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次の日のこと  作者: LiN
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私の想像と現実と

 黒板に何か書かれてないかな。

 教室に入る前に黒板を見て、何も書かれてないことを確認して、私は教室に入った。

 それまでのおしゃべりがぴたりと止んだ。一瞬緩んだ心がきゅっと引き締まるのが分かった。

 席に向かう私に突き刺さる視線が逸れて、それからまたこちらに向けられる。


 席について鞄の中の教科書をゆっくりと一冊ずつ机に移した。時間をかけないとやることがなくなっちゃうから。じっと座っているしかないのは耐えられない。まだ朝のホームルームまで10分以上もある。その間、机に座っているだけなんてできなかった。かといって席を立って廊下に出ることはもっと耐えられない。


 教科書を全部机に移して、机の横に鞄をかけて時計を見上げると、まだホームルームまで8分もあって、耐えられないって思ったことがすぐに現実になってしまって、泣きそうになった。


 昨夜から何度も想像した通り、つらい。

 クラスのみんなが私のことを考えている。それは昨夜想像した通りで。

 夢なのか寝れない中での想像なのかわからないけど、こうやって教室に入ってくる自分の姿と、自分を見るクラスメイトの姿を何度もいろんなパターンで見た。見せられた。昨日はほとんど寝ていないかも。でも眠いとは感じない。


 帰りたい。ここからいなくなりたい。って思う。


 なんで学校に来たんだろ。

 今日休んだらもっと来づらくなるからだっけ。そう自分に言い聞かせた気がする。そう決めた自分に腹が立つ。なんで来ようって思ったんだろう。学校に来るのは昨夜の私じゃない。今の私だ。昨夜の私、無責任。


 教室がいつもの朝より静かだ。みんないつもより小さな声でしゃべている。この中で誰が私のことを話しているんだろうか。口にしていなくてもみんな私のことを考えているんだろうか。

 同じグループの子も、ムカつくあの子も、ちょっといいなって思ってた男子も、ほとんど喋らないあの子も、女子からキモイって言われているあの男子も、みんな私のこと「昨日おもらしした奴だ」って、思ってるのかな。


 だってがまんできなかったんだもん。しょうがないじゃん。

 がまんしたけどパンツの中にじょうって出ちゃったんだもん。止められなかったんだもん。

 

 ちょっと髪染めたりしてるけど、スカート短くしてるけど、普段騒いでばかりのグループにいるけど、トイレに行きたいって言えないことだってあるんだよ。

 みんなが思ってるほど何も気にせず生きてるわけじゃない。


 保健室ではおもらししたこと言えずに泣いちゃったし、着替えてからどうしても教室に戻りたくなくてそのまま早退しちゃったし。


 体操服で家に帰った時、キッチンで洗い物をしていたお母さんに「あんたどうしたの?」と言われてまた涙がこぼれた。この頃ちょっときつくあたっていたお母さんの前で泣いてしまって、学校で何があったか言う時に保健室の時みたいにしゃくりあげてしまって、強がってた私が無かったことになってしまって、悔しかった。「先生に言えばいいじゃない」「何で漏らすまで我慢するの!」予想通りそんなことしか言わないお母さんの前でふてくされてうつむいている所にお姉ちゃんが帰ってきて「どうしたの」って聞いて、お母さんが「学校でおしっこもらしちゃったんだって。」って言って、私は小さな子みたいに大きな声で泣いた。


 夜、ベッドの中でたくさん想像した。学校に行くときに「あの子昨日おもらしした。」って指をさされる私。黒板に「おもらし女」って書かれて立ち尽くす私。「おしっこくさーい」って誰かが言って教室のみんながどっと笑って唇を噛む私。グループの子に話しかけても無視される私。先生がホームルームで「昨日のおもらしのことでからかったりしないように。」と言って真っ赤になった顔を晒す私。

 これからその想像のどれが現実になるのだろう。

 こわい。



って思ってたんだけどね。



 あの後すぐに同じグループの子たちが席の周りに来て、なぐさめてくれた。

「気にしちゃだめだよ。」とか「出ちゃったんだから仕方ないよ。」って言われてすごい恥ずかしかったけど、ほっとした。

 他の子たちも、男子も、私をからかったりしなかった。昨日私が早退した後、先生が何か言ったのかも。それを考えるとまた恥ずかしいけれど、でもその日が何事もなく終わって、ほっとした。

 みんな私のおもらしの話題を避けてくれてて、それが今は少し辛い。贅沢な悩みといえばそうだけど。

 お母さんやお姉ちゃんは容赦ない。何かと言うと「おもらししたくせに。」って言う。


 とりあえず私は学校に行っている。

 

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