お前達ならと思ってただけだし」

「泣かせるやないか」


 ディルが肩を小突いてくる。


「エファとマリーには何て言うの?」

「そらワイから伝えるで。先に行って欲しい、てな。あの話はこっちから無かった事にして貰う」

「ふう。そうか。そうだね」

「お前らが卒業すればその時また考えればいいだけだしな。まあその時はあいつら既に本当のパーティー組んでるかもしれないけど。その時は諦めろ」


「ま、お前が二人と組んで待っててくれたらええんやけどな。お前ならできそやし」

「ディル、クロムに甘えすぎだよそれは」

「冗談や」

「二人とねえ」

「でも……やっぱりそういう考えで行動するつもりだったんじゃないかな二人とも。特にマリートは」


 エファとマリー、こちらは引く手あまただ。

 中には二人のルックスに興味を示しているだけの者もいるだろうが、職業冒険者のほとんどは浮ついた考えでパーティー編成を考えたりはしない。


 純粋に二人の能力、将来性を買っている。

 優秀な剣士とレンジャーは役割的にもパーティー内に二人いようが三人いようが困らない。


 しかしながら二人がその全てを受け付けていないのはディル達との口約束の事もあるが、クロムが何の動きも見せていない事も原因だ。たまに一人でどこかに出かけるだけ。


 元々二人が一心に卒業に邁進したのも、クロムの後を追いかけたという節もあった。

 しかしながら当のクロムは二人が卒業しても何か三人で始めようとは言い出さず、のんびりしたままの姿勢を崩そうとしていない。


 当然そのつもりだった二人が焦れて話をしてもクロムははっきり返事をしないままでいる。

 パーティーメンバーを新たに募るとしてもクロムを含んで組む事をまだ期待している状態だ。


「お前何考えとんねん。ホンマ分からんわ。何を迷う事があんねん? あの二人やぞ」

「……」

「皆が組んでくれ言うてんねんぞ。ワイかてそや」


「エファとマリートもお前の言う事なら頷くやろ。したい事あんねやったら言うたらええやん」

「決め付けんなよ」

「おいやめーや。自信無いとかボケかますなよ。大体お前マリートの事どう――」

「ディル。やめときなよ」


 心底分からないという顔でディルが首を振る。

 バルドークラスでパーティーを組むという野望は諦めたようだが、何故クロムが卒業組のエファとマリーと三人パーティーを組む事に乗り気でないのか、理解しかねるといった顔だ。


 はっきりとあの二人はそれを望んでいるし、クロムにもそれを拒む理由が見当たらない。

 そもそもバルドークラスで組む事を受け入れていたのだ。ディルやエイクが間に合わないからといってそれを嫌う理由など無いはずだ。


 ディルの言ったように、とりあえず当面は三人で活動して他の仲間の卒業を待つ選択をしておけばいいものを、それに難色を示す理由が分からない。


「レギも卒業近いんだってな」

「……わかんない」


 意外にもレギは盗賊クラスでメキメキと頭角を現し、先輩達を追い抜く位置に居た。

 能力が意外だったのではなく、盗賊に求められる知識の部分でレギは吸収が早く、誰も予想していなかった努力するレギの姿を披露していた。


「レギを待つんか」

「そういう事じゃない」

「じゃあなんやねん」


 ふう、とクロムは大きく息をつく。

 見上げてくるレギの顔をチラリと見、目を閉じるとゴキゴキと首を鳴らしたっぷり間を取る。



「そもそも俺がパーティー結成に賛成したのはここに居る全員でならと思ってたからだ。それには戦力的な問題も含まれる」


「他に仲間誘えばええやん?」

「お前ら待ってられないぞ、そうなると」

「いやもうそれはええて」

「あ、そ。まあそれでもいいけど」


 クロムは腕組みし直す。

 言うべきかとも思っている。

 こいつらならいいかなと。


「例えばそうだな、俺、エファ、マリーの他に戦士系の奴、回復系の奴、魔術師なんかも誘えてバランスの良いパーティーが組めたとする」

「うんうん」

「で、モンスター狩ったりする訳だ」

「せやな」

「で?」


「え?」

「なんやねん、で、て」

「はっきり言おう。だから何だ、って話」


 ディルとエイクが困惑する。

 クロムの言っている意味が分からない。


「その先に何があんの? これがお前らとならいいよ、まだ。俺自身が納得行くから」

「……どういう事?」

「俺には意味が無いって事」


 クロムが肩をすくめる。

 レギでさえ不思議そうな顔でいる。


「お前らの目的って何?」

「目的やと。冒険者の目的っちゅうやつか」

「そう」

「僕ははっきりしてるよ。治癒で人の役に立つ事。別に今すぐ世界中の人を救いたいなんて大それた事は考えてないけど。普通の人でも冒険者でもいい。だからそれが皆でもいい。むしろ友達を助けられるんだからね、願ったり叶ったりさ」


