Ep,6
――― ……キッ ―――
――― …ーキっ ―――
―――ユーキっ、いい加減起きなよ! ―――
心地のいい夢の中、突如、アリスさんの声が聞こえてきた。
「ん〜、うるさいです。後一分、いや、後一時間だけでも………」
寝ぼけながらも、俺は批難の声を上げる。すると、アリスさんは……。
「いっ、一時間は流石に長いかなぁ。ん〜、三十分だったらいいよ」
思ったよりかなり緩い人だった。
――― というわけで三十分後 ―――
「ふわぁ〜あ、よく寝たぁ」
そう言いながら、俺は大きく伸びをした。
周りを見渡して見ると、アリスさんが少し離れたところで、呆気にとられたかのような表情をしている。
ちなみに、巨大なビッグボアを背負っていて、この前よりも、ひと回り大きい。
あ、少しの間アリスさんの顔を見つめていたら、アリスさんが慌てたように指を指した。
「ユ、ユーキっ、う、後ろっ」
朝早くから騒がしい人だなぁ、と思いながらも言われた通り後ろを見てみると、そこには大きな大きな狼がいた。
よくよく見ていると、この前の精霊、フェンリルにどことなく似ている気がする。
その毛並みは月のように美しく、大地に降り注ぐ日光を跳ね返し、その毛は自信有り気な銀色に輝いていた。
『貴方がユーキ殿ですか?』
あのときは気づかなかったけど、どうやら心の中に語りかけているみたいだ。魔法なのかな?
「そうです。あなたは精霊ですか?」
『はい、上級精霊のルキと申します………、実は、フェンリル様に頼まれてきたのです。えっと、あの……その……、別に声に出していただかなくても、大丈夫です』
ん?視線を彷徨わせてる……、思ったより気弱なのかな?
『あーあー、どうですか?聞こえますか?』
『大丈夫です!』
なんかスゴイ勢いでうなずいてる。ホントに大丈夫なのかな?威厳的な意味で………。
『えっと…、フェンリルに、ルキはどんなことを頼まれてきたんですか?』
………めっちゃ顔が青くなってくなぁ。もしかして、聞いちゃいけないことだったのかな?
『け……く…して、……と……』
『えっ、何?よく聞こえないです』
おかしいな、心の中で会話をしているのに聞こえないなんて……。
あっ、ついに涙目になっちゃった。
『契約してこいと、云われました……』
『契約?もう、フェンリルと契約しているんですが………?』
『そうなのですが……、フェンリル様曰く、“我は忙しい。普段はお前がついていてやれ”……ということらしいです』
あぁ、そういうことなんだ。………にしても、ルキの声真似上手すぎる!あの声を出せるなんて!
『……ありがとうございます』
…………あれ?今俺伝えようとしてないんだけど……、まさか!
俺は目の前の狼を見つめる。
『………チッ』
騙されたーーー⁉
今の全部演技だったの⁉
『…………ということなので、とてもっ、不本意ですが、契約させていただきます』
ああ、そこはスルーするんだね……。
『我は上級精霊のルキ、汝の契約を甘んじて受け入れよう』
あっ、勝手に契約された……。めっちゃ自由な精霊だな…………と、思った瞬間俺は気を失った………。