Ep,3
「………い……」
「おーーーい」
なにか聞こえる……。
「はぁ…、全然起きない……」
――ぐうーー――
俺のお腹らへんから音が聞こえてきた。
「あっ、そうだ!」
………ん⁉
次の瞬間、俺の口の中に、ジュワッと肉汁が広がった。
「おいしい……」
「はぁ…、第一声がそれ?…、一体どれだけお腹すいてたんだろ?」
うっすら目を開けると、声の主がいた。
「……おーい、起きてますかー?」
「起きないと、お肉全部食べちゃいますよー」
「えっ」
それは嫌だ。俺は慌てて自分の意識を覚醒させた。
「あなたは………?」
目の前には、粗暴そうだけど、顔は整っている綺麗なお姉さんがいた。髪は…、なんと水色だ。
「ん?私?」
「君を、ビッグボアから助けてあげたんだけど、覚えてるかな?」
ビッグボア?ボアってことは………ああっ、あのでっかいイノシシのことかな。じゃあ、お礼言っておかないと。
「助けてくれて、ありがとうございました。感謝してもしきれないくらいです」
「いいよいいよ。こんな小さな子供が襲われているのを見て見ぬふりはできないからね。それに、そんなにお礼を言われるとなんだかこっちが気恥ずかしくなってくるよ。ところで……、お肉せっかく焼いたから、冷める前に食べちゃおう。まぁ………その後、いろいろ話してもらうけどね」
含みのある笑顔で言われた。いろいろって……、やっぱ、なんでここにいたのか、とかだよな。どうやって説明しようかな。………それよりも早く肉を食べよう。俺の腹のへり具合が尋常じゃない。
―――ぐうーー―――
俺の腹がまた主張した。それを聞くとお姉さんは何も言わずに肉を差し出してくれた。
そのことがきっかけだったのだろう。俺たちは勢いよく肉を頬張った。
…………正直言うと、今まで食べたものの中で一番おいしかった。
この肉って……、イノシシのだよな。イノシシは肉が臭くて食べれないって聞くけど……これは全然獣臭くない!!
………あまりにもおいしすぎたので、ものの十数分で、一匹丸ごと食べてしまった。
「じゃあ、話を聞かせてもらう前に、自己紹介をしよう」
…ついに来たか……。
「まずは私からいくね。私の名前はアリス。見ての通り、冒険者だよ。武器は、主に刀と剣で、一応契約しているから、魔法も使えるね。ちょうど、強くなるための旅をしているところなんだ……。……で、次は君の番だよ」
魔法ってことは、やっぱここは異世界なんだな。薄々気づいてたけど……。考えてもわかんないから、後回しにしとこう。
うーん……。七歳の第一人称って何だろ…。やっぱり『僕』かな?
「えっと……、僕の名前はユーキです……」
あれ?よく考えると、俺って名前しか自分のことわかってないよね?やばい、変な汗ながれてきた。
「じゃあユーキ、君は、何でここにいたのかな?」
えっ?やっぱそれ聞いちゃう?
「わかりません……、姉と一緒にいたんですけど……」
こうやって答えるしかないよな……。
「そっか……、じゃあ、ここがどこかはわからないんだね。ここはね、シルクーナ王国とサーチネス王国との国境地帯だよ………、約ニ千キロメートルほどある、ね」
「にっ、ニ千キロですか?」
「うん。しかもずっとこの景色でね」
うそ!!これじゃ、一生姉ちゃんに会えないかも………。
だって方向音痴だし………。
「あの……、ここってどこらへんなんですか」
「うーん。ちょうど真ん中あたりかな」
「えっ………」
「その反応したいのはこっちだよ。なんで君みたいな小さい子が、こんなところにいるのかな?私だから、サーチネス王国まで送ってあげるけど、もし、アイツらがここを渡っていたら、どうなっていたことやら……」
アイツらって何だろ…。それよりも…。
「送ってってくれるんですか?ありがとうございます!」
めっちゃ心強い。アリスさん、やっぱり良い人だったんだ!
「…ところでユーキ……、一つまた聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」
アリスさんがもじもじしている。そんなに聞くことあったかな?
「はい。いいですけど、なんですか?」
「き、君って、凄くかわいいよね!!」
「か…わいいですか?そんなこと言われたの初めてです」
んー、今までにかっこいいと言われたことはあったけど、かわいいは初めてだな……。
「そ、れ、に、オッドアイって初めて見たよ遺伝なのかな⁉」
えっ……?
「オッド……アイ?」
「うん。青と黄色の」
「……………ええっーーーーーー⁉」
「それってホントですか!!?」
「う、うん。そうだけど……」
どうしよう。それって外見が変わってるってことだよね。じゃあ、姉ちゃんも変わってるんじゃ………………。
「早く探しに行かないと!!」
俺は、いてもたってもいられず、あさっての方向へ走り出した…………と思ったら、服を掴まれていた。
「えっと………、ここ、どこか覚えてるかな?」
「………」
「………」
「草原の真ん中………、ですよね」
「うん。そうだね、じゃあなんで急に走り出そうとしたのかな?」
うっ……、アリスさんの顔がちょっと怖い。しょうがない、姉ちゃんを探していることだけ正直に話そう。
「じ、実は……、さっき、姉とはぐれたって言いましたよね?姉は方向音痴で、今どこにいるかわからないんです。だから、急いで探しに行かないと……」
「はぁ…、ユーキ、君ここがなんて呼ばれてるか知ってるかな?」
「い、いえ……」
―― はぁ… ――
あっ。アリスさんがため息吐いてる。
「仕方ないなぁ。ここはね、憤怒の迷宮って呼ばれてるんだよ」
「憤怒の迷宮?」
「そう、ここはあまり強い魔物は出ないんだけど、どの魔物も異常なほどに興奮していて、通常の状態より、何倍も危険なんだよ。子供一人が、容易に歩ける所じゃないと思うけど。それに、君のお姉さんが、ここにいるとは限らないんだよね?」
そのとおりだけど……。
「じゃあ、どうすれば……」
「うーん………。じゃあ、君に選択肢を二つあげる。」
「一つは、このまま、私がサーチネス王国に君を送っていって、君が地道にお姉さんを探すこと」
「もう一つは、私からいろいろなことを教えてもらって、魔物が倒せるくらい強くなって、冒険者として収入を得ながら、お姉さんを探すこと」
「正直、私はどっちでもいいけど、冒険者になることの方が危険だよ?」
………うーん。どうしよう。でも、できるだけ広い範囲で探したいからな……。
「よし!決めた!僕、冒険者になります!」
「……ホントにそれでいいんだね。茨の道だと思うけど」
「はい!僕が決めたことだから、大丈夫です」
「そう?じゃあ、これから一ヶ月間くらい、よろしくね」
「よろしくお願いします!アリスさん!」
俺は、自分が今できる精一杯の笑顔で返した。