 エイクがきっぱりと言い放つ。


「そして冒険の先々でも誰かの役には立てるはずだろ? いずれ冒険者は引退するつもりだけど、そうして経験を積んでフラウ先生のような人の役に立てる人間になりたい」


「お前は立派やな。自慢の友達やで」

「……ほんとだよな」


 若干クロムには耳の痛い話だ。エイクとは違いクロムには自分本位の理由しかない。


「ワイはそない立派な理由あらへんけど。生きていく手段にこの道を選んだっちゅうだけや。身を立てて、まあもしかしたらでっかくなれるかもわからへんし。多分普通の、仰山おる冒険者のいっちゃん多い動機やと思うで」


「そうだな」

「それも立派な理由だと思うよ、僕は」

「格好つける気ぃは無いねんけどな、多少はあんで。人の役に立てるっちゅう漠然としたもんは」


 ディルがポリポリと頭を掻きながら言う。


「レギは?」

「おいらは……生きてくのに強いといいと思うから。戦えるようになりたかったんだ」


 レギの言葉に三人がはっとする。

 おそらくレギの過去に関係するのかもしれない、とすぐにピンとくるものがあった。


 レギは自分の事を喋りたがらない。

 そこに過去に何かがあったんだろうという事は皆予想はしていたが、真剣味を伴ったレギの口調と共に迫ってくる何かがあった。


 クロムは黙ってレギの頭に手を置く。


「それも立派な理由だよ」

「せやな」

「うん、そう思う」


「ほんで、クロム。お前の目的ってなんやねん」

「ちょっと説明し辛いんだけどな」


 一旦頭の中で言葉を整理し、クロムはよっと立ち上がると三人の正面になるように移動し座る。


「さっき言ったようにエファとマリーと俺で組んでお前らを待つってのは乗り気じゃない。戦力的にも不安が残るしな、大した事はできない。あの二人もチマチマした活動をずっと続けて待っててもいいと思ってるなら、あんな雰囲気は出さないはずだろ。まあ言うまでもないよな」


「まあせやな」

「で、それ以外にメンバーを加えるってのも乗り気じゃない。そこで頑張って命を張ろうって気になれないからな。上手く言えないんだけど」


 これには多少誤魔化しがある。

 ストレートにつまらなそうだ、とは言えない。

 

「何でやねん? マリートと一緒におりたないんかお前? 他の男が入るのが嫌……っちゅうのもちゃうよな。三人で組むのも嫌なんやし」


 これがおそらくディルの一番引っ掛かっている所なのだろう。

 

「マリーに関しては俺も思う所はあるんだけどさ……別に付き合ってるとかじゃないし」

「お前……そんなん言うたらアカンぞ」

「待てって。そもそも俺はお前らも知ってる通り踏み込む事はしなかった。俺だって我慢したんだ」


「もしかして、こうなる事も考えとったんかお前」

「ああ」


 ただ関係を持って傷付けるだけになる事は躊躇した。同時に恋人として受け入れる事も躊躇した。今後高レベルモンスターと遭遇するにあたってマリーを守りきれず自分が傷付く事を恐れた。


 付かず離れず。

 結局そんな関係のままでいる。


 はっきりそうだと伝えられた訳ではないが、マリーの好意にはほとんど応えてきていない。

 ディーである自分がマリーのレベルに合わせて生きていく道は考えられない。

 

「……信じられへんな。マリートを振るいうんか、お前。ありえへん」

「やめろって。好きって言われた訳でもない」

「待って、それはマリートにも失礼だし今はやめとこう。ここで勝手に話す事じゃないよ。クロム、それはクロムがマリートと二人で話す事だ」


「まあ……そうだな」

「すまんな、もうやめとくわ」

「それよりクロムの目的って何なのさ? マリートの事だってそれが関係あるんじゃないの?」


 エイクの質問にクロムは頷く。

 少し疑問を持ったような顔でだが。


「目的っていうかなあ。予言だ」

「はあ?」

「今モンスターは人間が封じ込めてる。住みかを分けてるってのが正しいのか? とにかく何年後かには冒険者の生き方は今と全く違ったものになる。かもしれない」


 全員怪訝な顔をしている。

 こいつは何を言い出しているんだと。


「素材を狩るとかお宝を取りに行くとかそんなんじゃない。襲ってくるモンスターから身を守るため、人間の戦力みたいなもんになるっていうか。全部丸ごとそうなるって訳じゃないけど。まあちょっと大げさかもな、今の言い方は」


