己の力を信ずるのは
休日、曇り空の中真由と有沙とビガラスが外に出ると、それを待ち構えていたように蔦の悪魔が現れた。
「お前らが俺を倒そうとしてるんだって?」
真由は風月華を持って前に出た。
「うん、そうだよ!」
「ビガラス、お前には僅かながらも俺の魂が残っているらしいな、返してもらおう」
「この魂は誰にも渡さないさ!」
悪魔はビガラスに飛び掛かり、蔦を伸ばしてきた。
「『鉄雹雨』」
ビガラスの腕輪が光ると、鉄の鏃の雨が降り、蔦を斬った。
「そういえば、ビガラス君の武器は?」
「あの笛がそうかもしれないけど、今は持ってないね」
真由は別の場所の蔦を斬り、左手に数珠と御札を持った。
「『火炎風陣』!」
真由の周囲は炎の海になり、蔦は灰となっていく。
「やるな、だが…」
悪魔は茨の蔓で炎を覆い、消してしまった。
「この蔓は特殊だ、炎でも燃えず、刃物でも斬ることは出来ない。それに…」
「『冥道裂斬』!」
真由は悪魔の話の途中で茨の蔓を一刀両断してしまった。
「あんたの話も、一刀両断っと!」
「お前!冥界の刃物でそれを斬ってしまうとは…」
「いやぁ…、私にも使えたんだな、死神の技」
真由は得意気に風月華を振り回した。形が違うとはいえ、風月華も死神の鎌も、冥界の刃物だ。死神の血を引き継いでいる真由だから、ある程度扱える力があってもおかしくはない。
悪魔は更に茨を繰り出し、二人を棘で刺そうとした。
「『地輪花』!」
真由は風月華の先に花を咲かせ、茨の中に刺した。すると、茨は枯れてボロボロになっていく。
「この花には生命力を吸収する力があるのね」
「『死操葉』!」
更に、ビガラスは枯れ葉を旋風で巻き上げ、悪魔にぶつけた。だが、悪魔は翼で飛んでそれをかわし、更に葉を枯らしていく。
「お前らじゃ俺を倒せないのさ!」
悪魔は地面から硬い蔓を伸ばし、空中に毒の茨の棘を飛ばした。
有沙はそんな二人の戦いを、離れた場所で避難しながら見ていた。二人の戦いは激しく、間に付け入る隙を見せない。
「大変な事になってるね?」
有沙の横から智とリトが現れた。
「智さん!リトさん!」
「まぁ、智さんにボクの良いとこ見せつけてやりますよ」
リトは手首に巻き付けてあるリボンを解き、悪魔に向かって投げた。リボンは悪魔の身体を縛り付けて地面に叩きつける。そして、リトは鎌を地面に刺し、地面から黒いドロドロとしたオーラを出現させた。
「『ミッドナイト・シャドウ』!」
悪魔はそのオーラに溺れ、身動きが取れなくなったが、すぐに抜け出し、リトに向かって毒の棘を飛ばした。
「リト、危ない!」
智はリトを棘から遠ざけ、炎を纏った鎌で悪魔を斬りつけた。
「やるな、だが…、死神の力で俺を倒せると思うな…?」
悪魔は頑丈な蔓をあらゆる方向に伸ばし、智達が居る地面を抉った。更に、蔓は真由達が居る場所とは違う所ヘ伸びていく。
「そういえば、あそこには照彦君が!」
有沙がそう叫ぶと、真由はすぐさま駆け出し、蔓が伸びる方へ向かって行った。
照彦は、公園で一人遊んでいた。周囲には誰もおらず、辺りはしんとしている。すると、何やら大きい音が聞こえた。不思議に思って照彦がその方を見ると、太い蔓が勢いを増して近づいて来ていた。
「何あれ?!」
蔓は照彦の目の前にあり、止まる気配を見せない。照彦は鎌を取り出し、震える手で握りしめると、蔓に向かって振り下ろした。
「『光の傷』!」
蔓は見事に斬れ、地面に叩きつけられた。
「やった!初めて技が使えた!」
だが、蔓は再生し、照彦の腕を縛り付けた。照彦はもう一度鎌を振り下ろそうとしたが、手が塞がれてしまい使う事が出来ない。
「『火輪花』!」
すると、駆けつけた真由が炎で蔓を焼き、照彦は無事に抜け出せる事が出来た。
「真由姉ちゃん!」
「照彦君、危ないから有沙ちゃんと一緒に居てね!」
真由は照彦を有沙の元に連れていき、遅れてきたビガラスと一緒に悪魔を見た。
悪魔は空を飛び回り、空中から爆発する種子を飛ばす果実を、地面からは茨と蔓と蔦を繰り出していく。智とリトは、避けるのに必死で、攻撃出来ていない。
二人は悪魔を見つめ、どうやって攻撃するか考えていた。
「真由、俺に提案があるんだ」
