5 対決
山瀬高校との練習試合は一之瀬高校で行われることになった。
試合前日にスタメンが発表され、まいは10番で先発を任されることになった。
エース番号をつけるのは、1年生の工藤だった。
それでも試合に出してもらえるだけ嬉しかった。
そして、当日、山瀬高校の野球部は1時少し前に現れた。
結構人数は多いらしい。ぱっと見ただけで知らない人ばかりいた。
それもそうだろう。山瀬高校は山瀬中学だけでなく、他の中学からも大勢来ているのだ。ある意味、マンモス校かもしれない。
「まい、ボール運ぶの手伝ってくれない?」
川口に言われて、自分が山瀬高校に見入っていることに気づいた。
慌てて自分も試合の準備に入った。
「よー!川口に中原ー!久しぶりだなー!」
「三坂先輩!!」
もう引退どころか卒業してしまった先輩が突然現れて、キャッチボールをしていたまいと川口は驚いた。
「なんでここにいるんですか!?」
「ひでーなー。山瀬高校は俺にとって因縁の相手なんだよ。俺が1年のときに完敗したの。だーかーらー・・・」
そう言って三坂はぐいっと顔を近づけた。
「絶対負けんなよ」
「もちろんです、先輩」
まいは川口よりも先に頷いた。
「山瀬高校にだけは負けません」
同じく運動場の隅でアップをしている武本と大地のバッテリーを見ながら。
▽
そして、試合は始まる。
両チームがホームに集まった。
「お願いします!!」
頭を下げてから、まいは相手チームの顔を一通り見た。
知っているのはどうやら武本と大地だけらしい。
大地と目が合った。彼は優しく微笑んだ。
先攻は、一之瀬高校。
武本は中学のときよりもずっと球速を上げていた。
そのせいか、1回オモテは3者凡退で終わった。
まいも負けるわけにはいかなかった。
自分だって球速は上がっている。変化球のキレも良くなったはずだ。
打たせて捕るピッチングで3者凡退で終わった。
大地に打席がまわったのは、2回オモテだった。
まいはこの勝負をずっと待っていた。
大地は一礼して打席に入った。
バットを2回振り、まっすぐにまいを見る。
なぜだろう・・・まいはその強い瞳から目が離せなくなった。
大地のおかげで今も野球を続けてる。その成果を見せてあげたい。
川口がサインを出す。そのサインは・・・・・・・サインじゃなくて・・・
「・・・・・敬遠?」
▽
「あの4番のデータは取れてる。県内の高校の中じゃホームランの数、打率の高さはトップだよ」
2回オモテが終わってから、淡々と語る川口。まいは言葉が出なかった。
知らなかった。大地がそこまで上達していたなんて・・・
自分だけじゃない。相手もやっぱり成長しているのだ。
「勝ちたいんなら勝負するべきじゃない」
「・・・・わかった」
頭ではわかっていたとしても、まいは納得することができなかった。
この日をずっと待ち望んでいた。だけど、打たれたくない。でも・・・・・
3回のウラ、いつのまにか自分の打席になったらしく、まいは審判の先生に早くするように怒られた。
大地と目が合う。しかし、すぐにそらされた。
あー・・・・・もう、めんどくさい!来い!!
武本のボールが飛んでくる。自分に向かって・・・・・そう、自分に向かって。
「え・・・?」
「中原!」
デッドボール、って言っても当たったのはつま先だった。全然痛くなかったので、そのまま1塁に行くことになった。
その後、1番の川口がセンターを超えるヒットを打ち、必死で3塁まで走った。
ノーアウト2,3塁。
先生の指示はスクイズだった。だけど、バットに当たったボールは思いのほか転がらず、ピッチャー武本が拾い、そのままバックホームしてしまった。
まいが滑り込むのと、大地にボールが返るのはほぼ同時だった。
「セーフ!!」
セーフ?うそ・・・・・やった!!先制点を取れた!
山瀬高校から・・・大地から先制点。それを考えただけで嬉しくなった。
▽
1点取れたかと言って気を抜くわけにはいかなかった。
気がつけば4回オモテ、ランナーは1,2塁。打席には大地。
たぶん敬遠するだろうから、満塁になるだろう。前を向けば、きっと川口が立ち上がる。
「あれ?」
川口は立たずにサインを送ってきた。
投げていいの?
意外そうな顔をするまいに川口は頷いた。
勝負できるんだ・・・嬉しくてまいは笑った。
そして、今までの様々な思いをボールに込めて、大きく振りかぶった。
大地は初球打ちしてきた。
ライト前ヒット。2塁ランナーはぎりぎりでバックホームしてきて、1点入った。
打たれた。結構自信あるボールだったのに。
「まだまだだなぁ・・・」
▽
まいはその回で工藤と交代になった。
試合結果は、2対1。あの後、川口がシングルホームランを打ったのだ。
試合には勝ったが、すっきりしたわけではなかった。
密かに大地と勝負していたのに、打席勝負で勝つことができなかった。それが、とても悔しかった。
「中原、ちょっといいかな・・・」
その相手が遠慮がちに話しかけてきた。