「お前何言うてんねん?」

「とにかく今みたいな平和じゃない世界に変わる可能性が高い。大昔の御伽噺みたいな」

「それって勇者とか魔王とか?」

「おお、エイクまさにそれ」


 ゲームのカバーストーリー。

 プロローグで語られる過去の話。

 勇者と魔王の物語。


「俺の両親が死んだのもそれと無関係じゃないんだ。詳しくは言えないけど」

「えっ……」


 これは勿論でっち上げ。

 クロムもここで嘘を言うのは忍びないが、辻褄合わせの方がニューゲームを始めたから、などという狂った説明よりは百倍マシなはず。


「まあそういう事態になる。パーティーを組むなら俺はそれに見合った面子がいいし、エファとマリー以外の仲間を加えてもいいけど、そいつらと命がけはごめんだ。お前らとならいいかなって思っただけで」


「かといって絶対そうなるかって聞かれると俺も絶対とは言えないからな?」


 


 クロムの突拍子も無い話に困惑した素振りの三人はしばらく考え込む様子だったが。


 何故かクロムの言った事を信じたようだ。

 ゲームの都合の良さがここにまで影響を及ぼしている訳ではないだろうが、クロムは与太話と言われかねない自分の言葉を信じてくれる人間が居る事が嬉しかったし、そんな友人達が好ましいと改めてほんわかしたものを感じていた。


 そもそも命がけだ何だと言っているのも嘘と言われれば嘘だ。ずっとパーティーを組もうなどと考えていた訳ではないのだから。


 ――こいつらは良い奴らだ。


「でも、そう思てるんやったら余計エファとマリートとは一緒に居てやらなアカンのとちゃう?」

「お守りかよ俺は。まあそういう嫌な言い方はしないにしても、俺は俺で今後どうしようってプランは持ってるしな。二人と一緒に居るならその危険に付き合わせる責任を負うし、それは背負いきれない。かといって二人に合わせて縮こまって生きていくつもりもない」


「……クロム、君は一体何をしようとしてるの? エファとマリートじゃ役者不足って」

「ああ、悪い、二人を悪く言うつもりじゃなかったんだけどな……誰だろうと無理なんだよ」


 クロムはまるで自分が一人だけ隔絶した立場に居るような物言いになってしまっている事に、友人達がどう思うのか反応を窺う。


 魔法の才は確かに認められてはいるだろうが、同じく優秀なエファやマリーを足手まとい扱いする程ではないはずだ。自分自身客観的に見て勘違いの傲慢野郎としか思えない。


 ただ三人にそういう気配は見られない。

 何故だろう、と考えたりする。


「俺は世界中のダンジョンを回ったりしてみようとかも思ってるし、そうだな……ダラダラ危険なとこに行くよ。マイペースでさ。それがお前ら全員と一緒ならやれる事もあると思うし、そうじゃない生き方になったとしても別にいいかと思えただけで」


「上手く言えないんだけど」




==============================




 番頭に発見され、ちょっと帳簿を見てほしいと頼まれたクロムが去ったバンホア商会の裏手には、ディルとエイクとレギが何を言うでもなくそれぞれの思いに耽りながら佇んでいた。


 クロムの言葉には理解し難いものが多かったが、何となく納得はしていた。

 クロムが気付いていないだけで、三人にとってクロムはどこか異質な人間だったのだ。


 魔法の才だけではない。

 出会いから全てにおいて自分達とは違うものを見ているという感覚を常に持っていた。


「クロムってビビリやろ。マリートの事なんか一生懸命言い訳して逃げてるだけやんか」

「何とも言えないよ。それって優しさだとも思うし」

「要らん事考えんとガッと行ったらええねん」

「ディルはそんなんだからモテないんじゃない」

「うっさいわ」



「ワイの予想とちゃうかったなー。クロムはエファとマリートと三人で行動して、誰か別の奴やら仲間にしたりなんぞして、でまあその内卒業したワイらとどこかで再会したりなんかして、って思てたんやけど」


「そうだね」

「あいつ一人でどっか行くつもりなんかな」

「かもね」

「怖いんやろな。エファとマリートが傷付くんが」


 クスッとエイクが笑う。


「戦力やらなんやら言うてたけど。ワイらのどこに戦力あんねん。他の男加えるん嫌なだけやろ、アイツ。マリートが誰かに取られるんは見たくないだけちゃうか」


「まあ分かる気がするよ、それは。クロムはマリートと付き合ったりできないって思ってる訳でしょ、危険な所に飛び込んでいくつもりでいるから」

「せやな」

「大事なものを作りたくないって思ってる訳だよね。クロムのご両親の話、何なんだろう」

「分からんな」


 倉庫になっている建物と商会の間の通路になっている場所から物音が聞こえた。

 たおやかな金髪の巻き毛と茶色のショートヘアー。小さく並んだ二人。


 エファとマリーが居た。

 学生の時とはどこか違う大人びた雰囲気は服装のせいだけではないだろう。ますます綺麗になったな、とディルは心の中で呟く。


「御機嫌よう、皆さん」

「お疲れ様」

「おー、なんや二人とも、今日バイトやったっけ」

「違いますわ」


 エファがニッコリと微笑む。


「マリートさんと二人で買い物したついでに寄ってみたんですの」

「さよか。クロムは今番頭はんに呼ばれて店行っとるで。待っとったら戻ってくるやろ」


 先程までの会話を聞かれていなかっただろうかと内心の動揺を押し隠すディルだが、エイクは二人の表情で聞かれていたな、と察する。


 笑顔を作っているが、マリーの表情は硬い。

 

