真打ち登場?!
放課後、真由は風月華をぶんぶん振り回しながら有沙に一言こう言った。
「いやぁ〜、これで私の力も強くなるかな」
「ええ…」
有佐は苦笑いを浮かべ、辺りを見回した。
「真由ちゃん、別に強くなっても意味ないんじゃ…」
「別にいいじゃないの」
真由はそう言った後、風月華を仕舞ってビガラスの方を見た。
「ビガラス君、どうしたの?」
ビガラスは真由を睨みつけると、遠くを見るふりをした。
「ビガラス君、大丈夫なのかな…」
ビガラスは何も言わずに帰ってしまった。
「いや…、大丈夫じゃない?」
有佐は真由にそう言うと、たしなめながら一緒に帰った。
ビガラスは行き場のない怒りを抱え、一人歩いていた。左腕に巻いた包帯は剥がれかけ、蔦の模様が見え隠れしている。ビガラスは、日に日に力が増していく事を感じていた。それと同時に、自分で自分を抑える事が難しくなっている。理由もないのに、真由に腹が立ってるのは、それが原因だった。
「俺は、誰にも望まれない存在なんだよな」
笛を持つと、無意識に左手が震えていた。
「俺は悪魔だ、訳もなく存在して、何かをずっと奪い続ける…」
ビガラスは笛を吹いた。この笛は、産まれた時からずっと側にあった。この力は、ビガラスの魔力を増大させ、変異を助長させる。使用後は、反動で脱力して胸が苦しくなり、死にかける事もあるのだが、ビガラスはそれを使う事を辞めようとしない。その音色で植物達は枯れ果て、動物達は震え上がった。そして、そこで奪った生気で自らは悪魔の姿へと変異する。そうなれば、今まで抑えつけていた負の感情、特に憎悪が暴走して、自分でも手がつけられなくなる。
悪魔の姿になったビガラスは、周囲の植物を枯らし、荒れた地に一人立っていた。自分が何故そんな事をしているのか、この力は本当に自分のものなのか、自分でも分からない。ビガラスがそんな事を考えていると、背後から真由の声が聞こえた。
「ビガラス君!」
真由は風月華を持って、ビガラスの後ろに立っていた。
「お前は邪魔なんだよ、いい加減消えろ」
ビガラスは真由に手をかざし、腕と足を蔦で締め付けた。真由は風月華でそれを斬ろうとしたが、中々斬れない。
「そんな、このなまくら刀が!」
「真由ちゃん、無茶しないでよ!」
有佐が真由の所に駆けつけようとしたが、ビガラスに足を封じられてしまった。
「あの世の刃物でこの世の物は斬れないって言うけど、これも斬れないの?!」
「二人とも、今すぐこの場から消えろ」
ビガラスは二人を睨みつけた。
「『鉄雹雨(メタルチック·レイン)』」
二人は鉄鉤の雨に打たれ、その場に倒れた。
『そんな、どうして!」
真由は『風の花』を散らせたが、意味が無かった。
「お前らが邪魔なんだよ」
ビガラスは枯れた茨の蔓を操り、真由の胸元に突き刺した。ところが、それは何者かに斬られ、蔦もいつの間にか斬られている。
「誰だ!」
ビガラスが真上を向いたその時、ガラスが割れるような音がして、赤い衣を着て金色の冠をした青年が目の前に現れた。
「お祖父ちゃん!」
「説得も聞かないようなら、力ずくでやるしかないな」
昴はビガラスの方を向くと、一気に炎で包んでしまった。
「お前は、冥府の回し者か?!」
「俺はそんな奴と一緒にしないでくれよ、『神憑槍』」
ビガラスは光の槍に刺され、変異が解けてしまった。
真由はビガラスに駆け寄ったが、昴に止められた。
「お祖父ちゃん、どうして…」
「ビガラス、この力はお前のものじゃないだろ」
ビガラスは苦しみ、槍を引き抜こうとした。
「じゃあ、誰のものだって言うんだよ…」
「大分侵されてるな…」
昴はビガラスの前にしゃがみ込んだ。
「お前の魂は元々悪魔だったんだろ」
「冥府の回し者が…、どうして俺を狙おうとする?」
ビガラスは昴の威圧を何とも感じず、正面を向いて睨みつけていた。
「俺を、そんじょそこらの死神と一緒にしないでほしいな」
昴は光の槍をもう一本、ビガラスの胸に突き刺した。
「まぁ、真由が世話になってるらしいから、多少は遠慮してやるよ。これは神力の槍だ、怪の力を持つお前には痛いだろ」
「くっ…!ふざけるな!」
ビガラスはそう叫ぶが、変異した反動と、神力の影響で、身体は思うように動かなかった。心身共に疲れ果て、息をするのも苦しくなっている。
「お祖父ちゃん、もういいよ…」
真由は昴の横に立った。
「真由、あいつは、まだ人間なんだよな?」
真由は、この前太一と会った事を思い出した。
「えっ?あ、太一さんはそう仰っていました…」
「その割には…、変異が進み過ぎてるんだよなぁ…、あいつが今のように変異を繰り返していたら、何れ人間ではなくなってしまう。まぁ、太一のようにコントロール出来たらそれに越した事は無いぜ?でも、あいつの力は…、恐ろしく凄まじい」
昴はそう吐き捨てるように言うと、空間をガラスのように破って何処かに消えてしまった。
「お祖父ちゃん…」
真由は溜息をつきながら、ビガラスに突き刺さった槍を引き抜いた。
「真由ちゃんのお祖父ちゃんって…、何者なの?」
「えっ、冥王様だけど?」
真由は平然とそう答えた。
「真由ちゃんの親族って…、変わってるね…」
有佐は真由の態度を見て苦笑いを浮かべた。
「それよりも、ビガラス君大丈夫かな…」
真由はビガラスの額に手を当てた。ビガラスは手足に力が無く、包帯は解けたままで、身体全体が白くなっていた。
「まさか、死んだりしてないよね?!」
「だといいけど…、うん?」
真由がビガラスの身体を見ていると、左手の部分が光っていた。そこをよく見ると、真由の『風の花』の花弁が握られている。
「あの…」
見知らぬ声がしたので二人が振り向くと、そこには金髪に、青い目をした女性が立っていた。