Ep,5
いきなり魔法陣が白く発光しだしたと思ったら、この白い空間にいた。さっきまでいたアリスさんの姿は見えない………。
けれど、いつまでも居たくなるような、暖かな空気で満ちている。
そんな刹那、静寂に包まれていた空間に一つの声が響いた。
『我を呼び出したのはお前か』
驚き、声のする方へ反射的に顔を向けると、そこにはいつの間にか大きな精霊がいて、俺を鋭い目で見下ろしていた。
『もう一度問う。我を呼び出したのはお前か?』
「は、はい!そうですが……」
あまりの威圧感に、俺は思わず言い淀んでしまう。
『だとすると、お前……、何者だ?何故そんなに魔力が多い?お前がもし人間ならあまりにも異常な量だぞ……』
「ま、魔力、ですか?」
(そんな訳がない。アリスさんに魔力を確かめてもらったときは普通だって………………、あっ、必要以上はあるって言われただけだった……)
『そうだ。にしてもお前、我の姿を見ることができると同時に、言葉がわかるのか?愚鈍な人間共に、こんな奴がまだおったとは……』
(……言葉?どういうことだろ)
その他にもよくわからないことを言っていたが、気にしないことにした。
目の前の大きな精霊は、しばらくの間、ぶつぶつと独り言を言っていると、急に口を開いた。
『気に入った。お前がしたいと云うのなら、契約をしてやろう。その代わり、我と契約している間、お前には、ある事をしてもらう、良いな?』
「…ある事とはなんですか?」
姉さんを探すのに支障が出なければいいんだけど……。
俺の考えている事など関係なしに、発言された答えは………、少々、いや、大分斜め上を行くものだった。
『魔王の討伐だ』
「えっ?魔…王、ですか?」
『ああそうだ。本来、魔王とは何百年周期で現れるもので、二十五年ほど前に勇者たちの手で倒されたはずなのだが。何故かまた現れたのだ』
「えっ、それって大丈夫なんですか⁉」
『大丈夫でないからこうして頼んでおるのだ』
その声は、かなりの緊迫感を含んでいた。
「でも………、僕はそんなに強くないですよ」
『気にすることはない。生憎、ここ十年ほどは自分の巣に籠もって、出てくることはないだろう。そういう予言が下されたのだ』
「…………」
数秒あるいは、数分にも思われる沈黙が流れる。
その間で、俺は一つの決断をした。
「わ……かりました。そういうことなら、あなたの条件を受けさせてもらいます」
『そうか。助かった』
そう、聞こえた声には、何処か安心したような、優しい気持ちが含まれている様に感じた。
『我は神級六柱が一人、零下のフェンリルだ。そなたの契約を、甘んじて受けようぞ』
次の瞬間、俺はまた、白い光に包まれた……。