霊刀 風月華
真由と有佐は、朝早く学校に来て考え事をしていた。
「う〜ん…、ビガラス君に立ち向かうには…」
真由は、いつも一発芸に使う剣を取り出した。
「こんな剣を使うとか!」
真由は勇ましく剣を引き抜いたが、勢い余って剣は真っ二つに折れてしまった。
「ぬおぉ〜!なんでこんなタイミングでぇっ!」
真由は頭を抱えて跪き、剣を落としてしまった。
「大丈夫?ってかこんななまくら刀で倒せる訳ないよ…」
「じゃあどうすれば!」
有佐はある事を思い出した。
「そういえば…、家の古い蔵に、御札で封じられた刀があるんだよ。昔、私のご先祖様は霊になって、その刀を使ってたらしいよ」
有佐の家である岩屋家は、風見家程ではないが、古くから言い伝えられた話があった。なんでも、有佐のご先祖様である兵太夫は、落ち武者の霊の軍隊を引き連れた大将だったらしい。
「じゃあ…見に行こうよ!」
「えっ…、あの刀を?!でも…、兵太夫の怨霊が居るかもしれないから危険だよ?」
「見に行く価値はあるよ!行こう行こう!」
真由は、有佐が思っていた以上にやる気になってしまった。その時、ビガラスが教室の扉を開け、二人を黙らせた。
「何二人で話してるんだ」
「えっ…?」
ビガラスは真由に近づくと、胸ぐらを掴んだ。
「この前言った事、忘れるなよ」
「ほ、本気で私を殺す気なの…?」
「当たり前だろ」
ビガラスは真由を床に叩きつけると、何事もなかったように自分の席に戻っていった。
「何よ…、謝る事しないのあいつは…」
「この前もこれでやられたな…、痛て…」
真由はビガラスにかなり酷い事をされてるはずなのに、不思議と怒る気にはならなかった。
「なんで…、真由ちゃんはビガラス君に優しくしようとするの?」
「さぁ…、何でだが知らないけどね…、なんでだろ」
真由は理由を考えたが、自分でも分からなかった。
その日の休み時間、真由は、ビガラスがいつも一人で外に座っている事に気がついた。それを見て真由は、ビガラスの側に近づく。
「何回も言ってるだろ、しつこいって」
「まぁまぁそうおっしゃらず…」
ビガラスは枯れた草を握りしめていた。
「俺は生気を奪いながら生きてるんだ」
「それが…、ビガラス君の能力なの?」
「『死操』、死体や死魂を操る能力…、俺は特に植物系が得意なんだよ。前にも言ったろ、俺の一家は死霊使いなんだって」
「ふ〜ん、なんで死霊使いなんかになったんだろ…」
真由はそこにも疑問を抱いた。
「昔、俺の一族が住んでた村は死神が治めていたんだ。ところがその死神が消えて、村を治める者が居なくなり、荒れ果てた。そんな中、ご先祖様が悪魔と契約を交わして死霊使いになり、町を治めたんだ。」
「そうなんだ…」
真由は目の前に枯れかけた花がある事に気付いた。
「ねぇ、死霊使いだったらさ、この花を生き返らせる事って出来ない?」
「えっ?」
「ねっ、やってみせてよ!」
ビガラスはため息をついてその花を握り締めると、花はみるみるうちに生き返った。まるで、今花開いたようにみずみずしく、葉も青々としている。
「何故だ…?」
「凄いね!ビガラス君!」
「そんなはずは…、無いのに…」
予想だにしない事が起こり、ビガラスは驚いている。自分は今まで生物の正気を奪い、自分のものにしていたはずだった。それなのに、自分の力で植物を生き返らせた。それは、ビガラスにとって信じ難い事であり、信じたくもなかった。
真由はそんなビガラスの目の前に『風の花』を出した。
「ビガラス君の力って…、本当に自分の力なの?」
「それは…」
ビガラスは俯き、真由から目を背けた。そして、『風の花』を奪い取ると、生気を吸収しようとしたが、花は枯れなかった。
放課後、二人は有佐の家の古い蔵の中に入った。中は外から見た以上に広く、ところ狭しと古い物が並んでいる。
「お祖父ちゃん達は貴重なものっていうけど、ほとんどはガラクタだよ?」
「へぇ…、そうなんだ…」
蔵には屋根裏部屋があり、梯子で上がる事が出来た。そこは、一階以上に古い物が並び、その奥に御札が貼られた木の箱があった。
「これが霊刀、風月華だよ」
「これが…」
真由はなんの躊躇いもなく御札を剥がして箱を開けると、そこには黒塗りに赤い紐が巻かれた立派な日本刀があった。
「綺麗な刀だね…」
「そうだね…、ってまさか封印が剥がせたの?!」
「うん?」
真由は平然と刀を持っていた。すると、それから霊気が充満し、鎧を着た霊が現れた。ところが、有佐には視えていない。
「わしの眠りを妨げる者は誰じゃ?!」
「まさか…、兵太夫の霊?!」
兵太夫は刀を振り上げ、真由に斬りかかろうとする。
「『霊風陣』!」
真由は『風の花』を咲かすと、花弁を花吹雪のように舞い散らせ、兵太夫の視界を奪った。
「まさかおぬし…、陰陽師か?!」
「『火炎風陣』!」
真由は御札を持ってはいなかったが、不思議と霊術を使う事が出来た。
「真由ちゃん…、一体どうなってるの?!」
「くっ、小癪な奴め!」
兵太夫は刀を振り回そうとしたが、久々の戦いのせいのせいで力尽き、倒れてしまった。
「この刀…、あなたが使っていたのですか?」
「ああ…、冥土の鍛冶が造った刀だ…、あまりもの強さに後の世には造られなかったのだがな…」
真由は風月華を持ち、兵太夫に近づいた。
「あの…、これ、私に譲ってくれませんか?」
「何故その力を欲する?」
「大切な人を助けたいんです…」
すると兵太夫は笑った。
「ああ、好きにせい。この刀は持ってくれる奴が居なくて寂しがっていたぞ。今のわしじゃ持ってやれないからな」
「そうですか…ありがとうございます!」
真由は深々とお辞儀をして、鞘から刀を抜いた。それは、古い時代に造られたとは思えない程、光輝いていて、刃先が鋭かった。
「その刀ではこの世のものは斬れぬ、わしはそれを使って悪しき霊や妖怪から人々を救っておった。死神の命でわしは霊体の状態で留まる事が出来たのだよ。」
「へぇ…、死神の鎌と同じなんですね」
「そうか…、おぬしは死神を知ってるのだな」
兵太夫は不思議そうに真由を見つめた。
「私のご先祖様は死神なんです」
「そうか…、もしかしたらおぬしだったらその刀、使いこなせるかも知れんな。いいさ、持っていけ、これなら風月華も喜ぶし、わしもようやく冥土に渡れる」
兵太夫は風月華を見ると、光の粒となり、消えていった。
「真由ちゃん…、まさか兵太夫に会ったの?」
「うん…」
真由は勇ましく風月華を振った。
「まぁ、これで風月華も手に入れられたし、良いでしょ」
「そうだね…」
有佐は真由を見て微笑んだ。