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突然の来客

 その日の帰り道、真由は有佐とずっとビガラスについて話していた。

「この青波台にイギリスから転校生がやって来るなんて…」

「うん、私も驚きだよ」

真由は結局ビガラスと話す事は無かった。

「でも…、どうして日本に来たんだろう…」

「そういえば…、何も言ってなかったね」

ビガラスは名前と出身地以外の自分の事について何も話していなかった。

「また明日…、考えよっか」

 家が見えたので、真由と有佐は別れた。そして、真由が家の中に入ると、玄関に普段は無い黒い靴が揃い置かれていた。

「あれ、誰か来てるのかな」

居間に行くと、そこには真由の高祖父に当たる剣崎智がソファーに座っていた。

「ひいひいお祖父ちゃん久し振り!」

「そのまどろっこしい言い方やめろって…」

智は懐かしそうに真由を見ると、頭をぽんぽんと撫でた。

智は死神で、今は冥界に住んでいる。普段は忙しく、滅多に現世にはやって来ない。

「ごめんな、本当は昴が来たほうが良いはずなんだけど…」

「ううん、大丈夫だよ」

昴は真由にとっては祖父に当たる。冥府の王である昴に真由は一度しか会った事がない。曾祖母の真莉奈も同様だ。

その為、何かあった時には智が尋ねる事が多かった。

「で、何があったの?」

「いや…、青波台に不穏な空気があるって言われたから…、来ただけだよ」

「不穏?う〜ん…、今は特にないなぁ…」

真由は智に昨日の事を話した。

「そうそう、昨日ね、転校生が来たんだよ!」

「へぇ…、そうだってのか。実はな、俺も転校生としてここにやって来たんだ」

「そうだったんだ…」

智は昔の事を思い出して、嬉しくなった。

「で、どんな子なんだ?」

「ビガラス君って言うの、イギリス人なんだって!」

「ビガラス…?!それ、本当か?!」

智の驚く顔を見て、真由は驚いた。

「何?ひいひいお祖父ちゃん?」

智は死神の書を取り出すと、あるページを開いて見せた。そこには冥府のお尋ね者リストが書かれてあり、ビガラスの名前がそこにあった。

「えっ…、まさかあの子死んで…」

「いや、死んではいない。ただ、あいつは冥府が警戒している人物なんだ」

「何をしたの?」

智は本を閉じてこう言った。

「そこまでは俺は知らない、ただ、あいつが危険な事には変わりはない」

「そうなの…?」 

意外な事実を突きつけられ、真由は変な気持ちになった。

「ビガラス君…、何者なんだろう…」

智が帰った後も、真由はずっとビガラスの事を考えていた。


 智は冥界に帰る途中、ある家の横を通った。そこには、芝生の庭があり、門の隙間越しに黒猫が見えた。黒猫は、智に気づくと門をすり抜けてやって来た。

「結構人懐っこいんだな…」

 動物はそういうものの気配を敏感に察するのか、死神である智に動物が近づいてくる事はあまりない。だが、この黒猫はそんなのはお構いなしにと、智の頬に擦り寄り、舌で舐めてきた。