「というのは冗談ですわ。本当は盗み聞きするために隠れていましたの。ごめんなさい」

「なんやて?」

「ごめん、おいらが呼んだ」

「お前……」


 ディルもエイクも驚きレギを振り返る。

 バツの悪そうなレギはギュッと拳を握り締め、俯きながらそれでも上目づかいに見返している。


「何してんねん」

「レギさんを責めないであげて下さいな。私達から頼んでいた事ですの」

「そういう問題とはまた別や」


 ディルがレギの胸倉を掴む。

 男同士の話し合い、それもわざわざエファとマリーのいない所でというのは意図あっての事だ。

 ディルにはそこが腹が立つ。

 レギにも考えはあるだろうが、裏切りだ。


 しかしエファとマリーが止めるより早く、エイクが滅多にしないディルの手を掴むという行動で止めた。無言のままディルを静かに見つめる。


「ちっ」

「ごめん、ディル、私達が悪いの」

「そうですわ……本当にごめんなさい」


 怒りを吐き出すように、ディルは数歩歩くと背を向け木箱の上にドカリと座り込んだ。


「……」


 しょげたエファとマリーはそれ以上何も言えず黙って立ったままだ。

 はあ、と息を吐いたエイクはポンとレギの背中を叩くと立ち上がる。


「ディル、話を聞いてあげなきゃ。分かってるはずだよ、レギも二人もなんでそんな事したか。そんな事する性格じゃないって君も知ってるだろ? パーティーの事についてちゃんと話し合わないと。そういう事なんでしょ?」


 振り返ったエイクにエファとマリーが頷く。


「だってさ。君の考えとは別に二人にも考えはあるんだ。そこは尊重しなきゃ……盗み聞きは良くないけどさ。悩んだ末の決断だったはずだよ」


 

 長い沈黙。

 その後首を鳴らしたディルが立ち上がり振り返る。腕組みし、視線をどこかに向けたまま。


「分かった。そもそも掻き回したんはワイやしな。妙な提案した事謝るわ、すまんかった」

「そんな……謝って欲しいなんて私達は」

「どうして謝るんですの!?」


 頭を下げたディルに対してエファとマリーの顔が青ざめる。これではまるでエファとマリーが嫌々ディルに付き合わされていたかのようだ。


 意地の悪い決着の付け方。

 先程まで自分が言っていた、先に行って欲しいなどという台詞とは真逆の思いやりに欠けた決裂を決定付ける方法。盗み聞きされた怒りがそうさせているとディルにも自覚はある。


 卒業出来ないという自分の能力不足がそもそもの原因を招いたという恥ずかしさの裏返しでもある。そこにも気付いているがディルはそっぽを向いた自分の感情に歯止めが利かない。


「……おいらも、ごめん」

「はあ」


 やれやれ、とエイクは首を振る。

 ディルのこういう子供じみた部分も仕方ない。一本気な性格のせいでもある。


「下らないよ、もう。……二人も話を聞いてたならディルがどう思ってたかは聞いたでしょ? これがディルの本心じゃない事くらい分かるでしょ」


「ディルもディルだよ。二人が僕らを仲間だと思ってるからこそこういう事にもなったんだって分かってるでしょ。やり方がまずいってヘソ曲げるのは男として格好悪いよ。ちゃんと決めた通り言ってあげなきゃ」


 エイクはそう言ったきり黙って待つ事にする。




 しばらくして動いたのはやはりディルだった。

 そういう男だとエイクには分かっている。

 ガシガシと頭を掻きながら目を閉じたまま立ち上がり、ふーっと頬を膨らませ息を吐くと吹っ切るようにパンッと手を叩いた。


「あー、もう。せやな。ワイらを待っててくれる気でおったんは分かっとる。堪忍な。これはさっきの態度についての謝罪や」


「こっちこそごめんね。私達もみんなと一緒にパーティー組みたいって気持ちはあって……」

「それが無くなった訳じゃありませんの。でも」

「みなまで言わんとき」


 グズグズしとるようならむしろこっちから現実見ろや、言うとったとこやでとディルが笑う。

 俯いた二人の頬に涙がこぼれた。



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