三途の川へ
三人は扉から抜け出して立ち止まった。辺りは一面に広がる草原で、空は朝焼けと青空と夕焼けが混じったような色をしている。目線の先には川が見え、舟が何艘も行き交っていた。
「ここが冥界だよ」
「まさかあの川って…、三途の川?!」
「そうだけど?」
「うわっ、生きてる間に見てしまうなんて…」
有沙の足が竦む中、照彦は三途の川の方に向かって歩いて行く。
「ビガラス兄ちゃんの事、聞かなくちゃね!」
「聞くって言っても…、誰に?」
照彦は様々な舟が行き交う中、ある舟に手を振った。照彦の目線の先には、海兵の帽子にセーラー服を着た青髪の青年が居る。
「ラメルさん!お〜い!」
ラメルと呼ばれた青年は、照彦達の姿を見ると、岸辺の方に寄ってきた。
「よっ、照彦と真由じゃないか」
ラメルは舟から降りて、照彦と真由の頭を撫でた。
「二人とも、元気にしてたか?」
「はい!」
二人がラメルとの再会で喜んでいる中、有沙は一人顔が引きつっていた。
「えっ、まさか…この死神と知り合い?!」
「そうだよ?」
真由は平然とそう答えた。
「だって、冥界に行ったの初めてじゃないし。ひいひいおじいちゃんの知り合いの死神沢山居るし」
「えぇ…」
有沙は後ずさりして首を振った。
「いやいやいや、なんで知り合いのおじさんに会いに行くノリで行ってるのよ?!冥界だよ?死後の世界だよ?!あの世ってそんな簡単に行っていいものなの?!」
「まぁ…二人の感覚はな、死神に近いからな」
「いや、百歩譲って照彦君はいいよ?死神だから…でも、真由ちゃんって死神でも何でもないじゃん!」
「いずれにしろ、二人は昴様のお孫さんだからな…」
「いやいやいや…、絶対おかしいよ…」
有沙は二人の感覚と行動に納得できなかった。
ラメルは気を取り直して二人の話を聞いた。
「それで、二人はどうして冥界に来たんだ?」
「実は…、私の友達の男の子…、ビガラス君がひいひいおじいちゃんに連れられて冥界に来ました…。ラメルさんは何処に行ったか御存知ですか?」
「あぁ…、そういえば、智さんと父さんが急いで何処かに行ってたな…。智さんの腕には倒れた男の子が居た。何処に行ったか…詳しくは分からないけど、あの方角なら『草の神殿』じゃないかな?」
「『草の神殿』…?」
冥界には死神の六属性に沿った炎の神殿、水の神殿、雷の神殿、草の神殿、地の神殿、氷の神殿の六神殿と、六属性と別扱いの五属性を司る五神殿の月の神殿、日の神殿、星の神殿、光の神殿、闇の神殿がある。六神殿はかつての冥王である月輪と弓姫の間に産まれた姫達が祀られているが、日の神殿には日輪皇子、月の神殿には月輪と弓姫、星の神殿には昴が祀られているが、光の神殿と闇の神殿には何も祀られていない。また、それらの神殿とは別に、風の神殿が現世の死出山に存在し、風見清蓮が護っていたが、死出山が滅亡したと同時に力は消えている。
死神達は、それぞれ六属性の中で主属性と副属性を持っているが、例外も居た。
「ビガラスの属性は草と地だったな、金属系の魔法は一応地の属性になるんだ。真由は陰陽師でも珍しく二つ属性を持っていて風と草、照彦君は光の属性を持っている。俺は、水と地になるな」
「属性の力を付ける為に神殿に行ったのですか?」
「恐らくな…」
ラメルは有沙の方を見つめた。
「で、君の名前は?」
「岩屋有沙です」
「連れられたんだな、御苦労なこった」
「そうですね…」
有沙は、やれやれと言って額の汗を拭いた。
「それで、ビガラスの所に行きたいんだな?ちょっと待ってくれ」
ラメルは、舟を漕いで三途の川を渡って行った。
ラメルが船着き場で降りて、自分のモーターボートに乗り換えようとすると、一人の死神が仕事を終えて舟から降りようとしているのに気がついた。それは、同じく三途の川の船頭であるシオナだった。シオナは和傘に羽織袴を着て、髪の毛を三つ編みにしている。
「シオナ!お〜い!」
シオナはラメルの声に気づくと、駆け寄って来た。
「ラメル!どうしたの?」
「これから智さん達の所に向かうんだ、一緒に行くか?」
シオナは頷き、ラメルのモーターボートに乗り込んだ。そして、三人の所に行った。
船はあっという間に三人が待つ岸辺へと辿り着いた。真由と照彦は、シオナとラメルが同じ船に乗っている事と、その船がモーターボートである事に驚いた。
「あれ?シオナさんまで居るんですか?」
「言ってなかったか?実は最近俺達結婚したんだ!」
「おめでとうございます!にしても随分年の差婚じゃないですか?」
「言って百年も離れてないだろ?」
シオナとラメルはとても仲良さそうに見え、二人はそれを不思議そうに見ていた。
「ラメルさん、そのモーターボートは…」
「ああ、これは現世でもう使わない奴を持ってきて、霊力で動くように改造したんだ。流石に普段の仕事じゃ使わないけどな。」
三人はモーターボートに乗り込み、三途の川を進んでいった。
「三途の川を渡ってる…、これ、本当に大丈夫だよね?!」
「大丈夫だって!これは業務外だし、間違っても生きた人間を向こう側に送ったりはしないさ」
「本当、ですよね…?」
有沙は、未だに真由や死神達に不審を抱いていた。
「えっと…、『草の神殿』はここが近かったよな?」
ラメルは桟橋に船を停め、錨を沈めて降りた。
「えっと…、シオナ、案内してくれないか?実は俺行った事無くて…、シオナだったらフォレスさんの付き添いでよく行ってるだろ?」
「分かったよ」
シオナは四人の先を歩き、神殿まで案内した。
「しかし…、死神でもない、ましては人間の魔法使いの少年を冥界の神殿まで連れて行くなんて、珍しいね」
「まぁ、智さんだから何か考えがあっての事だろうけど」
草の神殿は三途の川から離れた丘の上にあった。東屋のような建物は、蔓で覆われており、遠目から見ても何人か人が居るのが見える。五人は、そこに向かって歩いて行った。