「なんか、俺に似てるな」

智がそんな黒猫の背中を撫でていると、家の扉が開いて、中から有佐がやって来た。

「こら、黒大豆、勝手に外に出たら駄目でしょ?」

黒大豆、と呼ばれた猫は智から離れようとしない。

「えっ…、黒大豆?!」  

「はい、友達が付けてくれたんです」

有佐は智と、黒大豆の所に近づいた。

「この子の猫だったのか…、しかし、人懐っこいな」

「はい、黒大豆は人懐っこくて甘えん坊なんです」

黒大豆は、智の事が気に入ったらしく、ずっとくっついたままだ。

「それで、黒大豆って名前か…、まぁ、黒いのは分かるが何故その名前なんだ?食べ物で絞るとしてももっといい名前あるだろ?」 

「さぁ…、真由ちゃんが決めたので分かりません」

真由という名前が出たので智は驚いた。

「真由…、まさか、真由の友達か?」

「そうですけど?」

「迷惑かけてないか?」

有佐は首を傾げた。

「はい、大丈夫ですが…、お兄さん、真由ちゃんの事をご存知なんですか?」

「まぁ…、血が繋がっているからね」

智の年齢は既に百歳は超えている。だが、見た目は若々しく、二十代と言われても違和感は無かった。

「そうなんですか…、信じられない…」

「まぁ、別に良いさ」

 智は黒大豆を抱え上げ、笑った。

「お兄さん、中々のイケメンですね!彼女さんとかいらっしゃるんですか?」

有佐は目を輝かせ、頬を少し赤くしている。それを見て、智は苦笑いした。

「まぁ…、居るっていうよりも…、"居た"って言う方が正しいかな…」

「居た?まさか振られたんですか?!この美貌で?!信じられないです!」 

智は焦り、慌てて訂正した。

「いや、彼女と結婚してるし子供も居るからな!」

「じゃあ何で居たって…、まさか、離婚?!」

「天寿を全うしたんだ…」

有佐は質問攻めしているが、理解が追いつかなかった。

「随分早死にですね…、それか、かなりの年の差婚…」

「いや、だから何と言うか…」

智は、有佐に自分の事を明かすかどうか迷った。

「そういや、俺と玲奈が出会ったのも、この時期だったな…」

「何の事ですか?」

「いや、何でもない…」

「あなたの話は辻褄が合わないんですよ!早く教えて下さい!」

 智が有佐の対応に困っていると、突然黒大豆が震えだし、智の背中に隠れた。空は曇りだし、嫌な風が吹いている。すると、誰かが有佐達に近づいてきた。

「あれ、あなたは…」

風とともに現れたのはビガラスだった。

「お前…、どうしてここに?」

「別に、探しものをしてるだけだ」

ビガラスはそう言うと、智を睨んだ。

「分かってるんだよ、お前の正体は…」

智は黒大豆を抱え、有佐の前に出た。

「ここには無いようだな…。かと言って冥府の回し者に邪魔される訳にはいかない、今すぐここから消えろ」

ビガラスの右腕の腕輪が光ると、枯れ枝が智達に向かって来た。

「くっ…、黒大豆を頼むぞ!」

智は鎌を取り出すと、枯れ枝を断ち切った。

「相手が悪いな…、あれさえあればこんな奴なんて事ないのに」

ビガラスは枯蔦で二人の視界を遮ると、何処かに消えてしまった。

「あいつ…」

智は鎌で蔦を斬ると、有佐の方を向いた。

「あの、何があったのですか?」

有佐は目の前で何があったのか、理解していなかった。

「驚かせて、悪かったな」

「あの、ありがとうございます…。えっと…、この大きな鎌、まるで…」

「死神みたいだって、言いたいんだろ?」

有佐は、自分が言いたい事を言い当てられ、驚いた。

「実はそうなんだよ」

「えっ?!」

「俺は剣崎智、死神だ。有佐、さっきは大丈夫だったか?」

「あっ、私は岩屋有佐、私は大丈夫です…」

智は黒大豆を撫で、有佐の方を向いた。

「俺はこう見えても百歳超えてるんだ。妻は、同い年の人間なんだけど、数十年前に亡くなった」

「それで恋人は居たって…」

「ああ…、」

智は少し寂しそうな顔をした。

「あの、智さんは死神ですが、ビガラス君は…」

「俺の予想が正しければ、あいつは…」

有佐は息を呑んで智の話を聞いた。


 その日の夜の事、真由は不思議な夢を見た。気がつくと真由は、草原の中に立っている。空は青く、草の緑は輝き、花がいくつも咲いていた。真由がその景色を見渡していると、遠くて誰かが立っている。

「あなたは…」

その人は真由の事には気づいていなかった。遠くからなのでよく分からないが、見た所少年のようである。

「なんで、ここに居るの?」 

 少年は何も言わずに、横笛を取り出して吹き出した。その音色は低く、何かが唸るようだった。それを聞いた人物はたちまち不安と恐怖を覚え、すぐにでも立ち去るだろう。だが、真由はそんな気分にはならず、その少年に近付こうとした。 

