目覚める生命力
真由達は『草の神殿』まで辿り着いた。周囲には何人か人が集まっていて、その中には智とリトやラメルの父親のウォル、シオナの両親のシェイルとフォレスも居た。智達の目線の先には祭壇があり、そこには蔦で身体を覆われたビガラスが眠っている。その上空では、黒竜の姿をしたグルーチョが飛び、様子を伺っていた。
「何故昴様はこういう時に限って忙しいのか…。魂は完全なのに何故目を覚まさない…?」
フォレスはビガラスを覆っている蔦を外してそれを持った。
「私達の時みたいに属性の力で包んで駄目だったけど、どうすればいい?」
「なぁ、俺が食ってた魂の力を分けるから、目を覚ましてくれよ!」
ウォルはそう叫んだが、智は首を振った。
「フォレス、ウォル、そういう問題じゃない。ビガラスが目を覚まさないのは魔力が切れたからだ」
「魔力が切れたら…、どうすればいいの?」
「薬を飲ませて安静にするのが良いらしいが…、あいつの魔力の低下は著しい。霊晶石があればその属性の力を吸収させて分ける事が出来るが、今手に入れる事は難しいだろうな…」
グルーチョは、ビガラスの腕輪に填められている石を見つめた。
「これは、蔦の悪魔の魔水晶か…、今はビガラスの力が込められた霊水晶になってるが…。この欠片ぐらいでは力は取り戻せない」
「薬が良いのね?分かったわ、これでも私は医師の端くれ、死神の助産師だから」
フォレスは術で薬草を生やし、磨り潰してビガラスに飲ませた。
「力が切れた死神は沢山見てきたけど、人間は玲奈さん以降見てないわ…」
真由達はその様子を静かに眺めていたが、何をやってもビガラスが目を覚まさないのが気になり、ビガラスに近寄った。
真由達がいるのにようやく気が付いた智は、何故冥界にやって来たのか尋ねた。
「何故、ってかどうやって冥界に来たんだ?!鍵は渡してないはずなのに」
「有沙ちゃんの家にあった鍵を使って入ったの、ビガラス君の事心配で…」
「人間の家に冥界の鍵?どういう事だ…」
「鍵だけじゃないんだよ、有沙姉ちゃんの家の蔵には風月華も、兵太夫の生首と鎧兜もあったんだ!後、大きな霊水晶も!」
智は、真由と照彦の話に若干の不審を抱いたが、来てしまった事にはしょうがないと感じた。
「そうか…、だからと言って勝手に来たら駄目だろ…」
「ごめんなさい…」
二人は智に向かって頭を下げ、顔を上げた。
「にしても、有沙の家にどうして冥界に関係するものがあるんだよ…」
智は、ビガラスの事を置いてそっちの方に関心が寄っていた。そんな智に気づいた真由は、智の両腕を持って顔をしっかり見つめてこう言った。
「そういえば、太一さんが、私の力でビガラス君の事をなんとか出来るかも知れないっておっしゃってました」
「太一がそう言ってたのか…。確かに、真由の力とビガラスの力は何処か似ている。試してみる価値はあるな」
「よし!やってみよう!」
真由は張り切って風月華を取り出して、先端に花を咲かせた。
「ほら『風の花』だよ、元気出して」
真由は花をビガラスに握らせたが、反応が無い。
「いつもみたいに、花を握らすだけじゃ、駄目なのかも…」
「そっか…、それじゃあ!」
真由は風月華を大きく振った。すると、一輪だった『風の花』は大きな花束になり、真由の手元に落ちた。
「私のありったけの力をあげるから、目を覚ましてよ!」
真由は花束をビガラスの胸元に手向け、抱きしめた。すると、花束は眩い光を放ち、小さな二つの珠になって地面に落ちた。その光でビガラスは目を覚まし、真由の方を向いた。
「真由…?」
「ビガラス君!目を覚ましたんだ!良かった…」
真由はビガラスを思いっきり抱きしめた。
「俺、生きてるよな?」
「うん…!」
ビガラスは真由の顔をしっかり見つめた。
「あの戦いで魔力が完全に無くなってどうなるかとおもったけど…、また真由に助けられたみたいだな」
ビガラスは正座をして真由の両手を握った。
「ありがとう」
真由は、ビガラスがお礼を言う事に驚いたが、笑ってそれを返した。
そして、二人が立ち上がろうとした時、二つの珠が祭壇に落ちている事に気がついた。二つは同じくらいの大きさをしていて、片方には花の模様、もう片方には葉の模様が浮かび上がっている。
「この二つの珠は霊水晶だな…、花の方は真由の力を、葉の方には俺の力を感じる…」
真由は、葉の方の霊水晶を握りしめた。
「ビガラス君、私の力を受け取ってよ」
「えっ?」
「お互いの力で守られてる感じがするでしょ?」
ビガラスは花の方の霊水晶を手に取った。
「確かにそうだな、真由の霊水晶、大切にするよ」
二人はお互いの霊水晶を見せ合い、笑い合った。
「良かったね、二人とも…」
有沙と照彦はそれを遠くで見守っていた。
四人はラメルとシオナの横に付いて、帰ろうとした時、智がそれを呼び止めた。
「ちょっと待ってくれ!有沙の家、岩屋家に何故冥界のものがあるのかどうしても気になるんだ!」
「ひいひいおじいちゃん、もうその話良いでしょ…」
「冥界のものが現世にあるとは、理由によっては大問題だからな」
「これ、兵太夫の話をした方が良いんだよね…?」
有沙は、死神達に兵太夫の話をし始めた。すると、意外な答えが返ってきた。
「そんな昔の話が伝わってるなんて…」
「恐らく、蔵にあるのは兵太夫と死神のもの、でも、その死神は誰なんだ…?」
「それは…、私の事かな?」
その声がした方を向くと、灰色のローブを纏った背の低い長老のような見た目をした死神が、一同を見ていた。他の死神達と違い、シワもあり、口元には立派な白ひげがある。だが、髪の毛と目は茶色く、何処か若々しさを感じた。