ビガラスは悪魔が繰り出した蔦と蔦を一部抜き、弓の形状にした。更にビガラスは地面から棒切れを一本拾った。
「これに『風の花』を咲かせてくれないか?」
「良いけど…、どうするの?」
真由は棒切れに花を一輪咲かせた。
「これが上手くいけば…」
ビガラスは棒切れを矢にして、弓をつがえ。弦の代わりの蔦を張り詰めた。ビガラスが狙いを定めようとすると、蔦には手の震えが伝わっていく。ビガラスは矢を悪魔に向けて飛ばし、胸元に当てた。
「効かねえな…、って何してくれるんだ?!」
胸元からは笛が落ち、ビガラスはそれを拾い上げた。
「これが力の源なんだよな?蔦の悪魔」
ビガラスは笛を悪魔に見せつけた。笛には真由の力で花が咲いており、悪魔の力は感じなかった。
「ああ、流石、お前は元々俺だっただけはある。そうか、もしかしてまた俺になりたいのか?」
「いや、もう要らないよ」
ビガラスはそれを悪魔の目の前でへし折った。悪魔をそれを見て驚き、怒りを見せる。
「お前…!そうだ、その腕輪も元々俺のものだったな?返してくれないか?」
「渡さないさ、お前には」
ビガラスは、爆発する種子を手に持ち、それを芽吹かせた。
「真由!今のうちに!」
「『風輪花』!」
真由は地面を覆う蔓や蔦を斬り、果実を突き刺して爆発を防いだ。そこからは花が咲き、悪魔の力が弱まっていく。
「俺の力を見せつけてやるよ、『霊操蔦』
ビガラスは種子から芽吹かせた蔦を太く伸ばした。その蔦はビガラスが悪魔の時に発生させた枯れた蔦ではなく、その名前の通り、瑞々しく生命力に満ちた蔦だった。
「『空輪転移』!」
真由は蔦に風月華を突き刺した。すると、蔦は更に太くなり、悪魔の胸元に突き刺さった。
「しまった!」
悪魔の魂が抜け、蔦を通じてビガラスの元へ渡っていく。そして、抜け殻になった悪魔は幹のように硬く太い蔦になった。その悪魔の身体は崩れ落ち、真由に向かって降り注いでいく。
「危ない!」
ビガラスは蔓を出現させ、真由を引き寄せた。疲れの影響でビガラスは息が上がり、身体に力が入らなくなっている。それを見た真由は心配になり、ビガラスの両肩を持った。
「大丈夫?!」
ビガラスは消え入るような声でこう呟いた。
「俺の力は…、誰かの力になれたのか…」
「まさか、魔力を使い果たしたの…?」
「俺は自分が生きたいかどうか分からなかった…、だけど、今は思うよ、俺は…、真由と一緒に生きたかった…」
ビガラスはそう言って涙を浮かべると、真由から手を離して崩れ落ちた。
智とリト、それから有沙と照彦は少し遅れて真由とビガラスの元へやって来た。
「二人共!大丈夫か?!」
「私は大丈夫、でも、ビガラス君が!」
ビガラスの身体は温かく、息もしているが、倒れるように眠ったまま起き上がる気配を見せなかった。
「魂は戻ったはずなのに、なんで…」
智はビガラスの目の前にしゃがみ込み、身体を抱えて立ち上がった。
「リト、冥界に戻ろう」
智はビガラスを抱えたまま、リトと一緒にどこかへ行こうとする。
「ちょっと待って!なんでビガラス君を連れて行くの?!」
「このまま現世に居ても、目を覚まさないだけだ。ベルさんには俺が伝えておくから」
智はそう言って、消えるように去ってしまった。真由は落ち込み、思われず風月華を落とした。
「どうして…」
「真由姉ちゃん」
落ち込む真由に、照彦はそっと寄り添ってきた。
「冥界に行こう、ビガラス兄ちゃんを目覚めさせる方法はあるはずだよ」
「照彦君…」
照彦は真由をじっと見つめたが、何かに気づいて落ち込んだ。
「でも、俺、冥界に行く為の鍵を持ってない…」
「鍵、ひいひいおじいちゃんが持ってたよね…」
すると、有沙はポンと手を叩いた。
「そういえば!家の蔵に何を開くか分からない鍵があったような!」
「鍵?!」
真由は急に元気を取り戻し、いつもの調子に戻った。
「よし!有沙ちゃんの家にある冥界の鍵を見つけよう!」
「いや、冥界の鍵と言った訳じゃ…」
「おう!」
照彦も真由に合わせ、腕を上に上げる。
「真由ちゃんと照彦君って兄弟みたいだよね…」
真由と照彦は有沙の言うことも聞かずにずんずんと有沙の家まで歩いて行った。