「なんで、気づかないの?」

 真由が少年の側に来た次の瞬間だった。少年から黒い気が溢れ、その影響で空は赤黒くなり、周囲の植物が枯れていった。そして、少年の身体には赤い線と蔦の紋様が浮かび上がり、黒い爪と山羊のような角、鎖と蔦が巻き付いた蝙蝠の翼、そして枯葉のような尾が生えた。その姿はまるで…、

「悪魔、なの…?」

悪魔は真由を見ると、枯蔦で縛り上げてしまった。


「えっ?!」

 真由が飛び起きると、そこはいつもの自分の部屋だった。

「何これ…」

真由が身体を触ると、何かに縛り付けられた感触がある。

「こりゃぁ…、悪夢ってやつですなぁ…」

 真由はランドセルを背負うと、有佐の元へ向かおうとすると、公園の茂みに何かが落ちている事に気付いた。

「これは…」

それは、枯れた蔦と蕾で飾られた横笛だった。

「面白い笛だな…」

真由がそれを拾うと、枯れた蕾の一つが、桃色の花を開いた。

「うわぁ…!」

真由は試しにその笛を吹いてみたが、思ったように音は出ない。

「う〜ん…、なんでだろ」

「真由ちゃん!」

すると、有佐が真由に話しかけた。

「おはよう、有佐ちゃん」

真由は横笛をランドセルの横のポケットに隠した。

「ねぇ、昨日真由ちゃんの親族の智さんに会ったんだけど…」

「えっ、ひいひいお祖父ちゃんに会ったの?!」

「それで、ビガラス君について聞いたんだけど…」

「ビガラス君って…、何者なの?」

有佐がその事について話そうとしたその時、ビガラスが目の前に現れた。

「何言い出そうとしてるんだ?」

「あっ、ビガラス君…」

ビガラスは二人を睨みつけた。

「お前ら二人…、何をやろうとしている?」

「あっ、いや、何でもない…」

ビガラスは二人を置いて先に行ってしまった。

その日も学校ではビガラスと真由が話す事は無かった。


 そして、学校が終わって家に帰った真由は、ランドセルから横笛を取り出して、注意深く観察した。

「一体誰のものなんだろう…、そういえば、夢で出てきたような…」

真由が自分の机に笛を置いた時、玄関のチャイムが鳴った。

「うん?誰だろ…」

一階に降りて扉を開けると、なんとそこにはビガラスが立っていた。

「ビガラス君?!どうしてここに…」

するとビガラスは、真由に向かって手を出した。

「気配を感じた、ここにあるんだろ?」

「えっ…?」

ビガラスはまた真由を睨みつけている!。

「とぼけるな、俺の笛持ってるんだろ?とっとと返せ」

真由は二階に上がると、横笛を持ち出し、ビガラスに手渡した。

「これの事?」

ビガラスは、真由に感謝もせずに笛を奪い取ると、大きなため息をついた。

「お前…、この笛に触ったな?どうしてくれるんだよ?!」

怒り心頭のビガラスを真由は慌ててなだめた。

「私…、ちょっと触っただけだよ…?」

「ふざけるな!お前の霊力のせいで花が咲いたじゃないかよ!」

ビガラスは花を握り潰すと、失敗した原稿用紙のように破り捨てた。

「全く…、どいつもこいつも…」

「この笛、ビガラス君のだったんだね。そういえば…、夢でも似たようなのを見たような…」

ビガラスは呑気そうに話している真由に怒りが込み上げてきた。

「お前、確か名字が風見だったよな?あいつらの仲間か?」

「えっ…?」

「母さんに言われてるんだ、冥府の回し者と陰陽師には用心しろって」

真由はなんの事だかさっぱり分からなかった。

「えっ?!なんの事…?」

「お前は危険だ、本当なら今すぐここから消えてもらいたいんだよ」

「た、確かに私のお母さんは陰陽師の力持ってるけど…、でも、私とは…」

「やっぱりそうなんだな」

ビガラスは真由の両手首を蔦で縛り上げると、顔を近づけた。

「下手な真似はするな、無闇に手を出したら殺す」

「あっ…」

ビガラスは真由を突き飛ばすと、何も言わずに立ち去ってしまった。

「初めて話せたと思ったのに…、どうして…」

突き飛ばされたり時についた頬の擦り傷が、ひりひりと傷んだ。

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