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6  再会と別離

 片づけを終えた後、遠慮がちに話しかけてきた大地は、まいを運動場の隅に連れて行った。

 その背中は中学のときとはずいぶん違って見えた。がっしりとたくましくなってる。

「さっきのデッドボールはごめん・・・俺からも武本からも謝る」

「大丈夫だよ。全然痛くないし」

 まさかそれを言うためにわざわざここまで連れてきたわけじゃないだろう。

「それより久しぶりだね。元気にしてた?」

「こんなカンジだよ。中原は?」

「元気」

 お互いに苦笑しながら再会を喜ぶ。

 こんなふうに話すのはどれくらいぶりだろう。懐かしくてなんだか泣きそうになった。

 急に中学の頃の記憶が蘇ってきた。



「中原がずっと野球続けててくれて嬉しかった」

 大地は静かに呟いた。

「続けろって言ったのは大地だよ?それにやっぱり野球好きだし・・・手放せないよ」

「そうだな。俺もそうかも」

「大地こそ中学のときよりずっと上手くなってるよね。打たれてすごくショックなんだけど」

「もう毎日毎日練習してたからな」

 その言葉の重さが伝わる。バッテリーを組んでいたからこそ、その上手さがわかるのだ。

「今年は・・・甲子園狙うよ」

「甲子園・・・・・」

「中原とは敵になるけど、ぜってー負けないから」

 そのセリフをまいも思ったことがある。大地には負けたくなかった。

 そうか、これがライバルなんだ。

 そう思ったとき、なぜだか嬉しくなった。



 ちょうどそのとき、何も知らない三坂が通りかかった。まいを見つけるとすぐに大声をあげた。

「あれ!中原デート中?」

「三坂先輩」

「だめだよ。川口っていう彼氏がいるんだから。浮気もほどほどにね」

 そう言って去っていく三坂。

 後味だけが悪くなる。

「・・・・・・・・川口って確かそっちのキャッチャーの・・・」

 先に口を開いたのは大地だった。まいは決まり悪そうに口ごもる。

「・・・・・うん。つきあってるの」

 思いついた言葉はそのまんまの意味になった。

 なんだろう。友達につきあってるって言うときの恥ずかしさとは違う。大地には知られたくなかった。

「そっか・・・まぁ中原も女だもんな」

「なにそれ。どーゆー意味よ」

「いやいや。なんか男友達みたいに気楽に話せるから、そういえば女だったんだったなーって思ってさ」

 けらけらと笑っているが、大地はこっちを見ようとしない。それが逆に気になった。

「大地・・・?」

「じゃーな」

 こっちを見ることなく大地は去っていった。


          ▽


 このとき、まいは気づいていなかった。

 今の言動で大地をどのくらい傷つけていたかということを―・・・・・


          ▽


 気づくのは、それから2年以上後になる。

 まいは大学2年生になっていた。

 県内の私立大学に合格し、川口と一緒に大学に通っている。川口とは今でも続いていた。

「まい、明日どこか出かけない?」

 3月30日、どこかに遊びに行こうと川口に提案されたが、まいはそれを断った。

「明日は前から約束があるんだ」

 5年前からの約束が―・・・・・



 すべての部活が終了したと思われる午後7時頃、まいは母校の運動場の土を踏んだ。

 5年前、ここにタイムカプセルを埋めた。あの頃のままだったら今でも残っているはずだ。

「何書いたんだっけ・・・・」

 自分に向けての手紙を書いたような気がするが、その内容は覚えていない。

 大地は何を書いたんだろうか・・・・・

 今日一緒に掘り起こしたら、聞いてみよう。



 だけど、その願いは叶わなかった。

 約束の時間になっても大地は現れなかった。いや、正確には現れた。大地ではなく―・・・・・

「・・・・・武本?」

 ここにいるはずのない人間だった。



「え・・・なんで武本がここにいるの!?っていうか、大地は?」

 混乱しているまいの前で、武本は決まり悪そうな表情で固まる。コートに手を突っ込んだまま、動こうとしない。

「武本?」

「あいつは来ないよ」

 ようやくその重い口を開いた。

「え・・・」

「だから・・・あいつは来ない」

 再度繰り返す武本。まいは言っている意味がわからなかった。

 最悪な考えが思い浮かんでしまった。心臓にずっしりと重石がのしかかった気分になる。

「なんで・・・」

 搾り出す言葉は情けなく震えた。

「や、勘違いしないで。別に病気とか事故とかそんなんじゃないから」

「じゃぁなんで?」

「そのー・・・高校卒業してすぐアメリカに行っちゃったんだよ。去年向こうの大学に通い始めたみたいで・・・・・だからこっちに戻って来れないから、代わりに俺に行けって」



 武本の言葉を聞いてしばらくまいは黙っていたが、それが武本を困らせることだと気づいてなんとか笑顔を作った。

「教えてくれてありがとね。はは・・今日武本が来てくれなかったら私ずっとここで待ってたことになるよ。よかったー・・・それにしても大地も一言言ってけってカンジだよね。約束破るなんてひどいなー」

「そうじゃないよ、あいつは」

 一方的に話すのを見かねた武本は小さな声で呟く。

「あいつはお前のことずっと好きだったんだよ」

 気づいてないわけじゃなかった。ただ、言葉にして考えたことがないだけだ。

 武本はどうすることもできずにたたずんでいたが、やがてじゃぁと言って去っていった。

 後には、まいだけが残った。


          ▽


 運動場を掘り返そうかとスコップを手に取ったが、1人で掘ったってつまらなかった。

 大地は来ない。きっともう会えない。

「大地・・・・・」

 言葉が誰もいない運動場の空に響く。

 高校や大学が別でも、野球をやっていればまた会えるような気がしていた。


 もう遅かった。全部・・・・・

次回かその次あたりで最終回の予定です。

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