異国からの転校生
それから、六年が経ち、風見真由は小学五年生になった。真由も血筋の影響か、能力を持つようになった。『風植』といい生命エネルギーを持った『風』を使って、あるはずのない場所に、生物を現す事が出来るというものだった。真由はそれを使って、剣の先から花を咲かせたり、雑踏の中から草を生やす事が出来る。ただ、その能力が特に生かされる事はなく、たまに手品の代わりに披露するくらいだった。
真由自身は、多少まともな所はあるのだが、父親である晃の影響で、賢いが発想や行動がぶっ飛んでいて、常人には理解出来ない事があった。
真由はクラスの中ではムードメーカーだった。良くも悪くも積極的で、遠慮があまりない。それで嫌われる事も多かったが、後に真由の事が好きになる人も居た。その中で一番仲が良かったのは、岩屋有佐だった。有佐は元々真由の事が苦手で距離を置いていたか、そんなのはお構いなしに近づいてきた真由に、仕方なく付き合っていたのだ。有佐は友達が居なく、自分は嫌われ者だと思っていた。それなのに、真由はそんな有佐に近づき、積極的に話して来る。そんな真由を見て、だんだん有佐は真由の事が好きになったのだ。真由自身は、自分の行いが他人にどんな影響を与えてるのか、知らなかったし、知ろうともしなかった。
連休が明けた最初の学校の日の事、真由は朝早く教室にやって来て、先に来ていた有佐に声を掛けた。
「おはよー皆の衆、今日も元気にいきましょー」
「おはよう、今日も元気そうだね」
有佐は、真由のどんな言動にも動じなくなり、笑って平然と返せるようになった。
「今日、先生に言われたんだけどね、机を一個増やしたんだってさ」
「へぇ…、誰か来るのかな…」
「どんな輩が来ても私に任しとけぃ!」
何の自信なのか、真由は自分の胸を拳で叩いて、強気な態度になった。
「それを世話する私の身にもなってよ…、また厄介なのがくるの…?」
有佐はため息をつくと、空いてる机を見つめた。
「しかし、転校生なんて、珍しいな…」
続いて他のクラスメート達がやってくると、真由はそれぞれみんなに声を掛け、今日来るかもしれない転校生の事についてどんどん聞いていった。だか、誰もその事を知るものはいなかった。
そして、チャイムが鳴ってクラスメート達が座ると、担任の及川先生が、見知らぬ男子を連れて、教室に入ってきた。その子は髪の毛は黒色で、両側のもみあげの辺りに緑色の紐と黄色いビーズの飾りがある。目は緑色の釣り目で、顔には赤い線がある。服装は、袖無しのシャツに片側が破れたように短いズボンだった。そして、左腕にはどういう訳か包帯と鎖が巻き付かれていた。
その子は黒板に『Vigorous June』と丁寧な字で書くと、前を向いた。
「みんな、この子はイギリスからやって来た、ビガラス•ジューン君です。仲良くして下さいね」
一同はざわつき、ビガラスの方を向いた。
「えっ…、外国人?!」
「かなり痛いファッションだけど…、イギリスではそれが流行ってるの?!」
ビガラスはそんな反応には慣れてるのか、一同には目も暮れず、自分の席に座った。そして、真由の方を睨み付けると、何事もなかったように先生の方を向いた。
「さぁ、みんな、今から授業ですよ」
先生の方も何事もなかったように授業を始めている。
真由は、何故さっきビガラスが自分の事を睨みつけていたのかが分からず、困惑していた。イギリスからやって来たと言う割にはビガラスは授業で困っている素振りを見せず、黒板を板書し、流暢な日本語で話していた。
休み時間になると、真由はビガラスに話し掛けようとした。だが、真由が近寄る前に他のクラスメート、特に女子に囲まれてしまった。
「凄い人気だね…」
「そういえば…、中々のイケメン…」
言われてみると、確かにビガラスは顔立ちが整っており、声も年齢の割には低く、落ち着いていた。
「でも、さっき私の事睨んでたんだよ?」
「えっ…、本当に?」
「うん」
二人のやり取りが聞こえたのか、ビガラスは人だかりの隙間から真由を見た。
「もしかして…、好意があるんじゃない?」
「第一印象で私を好きになるツワモノなんて居る訳ないでしょ?第一、有佐ちゃんだって、最初から私が好きだった訳じゃないし」
「あっ…、そっか」
「納得するなー!」
真由は有佐が納得したのが気に食わなかったが、上手くツッコミを入れらたので少しだけ満足していた。
「しっかし…、ビガラス君って何者なんだろう」
そう言って腕を組んでる真由を見て、ビガラスは呟いた。
「あいつは…、危険だ」
真由とビガラスの間に、不穏な『風』が吹いていた。